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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻6号

2015年06月発行

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特集 経済学からみたこれからの医療

巻頭言 フリーアクセス

著者: 井伊雅子

ページ範囲:P.397 - P.397

 医療の在り方を経済学で考えるというと,新自由主義的な“お金ですべての物事を捉える自由競争至上の考え方”と思われがちだ.しかし,経済学で競争とは「公正または平等なルールのもとで限られた資源を適切に配分するためのメカニズム」であり,経済学のゴールは,皆で協力して,限られた資源を効率的に利用することである.つまり市場だけが手段ではなく制度設計が大事なのである.よりよい制度を実現するために,人々の倫理的な行動や利他的な行動だけに頼るのは限界がある.人間の利他性を支える社会のしくみをどのようにして作るのか,どのような制度設計をするべきか,そうした視点からも経済学の研究は進められている.
 生活習慣病や慢性疾病が医療費の上位を占めており,喫煙や飲酒を控えること,バランスの取れた食事や運動などの重要性が言われている.しかし,生活習慣を変えることは難しく,私たちは予防は重要とわかっていても先延ばしにする傾向がある.人間行動の特徴に関する行動経済学の分析と,それに基づいた予防医療政策なども最近の経済学の重要なトピックである.

医療改革が進まなければ日本はどうなるのか

著者: 小林慶一郎

ページ範囲:P.398 - P.402

●日本の財政を将来にわたって持続可能なものにするためには,消費税率30%分に相当する規模で,政府の収支を改善しなければならない.
●この結果は,アベノミクスが成功するベストシナリオを前提としており,経済成長が回復しても増税または歳出削減を,きわめて大きな規模で実施しなければならないことを認識する必要がある.
●財政改革が実行できなければ,インフレ率や金利が高騰し,物価が何倍にも達するような経済破綻が発生する可能性が高い.そうなると,高齢者や社会的弱者を中心に国民の健康と福祉に大きなダメージが生じる懸念がある.

医療における質・効率性・公平性の向上を目指して

著者: 今中雄一

ページ範囲:P.403 - P.409

●医療・介護の財源が逼迫する中で,限られた資源,財源のもとで医療・介護を守るためには,データをうまく使って議論をしなければならない.
●ただし,医療の質・効率性・公平性の向上を実現するためにはデータだけでは不十分であり,それをどのように具体化していくかが重要である.
●2015年より策定が始まる地域医療構想の時代において,各ステークホルダーが協働して新しい社会システムをつくっていくことが求められている.

行動経済学からみた予防医療

著者: 後藤励

ページ範囲:P.410 - P.414

●行動経済学では生活習慣の改善が難しい理由として,遠い将来やリスクに対する人々の特徴が重要であるとされてきた.
●逆にそのような特徴を利用して,生活習慣を改善させるプログラムも開発され,効果検証も進んできている.
●生活習慣への介入の可否を判断するためには,科学的な根拠に基づいた検証と共に,社会的な価値観に関する議論も今後重要となる.

HTA(医療技術評価)の活用の可能性—海外の事例を参考に

著者: 五十嵐中

ページ範囲:P.416 - P.422

●費用対効果評価のデータは,イギリス・フランス・オーストラリアなど世界各国で政策応用されている.使われるポイントは給付の可否と価格調整に大別される.
●効果のものさしに質調整生存年(QALY)を用いて,1QALY獲得当たりの増分費用効果比(ICER)を計算する費用効用分析が最もよく使われる.
●経済評価の結果のみで機械的に給付の可否や価格が決まるわけではない.アプレイザルの段階で他の要素も考慮されたうえで,総合的に判断される.

費用対効果分析における技術の外部性—感染症疫学モデルの利用

著者: 井深陽子

ページ範囲:P.424 - P.428

●費用対効果分析では,医療技術の導入が社会全体に与える効果とかかる費用とを比較する.
●感染症に関わる医療技術,例えばワクチンの費用対効果分析では,その技術が生み出す「外部性」を分析に考慮する必要がある.
●ワクチンから生み出される外部性の大きさは,疾病の特性に加えて,ワクチン接種率に依存する性質があり,その性質を記述するために感染症の動的な疫学モデルが有用である.

対談

経済学からみたこれからの医療

著者: 西村周三 ,   井伊雅子

ページ範囲:P.381 - P.386

超高齢社会を迎え,社会保障費の増大が止まらない.
深刻な財政状況のなかで,削減されるべきは本当に教育費なのか?
持続可能な地域包括ケアシステムのあり方とは何か?
日本が今日直面している格差問題ほか諸課題にどう立ち向かうか?
二人の経済学者が日本の未来像を提言する.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・6

NTT東日本 関東病院

著者: 宇田淳

ページ範囲:P.390 - P.393

■はじめに
 都心にありながら静かな環境の中に立つNTT東日本関東病院(以下,関東病院)の前身は,1951年に設立された関東逓信病院である.1999年,日本電信電話株式会社の再編により,病院名を現在のNTT東日本 関東病院へと改称している.患者中心の高度医療を提供する21世紀に相応しい,「人にやさしい病院」「高度医療の提供をサポートする病院」「効率的運営を可能とする病院」を設計コンセプトに,1997年に新棟の建替工事に着工し,2000年12月に新病院が完成した.また,「世界に冠たるマルティメディア病院」を目指し,新病院は完全なフィルム・ペーパーレスの電子カルテシステムKHIS 21(Kanto Hospital Information System 21世紀)を備え,21 世紀のユビキタス社会(“いつでも,どこでも,だれとでも”の時空自在の情報時代)における医療の提供を目指した1).診療支援から経営管理に至るまで最新の病院システムを実現した,合理的で人にやさしい病院として,医療福祉建築賞2002を受けている(図1).
 本稿では,病院情報システムについては,他の文献に委ねることとして,新病院完成から15年,成長と変化の中,医療安全や質の向上,患者サービスの向上についての取り組みを紹介する.

Data mania・6

医師,歯科医師,薬剤師調査

著者: 柿木哲也

ページ範囲:P.394 - P.395

調査概要
 「医師,歯科医師,薬剤師調査」(以下,本調査)は, 医師,歯科医師および薬剤師について,性別,年齢,業務の種別,従事場所などによる分布を明らかにする調査です.
 本調査はもともと統計報告でしたが,現在は日本国内に住所がある医師,歯科医師,薬剤師は,それぞれ法律で2年に1回の届出が義務付けられています.住所,性別,生年月日,登録年月日,業務の種別,従事先の所在地など医師,歯科医師,薬剤師の基本情報が年次でまとまっているのが特徴です.

医療の可視化と病院経営・6

地域医療構想調整会議における議論

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.430 - P.435

■はじめに
 当初の連載予定では第6回で医療費支出目標について説明する予定であったが,地域医療構想に関連する厚生労働省および内閣府での議論が長引いているため,今回はテーマを変えて地域医療構想調整会議における議論の内容について研究者の立場からの私見を述べてみたい.また,平成27(2015)年2月12日に「地域医療構想策定ガイドライン(案)」(以下,ガイドライン)が出された後,さまざまな憶測が流れ現場が混乱している状況もある.筆者のところにも種々の誤った理解に基づく質問や意見が数多く寄せられている.そのいくつかについて本稿でも紹介し,それに対する筆者の見解を述べてみたい.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!〜全国各地の取り組みに出会う旅〜・[3]

香川県綾川町

著者: 大原昌樹

ページ範囲:P.436 - P.439

 香川県綾川町では,医師,看護師,ケアマネジャー,ソーシャルワーカーなどのみんなが,スムーズな病院・診療所・在宅間の連携を目指した取り組みをたくさん展開しているんだ! 連載第3回目の今回は,平成17年から続く「香川シームレスケア研究会」の取り組みを紹介するね! 綾川町で多職種連携のための活動に取り組まれている,大原昌樹医師にお話を聞きました!

病院経営に効く1冊・6

『良い戦略,悪い戦略』

著者: 神野正博

ページ範囲:P.441 - P.441

国の財政状況悪化や少子高齢社会,人口減社会を背景に,昨今,多くのキーワードが病院を取り巻く.すなわち,地域包括ケアシステムの構築,地域医療構想策定と地域医療構想調整会議への対応,さらには来年度の診療報酬改定の主題となるだろう7対1入院基本料病床や慢性期病床の見直し,地域医療連携推進法人設立などにいかに対応するか,病院管理者には多くの決断と生き残りのための戦略が求められている.
 その中で,戦略策定を指南する数あるビジネス書の中できらりと光る「ストラテジストの中のストラテジスト」として評されるルメルトの書である.

Current Issue

早期離床をはじめとするリハビリテーションの可能性

著者: 松尾耕一 ,   讃井將満

ページ範囲:P.442 - P.443

 重症患者は安静にしているべきである,というのは今や昔の考え方であり,最近ではたとえ集中治療室に入室している患者でも可能な限り早期に離床を行うことが主流となっている.
 安静臥床にしていることは,酸素消費量やエネルギー必要量を減らし,疼痛が軽減するなどのメリットがある一方で,廃用性萎縮の増悪,褥瘡や深部静脈血栓症の発生のほか,せん妄や肺炎を増加させ,結果的には人工呼吸器装着期間や入院期間を延長するとされる.

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・3

「断らない病院」であり続けるために

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.444 - P.445

 すでに,少なからぬ地域の中核病院が直面していることですが,私が働いている病院でも満床状態が続いています.
 入院を待つ患者さんが救命救急センターの硬くて狭い簡易ベッドの上で,電子音や医療者の声に悩まされながら,眠れぬ夜を過ごしておられます.付き添っていただくご家族の疲労も蓄積してゆくでしょう.

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ページ範囲:P.448 - P.448

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ページ範囲:P.449 - P.449

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ページ範囲:P.452 - P.452

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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