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雑誌目次

雑誌文献

病院75巻10号

2016年10月発行

雑誌目次

特集 地域医療構想時代の救急医療

巻頭言

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.751 - P.751

 2025年に向けた社会保障制度改革の中で,病院経営者は病床区分に注目しがちであるが,自院が地域の救急医療体制で果たす役割をどのように考えているだろうか.
 そもそも「救急医療」とは何か.この問いに,岐阜県の救急医療体制を構築し,発展進化させている岐阜大学医学部救急災害医学分野の教授で医学部附属病院長を務めている小倉真治先生に対談でお答えいただいた.この対談では,救急医療の歴史的側面,救急医療のメディカルコントロール(MC)のあり方,救急医療で果たすICTの役割,2025年に向けた救急医療の課題についても触れた.

地域医療構想と救急医療提供体制の構築

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.752 - P.758

●医療計画において具体的な体制の構築が求められている救急医療提供体制は,地域医療構想も含めた新たな医療計画の策定作業において,全体が整合する形で対応することが求められている.
●救急医療において特徴的な指標を含むNDBデータやDPCデータなどを活用しながら,エビデンスに基づき,地域の医療関係者の参画を得て,地域の実情を踏まえた,適切な救急医療体制構築の取り組みが重要である.

大都市圏の救急医療体制の構築—八王子市医師会の取り組み

著者: 益子邦洋 ,   関裕 ,   安藤高朗 ,   横山隆捷 ,   田中裕之 ,   数井学 ,   平川博之 ,   持田政彦 ,   孫田誠三 ,   佐々木容三

ページ範囲:P.759 - P.765

●超高齢社会の進展に伴い,高齢救急患者の搬送先選定困難事例の増加が社会問題となっている.
●問題解決のためには,機能的な医療・介護・福祉連携組織を地域内で設立することが重要である.
●病院救急車は,地域包括ケアシステムのセーフティネットであり,大災害時にも大きな力を発揮する.
●地域包括ケアシステムの開発と運営には,地区医師会の強いリーダーシップが求められる.

地方都市における救急医療提供体制—福山・府中医療圏の取り組み

著者: 大田泰正

ページ範囲:P.766 - P.770

●福山・府中医療圏では,増加する救急搬送に対応するため,「福山方式救急病名登録システム」を開発・運用し,救急医療の可視化を図り,抽出された課題への対応を行ってきた.
●地域包括ケア時代に応じた持続的な救急医療体制の構築に向けて,人材育成とメディカルコントロールの啓発に取り組んでいくことが重要である.

ブランド化による地方都市およびへき地の救急医療提供体制の構築—八戸市立市民病院の取り組み

著者: 今明秀

ページ範囲:P.771 - P.776

●救急後期研修医を獲得するにはブランド化が必要と考えた.ブランド化に必要な三要素(コンセプト「劇的救命」,ターゲッティング「医師」,ポジショニング「全国」)を明確にした.
●ブランド商品の三要素として,①先駆者の商品「サンダーバード作戦」,②頂点の商品「病院機能評価日本一」,③唯一の商品「全部やる八戸型救急」,を開発した.そして商業誌への論文投稿によってこれらの広報に努めた.
●ブランド化で救急後期研修医を集めることに成功し,人材が確保できるようになった.充実した救急医療体制は市民から高評価を得て,へき地支援も可能となった.

総合診療医が担う救急医療

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.777 - P.782

●専門医制度で新設される総合診療専門医は少数にとどまり,2025年対応には十分でない.近い領域である内科専門医は病院内医療に携わる比重が大きいが,ともにタッグを組んで急増が必至の肺炎,脳血管障害,圧迫骨折といった救急疾患マネジメントにあたることになる.
●地域医療構想で地域包括ケアの最も現実的な担い手は当面,日本医師会のかかりつけ医となるであろう.なぜならば専門医制度は時代の大きな要請であり,かかりつけ医は診療報酬制度のもとでの仕組みであり全く別物だからである.

救急医学・医療の先駆性—救急医学・医療からみた地域医療構想の本質的意味

著者: 行岡哲男

ページ範囲:P.783 - P.788

●医療効率化への切実な社会・経済的要請が,地域医療構想の背景に存在する.
●臨床医学は,20世紀を通じ解剖学的区分により分化し,医療もこれに追従し分業化した.このシステムは単一臓器・単一疾患には都合がよいが,多臓器・多疾患の連携には不向きである.
●高齢化に伴う多臓器・多疾患のニーズ増大には,Patient Journeyに基づく医学・医療の分業と連携が効率化につながる.その方策として病床機能区分が概念化され,これが地域医療構想を生む動因である.
●救急医学の発想はPatient Journeyの急性期を担当するもので,Patient Journeyに基づく病床機能区分(=地域医療構想)に重なり,先駆性を持つ.

[関連寄稿]

災害に病院はどう備えるべきか—熊本地震の教訓

著者: 副島秀久

ページ範囲:P.789 - P.792

 熊本地震から4か月が経とうとしている.復興は徐々に進みつつあるが,主要インフラである幹線道路,特に国道57号線の再建は相当の時間を要すると思われ,このため市内の渋滞も激しく,さらに建築関係の資材高騰と人手不足が重なり,熊本人にとってはひときわ厳しく暑い夏となっている.こうした中で被害状況や災害対策の検証がさまざまな視点で進められつつあるが,現時点での経過と検証の一部を私見を交えて報告したい.

対談

救急医療のレベルを高める—2025年に向けて

著者: 小倉真治 ,   今村英仁

ページ範囲:P.735 - P.740

近年,救急医療提供体制の整備が劇的に進む岐阜県.その中心が,国内最大規模の救命救急センターを擁する岐阜大学である.
ドクターヘリ配備,ICT活用,救急隊員教育など,多くの取り組みの背景にあるリーダーの哲学とは.地域の救急医療のレベルを高める方策と課題を問う.

連載 Data mania・22

受療率・要介護認定者数・認知症有病率×人口

著者: 小塚正一

ページ範囲:P.742 - P.743

調査概要
 本稿では以下の3つのデータを取り上げ,認知症の患者数推計について検討します.
A.患者調査(受療率)
 「患者調査」は,厚生労働省が3年に1回実施する調査です.この中の「受療率」は患者数の推計を行う際に使用する基本的なデータの一つで,ある特定の日に,疾病治療のために全ての医療施設にかかった患者数と人口10万人との比率です.患者調査によって,病院あるいは診療所に入院または外来患者として治療のために通院した患者の全国推計患者数を把握し,算出されます.

アーキテクチャー×マネジメント・22

南三陸病院・総合ケアセンター南三陸

著者: 須田眞史

ページ範囲:P.744 - P.749

■東日本大震災の被害と南三陸病院設立の経緯
 表1に東日本大震災後の南三陸病院の変遷を示す.南三陸病院の前身となる公立志津川病院(126床,うち療養病床50床)は,海からわずか400mの平地に立っていた.東日本大震災の津波により,全壊流出,多くの犠牲者を出した(図1).医療機関が壊滅状態にある中,イスラエルより派遣された医療チームが,高台のため津波被害を免れた南三陸町総合体育館「ベイサイドアリーナ」駐車場にプレハブの医療センターを建て,2011年3月29日〜4月10日まで医療支援を行った.イスラエル医療チーム撤収後,残されたプレハブや医療機器を使って,公立志津川病院仮設診療所として運用を開始した(2011年4月15日〜2012年3月31日).電源は自家発電,給排水設備なしのため水はポリタンクで賄いながら外来診療を行うものであった.2012年4月1日に,同じベイサイドアリーナ駐車場に日本赤十字社からの寄付により公立南三陸診療所を開設した(図2).こちらも外来診療のみであったが,給排水,電源設備などが整い,CTも使えるようになった.
 一方,入院設備では,被災により町内に入院機能が全くなくなってしまったので,既存の建物で借用できるものがないか探した結果,南三陸町から西へ車で約50分のところにある閉院となった登米市立米山病院の建物を利用して,2011年6月1日に臨時の公立志津川病院(39床)を開設した.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・10

これまでの連載の小括—なぜ回復期・慢性期に注目するのか

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.794 - P.798

■はじめに
 現在,『病院』誌では内容の継続的改善を図るために国内の著名な病院関係者の方々にモニターを依頼し,種々のご意見をいただくシステムを導入している.幸い本連載についてはおおむねポジティブなコメントを頂戴しているが,地域医療構想との関係性をより明確にした方が望ましいという指摘もいただいている.確かに単なる好事例の紹介では,読者の方々の施設の経営改善に資することは難しい.異なる環境下にある他の施設にとって,より具体的な意味で参考となる内容とするためには,応用を前提としたエッセンスを明確にすることが求められている.この点に関して記述に甘い点が多々あったことは否めない.これまでの連載では,地域医療構想と関係の深い地域包括ケアネットワーク形成に病院としてどのように取り組むかという視点から,特に回復期・慢性期に力を注いでいる施設を取り上げてきた.しかしながら,なぜこれらの施設類型を筆者が重視しているのかという点について,必ずしもその理由を説明しきれていなかった感があり,この点を今回モニターの方に指摘されている.そこで,本稿では連載の目的について改めて筆者の考えを説明し,次回以降の連載内容の改善につなげていきたいと考えている.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!—全国各地の取り組みに出会う旅・[11]

兵庫県多可町

著者: 松浦尊麿

ページ範囲:P.800 - P.803

 医療資源不足と高齢化に悩める兵庫県多可町では,中核病院と地域包括支援センター,社会福祉協議会らが中心となり,医療・介護施設や行政,住民が一体となって,地域包括ケアの基盤構築を実現させつつあるんだ! 連載第11回目の今回は,町内の多職種連携と地域包括ケアを推進するための「多可町地域包括ケアネットワーク」を先導している,多可赤十字病院の取り組みを紹介するね! 30年以上も前から先進的な地域包括ケアを提供し続ける松浦尊麿医師にお話を聞きました!

病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・7

自院データの分析(3)分析用データベースの作成

著者: 村松圭司

ページ範囲:P.804 - P.809

 前回に引き続き,自院DPCデータのデータベースを構築する.
 今回は,前回加工したDPCデータをMicrosoft Office Access(以下,Access)に取り込み,テーブルの結合や関数を用いた計算を行う.なお,本稿で使用するAccessのバージョンはAccess 2013である.今回も配布資料を準備しているので,当教室ウェブサイトから「病院10月号.zip」をダウンロード・解凍して読み進めていただければ幸いである1).併せて,作業内容の動画も配信しているので,学習の補助教材としてご利用いただきたい2)

病院組織コーチング・5

[コーチング概論・4]コーチングによる会議マネジメント

著者: 黒川信哉

ページ範囲:P.810 - P.812

■病院内の会議の現状とコスト
 昨今の病院では多くの会議が行われている.これらについて会議の参加者はどのように感じているだろうか.病院では,病院の意思決定に関わる幹部会議,看護師長会などの職種別連絡会,医療安全対策委員会などの目的別委員会など,さまざまな会議が行われているが,次のような会議についての不満を聞くことがある.
 「何のために集まっているのかわからない」
 「その程度の報告事項なら,わざわざ集まらなくてもメールで十分だ」
 「いつも同じ人ばかり話していて,一向に議論が深まらない」
 「発言したら,自分がやらなければいけなくなるから黙っておいた方がいい」
 「終わりの時間も決められていなくて,苦痛だ」

研究

短期滞在手術等基本料3が白内障手術にもたらしたもの

著者: 蕪龍大 ,   江口一 ,   竹下哲二

ページ範囲:P.813 - P.816

要旨
[目的]2014年の診療報酬改定に伴い,入院して4泊5日以内に白内障手術を行う場合には短期滞在手術等基本料3(以下,基本料3)が適用されることになった.片眼手術でも両眼手術でも診療報酬が同額のため,手術日程を変更した.日程変更前後の平均在院日数および収入の変化を検討する.
[対象と方法]2013年度と2014年度の平均在院日数,収入などを集計した.入院患者と看護職員を対象にアンケート調査を行った.
[結果]両眼白内障手術の平均在院日数は長くなった.両眼手術の入院費収入は高くなった.片眼手術の平均在院日数は短くなった.片眼手術の入院費用収入は増収となった.両眼手術の場合,入院期間の増加に不満と答えた患者はなかった.看護職員からは退院,入院,手術が同日に重なることによって負担が増したという回答が多かった.
[結論]基本料3の適用によって収入は増えたが,職員の負担も増した.

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Book Review 感染症疫学ハンドブック

著者: 岡部信彦

ページ範囲:P.817 - P.817

Back Number

ページ範囲:P.818 - P.818

Information

ページ範囲:P.819 - P.819

次号予告

ページ範囲:P.822 - P.822

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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