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雑誌目次

雑誌文献

病院75巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

特集 国民健康保険制度の組織改革が病院に何をもたらすか

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.177 - P.177

 2015年5月,国会で医療保険制度改革関連法が成立した.これにより,2018年度から都道府県が市町村と共同で国民健康保険を運営する新たな体制に移行することになる.
 1938年に創設された国民健康保険制度は,1961年の新国民健康保険法の制定による国民皆保険の達成を経て,国民の生命を守るセーフティネットとして重要な役割を果たしてきた.しかし,近年の少子高齢化の進行や非正規労働者の増大など,わが国の社会保障をめぐる変化により,国民健康保険は,加入者が高齢であることによる医療費支出の高さ,低所得加入者が多いことによる保険料負担の重さ,保険者である市町村の財政の不安定や自治体間の格差などの構造的な問題を抱えるに至った.

国民健康保険の組織改革の意義と医療・医療保険制度にもたらす影響

著者: 池上直己

ページ範囲:P.178 - P.181

●国民健康保険(国保)が都道府県単位に組織化されても市町村ごとに保険料と賦課方式は異なる.
●しかし,所得要因,年齢要因,アクセス要因などを考慮して決まっていた国からの助成は,都道府県に移管後は所得要因と年齢要因だけで規定されることになる.
●その結果,アクセスが悪かったために低かった郡部の保険料は上がる可能性が高く,加入者が反発するであろう.
●そこで知事として,アクセスの悪い郡部における医療環境を整備する必要に迫られよう.

新しい国民健康保険制度が地域・医療機関にどのような影響をもたらすか

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.182 - P.186

●新国保制度の最大の変更点は,都道府県が新たに市町村と共同で国保を運営する新たな体制に移行することである.
●現在の医療・医療保険制度の改革の特徴として,医療政策や医療保険政策における都道府県の役割が拡大していることが挙げられる.
●これらは,効率的な医療提供体制と安定的な医療保険制度(中心的な課題は医療費の抑制)を目的とした中央集権化を進める動きと考えられる.
●都道府県という単位で,医療関係者・保険者・住民(患者)・行政が具体的なデータに基づく議論を行う場ができることに意義が存在する.

新しい国民健康保険制度における都道府県の責務について

著者: 福田富一

ページ範囲:P.188 - P.193

●平成30年度から,都道府県と市町村が共同で国保運営を担うことにより,運営の安定性・効率性が高まり,国民皆保険が堅持されることを期待するとともに,保険者機能を担うことの責任を感じている.
●現在,円滑な制度移行に向け準備を進めているが,全国知事会としては,国が責任を持って,今後の医療費増大に耐え得るさらなる財政基盤強化や制度改正を図るよう,国に対し引き続き主張していく考えである.

市町村長から見た新しい国民健康保険制度

著者: 松本武洋

ページ範囲:P.194 - P.197

●国民健康保険(国保)の都道府県への一部移管は,市町村に実質的な事務が残るため,実務的には影響は少ないが,責任の所在が曖昧になる可能性がある.一方で,健康づくりなどにおいては都道府県の指導力の発揮が期待できる.
●和光市において,国民健康保険被保険者は所得200万円未満の層が全体の62.4%を占める.国保は福祉的な様相を強めており,保険税負担軽減のための法定外繰入が重い負担になっている.このため,健全財政条例により,定期的な料金体系の見直しを規定した.
●今回の制度改正は国民健康保険制度が始まって以来の大改革であり,この機に介護保険と同様の財政のスタビライザー機能を組み込むべきである.

医療保険の制度改革についての提案—都道府県を単位とした地域一元化の推進を

著者: 三原岳

ページ範囲:P.198 - P.202

●人口の高齢化と産業構造の変化を受けて,国民健康保険(国保)は定年退職後の高齢者と,被用者保険に入れない非正規雇用者の受け皿となっており,国保の財政赤字を生み出している.
●財政運営の都道府県単位化は評価できる流れだが,年齢や職業で区分されない医療保険制度の構築が求められる.
●さらに,医療・介護連携の促進や医療費の節約に向けて,医療行政を担う都道府県単位に再編された保険者と,介護保険を所管する市町村の連携・統合が求められる.

AoLaniプロジェクトについて—地域医療連携に向けた亀田総合病院の取り組み

著者: 中後淳

ページ範囲:P.204 - P.208

●少子高齢過疎化の進む千葉県南房総に位置する亀田総合病院が,地域存続の危機感から取り組む事業の一つが「AoLani(アオラニ)プロジェクト」である.
●AoLaniプロジェクトは,異なる医療機関においても情報システムを使い,1個人1カルテによる情報共有で,医療・健康情報を中心とした住民情報を集約・活用し,限られた医療資源の有効活用と,地域医療の底上げを実現するためのインフラ整備を目指している.
●AoLaniプロジェクトのコンセプトは「今後20年使える地域医療の情報連携プラットフォーム」であり,それを実現するためのキーワードは,「クラウド化」「同じアプリケーションによる連携」「インフラとソフトの同時提供」である.

対談

医療制度改革における保険者の果たす役割

著者: 小林剛 ,   伊関友伸

ページ範囲:P.161 - P.166

日本の国民皆保険制度を支えるために,何が必要なのか.
都道府県単位の運営により保険者機能を発揮し中小企業の健康経営を後押ししつつ医療費適正化に取り組むなど,地域医療のプレイヤーとして存在感を増している協会けんぽの方略を探る.

連載 Data mania・15

死亡原因(がん)×人口構成

著者: 鈴木将史

ページ範囲:P.168 - P.169

調査概要
 本連載第9回では,国立がん研究センターがん対策情報センターが毎年発表する「がん罹患率調査」を取り上げました.今回は,がんによる死亡データを対象に,さらに人口構成を掛け合わせて分析をしてみます.
 がんによる死亡データは,厚生労働省が毎年発表する「人口動態統計」で発表されます.「人口動態統計」は,「戸籍法」および「死産の届出に関する規程」により届け出られた出生,死亡,婚姻,離婚および死産の全数をカウントしており,日本在住の日本人を対象にした調査です.集計は厚生労働省大臣官房統計情報部で行われています.

アーキテクチャー×マネジメント・15

福岡大学病院

著者: 趙翔

ページ範囲:P.170 - P.175

■背景
 1973年に開院した福岡大学病院は,進化する医療ニーズに応えるため,2011年に第一期増築を完成した.増築された新診療棟(以下,新館.図1)の面積は29,412m2,地下鉄福大前駅と地下通路で直結し,病院本館や西別館,救命救急センターとは2階の渡り廊下でつながっている.新館は臓器別・機能別センター化を基本とする患者中心の診療を行い,以前本館にあった外来・入院の受付,計算,会計も全て新館に移った.
 新館プロジェクトの目的は福岡大学病院の機能,規模,サービスシステムの再構成である.病院側はプロジェクトに関する各種事項を検討,決定するための専門委員会を設置した.また,福岡大学工学部建築学科は,このプロジェクトにおいて専門的なアドバイスを行った.さらに,設計者の選定はプロポーザル方式を採用したため,本プロジェクトの設計目標,概念および諸条件は,主に以下の内容からまとめられた.①新館プロジェクト委員会による敷地,機能と規模に関する議論の結果.②落札した設計事務所がプロポーザル段階で提案した内容.③設計者決定後,病院側から出された要望.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・3

医療法人博仁会 志村大宮病院—地域リハビリテーションのネットワーク構築を通したまちづくりへの積極的参画と地域共生型CCRCの提案

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.211 - P.218

■病院の概要
 志村大宮病院は茨城県常陸大宮市にある医療法人博仁会の中核施設で,一般病床60床,緩和ケア病床20床,回復期リハビリ病床50床,介護療養型48床の計178床からなるケアミックス病院である1).診療科目は内科・消化器科・循環器科・呼吸器科・神経内科・小児科・皮膚科・泌尿器科・婦人科・耳鼻咽喉科・眼科・整形外科・心療内科・放射線科・リハビリテーション科と幅広く,地域の医療を総合的に支えている.また,関連組織としては社会福祉法人の博友会,看護学校を経営する志村学園,福祉機器・介護関連グッズのレンタルや販売などを行ういばらき総合介護サービス(有限会社)がある.
 1951年に設立された同病院は水戸市内の急性期病院と連携しながら,急性期以後のリハビリテーションに特に力を入れており,関連施設として茨城北西総合リハビリテーションセンター,介護老人保健施設である大宮フロイデハイム(入所80名,通所70名)のほか,デイケアセンター,デイサービスセンター,訪問看護ステーション,ホームヘルパーステーション,介護タクシー,配食サービスセンター,総合ケアプランセンター,地域包括支援センター,在宅サポートセンターなどを運営している.博仁会の基本理念は地域リハビリテーションの実践であり,24時間365日のサービス提供が行われている.筆者が訪問した日も休日であるにもかかわらずデイサービスなどが行われており,また地域包括支援センターでは24時間体制で地域住民の相談を受け付けていた.
 本稿では,地方都市で地域リハビリテーションの理念に基づく先進的な法人経営を行っている博仁会の活動について解説したい.

事例から探る地域医療再生のカギ・8

公立邑智病院の病院再生

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.219 - P.224

■何が問題だったのか
崩壊寸前の病院機能
 公立邑智病院(一般病床98床)は,中国地方の山間地にある島根県邑智郡に立地する郡内唯一の救急告示病院である.病院のある邑南町と郡内の川本町・美郷町の3町(人口約2万2千人)で邑智郡公立病院組合を設置して運営されている.
 公立邑智病院の前身は,1952年に島根県の設置した「県立中野高原療養所」である.1983年に療養所の廃止に伴い,邑智郡旧石見町が,島根県・島根医大(当時)の協力を得て「町立邑南病院(50床)」を開設.1993年に,石見町をはじめとした7町村の共同運営となり,「公立邑智病院」と改称される.

医療・病院をめぐる文献ガイド・6

転倒予防を知るための文献

著者: 大高洋平 ,   武藤芳照

ページ範囲:P.228 - P.231

■転倒予防領域の動向
 高齢化社会を迎えている先進国を中心に,高齢者における転倒は,世界的に大きな医療・社会の問題となっている.なかでも長寿かつ超高齢社会であるわが国においては,その対策が喫緊の課題となっている.
 平成25(2013)年人口動態統計の概況(厚生労働省)では,不慮の事故による死亡数を種類別の構成割合でみると,窒息24.5%,転倒・転落19.6%,溺死19.0%,交通事故 15.3%となっており,転倒・転落は第二位で,交通事故よりも多く生じている.なお,溺死の多くが浴槽内への転倒・転落で生じていることから,実際には転倒・転落が占める割合はさらに大きい.また,致死的ではなくても,転倒により生じる外傷,なかでも骨折は深刻な問題となる.その部位にかかわらず,骨折の主要な原因は転倒であり,特に大腿骨近位部骨折は日常生活動作能力と生活の質を大きく低下させる.骨折は,最終的に生活機能の低下を引き起こし,場合によっては要介護状態に陥る.実際,平成25年度国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)では,転倒・骨折は脳血管障害,認知症,高齢による衰弱に続いて,主要な要介護の原因となっている.健康寿命を延伸するという点から,転倒・骨折を予防することは極めて重要である.

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・12【最終回】

暮らしに寄り添う地域医療のために

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.232 - P.233

 将来の医療提供体制を「かたち」にしてゆくためには,地域の実情を見据えながら課題を抽出し,住民を含めた関係者で解決のための施策を検討してゆくことが必要です.構想区域(2025年の二次医療圏を想定)ごとに合意を形成して,これを地域医療構想として策定することになっています.より効率的で質の高い地域医療を目指して,医療機能の分化と連携を実現し,地域包括ケアシステムとの連携を深めてゆくことが求められます.
 本連載では,急性期医療と在宅医療とに携わってきた筆者なりの視点で,暮らしに寄り添う地域医療を実現してゆく上での課題について,エピソードを重ねつつ紹介させていただきました.最終回となる今回は,これまでの議論を踏まえながら,解決のための施策について提言してみます.

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Book Review 地域医療構想をどう策定するか

著者: 伏見清秀

ページ範囲:P.210 - P.210

Book Review 医療政策集中講義—医療を動かす戦略と実践

著者: 坂本すが

ページ範囲:P.227 - P.227

Back Number

ページ範囲:P.234 - P.234

Information

ページ範囲:P.235 - P.235

次号予告

ページ範囲:P.238 - P.238

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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