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文献詳細

雑誌文献

病院75巻1号

2016年01月発行

文献概要

連載 医療・病院をめぐる文献ガイド・4

諸外国の医療制度を知るための文献

著者: 松田晋哉1

所属機関: 1産業医科大学医学部公衆衛生学教室

ページ範囲:P.68 - P.71

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■なぜ海外の医療制度を研究するのか
 筆者はフランスの給費留学生としてフランス国立公衆衛生大学校(ENSP,現在は国立公衆衛生高等学院:EHESP)で学んだ経験がある.この学校に入学することは同時にフランス保健省の公衆衛生監督医候補生(見習い医官)になることを意味した.ちょうど筆者が滞在した1991年はフランスの医療制度を大きく変えることになった病院改革法が制定された年だった.医療計画の策定が始まり,またDRGの導入実験が大きく動きだしていた.こうした事業に医系技官として参加できたことは非常に大きな経験であり,現在の筆者の研究の基礎となっている.当時の筆者の指導官は現在のEHESP学院長のLaurent Chambaud氏であった.氏の指導の下,筆者が与えられた大きな研究課題の一つが諸外国の医療制度の比較研究であった.当時,欧州統合を強力に推し進めていたフランス政府にとって,統合後の各国間の医療制度の整合性をどのように確保するかが,重要な政策課題になっていた.そのため,国の公衆衛生専門の大学校であるENSPがその研究の中心となっていたのである.調査研究にあたってChambaud氏が筆者に強調していたことは,医療制度を歴史的に分析することの重要性であった.制度はそれがそのように形成された歴史的理由がある.それを理解することなしに,その国の医療制度の本当の姿はわからないというのが彼の主張であった.これは,その後の筆者の医療制度研究を行う際の基本姿勢となっている.
 ところで,われわれは何のために諸外国の医療制度を研究するのであろうか.第一は学問的興味である.そして,第二は諸外国と比較することで日本の医療制度を相対化し,その理解を深め,そして改革案を考えることだろう.したがって,諸外国の医療制度を理解しようとするのであれば,そうした視点から記述された書物を読むことが望ましい.以下,いくつかの文献を紹介してみたい.

参考文献

1)R L Goldsteen, Goldsteen K : Jonas' Introduction to the U.S. Health Care System. 7th ed, Springer Pub Co, New York, 2012
2)田村誠:マネジドケアで医療はどう変わるのか─その問題点と潜在力.医学書院,1999
3)伊原和人・荒木謙:揺れ動く米国の医療─政策・マネジドケア・医薬品企業.じほう,2004
4)李啓充:市場原理に揺れるアメリカの医療.医学書院,1998
5)李啓充:アメリカ医療の光と影─医療過誤防止からマネジドケアまで.医学書院,2000
6)李啓充:市場原理が医療を亡ぼす─アメリカの失敗.医学書院,2004
7)李啓充:続 アメリカ医療の光と影─バースコントロール・終末医療の倫理と患者の権利.医学書院,2009
8)天野拓:オバマの医療改革─国民皆保険制度への苦闘.勁草書房,2013
9)松本勝明(編著):医療制度改革 ドイツ・フランス・イギリスの比較分析と日本への示唆.旬報社,2015
10)武内和久・竹之下泰志:公平・無料・国営を貫く英国の医療改革.集英社,2009
11)柏木恵:英国の国営医療改革─ブレア=ブラウン政権の福祉国家再編政策.日本評論社,2014
12)公益社団法人地域医療振興協会診療所委員会:英国に学ぶ家庭医への道.メディカルサイエンス社,2013.
13)近藤克則:「医療費抑制の時代」を超えて─イギリスの医療・福祉改革.医学書院,2004
14)近藤克則:「医療クライシス」を超えて─イギリスと日本の医療・介護のゆくえ.医学書院,2012
15)二宮元:福祉国家と新自由主義─イギリス現代国家の構造とその再編.旬報社,2014
16)アンソニー・セルドン(編),土倉莞爾,廣川嘉裕(監訳):ブレアのイギリス1997-2007.関西大学出版部,2012
17)ポリー・トインビー(著),椋田直子(訳):ハードワーク─低賃金で働くということ.東洋経済新報社,2005
18)藤井良治:現代フランスの社会保障.東京大学出版会,1996
19)松本由美:フランスの医療保障システムの歴史的変容.早稲田大学出版部,2012
20)伊奈川秀和:フランスに学ぶ社会保障改革,中央法規,2000
21)ブルーノ パリエ(著),近藤純五郎(監修):医療制度改革─先進国の実情とその課題.白水社,2010
22)舩橋光俊:ドイツ医療保険の改革─その論理と保険者機能.時潮社,2011
23)松本勝明:ドイツ社会保障論Ⅰ 医療保険.信山社,2003
24)土田武史:ドイツ医療保険制度の成立.勁草書房,1997
25)日本医師会・民間病院ドイツ医療・福祉調査団報告書:強力な医師会による当事者自治のドイツ医療─ゲートキーパーはドイツの文化に合わず.日本医師会,2014
26)熊谷徹:ドイツ中興の祖ゲアハルト・シュレーダー.日経BP社,2014
27)水島治郎:反転する福祉国家─オランダモデルの光と影.岩波書店,2012
28)田中滋:医療制度改革の国際比較.勁草書房,2007
29)松田晋哉:医療のなにが問題なのか─超高齢社会日本の医療モデル.勁草書房,2013

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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