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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

特集 地域医療構想─来たるべき大変革の特効薬たりえるか

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.177 - P.177

 2014年6月に成立した医療介護総合推進法では,一般病床または療養病床を有する病院の管理者に対して,病床区分に従い都道府県知事に医療機能の報告を求め,この報告を基に,都道府県知事は地域医療構想(ビジョン)を策定することとされている.
 わが国の年齢階層別人口で突出した数を占める第1次ベビーブーム世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年以降も,持続可能な医療・介護サービスを提供していくためには,医療提供体制の変革が必要である.今後のわが国の医療の将来は,各都道府県でいかに実効性のある地域医療構想を策定できるかにかかっていると言っても過言ではない.その一方,各医療機関の利害が対立する中で,地域医療構想調整会議や都道府県医療審議会などで調整が可能かどうかは不透明な面がある.

地域医療構想(ビジョン)の目指すもの

著者: 宮島俊彦

ページ範囲:P.178 - P.181

●地域医療構想(ビジョン)は,二次医療圏ごとに,2025年時点での各医療機能の必要量等を示し,将来の目指すべき姿を示すものである.
●その達成のため,病院機能報告制度,ビジョン,協議の場,新たな基金,知事の権限強化などに関する医療法改正が行われた.
●ビジョン実現のためには,関係者の理解,行政の取組体制の整備,データに基づいた議論が必要である.

地域医療構想(ビジョン)の位置づけと課題

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.182 - P.186

●医療提供体制の長期ビジョンの実現に向けて,地域医療構想(ビジョン)が医療法上位置づけられた.
●地域医療構想の課題としては,病床機能報告結果の分析,基金の運用,地域差の検討,在宅ケアとの関連,都道府県職員のスキルアップなどが挙げられる.

行政計画としての地域医療構想(ビジョン)—地方分権がどう影響するか

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.187 - P.191

●厚生労働省は,地域医療ビジョン策定に当たって「ガイドライン」を示すが,地元医師会や各医療機関と直接に接する都道府県と利害対立(意見相違)が起きる可能性がある.
●医療計画の策定は都道府県の自治事務であり,国の通知は「技術的な助言」に過ぎない.法令等の解釈運用権は自治体側にも与えられている.
●ビジョン策定についての国の関与には限界がある.計画策定に関してデータを基にした医療関係者,保険者その他の関係者のいわゆる「協議の場」が重要となる.

[事例]地域医療構想策定をどう進めるか

地域医療構想(ビジョン)・地域包括ケアと大学人の役割

著者: 浜田淳

ページ範囲:P.192 - P.194

●岡山大学は,戦略的な地域貢献を目指し,自治体との協働,地域医療教育,総合医育成を行ってきた.
●地域医療ビジョン策定に当たり,大学人はデータ分析と地域のコーディネータの役割を果たすべきである.
●大学人には,ビジョン策定が費用削減ではなくサービスの適切な提供を目的とすることなど,地域の議論をあるべき方向に進めることが期待される.

広島県における医療計画策定—地域包括ケアを意識した情報基盤整備

著者: 坂上隆士

ページ範囲:P.196 - P.199

●広島県では医療計画策定にあたり医療介護等関連データを可視化するための「医療・介護・保健情報総合分析システム」を整備し,医療政策や介護政策へ応用している.
●今後はデータを分析・蓄積し,地域医療構想の策定をはじめ医療提供体制のあり方の議論に資する資料として整理するとともに,地域包括ケアシステム実現のためのPDCAサイクルを回していくことを予定している.

地域医療構想(ビジョン)策定における県医師会の役割

著者: 戸次鎮史 ,   原祐一

ページ範囲:P.201 - P.204

●地域住民が安心して暮らせる医療提供の構築のために,地域医師会,都道府県医師会が地域医療構想の策定に積極的に関与していく必要がある.
●今後,都道府県医師会,地域医師会は,医療の供給に関する調整機能を持つ必要があるのではないか.

地域医療構想(ビジョン)の中で病院の将来を考える

著者: 平川秀紀 ,   村上正泰

ページ範囲:P.205 - P.208

●急激な人口減少と高齢化など厳しい医療環境の中で地域医療を守り抜くためには,データに基づいた医学的な見地からの現状分析と医療計画の立案が肝要である.
●病院も将来推計を基に自らの立ち位置を定め,医療ニーズに的確に対応する必要がある.
●少ない医療資源で地域医療の質を担保するためには,病院間で疾病ごとのきめ細かな機能分担が必要である.

対談

よい病院として地域医療を支える

著者: 堺常雄 ,   伊関友伸

ページ範囲:P.161 - P.164

地域医療構想の策定とは,地域一丸となって今後どのように医療を提供していくかを探る過程である.
地域の医療を残すためにどう役割を決め,連携するのか.
病院に求められる役割が大きく変わろうとしている時代の「よい病院」のあり方について語る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・3

八尾市立病院

著者: 河合慎介

ページ範囲:P.168 - P.173

 八尾市立病院は平成16(2004)年5月に新築移転し,全国に先駆けてPFI(Private Finance Initiative)方式を導入したことで話題となった.PFI方式の導入病院としてすでに幾つか報告されている1, 2).本稿では,開院後10年を経た実績を鑑みながら,運営と建築計画の関係を紐解くべく考察を試みたい.

Data mania・3

社会医療診療行為別調査

著者: 柿木哲也

ページ範囲:P.174 - P.175

調査概要
 「社会医療診療行為別調査」は,全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ),組合管掌健康保険(組合健保),共済組合等の保険(共済等),国民健康保険(国保)および後期高齢者医療制度(後期高齢者医療)における医療の給付の受給者にかかる診療行為の内容,傷病の状況,調剤行為の内容および薬剤の使用状況などを明らかにする調査です.
 協会けんぽ,組合健保,共済等,国保および後期高齢者医療の医科診療および歯科診療の診療報酬明細書および保険薬局の調剤報酬明細書の全てが対象となります.調査事項は広範囲にわたり,年齢,傷病名,診療実日数,診療行為別点数・回数および薬剤の使用状況などが該当します.

事例から探る地域医療再生のカギ・2

大原綜合病院の医療再生

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.215 - P.219

■何が問題だったのか
バブル期の投資の失敗による名門病院の経営危機
 福島県福島市にある一般財団法人大原綜合病院は,1892(明治25)年に大原一が養父の原有隣と同居開業したことを始まりとする名門病院である.1925(大正14)年には,2代目院長の大原八郎が野兎病の菌を分離するなど学術上の業績も残している.1951(昭和26)年に大原綜合病院となり,1952(昭和27)年には財団法人化された.現在,福島県庁近くに立地する本院である大原綜合病院(429床)のほか,分院として大原医療センター(195床),精神科病院である清水病院(182床),大原看護専門学校などを運営する.本院である大原綜合病院は,二次救急医療のほか,地域医療支援病院や地域周産期母子医療センターの指定を受け,福島県北部地域の医療の中心的役割を担っている.
 大原綜合病院の経営が危機を迎えたのは,バブル時期の1990 年に本院から心臓外科,脳外科など一部の診療科を切り離し,分院の大原医療センターを開設したことがきっかけである.約60億円をかけた建設費のほとんどは借入金で賄われた.機能が分散した2つの病院の運営をめぐる混乱もあって,法人の経営は急激に悪化,1993(平成5)年の有利子負債は97億円に達した.

医療の可視化と病院経営・3

わが国の医療情報の可視化の現状と課題(2)—患者数推計ツールの紹介

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.220 - P.225

■「現実的」なあるべき論のために
 平成27(2015)年4月から各都道府県で開始される地域医療構想の策定作業においては,厚生労働省から提供される種々のデータを用いて各地域の医療提供体制のあるべき姿が検討され,機能別病床数や機能分化・連携の具体的な事項が議論されることになる.
 これまでの医療計画策定作業と異なり,各病院から提出された病床機能報告制度の結果も用いられることになる.病床機能報告制度のデータは,例えば表1のように整理することが可能である.機能別病床の分布,各機能別病床100床当たりの該当医療件数,人口1万人当たりの機能別病床数などが,医療圏・都道府県・全国の各レベルで比較できる仕様となる.さらに本連載第2回で紹介したように,今後厚労省医政局から各地域別の機能別病床数の参照値が提示され,さらにデータブックという形でDPCおよびNDBなどから作成された医療の現状に関する指標群が地域単位で提供される1).加えて,筆者らの研究班が作成している傷病構造の将来推計ツールが提供されることになる.各地域で設定される地域医療構想調整会議(協議の場)ではこうしたデータやツールを基にあるべき医療提供体制を議論することになる.図1はこの検討過程のイメージを図示したものである.

病院経営に効く1冊・3

『不平等が健康を損なう』

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.227 - P.227

皆さんは,社会疫学(social epidemiology)という学問があることをご存知でしょうか? 筆者が初めてこの学問に触れたのは,1999〜2000年にハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の武見プログラムに参加した時です.HSPHの修士・博士課程では,この社会疫学は必修科目の一つとなっています.社会疫学の創設者であり,HSPHでこの教室を主宰しているのが,本書の著者のイチロー・カワチ教授です.本書は,2002年に出版された“The Health of Nations;Why inequality is harmful to your health”を,社会疫学研究会の皆さんが翻訳し,2004年に日本で出版されました.恐らく日本語で読める社会疫学の最初の教科書でしょう[英語では“Social Epidemiology”(2000年初版,2014年第2版)が教科書ですが,日本語訳は残念ながらまだありません].
 社会疫学を一言で説明するのは難しいのですが,貧困,経済格差といった社会経済学的因子が健康を左右するだろうということは感覚的に理解できると思います.そこで,どのような社会経済学的因子が,どのように健康を左右するのか疫学的手法を用いて客観的に明らかにするのがこの学問です.2000年当時この授業を受講した時には,大変にインパクトを受けたのですが,一方で,この学問は,豊かな国にもかかわらず,平均寿命は決して高くない米国の状況を理解するための学問だとの印象を受けました.それが,わずか10年足らずの間に,日本においてもこの学問がクローズアップされ,かつ,必要とされる状況になるとは当時想像するのは困難でした.

実践報告

地域医療への貢献を目的とした高校生向けの医療体験イベント

著者: 福田浩昭

ページ範囲:P.210 - P.213

要旨
 地域の人的医療資源の育成・確保という課題に対し,当院は広報面から取り組むべく高校生向けの医療体験イベント『飯塚病院医療体験コース』を平成22年度から実施している.目的は「地元の学生に医療系の進路に進んでもらう」「将来の就職時に地元就職してもらう」の2つで,当院にとっては就職支援活動とも言える.
 現在までに4年間開催し,効果測定としてアンケート調査を実施してきた.イベントへの評価は,参加者・学校の双方から好評である.学生にとっては将来の職業について具体的に考える機会になっており,社会的意義も持っている.最終的に就職につながったかという具体的な実績を測るにはまだ年月を要するが,この取り組みを今後も続けていくことで,当院ならびにこの地域での医療に情熱をもった人材確保に資すると考える.

Book Review

トラブルに巻き込まれないための医事法の知識

著者: 篠原幸人

ページ範囲:P.209 - P.209

 交通事故大国というイメージが強い米国でも,実際には年間の交通事故死者数よりも医療事故死者数のほうが多いだろうと言われている.今から8年ほど前の“New England Journal of Medicine”にHillary ClintonとBarack Obamaが連名で,医療における患者の安全性に関して異例の寄稿をしたほどである.
 日本における医療過誤死者数ははっきりとは示されていないが,医事関係訴訟は年間700〜800件はあるという.患者ないしその家族の権利意識の高まりの影響が大きいが,マスコミの医療事故報道や弁護士側の動きも無視できない.しかし,わが国の多くの医療関係者や病院自体が従来この医事訴訟ということに関し,あまりに無知かつ無防備であった気がする.

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Back Number

ページ範囲:P.228 - P.228

Information

ページ範囲:P.229 - P.229

日本医療・病院管理学会
第333回例会/第56回近畿病院マネジメント研究会
日程■3月7日(土)13:30〜16:40
会場■滋慶医療科学大学院大学 視聴覚大講義室(大阪市淀川区)

投稿規定

ページ範囲:P.230 - P.231

次号予告

ページ範囲:P.232 - P.232

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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