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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻4号

2015年04月発行

雑誌目次

特集 在宅医療を支える病院

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.249 - P.249

 慢性的な疾患を複数抱え,介護を必要としている高齢者は増え続けている.医療サービスへのフリーアクセスの下,高齢者の救急利用も増え続けている影響もあって地域によっては救急の受け入れ態勢が逼迫している.命の重みに差はないものの,終末期の高齢者への対応と,小児・成人の救急対応については違いがあって当然である.
 救急車で搬送される高齢者の多くは,自宅や介護施設など,いわゆる在宅で療養している人たちだ.彼らはあらかじめ病状が把握されていることが多く,予想される急変時の対応さえ整っていれば,必ずしも救急搬送を要しない.

在宅医療を支える仕組み

著者: 佐々木昌弘

ページ範囲:P.250 - P.256

●入院から在宅医療へと質的な展開を図るため,地域医療構想においては構想区域ごとにニーズを推計し,医療提供体制を整備していく.
●地域包括ケアシステムは,日常生活圏域ごとに構築することを目指しているため,市町村が中心的な役割を担うこととなる.平成27年4月から3年の間に,すべての市町村で地域支援事業の一つとして「在宅医療・介護連携推進事業」が順次スタートすることとなった.
●高齢社会を見据えた地域包括ケアシステムの構築から小児そして障害者や難病患者らへの対象の拡大といった形で,在宅医療を必要とする患者や家族のために,地域として医療に取り組むことは,地域づくりそのものと密接不可分と考えられる.

地域包括ケアシステムにおける在宅医療のICTツール「いきいき笑顔ネットワーク」

著者: 牧靖典

ページ範囲:P.257 - P.261

●超高齢社会を迎えたわが国では,もはや病院完結型では医療を支えきれないため,今後は入院治療の延長としての在宅医療が求められる.
●そこで,東名古屋豊明市医師会では電子連絡帳を基盤とする「いきいき笑顔ネットワーク」を構築し,在宅医療における多職種連携システムを展開した.
●これにより,患者・家族を中心とした全スタッフによる退院調整が可能になった.地域にも多職種で支えるチームが育ちつつある.

日常の療養支援のカギとなる情報共有—粕屋在宅医療ネットワークの目指すもの

著者: 上野道雄

ページ範囲:P.262 - P.266

●高齢社会において安心・安全な医療を地域社会に提供する際には,病院と地域を結ぶ多職種医療連携システムの構築が求められる.
●福岡県では福岡東医療センターと粕屋医師会が中心となって在宅医療ネットワークを構築し,現在は「とびうめネットワーク」として全県下に拡張させ,一定の役割を果たしている.
●急性期病院の電子カルテ内に格納されている患者情報を地域目線でかかりつけ医に提供すると,より安全で快適な地域医療が期待される.

在宅における急変時の対応

著者: 小松裕和

ページ範囲:P.268 - P.271

●地域で在宅医療を安心して提供するためには,入院医療との連携体制構築は不可欠である.
●在宅医療機関側の取り組みとして,在宅で治療できる限界を高めることも大事ではあるが,地域全体でのスムーズな入退院支援体制の構築がより求められる.
●病院スタッフと在宅医療機関や介護事業所などの立場の異なる人との対話により,広い視野を持って在宅医療と入院医療との連携に関わる人材が増えてきている.

病院として在宅での看取りを支える

著者: 西山雅則 ,   織田正道

ページ範囲:P.272 - P.276

●診療から介護まで自己完結できる総合ヘルスケアシステムを構築し,在宅における看取りを支える中で,開業医の負担の大きさなど,在宅医療・在宅看取りの課題が明らかになった.
●そこで,病床の回転や退院支援に積極的に取り組んで空床を確保し,受け入れ態勢や訪問看護ステーションでバックアップするなど,開業医のフォローに取り組んできた.
●在宅での看取りには在宅医療の提供はもちろんのこと,家族の負担を減らし,「安心」して療養できる環境づくりが重要な要素である.

在宅療養支援診療所からみた地域連携

著者: 鈴木央

ページ範囲:P.278 - P.282

●地域医療が崩壊しないためには,在宅医療の普及,病院医療の効率化が必須になり,救急医療が崩壊しないためには,救急医療のネットワーク化が求められる.
●治癒を目指す医療とともに,生活重視の医療がより重要となる.これを理解しなければ,今後大きな困難に直面することになると思われる.
●こうしたシステムの改変においては,市区町村行政,地区医師会との協力関係の中で行う必要がある.それぞれの地域の医療が今後どのようなものになるのか,それぞれの地域で話し合うことが極めて重要である.

対談

在宅医療の行方

著者: 辻哲夫 ,   山田隆司

ページ範囲:P.233 - P.236

高齢多死社会を迎えようとするいま,疾病や障害を持った高齢者を地域でどう支えていくかが課題となっている.
その中で病院はどう関わっていくべきなのだろうか.
「柏プロジェクト」を通して今後の在宅医療のあるべき行方を探る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・4

公益財団法人湯浅報恩会 寿泉堂綜合病院

著者: 小林健一

ページ範囲:P.240 - P.245

■はじめに
 郡山市は東京から新幹線でおよそ1時間20分,福島県で最多の人口33万人を擁する中核市である.県庁所在地ではないが,東北新幹線・東北本線・磐越西線・磐越東線の鉄道網,そして東北自動車道・磐越自動車道が交わる交通拠点という地理的利点から,経済や流通の要衝として,仙台市に次ぐ東北地方第2の経済都市である.しかし,他の地方都市と同様に,商業施設の郊外化やモータリゼーションなどによって,中心市街地の人口減少・高齢化が進み,徐々に活力が失われつつある状況にある.そこで郡山市は近年,中心市街地の空洞化の解決策として,中心市街地活性化を積極的に進めている.駅北核・駅南核・大町核・中町核という「四核構想」を掲げ,郡山駅周辺に回遊性を持ったまちづくりを行い,平行して再開発事業も進めている.
 寿泉堂綜合病院は,この郡山において,創業から128年にわたり地域医療を提供してきた歴史と伝統ある病院である.新病院の建設にあたっては,さまざまな検討を重ねた結果,市街地再開発事業を活用して郡山市の中心市街地を活性化し,病院と共に繁栄することを選んだ.

Data mania・4

病院報告

著者: 堀越建

ページ範囲:P.246 - P.247

調査概要
 「病院報告」調査(以下,本調査)は,全国の病院,療養病床を有する診療所の患者利用状況および病院の従事者状況を把握する調査で,厚生労働省の管轄する「保健衛生」分野で唯一医療法施行令で定められている調査です.
 本調査は患者票と従事者票と大きく2つに分かれており,患者票は毎月実施されていて在院患者数,新入院患者数,退院患者数,外来患者延数,病床利用率,平均在院日数などを集計しています.従事者票は年1回実施されており,医師,歯科医師,薬剤師,看護師らの数を集計しています.双方とも,開設者別,病床規模別,都道府県別,二次医療圏別などでまとめられています.

医療の可視化と病院経営・4

医療介護の総合的データベースの開発と運用

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.287 - P.292

■医療介護ニーズへの予見的対応
 社会の高齢化の進行は後期高齢者の増大を意味する.後期高齢者の場合,ケアニーズは複合的であり,医療・介護の両面から総合的に考える必要がある.高度高齢化の進行は現在療養病床で入院加療を受けている状態像の高齢者数を増大させるが,財政的な制約および2040年以降における団塊世代の人口減少を考えれば,療養病床数を増やすという選択肢はとりにくい.この問題に対応するためには医療ニーズの高い高齢者に対応した在宅ケアの整備を行っていくしかない.具体的には地域包括ケアの整備である.
 厚生労働省は地域包括ケアの実現を今後10年間の最も重要な政策課題として位置づけている.その実現のためには,医療ニーズ・介護ニーズの高い高齢者が,できる限り在宅で生活することを支えるサービス提供体制が必要となる.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!〜全国各地の取り組みに出会う旅〜・[2]

岩手県旧藤沢町

著者: 佐藤元美

ページ範囲:P.294 - P.297

岩手県旧藤沢町では,病院のスタッフが地域に出向き,まちのみんなとともに医療を考える取り組みをしているんだ!
連載第2回目の今回は,20年も継続して行われているナイトスクールの取り組みを紹介するね!
旧藤沢町で住民主体の医療を目指して活動を続けている,佐藤元美医師にお話を聞きました!

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・1【新連載】

はじまる,地域医療構想

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.298 - P.299

 1年間の厚生労働省での職務を終えて,沖縄に戻ってきました.今月から再び感染症医と在宅医の二足のわらじを履いて県立病院に復帰です.体の調子はイマイチでも,心が元気なオジイやオバアたちと話ができるのが楽しみです.

Current Issue

せん妄ケアに苦しむ大学病院へのユマニチュードの導入

著者: 川﨑つま子 ,   平野博美 ,   小松佳子

ページ範囲:P.300 - P.301

■せん妄ケアに悩まされて
 東京医科歯科大学医学部附属病院(以下,当院)は,大学病院の使命である高度先進医療を行うためにも,より安全・安心な医療が求められる.しかし,近年入院患者の高齢化に伴い認知機能の低下している高齢者や術後せん妄を来す患者が増加傾向にある.事故を防止するためには,患者の身体拘束もやむを得ない場合がある.しかし,どんなに身体拘束を行っても,一定の転倒転落事故が発生し,チューブ類の自己抜去も起こっている.身体拘束は患者に強い不快感を与え,かえって不穏状態を助長する結果になっており,医療者にとっても倫理的葛藤を生んでいる.身体拘束を最小限に抑えて,できるだけ患者の自然な状態に近づける方法はないかと思案していた.
 そんな折,テレビ報道でユマニチュードが認知症ケアに効果的であることを知り,せん妄患者の看護にも活用できるのではないかと考えた.本田美和子氏は『ユマニチュード入門』の中で,「ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコティの二人によって作り出された,知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法です.この技法は『人とは何か』『ケアをする人とは何か』と問う哲学と,それにもとづく150を超える実践技術から成り立っています.認知症の方や高齢者のみならず,ケアを必要とするすべての人に使える,たいへん汎用性の高いものです」と述べている1).ユマニチュードには,人間の尊厳を取り戻すための4つの柱があり,それは「見る」「話す」「触れる」「立つ」である.

病院経営に効く1冊・4

スローメディシンのすすめ—年老いていく家族のケアに向き合うあなたへ

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.303 - P.303

マッカラ医師は米国の著名な老年医学の医師である.本書の序文でマッカラ医師は現代米国の医療が,機械化した一つの産業のようなものになっており,あたかも病気の治療を商品化し,進むべき方向をテクノロジーによって機械的に決定するという,医療が本来持つべき「心」からはずれたものになっていることに警鐘を鳴らしている.そして高齢者医療を専門とする医師の目から見て高齢患者とその家族をとりまく現在の窮状は,現代の医療システムの機能不全を表すものと問題提起をしている.この状況はわが国が直面する問題と同じものであり,超高齢社会において地域包括ケア体制の確立という目標を掲げているわれわれが真摯に受け止めなければならない課題である.
 この問題に対処するためにマッカラ医師は「スローメディシン」という概念を提示する.それは序文で「病院でのテクノロジーを中心とした急性期医療からは距離をとり,高齢者一人一人で異なる複雑な問題にゆっくり立ち向かう」医療の「態度」と定義される.

Book Review

ユマニチュード入門

著者: 中村耕三

ページ範囲:P.284 - P.285

 「これは魔法だ」.
 テレビでユマニチュードの番組を見た感想である.認知症を発症しケアが困難な「困った,手のかかる人」になってしまった人が,来日したイヴ・ジネストさんのユマニチュードのケアを受ける.1時間程のケアの終わりには,その「困った人」が「ありがとう」とお礼を言うようになり,Vサインを送ったり,イヴ・ジネストさんの頬に別れのキスをしたり,自分で立ち,歩いたりする.ケアを見守っていた家族からは「まったく認知症を感じなかった」など,夢のような出来事に驚きと感謝の言葉が続く.

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Back Number

ページ範囲:P.304 - P.304

Information

ページ範囲:P.305 - P.305

第8回全国連携室 ネットワーク連絡会日程
■4月18日(土)・19日(日)
会場■大和屋本店コンベンションホール(愛媛県松山市)

投稿規定

ページ範囲:P.306 - P.307

次号予告

ページ範囲:P.308 - P.308

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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