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文献概要
連載 医療の可視化と病院経営・11
病床機能転換の考え方
著者: 松田晋哉1
所属機関: 1産業医科大学公衆衛生学
ページ範囲:P.847 - P.850
文献購入ページに移動■はじめに
地域医療構想策定のための種々のデータおよび推計ツールの提供,そして国立保健医療科学院における研修や厚生労働省による都道府県の担当者に対する説明会の開催などにより,各都道府県で構想策定のための動きが加速している.すでに東京都や茨城県などでは,構想区域ごとの機能別病床数の参考資料提示なども行われている.
この過程で,都道府県の実務レベルでは病床機能別病床数の考え方が大きな課題となりつつある.地域医療構想策定ガイドラインには今回の推計ツールの考え方とそれに対応した計算式が提示されており,厚生労働省の説明では,地域医療構想に明記する病床数はこのツールから求められるものであるとされている.平成27(2015)年6月12日(専門調査委員会からの正式発表は6月15日)に公表された資料では,2025年の必要病床数は115〜119万床となっている.各種マスメディアはこれを受けて,「2025年に向けて20万床削減が目標」と報じたが,その直後に厚生労働省からは「目標ではなく推計値」との課長通知が各都道府県に出された.しかしながら,数字としては推計ツールから導き出されるものが地域医療構想には記載されるが,それは目標ではないという説明はわかりにくく,現場でも戸惑いの声が上がっている.
各省庁間の力学の中で,地域医療構想に記載される各構想区域の機能別病床数は,現在の医療計画における基準病床数のような位置づけになるのかもしれない.病床転換に関して強制力がない以上,このような解釈となるのは仕方ないともいえるが,他方で今回の地域医療構想がこれまでの医療計画のような実効性の薄いものになってしまうことは避けなければならない.なぜならば,人口構造・傷病構造の変化とそれを支える社会経済基盤の変化がそれを許さないからである.
需要に提供体制が合わなければ,それは医療機関の経営基盤を直撃する.民間医療機関に提供体制の大部分を依拠しているわが国の場合,その経営の健全化を担保することが,適切な医療提供体制を構築していくためには不可欠である.したがって,病床推計ツールのみではなく,今回国から提供されている他のデータについても各地域の関係者に広く周知される必要がある.詭弁を弄するわけではないが,推計値と現状とのギャップを踏まえつつ,その妥当性を検証し,そして必要な修正を加えながら将来のあるべき姿に関する合意を各地域で得た上で,個別の医療機関が将来を見据えて必要な機能転換を行っていく体制づくりが求められているのである.
適切な構想策定のためには,今回の機能別病床数推計の基となった仮定および推計方法の十分な理解が全ての議論の前提となる.そのような理解なしで都道府県側が一方的に構想区域ごとの機能別病床数を提示するようなことになれば,医療提供側の感情的反発を買うだけで,必要な病床機能の再編成は進まないであろう.その意味でも,本連載の第9回で説明した推計ロジックの内容をその限界も含めて関係者に理解していただく必要がある1).数字が独り歩きしてしまうことは適切ではない.本稿では,上記のような問題意識に基づいて,改めて機能別病床数の再編の考え方について私見を述べてみたい.
地域医療構想策定のための種々のデータおよび推計ツールの提供,そして国立保健医療科学院における研修や厚生労働省による都道府県の担当者に対する説明会の開催などにより,各都道府県で構想策定のための動きが加速している.すでに東京都や茨城県などでは,構想区域ごとの機能別病床数の参考資料提示なども行われている.
この過程で,都道府県の実務レベルでは病床機能別病床数の考え方が大きな課題となりつつある.地域医療構想策定ガイドラインには今回の推計ツールの考え方とそれに対応した計算式が提示されており,厚生労働省の説明では,地域医療構想に明記する病床数はこのツールから求められるものであるとされている.平成27(2015)年6月12日(専門調査委員会からの正式発表は6月15日)に公表された資料では,2025年の必要病床数は115〜119万床となっている.各種マスメディアはこれを受けて,「2025年に向けて20万床削減が目標」と報じたが,その直後に厚生労働省からは「目標ではなく推計値」との課長通知が各都道府県に出された.しかしながら,数字としては推計ツールから導き出されるものが地域医療構想には記載されるが,それは目標ではないという説明はわかりにくく,現場でも戸惑いの声が上がっている.
各省庁間の力学の中で,地域医療構想に記載される各構想区域の機能別病床数は,現在の医療計画における基準病床数のような位置づけになるのかもしれない.病床転換に関して強制力がない以上,このような解釈となるのは仕方ないともいえるが,他方で今回の地域医療構想がこれまでの医療計画のような実効性の薄いものになってしまうことは避けなければならない.なぜならば,人口構造・傷病構造の変化とそれを支える社会経済基盤の変化がそれを許さないからである.
需要に提供体制が合わなければ,それは医療機関の経営基盤を直撃する.民間医療機関に提供体制の大部分を依拠しているわが国の場合,その経営の健全化を担保することが,適切な医療提供体制を構築していくためには不可欠である.したがって,病床推計ツールのみではなく,今回国から提供されている他のデータについても各地域の関係者に広く周知される必要がある.詭弁を弄するわけではないが,推計値と現状とのギャップを踏まえつつ,その妥当性を検証し,そして必要な修正を加えながら将来のあるべき姿に関する合意を各地域で得た上で,個別の医療機関が将来を見据えて必要な機能転換を行っていく体制づくりが求められているのである.
適切な構想策定のためには,今回の機能別病床数推計の基となった仮定および推計方法の十分な理解が全ての議論の前提となる.そのような理解なしで都道府県側が一方的に構想区域ごとの機能別病床数を提示するようなことになれば,医療提供側の感情的反発を買うだけで,必要な病床機能の再編成は進まないであろう.その意味でも,本連載の第9回で説明した推計ロジックの内容をその限界も含めて関係者に理解していただく必要がある1).数字が独り歩きしてしまうことは適切ではない.本稿では,上記のような問題意識に基づいて,改めて機能別病床数の再編の考え方について私見を述べてみたい.
参考文献
1)松田晋哉:DPCおよびNDBデータを用いた病床機能別病床数の推計方法.病院 74:678-683,2015
2)OECD:医療の質レビュー 日本 スタンダードの引き上げ 評価と提言.OECD,2014
3)D.マッカラ(著),寺岡 暉,レブリング・寺岡朋子(監修),三谷武司(翻訳):スローメディシンのすすめ─年老いていく家族のケアに向き合うあなたへ.勁草書房,2013
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