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雑誌目次

雑誌文献

病院75巻1号

2016年01月発行

雑誌目次

特集 データマネジメントで変わる病院

巻頭言

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.17 - P.17

 病院には,社会保障制度改革の下,地域医療構想を策定する際に自院が地域で果たす役割を,データを基に主張することが求められている.この遂行には,正確で信頼できる病院のデータとそのマネジメントが不可欠である.では,各病院がデータマネジメントに取り組むためには何が必要だろうか.
 今号の対談では,副島秀久氏が「診療報酬に関わる医事データ」と「質管理指標などの医療データ」が病院経営の両輪として必要不可欠であると指摘した.この両輪という考え方は本特集に通底する.また,データマネジメントに通用する医療情報システムの整備が必須であるとし,「入力制御」が最重要課題であると指摘された.

病院のデータマネジメント—国立病院機構の取り組みを例に

著者: 桐野髙明

ページ範囲:P.18 - P.21

●病院に蓄積する大量のデータを注意深く維持し,データセットとして有効に利用することがますます重要になっている.データは正確で,形式や構造が標準化され,検索が可能である必要があるが,それをデータベースとして維持していくことは容易ではない.
●国立病院機構では,病院へのITシステム導入の歴史的経緯のために,各病院に導入されているシステムはさまざまであり,標準化からはほど遠い.このような情報を一定の形式にまとめ,データベース化する事業を進めている.
●国立病院機構では,DPCデータやレセプトデータを全病院から収集し,1つのデータベースとして集積している.これを利用して,臨床指標(2006年より)や各病院の診療分析レポート(2010年より)を毎年計測し,公開している.さらに,電子カルテからSS-MIX2形式への変換を行う事業を2015年より開始している.

マネジメントツールとしてのDPCデータ

著者: 本野勝己 ,   村松圭司

ページ範囲:P.22 - P.26

●DPCデータを評価することにより診療プロセスを見直し,効率化を図ることが可能である.
●これからの病院マネジメントでは,医療および診療品質を適正に評価し,監査体制を確保する組織づくりが不可欠である.
●DPCデータを活用することで診療プロセスが可視化され,業務改善につながる.

病院管理会計とデータマネジメント

著者: 田﨑年晃

ページ範囲:P.27 - P.32

●組織運営にて適切な意思決定を行うには,客観的で信頼性の高い情報が不可欠であり,管理会計は重要な役割を果たす.
●管理会計は組織内部の目的に応じて,自分たちで方法を考え,納得し,活用することが大事であり,組織の使命を達成するための管理会計であるべきである.

医療の質評価指標を用いたデータマネジメント

著者: 岡本泰岳

ページ範囲:P.34 - P.38

●病院における質向上活動は,健全な病院組織運営(経営)を継続させていくうえで必要不可欠な活動であり,組織的に質管理に取り組むことが成功の鍵と考える.
●当院の質評価指標は,診療現場における働き方(プロセス指標)とその成果(アウトカム指標)に着目するとともに,各診療科や部署の方針(目標)に合致するように設定している.
●質評価指標が質向上活動に効果的に活用され,具体的な成果を出していくには何らかの「しくみ」が必要である.当院ではその方策として質評価指標を方針管理に連動させて活用している.

医療安全の推進のためのデータマネジメント

著者: 後信

ページ範囲:P.39 - P.43

●特定機能病院における重大医療事故の発生や医療事故調査制度の開始など,医療安全を巡る大きな出来事や新しい施策に社会の関心が高まっている.
●院内では,インシデント・アクシデントを報告する仕組みをいっそう機能させることが重要である.そのために,医療安全管理担当者は,職員に報告する意義を説明するとともに,個別の事例の発生に際し,なぜ報告しなければならないか,他の事例の報告の考え方とも整合する論理的な説明をすることが重要である.
●また,他施設で発生した事例に学び自施設で発生しうる医療事故を予防するために,全国的に収集されている医療事故情報の分析結果や,その結果を伝えるアラート,Facebookによる情報提供などを活用することが可能である.

看護の質向上を図るデータマネジメント

著者: 川本利恵子 ,   岩澤由子

ページ範囲:P.44 - P.48

●日本看護協会では,ベンチマーク評価を通じて看護管理者のデータマネジメント力の強化を図る事業として「労働と看護の質向上のためのデータベース(DiNQL:ディンクル)事業」に取り組んでいる.2015年度は521病院3,989病棟が参加している.
●地域における自施設の役割を明確にし,強みをいかした経営戦略を構築するためには,医療・看護の質を客観的に把握し,さらなる質向上を図ることが重要である.データに基づいたマネジメントを組織に根付かせるための道具のひとつとして,DiNQL事業が戦略的に活用され始めている.
●データは,たとえ正しいデータであっても解釈を誤れば,誤った情報として独り歩きするリスクを併せ持つ.データマネジメントは,多面的な視点でデータを読むとともに,データ(数字)だけでは表現しきれない,データの裏にある現実への理解が何よりも重要である.

対談

これからの病院に必須のデータマネジメント

著者: 副島秀久 ,   今村英仁

ページ範囲:P.1 - P.6

医療にまつわるあらゆる情報が可視化され,データマネジメントは病院経営の中で一気に存在感と重要性を増した.
システム構築や人材育成など院内の課題から,地域完結のデータマネジメントの展望までが語られる.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・13

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院

著者: 中山茂樹

ページ範囲:P.8 - P.13

■はじめに
 今回取り上げるのは恵寿総合病院であるが,新病院の竣工は2013年10月であり,まだ2年ほどしか経っていない(図1).今回は,病院と関連諸施設の機能にも目を向け,病院運営・地域医療サービスとハードがどのように関わっているかを概観し,報告したい.
 恵寿総合病院の設立は1934年であるから,80年以上も前のことである.今回の新築工事の直前には病院は,3つの隣接する敷地に主たる4施設といくつかの小規模施設によって構成されていたが,これらの多くは竣工後に何度かの増築・改修をしており,すでに35年以上が経過していた.今回の改築直前の建物構成を図2に示す.

 ところで,法人の関連施設としては恵寿総合病院を中心に,関連病院(89床)のほか,診療所4,介護老人保健施設3,在宅事業に関わる諸施設6,障がい者事業に関わるもの7,特養・ケアハウス・サービス付き住宅など高齢者関連が5施設などを有している.これらにより健診から医療,福祉の領域にまたがる非常に広範なネットワークによる七尾市を中心とした「けいじゅヘルスケアシステム」を構築し,地域包括ケアシステムを見据えた保健・医療・福祉サービスを展開している.厚生労働省による地域包括ケアシステムの正式な英語表記は「The Integrated Community Care System」である.神野正博理事長によれば,ComprehensiveではなくIntegratedが使われていることに意味があり,超急性期から慢性期,在宅までの流れと,必要に応じて提供される介護サービスとの統合が意図されているとしている.恵寿総合病院を中心とする「けいじゅヘルスケアネットワーク」がこうした統合的なサービスを展開するために組織されたことは間違いない.

Data mania・13

患者調査×人口動態

著者: 小松大介

ページ範囲:P.14 - P.15

厚生労働省をはじめ公的機関が公開しているデータの見方を変えたり複数のデータを組み合わせて分析したりすると,病院経営への応用の道が広がります.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・1【新連載】

連載の目的

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.54 - P.59

■はじめに
 現在,全国の都道府県で地域医療構想策定の議論が進んでいる.推計ツールが採用した仮定や計算ロジックに関する説明のないまま推計値のみを示すというような運用をしている地域もあり,現時点では必ずしも望ましい形で検討が進んでいるとは言い難い状況である.データブックとして配付されている種々のデータに基づいて現在および将来の傷病構造と人口構造を把握した上で,現在の医療提供体制がそれに合うものなのか,問題があるのであればそれをどのように解決していくのかを話し合い,そして地域関係者の合意のもとでその対策を具体化するという地域医療構想本来の目的に沿った運用がなされることを期待したい.
 今回の地域医療構想の策定のポイントは,地域包括ケア体制確立の中核となる地域包括ケア病床の充実(急性期から回復期への病床シフト)と,地域における慢性期の対応体制の確立である.急速な少子高齢化の進行,特にこれから10年間で生じる団塊世代の後期高齢者化は,わが国の医療介護提供体制に急激な構造変化を要求することになるだろう.このように変化の速い時代には,柔軟な対応が可能である民間中小病院の役割が重要になる.
 しかしながら,現在の急激な環境変化の中で,民間中小病院の経営者の不安が高まっているのも事実である.そこで本連載では,各地で新しい試みを行っている民間中小病院に焦点を合わせ,それを地域医療構想や地域包括ケアの視点から理論化してみたい.筆者自身こうした試みを行うだけの力量があるのか自信はないが,その必要性は高いと思われることから,あえてこのような実験的な連載をしてみたい.的外れな部分もあるかもしれない.読者の方々の忌憚のないご意見をいただければ,それをもとに適宜軌道修正していきたいと思う.
 連載の1回目である本稿では,民間中小病院のあり方に関する筆者の問題意識を述べてみたい.

事例から探る地域医療再生のカギ・7

長崎県離島の医療再生

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.61 - P.66

■何が問題だったのか
①離島の医療機関の経営環境の悪さ
 長崎県は九州の西北部に位置し,人口約142万人(2010年国勢調査).東西が213km,南北が307kmと東西・南北に長い県である.無人島を含めると約600の島があり,そのうち離島振興対策実施地域の指定を受けた有人島は51島ある.外海離島である五島列島(五島市・新上五島町),対馬島(対馬市),壱岐島(壱岐市)には,県人口の約1割である約13万人が居住している注1
 本土への交通手段を船か飛行機に頼るしかない離島において,病院・診療所は地域の生命線というべき施設である.住民に医療を提供するために,離島の各市町村はそれぞれ病院・診療所を運営していたが,慢性的に医師・看護師が不足し,施設も財政力の弱さから劣悪な状況にあった.1960(昭和35)年,長崎県は複数の市町村が行ってきた病院・診療所経営と県が行ってきた保健医療政策を一体化させるという,当時としては画期的な「医療圏構想」を打ち出す.2次医療圏域の医療の充実を図るため基幹病院の施設の整備を行い,1968(昭和43)年には,県と関係1市17町3村が共同して医療施設を経営する「長崎県離島医療圏組合」を設立する.組合の管理者には長崎県知事が就任した.

医療・病院をめぐる文献ガイド・4

諸外国の医療制度を知るための文献

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.68 - P.71

■なぜ海外の医療制度を研究するのか
 筆者はフランスの給費留学生としてフランス国立公衆衛生大学校(ENSP,現在は国立公衆衛生高等学院:EHESP)で学んだ経験がある.この学校に入学することは同時にフランス保健省の公衆衛生監督医候補生(見習い医官)になることを意味した.ちょうど筆者が滞在した1991年はフランスの医療制度を大きく変えることになった病院改革法が制定された年だった.医療計画の策定が始まり,またDRGの導入実験が大きく動きだしていた.こうした事業に医系技官として参加できたことは非常に大きな経験であり,現在の筆者の研究の基礎となっている.当時の筆者の指導官は現在のEHESP学院長のLaurent Chambaud氏であった.氏の指導の下,筆者が与えられた大きな研究課題の一つが諸外国の医療制度の比較研究であった.当時,欧州統合を強力に推し進めていたフランス政府にとって,統合後の各国間の医療制度の整合性をどのように確保するかが,重要な政策課題になっていた.そのため,国の公衆衛生専門の大学校であるENSPがその研究の中心となっていたのである.調査研究にあたってChambaud氏が筆者に強調していたことは,医療制度を歴史的に分析することの重要性であった.制度はそれがそのように形成された歴史的理由がある.それを理解することなしに,その国の医療制度の本当の姿はわからないというのが彼の主張であった.これは,その後の筆者の医療制度研究を行う際の基本姿勢となっている.
 ところで,われわれは何のために諸外国の医療制度を研究するのであろうか.第一は学問的興味である.そして,第二は諸外国と比較することで日本の医療制度を相対化し,その理解を深め,そして改革案を考えることだろう.したがって,諸外国の医療制度を理解しようとするのであれば,そうした視点から記述された書物を読むことが望ましい.以下,いくつかの文献を紹介してみたい.

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・10

行き場のない高齢者たち

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.72 - P.73

 100歳を超える高齢女性が発熱と食思不振で入院なさいました.この女性のお名前を仮にヨシエさんとします(以下,個人情報保護の観点から人物背景などを改変しています).同居する息子さん夫婦が自宅で看ておられたようですが,そろそろ限界だったんでしょうね.入院中,このような電話がありました.
 「嫁の体力も限界ですし,このまま転院先を探してもらえませんか?」

実践報告

地域医療構想に対する自主的な協議の場の設置

著者: 井出博生 ,   小川真司 ,   土井俊祐 ,   竹内公一 ,   木暮みどり ,   葛田衣重 ,   加瀬千鶴 ,   藤田伸輔

ページ範囲:P.50 - P.53

要旨
 地域医療構想の検討が各地で始まっている.千葉県では2015年8月末までに9構想区域のうち4区域で会議が開催され,今年度中に構想が策定される.病床の削減と機能分化は病院にとって厳しく,地域医療構想に対応するために,①病院同士の自主的な協議の場の設置,②地域内での機能分化の推進,③早期転院のための体制構築,といった対策が必要であると考えた.千葉大学医学部附属病院が主催する「千葉県地域連携の会」において構想区域内の48病院のうち100床以上の病床を有する28病院中23病院の病院長らが参加し,意見集約などのための会合を継続して開くことが合意された.並行して連携担当者の会議を開催し,早期転院の課題についても討議した.2025年に向けて課題ごとの協議が行われると思われるが,実質的な調整を行うためには当事者が自主的に組織を作り,取り組む必要がある.

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Book Review 感染症疫学ハンドブック

著者: 青木眞

ページ範囲:P.75 - P.75

Back Number

ページ範囲:P.76 - P.76

Information

ページ範囲:P.77 - P.77

次号予告

ページ範囲:P.80 - P.80

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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