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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻8号

2015年08月発行

雑誌目次

特集 地域医療構想策定ガイドラインをどう読み解くか

巻頭言

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.549 - P.549

 昨年は,「地域医療構想」と言ってもピンとこない医療提供者がほとんどであったが,今年度になりこの言葉を知らない医療提供者はほぼ皆無となった.一方,この言葉をめぐりさまざまな情報が飛び交っており,真偽の程が不明な情報も多数含まれている.そのような状況の下,いよいよ地域医療構想の策定が始まろうとしている.
 本特集は,この地域医療構想について,この政策に直接携わった方々から直に情報をいただき,真の情報を提供することを念頭に置いて組まれたものである.

地域医療構想の目指すところ

著者: 佐々木昌弘

ページ範囲:P.550 - P.555

●医療法では,昭和60(1985)年の第一次改正以来,医療資源の適正配分について取り組んできている.地域医療構想は,都道府県ごとに策定される医療計画の一部として,基準病床数制度や5疾病5事業,在宅医療との有機的なつながりが重要となる.
●地域医療構想は,社会保障と税の一体改革の中で,医療提供体制と地域包括ケアシステムの同時構築の要となっている.つまり,単に都道府県が策定するのにとどまらず,市町村や隣接都道府県のさまざまな関係者との共通ビジョンとなることが求められる.
●10年後の目指す姿の実現のためには,個々の病院の自主的な取り組みや病院相互の協議による健全経営と役割分担が必須であるが,そのための判断材料は広く提供されなければならないし,最終的には地域住民の理解と適切な病院選択と受療行動が最大の鍵を握ると考えている.

病床機能別病床数の適正化の考え方—「地域医療構想策定ガイドライン」と「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会第1次報告」との関係性

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.556 - P.562

●平成27(2015)年6月15日に内閣府が公表した第1次報告「医療機能別病床数の推計及び地域医療構想の策定に当たって」で示された病床数は一定の仮定下で計算された推計であり,強制力を持った目標ではない.
●各構想区域における病床数の目標値は,慢性期の患者を病床,介護施設,在宅のそれぞれでどれだけ診るのかという協議の結果によるところが大きい.
●地域医療構想調整会議の最も重要な役割は,2025年および2040年の傷病構造を考慮した上で,それに適した医療介護提供体制の具体像を構想することである.

—鹿児島県 姶良・伊佐地区における—模擬「地域医療構想調整会議」

著者: 池田琢哉 ,   佐藤昭人 ,   黒島一直 ,   風呂井彰 ,   松田晋哉 ,   今村英仁 ,   揚松龍治

ページ範囲:P.564 - P.589

 今回の地域医療構想の目的は,地域の実情に応じた医療提供体制を関係者の合意に基づいて作ることである.まず構想区域を設定し,現状と課題を把握し,2025年・2040年の医療提供のあり方を計画する.
 地域医療構想調整会議は表1の4つのステップで進める.2015年6月に各二次医療圏単位,市町村単位で,病床機能別の病床数の推計値が出されたが,そこで示される数字の意味は地域によって違ってくる.データには限界があり,データにない情報交換や,裏にある現実を具体的に話し合うことが調整会議の重要な役割の一つである.間違えてはいけないのは,病床削減が地域医療構想の目的ではないということである.どういう医療提供体制が望ましいかを考えることが目標であり,その実現のために,人員補充,病床削減/増加などの条件を考える.この目的と手段を逆にしてしまうと議論が成り立たない.地域医療構想調整会議では,まずどういう医療が望ましいかを考えることが大事である.
 なお,実際の地域医療構想調整会議における参加者は,医師会,病院団体や学識経験者のほか,歯科医師会,薬剤師会,看護協会,医療保険者,市町村や住民代表など,幅広く柔軟に選定することが望ましい.
 また,ここで利用するデータの見かたについては,本号掲載の連載「医療の可視化と病院経営」(松田晋哉)第8回「地域医療構想調整会議で使用されるデータの解釈」(590ページ)を参照いただきたい.

対談

地域医療構想の先にある病院のあり方とは

著者: 中川俊男 ,   今村英仁

ページ範囲:P.533 - P.538

地域医療構想策定がいよいよ各地で本格化している.
そのガイドラインづくりの中で,日本医師会が示した存在感は大きい.
なぜこのような仕組みになったのか,地域医療構想調整会議をどう進めたらよいか.
そして,これからの日本医師会はどうあるべきか.
変化する医療界の最前線で発信を続けるキーマンに聞く.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・8

組合立 諏訪中央病院

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.540 - P.545

■はじめに:諏訪中央病院の「成長と変化」
 諏訪中央病院は現在,第三次増改築プロジェクト(2013年11月起工,グランドオープン2017年4月予定)の第一歩として,北棟(高層棟)と東棟の竣工を迎えたところである.また同時に,これら新棟の建設を足がかりに,既存棟(主に第一期棟)の改修工事に着手し,北棟(低層棟)の増築工事を進めている.
 本稿では,諏訪中央病院がどのようなプロセスを経て,今回の増改築プロジェクトに至ったのか,既往文献をはじめ,古我大作氏(共同建築設計事務所),武井義親氏(諏訪中央病院副院長)からうかがった話を元に振り返ってみたい(図1).

Data mania・8

人口動態調査

著者: 長田祐記

ページ範囲:P.546 - P.547

調査概要
 厚生労働省が主体となって行っている「人口動態調査」は,その名の通り日本国内における人口変動の実態を把握するための調査です.動態を扱うという意味で,静態データを扱う国勢調査と位置づけが異なります.
 人口動態調査票には出生票,死亡票,死産票,婚姻票,ならびに離婚票の5種があり,市区町村がそれぞれの届出に基づき作成します.これらを保健所が取りまとめ,都道府県を介して,厚生労働省に送付するという流れでデータが集約されていきます.

医療の可視化と病院経営・8

地域医療構想調整会議で使用されるデータの解釈

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.590 - P.597

■はじめに
 平成27(2015)年6月上旬に地域医療構想策定のためのデータブックが各都道府県に配布され,6月中旬には保健医療科学院で配布された資料の活用方法に関する研修が各都道府県の担当者を集めて行われている.これを受けて,各都道府県では地域医療構想調整会議(以下,調整会議)が開催されることになる.
 今回の地域医療構想策定作業では調整会議の場にデータブックのデータが提供され,それをもとに関係者が現状とその課題を把握し,2025年のあるべき医療提供体制を構想し,それを医療者のイニシアティブにより実現していくことになる.これまでの医療計画はどちらかというと都道府県の担当部局が厚生労働省の示すガイドラインに従って「作文」し,その内容を事後的に医療委員会で承認するというプロセスで策定されるのが一般的で,そこに医療関係者や住民が主体的に関与することは少なかった.また,記載されている内容も散文的なものが多く,その実行が行動計画として保証されたものは少ないのが実情であった.
 今回策定される地域医療構想はそのようなものではない.2020年にプライマリーバランスの黒字化を目指す政府にとって,社会保障費の適正化が重要な課題となっている.また,団塊の世代が後期高齢者になる2025年に備えてどのような医療提供体制を作っていくのかが喫緊の課題となっている.2013年に策定された第6次医療計画はこのような課題に応えるものになっておらず,それが地域医療構想策定の前倒しにつながったと筆者は理解している.このような危機感のもとで今回の構想策定が行われることを関係者はまず理解する必要がある.形式的な会議ではなく,実質的な協議が行われる会議でなければならない.そこで本稿では,調整会議で議論される主な資料の論点について,資料作成にかかわってきた研究者の立場から説明する.本号に収載されている「鹿児島県姶良・伊佐地区における模擬『地域医療構想調整会議』」(564ページ)の内容と合わせてお読みいただければと思う.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!〜全国各地の取り組みに出会う旅〜・[4]

東京都世田谷区

著者: 酒向正春

ページ範囲:P.598 - P.601

 東京都世田谷区では,脳卒中などにより障害をもって生活している人が,街中でリハビリをできるような場所,「ヘルシーロード」が2015年5月に完成したんだ! 連載第4回目の今回は,都心に複数手がけられている「ヘルシーロード」の取り組みを紹介するね! 世田谷区でリハビリテーションと地域の融合のために尽力されている,酒向正春医師にお話を聞きました!

病院経営に効く1冊・8

『進化する病院マネジメント—医療と経営の質がわかる人材育成を目指して』

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.603 - P.603

私自身が病院をマネジメントする立場になって十数年になるが,未だに満足のいく仕事をしているとは言い難い.しかし,病院では常に問題が発生し,半人前といえども病院の院長,管理者となれば結局は最終責任を取らざるを得ないこととなる.日々起こる困難な事象について,人のせいにはできないのである.
 ─「外来で待ち時間が長すぎると言って騒いでいる患者がいる」「看護師が急に何人も辞めると言っていて来月の勤務表が組めない」「病棟の利用率が下がって先月の収支が大幅な赤字になってしまった」「医師が受け持ち患者が多過ぎて辞めたいと言っている」「健康診断の結果を間違えて転記してしまい,すでに発送してしまった」「病棟で嘔吐下痢の患者が複数出たようだ」「厚生局の臨時監査で加算が認められない指摘を受け,自主返納を促された」「CT機器が古くて故障を繰り返しているが差し当たり資金の目処がたっていない」─

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・5

くらしの「受け皿」としての病院

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.604 - P.605

 90代の女性が発熱して搬送され,私たち感染症内科に紹介されて入院となりました.左下肢を腫らしており蜂窩織炎が疑われましたが,さらにMRIを含めて精査したところ左第一趾の骨髄炎を合併していることが明らかとなりました.
 穿刺して得られた膿を培養したところ,原因菌はMRSAであって,その感受性もバンコマイシン,ST合剤と限られていることがわかりました.整形外科にコンサルトしたところ,「すでに腐骨化しており,中足骨以下の切断しか根治的な方法はない」との意見でした.しかし,ご本人は「絶対に切りたくない」とのことでした.

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Book Review 『今日から使える医療統計』

著者: 小林広幸

ページ範囲:P.607 - P.607

Back Number

ページ範囲:P.608 - P.608

Information

ページ範囲:P.609 - P.609

次号予告

ページ範囲:P.612 - P.612

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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