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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻5号

2015年05月発行

雑誌目次

特集 地域包括ケアの中核としての病院看護部門

巻頭言

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.325 - P.325

 地域医療構想の作成過程では,病院および病床機能の再編が行われる.具体的に病床は高度急性期,急性期,回復期(軽度急性期),療養に区分され,さらに地域包括ケア構想の枠組みの中で病院と診療所・介護事業者との連携が強化されていく.超高齢社会においてこの連携の縦糸となるのは看護部門である.そこで本特集では今後の地域医療体制の変革に伴う病院看護部門の役割について総合的に俯瞰した.
 筒井論文では今後の社会保障制度改革の中核に「地域包括システムの構築」を位置づけ,医療と介護の連携を進めるために情報共有の仕組みの構築が最も重要な課題であるとしている.そして,そのためには地域の医療・福祉・介護専門職との連携を病院の看護職側が積極的に行うことが必要としている.

地域包括ケアシステムにおける病院看護部門の今後のあり方

著者: 筒井孝子

ページ範囲:P.326 - P.331

●社会保障制度改革の中核は,医療・介護サービスの提供体制改革の鍵を握る「地域包括ケアシステム」の構築である.
●地域医療構想においては,医療や介護サービスの提供体制の効率化のために医療と介護の連携を進めることが重要となる.
●地域包括ケアシステムにおいて,病院の看護部門は在宅生活を支える地域の医療・福祉・介護専門職と連携するため,地域連携パスや退院調整にむけた情報共有の仕組みをどのように構築するかが課題となる.

急性期病院における看護部の取り組み—入院中のADL低下予防から退院後の在宅訪問まで

著者: 粟村真須美

ページ範囲:P.332 - P.336

●看護ケアの本質は患者のもてる力を正しくアセスメントすることを通して,患者の尊厳を守りつつADL低下を予防することである.
●看護師の重要な役割の一つは重症化予防であり,自立に向けた良質な在宅療養支援である.その一環として在宅支援看護師を育成している.
●退院後の在宅訪問など地域を含めた多職種協働のチーム医療を展開すると同時に,双方のスキルアップを図り,人的資源の活用に努めている.

地域包括ケア病床を有効活用する看護部門のあり方

著者: 本橋敏美

ページ範囲:P.337 - P.340

●2014年7月に地域包括ケア病棟を誕生させた.
●地域包括ケア病棟の看護師は,訪問看護師と共同で家族への指導内容を立案し,ケアの継続性を保証することで家族の不安を軽減する.
●在宅医療を支援するという役割のもと,スムーズな退院支援ばかりではなく,家族支援病棟として,医療必要度の高い在宅患者のレスパイト機能を構築させてきた.

看護を軸とした地域連携—院外新人看護職員研修受け入れ事業と看・看連携会議を中心に

著者: 宮下恵里

ページ範囲:P.341 - P.346

●2010年4月より新人看護職員研修が努力義務化された.当院では院外連携強化とケアの継続を目指し,地域看護教育の一環として,連携病院11施設の新人看護職員の受け入れ研修を開始した.
●院外新人看護職員研修受け入れ事業を通して,地域での新人看護職員の定着と看護実践能力の向上につながった.また,当院の教育担当者の教育スキルを高める機会となった.
●地域の看護の質向上を図る人材育成に加えて「看・看連携会議」を通して,地域医療機関の機能やニーズを把握し,看護が軸となるさらなる連携の強化・拡大を図りたい.

フランスの在宅入院制度から考えるこれからのわが国の病院看護師の役割について

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.347 - P.352

●複数の傷病を持つ高齢者の在宅医療ニーズが増大し,急性期・回復期・慢性期の複合化から,施設ケアと在宅ケアの内容がオーバーラップしていくことが予測される.
●フランスでは在宅入院制度やtherapeutic health educationなど病院看護師が地域の患者をサポートする仕組みがある.
●このような仕組みを導入することで,地域包括ケア病棟が本来期待されている機能を十分発揮できるようになり,在宅医療は質量ともに大幅に向上するであろう.

対談

超高齢社会の医療と介護をつなぐ看護師

著者: 齋藤訓子 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.309 - P.312

医療ニーズの高い高齢者の在宅療養を支えるためには,急性期にも対応でき,ケアマネジメント機能を担う看護師の存在が不可欠である.
地域包括ケア病棟や看護小規模多機能型居宅介護の活用など,ますます高まる看護師への期待と制度的課題を語る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・5

公立大学法人福島県立医科大学 会津医療センター

著者: 小藤一樹

ページ範囲:P.316 - P.321

 正月明け間もない1月6日の訪問であった.郡山駅から在来線で会津若松駅へ向かう車窓の風景は,猪苗代湖あたりですっかり雪深いものになり,到着した会津若松駅も雪景色だった.降りしきる雪の中,駅前のバスターミナルから北に向かって15分ほどかけて会津医療センターに到着する(図1).福島県を東西に結ぶ磐越自動車道の会津若松インターチェンジに近く,かつ喜多方と会津若松をつなぐ会津縦貫北道路の湯川南インターチェンジの近くに会津医療センターは位置する(図2).この交通インフラの要所に立地する福島県立医科大学会津医療センターは,会津総合病院と喜多方病院という二つの県立病院を統合して,公立大学法人福島県立医科大学附属病院として2013年5月にオープンしたものである.

Data mania・5

看護関係統計資料集

著者: 小塚正一 ,   中島秀和

ページ範囲:P.322 - P.323

調査概要
 『看護関係統計資料集』(日本看護協会出版会刊)は,看護に関する諸指標の経緯と現状を明らかにし,将来展望に資することを目的としたデータブックです.厚生労働省による「病院報告」や「医療施設調査」などを基に編集されています.今回は執筆時点の最新版(平成25年度版)を基にご紹介します.

事例から探る地域医療再生のカギ・3

地方独立行政法人加古川市民病院機構の病院統合

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.354 - P.359

■何が問題だったのか
加古川市民病院の医療崩壊
 兵庫県加古川市(人口26万人)にある旧・加古川市民病院(405床;現・加古川西市民病院)は,小児・周産期医療に強みを持つ病院で,市西部を中心に地域の医療を支えている病院である.同院は,1999(平成11)年に,一般会計繰入金を除いた修正医業収支比率92%,9.4億円の一般会計繰入金を入れても手持ち現金は1,089万円しかなく,一時借入金3.6億円,他会計借入金3.5億円を抱えるなど非常に厳しい経営状態が続いていた.
 その後,職員一体となって経営改善を進め,医師数が1999(平成11)年の38名から2005(平成17)年には64名まで増えたこともあって収益は急改善し,同年の修正医業収支比率は98%に達した.一時借入金・他会計借入金を解消し,手持ち現金は2007(平成19)年度には36.8億円まで増加.一般会計繰入金も7.6億円に縮減した.

医療の可視化と病院経営・5

地域医療構想策定ガイドラインについて

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.360 - P.367

■はじめに
 地域医療構想策定ガイドラインについては,当初平成27(2015)年1月中にその概要が示される予定であったが,病床機能区分の考え方などについて関係者間での議論の集約に時間がかかったことから,平成27(2015)年2月12日の第8回の「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」でその案がようやく示されることとなった1).その内容について委員会でおおむね了承されたことから,その概要とポイントについて解説してみたい.

Current Issue

周術期管理の新たなキーワード“ESSENSE”

著者: 宮田剛

ページ範囲:P.368 - P.369

■ESSENSEとは何か……の前に,ERASとは何か?
 外科の周術期管理は,旧来の術後絶対安静や,術前術後の長期絶飲食が常識だった時代から,術後早期離床と術後早期経口摂取再開の時代へと変貌を遂げ,各施設でその回復促進効果が実感されるようになってきた.
 このムーブメントの源流はFast-track Surgery 1)や,Enhanced Recovery After Surgery(ERAS)2)という科学的根拠を持って提唱された術後回復促進策のパッケージである(表1).

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・2

「ここにいるさ」が許される場所

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.372 - P.373

 西洋医学が病気の原因を取り除き,患者を治療できるようになったのは,せいぜい20世紀になってからのことです.麻酔や消毒が開発されて(まともな)外科治療ができるようになったのも,ペニシリンを端緒として次々と抗菌薬が開発されて感染症が治療できるようになったのも,X線やエコー,心電図に至るまで各種医療機器で診断ができるようになったのも,このたった数十年の出来事でした.
 それまで医師がやっていたことと言えば,解熱,鎮痛,鎮咳,去痰,強心,利尿といった対症療法で,患者が自ら治ろうとするのを少し手助けしていただけでした.こうした19世紀的な病院の存在理由は,病人の保護(あるいは隔離)という福祉(公衆衛生)サービスとしての機能にありました.

病院経営に効く1冊・5

『八重山病院 データでムヌカンゲー2』

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.375 - P.375

筆者は本誌2015年1月号から「事例から探る地域医療再生のカギ」を隔月連載しているが,全国の現場を回っていると,医療崩壊の危機に直面している病院に対して,住民の意識が低い地域が少なくないと感じる.
 本書の著者の上原氏は,沖縄県石垣島にある県立八重山病院に勤務する麻酔科医である.上原氏も,日ごろから住民は病院の提供する医療について,現実を理解しておらず不平不満が増幅していること,病院スタッフも多忙による余裕のなさから現実を伝えられないもどかしさが存在することを感じていた.そのような関係をなくしたいと考え,2010年11月から地元の八重山毎日新聞に「データでムヌカンゲー」というコラムの連載を始めた.「ムヌカンゲー」は,沖縄の方言で「ものごと(ムヌ)」と「考え(カンゲー)」を合わせた言葉で,「いろんなものを見て,聞いて,感じて,次に活かすための思考」という意味である.コラムは,毎回,八重山病院の医療に関するデータを紹介,分析を行うことで,読者に医療現場で何が起きているかについて考えてもらうものとなっている.

Book Review

トラブルに巻き込まれないための医事法の知識

著者: 古川俊治

ページ範囲:P.371 - P.371

 全国の第一審裁判所に提起される医療過誤訴訟の数をみると,1990年代から2004年にかけて急増し,その後は,同程度の数にとどまっている.しかし,訴訟には至らないかなりの割合の医事紛争が,当事者間の示談や各地の医師会などの機構を通じて,裁判外で解決処理されているため,実際に医事紛争数が減少しているのかどうかは明らかではない.1990年代からの医事紛争増加の理由として,医師数が増加して医療供給が量的に確保されたことによる患者数の増加,新薬・新技術の開発に伴う副作用や合併症の増加なども挙げられるが,第一の理由は医療に関する一般的知識が国民に普及し,患者の人権意識が高揚したことにある.このような患者の権利意識の伸張を背景に,近年の裁判所の考え方には大きな変化がみられ,近年の裁判例では,医療機関に要求される診療上の注意義務は厳しいものとなっている.
 それ以上に,仮に勝訴するにしても,患者からクレームを受けたり訴訟を提起されたりして,その対応に追われることは,病院・医療従事者にとって大きな時間的・精神的負担となる.何よりも,医事紛争を未然に防ぐ対策が,極めて重要である.医療事故や医事紛争は,それぞれの医療機関において,同じような原因で発生することが多い.したがって,過去の事例に学び,その原因を分析し,自院の医療事故や医事紛争の予防に役立てる取り組みが重要である.また,医事紛争は,医療従事者に法的意味での過失があり,その結果,悪しき結果が実際に患者に発生した場合にだけ起こるわけではない.医療従事者が法律知識を欠いているために,対応や説明を誤り,患者側の不信感を強めているという場合も多い.したがって,医療従事者は,広く病院・臨床業務に関する基本的な法律知識を学び,医療事故や医事紛争に対する適切な対応を習熟しておくことが必要である.このことは,医療機関の管理者だけではなく,実際に患者に接することになる,第一線で活躍する医療従事者にこそ望まれる.

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Back Number

ページ範囲:P.376 - P.376

Information

ページ範囲:P.377 - P.377

公益社団法人
医療・病院管理研究協会
「病院管理 事務部長研修」
日程■5月15日(金)・16日(土)
会場■株式会社ホギメディカル本社ビルB1(東京都港区赤坂)

投稿規定

ページ範囲:P.378 - P.379

次号予告

ページ範囲:P.380 - P.380

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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