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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻9号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 自治体病院改革は成功するのか

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.629 - P.629

 2015年3月31日,総務省は全国の自治体病院関係者に「新公立病院改革ガイドライン」(新ガイドライン)を示した.これは2007年12月に公表された「公立病院改革ガイドライン」(前ガイドライン)を引き継ぐもので,総務省と厚生労働省が連携して作成作業を進めてきた.
 前ガイドラインでは,自治体病院に対して,①数値目標を掲げた「経営の効率化」,②医師の配置や病床数の見直しを含めた「再編・ネットワーク化」,③民営化を含めた「経営形態の見直し」の3つの視点に立って改革プランを策定することが求められた.各病院がプランに基づき改革を進めた結果,2008年度に95.7%であった自治体病院全体の経常収支比率が,2012年度には100.8%に向上した.また,病院の統合・再編に取り組んだ事例は65ケース,162の病院に達し,2009年度から2013年度までに経営形態の見直しを行った病院は227病院に及ぶ.

新しい公立病院改革ガイドラインの概要について—各自治体病院の改革プランの成果と課題を踏まえて

著者: 大沢博

ページ範囲:P.630 - P.636

●「新公立病院改革ガイドライン」に基づき,自治体病院は平成27・28年度中に新たな改革プランの策定が求められる.
●新たなポイントは,地域医療構想との連携と,都道府県の役割強化である.
●加えて,再編ネットワーク化に係る地方交付税措置を強化している.

公立病院改革ガイドラインは自治体病院に何をもたらすか

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.638 - P.643

●「経営の効率化」については,医師数増加で経営改善した自治体病院と,医師不足が継続し悪化したままという自治体病院が混在している.
●新ガイドラインでは,病院財務に偏った数値目標から,医療の質の向上を目指す数値目標設定に変わるなどの「変化」が存在する.医療の質の向上=診療報酬増収を目指す人的・物的投資も重要である.
●自治体病院は,医療機能やマネジメント力を向上させ,病院が生き残るための戦略となるプランを策定すべきである.

自治体病院の経営の問題点

著者: 河北博文 ,   田崎博之 ,   橋本昌仁

ページ範囲:P.644 - P.647

●自治体病院の経営の問題点は,多額の繰入金として地方交付税があてられるなどさまざまあるが,自治体病院と民間病院においてイコール・フッティングを確立していくことが重要である.
●自治体病院のガバナンスを機能させるためには,自治体直轄型よりも独立行政法人型の方が望ましいが,さらにその先にある法人形態として社会医療法人が考えられる.
●地域医療構想を視野に入れた自治体病院の方向性は,既存機能を高めるのではなく,地域に必要とされる機能にかたちを変えていくことである.

[事例]自治体病院の経営改革

地方独立行政法人化による福岡市民病院の経営改革

著者: 竹中賢治

ページ範囲:P.648 - P.652

●地方独立行政法人(独法)化の最大のメリットは,職員雇用の自由化と内部組織編成の自由化にある.加えて,理事長(病院長)への大幅な権限移譲があることにより,柔軟でかつ機動性の高い病院経営が確保しうることにある.
●これらを生かし,都市部の自治体病院として高度専門医療・高度救急医療に専念できる体制が整い,独法化2年目にして医業収支率で黒字化を達成できた.
●一方,独法化のメリットを最大限に発揮するためには,少なくとも医師を含めた人材の確保が十分にできる環境にあることが望ましいと考えられる.

中東遠総合医療センターの現況と課題—掛川市立総合病院と袋井市立袋井市民病院との統合新病院

著者: 名倉英一

ページ範囲:P.653 - P.659

●掛川市立総合病院と袋井市立袋井市民病院は医師不足のため診療機能低下と経営悪化をきたし,建て直しの協議の中で派遣大学の意向を受けて統合の道を選択し,平成25年5月1日掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センターとして新規開院した.
●開院初年度(平成25年度)の入院患者数・外来患者数は旧2病院の実績を上回り,さらに平成26年度も前年度の数値をほとんどすべての月で上回り,年間平均入院患者数425人(病床利用率85.0%)と診療実績を順調に伸ばしている.開院後,医師数も増加し,統合プロジェクトは診療実績では大成功と考えられる.
●掛川袋井の統合プロジェクトは,中規模病院の医療資源を集約し診療機能を強化した500床の基幹病院に再編するもので、急性期病床を350床削減した.二つの組織文化の融合や自治体からの適正な財政支援などの課題もあるが,今後は,医療の質の向上,企業体としての成功,そして地域医療構想を協議し,診療圏における各医療機関の機能の明確化と相互連携,および地域包括ケアシステムとの相補的連携の構築が求められる.

指定管理者制度—阪南市民病院再生の考え,運営,結果

著者: 藤本尚

ページ範囲:P.661 - P.665

●事前の準備段階で,地域が期待する医療と経営改革のステップをどれだけ行程表に落とし込めるかが自治体病院改革成功のカギとなる.
●再生期間中の赤字を最小限にとどめるためには,猛烈なスピードで改革を進めること,各職種の最適な比率を考慮しながら投入のタイミングを見計らうことが肝要である.
●指定管理者制度では,公から民へ全く別の経営主体に変わるため,地域ニーズと自院の役割を客観的にゼロベースで考えることができる.また,人的資源や財務面における民間のスケールメリット活用や,公・民両方の優位性の恩恵を享受する可能性を秘めている.

意識改革とチーム医療による病院経営改善—崖っぷち自治体病院の復活

著者: 世古口務

ページ範囲:P.666 - P.669

●自治体病院の改革の第1歩は経営改善である.病院の全職員が「現状では公設公営として存続していくことが困難である」という危機意識を持つことがポイントである.
●「医師不足の」「地方の」「中小病院」でも全職員の意識改革とチーム医療により,また,診療報酬制度とDPC制度(DPC/PDPS)を正しく理解し実践していくことにより,病院経営は大幅に改善する.
●安易に組織形態を変更する前に,病院職員が「当たり前のことを(A),バカにしないで(B),ちゃんとする(C)こと」が基本である.

対談

自治体病院の経営改革の岐路

著者: 邉見公雄 ,   伊関友伸

ページ範囲:P.613 - P.618

前「公立病院改革ガイドライン」をもとに各自治体病院が策定した「公立病院改革プラン」の成果はいかに.
2015年に公表された新「公立病院改革ガイドライン」はどのようなインパクトがあるのか.
自治体病院という比類なき存在に期待する二人が語る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・9

日本私立学校振興・共済事業団 東京臨海病院

著者: 厳爽

ページ範囲:P.620 - P.625

 東京臨海病院は,日本私立学校振興・共済事業団唯一の直営病院である旧下谷病院(台東区,既存建物を利用して1957年に開設,201床)の建物の老朽化に伴い,2001年に江戸川区の臨海地区に建て替えられた病院である(図1).私学共済の直営病院であるが,下谷病院時代から患者の9割は共済組合員ではない一般の患者である.東京臨海病院として開設されてからも地域中核急性期総合病院として地域医療を支えてきた.
 建て替えに際しては,患者の療養環境の向上を目標として掲げ,故・伊藤誠氏(千葉大学名誉教授)が監修した.医療機能などの検討には故・浦良一氏(明治大学名誉教授)が関わり,高い個室率と小規模看護単位を有する質の高い療養環境が実現された.

Data mania・9

がん罹患率調査

著者: 鈴木将史

ページ範囲:P.626 - P.627

調査概要
 がんは1981年より日本の死亡要因の第1位となり,2013年には年間の死亡者数が35万人を超えました.今後も高齢化に伴ってその数は増えるものと予想されています.
 独立行政法人国立がん研究センター(以下,国立がん研究センター)は1962年の設置以降,がん患者の実態把握に努めるべく情報を収集してきました.「がん罹患率調査」は,国立がん研究センターがん対策情報センターが毎年ホームページなどで発表する調査です.この「がん罹患率調査」は大きくがん罹患数とがん死亡数を元に各情報が集計されています.

医療の可視化と病院経営・9

DPCおよびNDBデータを用いた病床機能別病床数の推計方法

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.678 - P.683

■はじめに
 平成25(2013)年4月25日「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」での議論の結果,各都道府県は圏域内の医療機関の機能に関する情報や地域の医療需要の将来推計を活用し,平成27(2015)年度から地域医療構想の策定が開始された.この検討にあたっては病床機能別の病床数を推計することが必要であり,この基本的方法論を筆者らの研究班で確立することとなった.この推計方法に関しては以下の点に配慮することが求められた.
①現在の年齢階級別・傷病別・病床機能別入院率を勘案して将来の病床機能別病床数を推計すること
②上記将来推計にあたっては圏域間の患者移動についても配慮すること
③地域差を補正した場合の効果を推計できる仕様とすること
 このような要求に応えるためには,現在の傷病構造に関する詳細な情報が必要である.そこで筆者らの研究班では,厚生労働省が収集しているDPCデータおよびNDB(National Database)データを用いて病床機能別病床数を推計するロジックの開発を行った.この推計の考え方について地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会(以下,GL検討会)で了承を得たのち,厚生労働省内部で実際の推計作業が行われ作成されたのが病床機能別病床数推計ツールである.
 今後,この推計ツールをもとに各都道府県において議論が進むことになるが,その際使用したデータの特性とそれによる限界についてもあらかじめ理解しておく必要がある.そこで,連載9回目である本稿では,ツール作成の基本となった推計の考え方についてその概要を説明する.なお,本稿の記述は筆者らの研究報告書によるものである1).詳細については報告書を参照されたい.

事例から探る地域医療再生のカギ・5

塩竈市立病院の財政再建

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.684 - P.689

■何が問題だったのか
市財政を圧迫する塩竈市民病院の財政
 宮城県塩竈市は仙台市の東方に位置する人口約5万5千人の都市である.古くは奥州一の宮である鹽竈神社の門前町として栄え,明治以降は国内有数の港湾都市,近海・遠洋漁業の基地としても発展してきた.宮城県で3番目に市制を敷いた塩竈市ではあるが,1971(昭和46)年に仙台港が開港し,相対的な地位は低下の傾向にある.塩竈魚市場の水揚げ量も1991(平成3)年の317億円から2004(平成16)年には112億円まで落ち込んでいた.市街地にある商店街も他市の大規模店に顧客を取られ低迷していた.市の面積が狭いこともあり,新たに住宅地を供給することが難しく,人口は1995(平成7)年の63,566人(国勢調査)をピークに減少の傾向にあった.
 そのような中で,塩竈市はバブル崩壊後の国の総合経済対策に対応して積極的な公共投資を展開し,2004年の市債残高は223億円で,10年前の1994(平成6)年173億円に比べて1.3倍に増えていた.一方,市税は1994年度の75億円から,2004年度には63億円に減少.2005(平成17)年末の財政調整基金(財源を調整するための基金)が4,196万円,減債基金(市債の償還のための積み立て基金)が64万円まで枯渇していた.2004年から5年間で約40億円の財源不足が見込まれ,宮城県庁からはこのままでは塩竈市は財政再建団体となると警告を受けていた.

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・6

「必要」な入院とは言えなくとも,引き受けるしかない

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.690 - P.691

 交差点を曲がるときに,助手席のイハさんが「ああ,オレの中学校だよ」と指差しました.コンクリートむき出しの少しくたびれた校舎が見えます.
「この町で育ったんですね」と私は言いました.

病院経営に効く1冊・9

『医療・介護問題を読み解く』

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.693 - P.693

医療サービスは,他のサービス財と同様に市場メカニズムが有効か,ということについては議論があるところだと思います.他のサービス産業と変わらないと主張する人もいれば,医療は特殊だという人もいます.一般のサービス財は,市場競争の下では,需要・供給曲線の交点で価格が決定されるとされるわけですが,医療サービスにおいても同様なメカニズムが有効に機能するかが問題となるわけです.一般の人や,経済学を学んだことのない医療関係者にとってこの点をわかりやすく説明した本に巡り合うことは非常に困難です.さらに,医療の本質的な問題と日本の医療制度によって起こるさまざまな問題をきちんと分けて,それぞれについてわかりやすく説明してある本に出会えるのはほとんど不可能に近いと言ってもいいでしょう.まして,その時代に起こっている医療に関する諸問題をきちんと取り上げて客観的な分析と解説を記載するとなると,なおさらです.
 さて,そのような無理難題を見事に解決している本が,分厚い単行本ではなく,誰もが気軽に読める文庫本として出版されている『医療・介護問題を読み解く』です.

特別記事

—病院管理者が知っておきたい—医療事故調査制度の注意点

著者: 水沼直樹

ページ範囲:P.670 - P.677

■はじめに
 医療事故調査制度は,平成26(2014)年6月に成立・公布された「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」による医療法の一部改正により創設され,平成27(2015)年10月から施行される調査制度である.本制度は,突如として創設されたわけではなく,その創設に至るまで10年以上の紆余曲折があった.本制度の特徴の一つは,事故調査を管理者の実施する院内事故調査とした点である.調査主体である病院等の管理者すなわち「病院,診療所又は助産所」(改正医療法第6条の10第1項)の管理者は,本制度の特徴と危険性について熟知する必要がある.医療事故調査制度自体の解説は既にいくつか散見されるが,現行制度が創設された経緯から本制度を見直すと,現行制度の理念や仕組みが新たに見えてこよう.
 そこで,本稿においては,医療事故調査制度が創設されるまでの経緯を踏まえ,創設された医療事故調査制度に対する解釈の対立点をみながら,医療事故調査による負の歴史,医療事故調査制度の趣旨にかなう運用,対策などについて考えたい.

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Book Review 医療福祉総合ガイドブック2015年度版

著者: 眞崎直子

ページ範囲:P.695 - P.695

Back Number

ページ範囲:P.696 - P.696

Information

ページ範囲:P.697 - P.697

次号予告

ページ範囲:P.700 - P.700

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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