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雑誌目次

雑誌文献

病院75巻4号

2016年04月発行

雑誌目次

特集 医療介護連携─地域包括ケアシステムを構築するために

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.255 - P.255

 医療技術は進化を続け,従来では助からなかった癌や血管疾患に対しても治療の手が差し伸べられるようになってきた.平均寿命は世界的にもトップクラスを維持する一方で,一定の障害や管理すべき疾患,介護を要する高齢者が増え続けていることは避けられない現実である.有限な資源の中で,いかに最期まで自分らしい生活を全うできる仕組みを築いていくかは,今や医療福祉関係者に限らず,国民全体の課題でもある.
 医療と介護の一体改革のもと,2014年に医療介護総合確保推進法が公布され,医療介護提供体制の構築など,医療と介護を対象とした新たな制度の確立が進もうとしている.これに伴って,各都道府県,二次医療圏では地域医療構想の策定が,各自治体,地域では地域包括ケアシステムの構築が急がれている.ヒト,カネ,モノ全てに限りある地域の中で質の高いサービスを実現するために,医療と介護をまたぐ広範囲な連携が求められている.

医療介護総合確保推進法と医療・介護の提供体制の整備について

著者: 田中広秋

ページ範囲:P.256 - P.261

●医療介護総合確保推進法の成立以降,地域医療介護総合確保基金をはじめとする新たな政策ツールを活用して,医療・介護の一体的な体制整備/地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みが進められている.
●また,療養病床・慢性期医療の在り方について具体的な選択肢の整理を行う「療養病床の在り方等に関する検討会」で,その整理案の提示が行われた.今後は,社会保障審議会の部会に議論の場を移し,具体的な制度設計に関する議論が行われる.

地域包括ケアシステムにおける地域リハビリテーション

著者: 米満弘之

ページ範囲:P.262 - P.266

●地域包括ケアシステムの構築のため必要な医療介護連携として,次のような項目について検討されるべきである.
①現在,国が構築を目指す地域医療の課題を考え,その課題解決のために地域リハビリテーションの確立が必要である.
②超高齢社会の将来像を考え,センテナリアン(百寿者)までの社会保障制度を考えるべきである.
③医療と介護の連携による在宅医療と在宅介護を可能とするために,自助・互助・共助・公助の流れの実現と地域リハビリテーションの確立が必要と考える.

梼原町における地域包括ケア—地域ぐるみで支えるネットワーク

著者: 内田望

ページ範囲:P.267 - P.272

●地域包括ケアとは,「住み慣れた地域で暮らし続けること」であり,「住み慣れた地域で死ねてよかった」と言えるまちづくりである.そのためには医療と介護の連携だけではなく,住民とともに作っていくという意識が重要である.
●梼原町では「地域包括ケアシステム」というよりは,「地域ぐるみで支えるちょっとおせっかいなネットワーク」と言い換えたほうがしっくりとくる.
●住民と共に何かを作っていく作業は,より良い地域づくりには欠かせない.その手段の一つに劇がある.住民と共に劇を作ることは,住民と共に地域を作ること.
●Death Educationを展開することも地域包括ケアシステムの構築には欠かせない.

在宅医療における多職種連携・協働を成功させるために

著者: 石橋幸滋

ページ範囲:P.274 - P.279

●在宅医療を推進していく上で,日常療養の支援,退院支援,急変時の対応や看取りなどの体制づくりが求められているが,そのためにも医療・介護を結ぶ多職種連携・協働が必要不可欠である.
●多職種連携・協働のコツは,情報を共有するだけでなく,お互いの専門性を知りお互いを尊重することである.
●多職種連携から多職種協働に進化するためには,専門職連携教育(Inter-Professional Education:IPE)と専門職連携実践(Inter-Professional Work:IPW)が重要である.

地域連携における総合診療医の役割

著者: 吉村学

ページ範囲:P.280 - P.283

●総合診療医が地域包括ケア時代の中で果たす役割は大きく,個別の患者ケアの中だけでなく,担当する地域全体の多職種連携を改善し強化する役割が求められている.
●連携に関わる能力をいかにして卒前・卒後・生涯教育の中で養成していくかが国内外で現在のトピックになっており,さまざまな改善・改革が進められている.こうした教育に積極的に参加することも総合診療医の重要な役割である.

地域における多職種教育—「在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会」および「地域医療学実習」

著者: 山中崇 ,   松本佳子

ページ範囲:P.284 - P.288

●「在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会」を開催することにより,多職種の役割を理解し,どのようなときにどの職種に相談すればよいのかを学ぶことができる.特に医師にとっては,地域には頼りになる多職種が存在し,医師一人で抱え込まなくてもよいことに気づくきっかけになっている.
●本学では医学部学生に対し,訪問診療への同行に加え,訪問看護師,医療ソーシャルワーカー,ケアマネジャーから指導を受ける地域医療学実習を実施している.また,模擬サービス担当者会議を開催し,多職種の役割を理解するように努めている.本実習を通して多職種連携の実際を知り,その意義を理解することができている.

地域包括ケアシステムを円滑にするためのICTの活用方法と情報連携のあり方

著者: 高橋肇

ページ範囲:P.289 - P.294

●シームレスな医療介護連携が求められて久しいが,その基盤となる情報共有は思った以上に進んでいない.情報連携を阻害する要因を把握し理解した上で,情報共有を円滑化するためには何を行えばいいかを考えなければならない.
●どこに住んでいてもその人にとって適切な医療・介護・生活支援サービスが受けられる「地域包括ケアシステム」を実現するためには,生活者の視点に立った上で医療・介護双方からの情報発信をわかりやすく可視化することが求められる.
●予防も含め,医療と介護がその垣根を越えるためには,EHR(Electronic Health Record)とPHR(Personal Health Record)が統合した“生涯カルテ”の開発が望まれる.

対談

東京都の地域医療—地域包括ケアをどう提供していくか

著者: 尾﨑治夫 ,   山田隆司

ページ範囲:P.239 - P.244

東京都は豊富な医療資源に恵まれていながら,その医療提供体制は機能別病床から見てもバランスのとれたものとはいいがたい.東京都医師会は地域医療構想でも独自の路線を打ち出し,さまざまな試みを模索している.東京都の医療の現状と問題点を問う.

連載 Data mania・16

医師,歯科医師,薬剤師調査×患者調査

著者: 柿木哲也

ページ範囲:P.246 - P.247

調査概要
 今回は本連載第6回で取り上げた「医師,歯科医師,薬剤師調査」を中心に分析を行います.本調査は医師,歯科医師および薬剤師について,住所,性別,年齢,業務の種別 ,従事先の所在地など基本情報が年次でまとまっているのが特徴です.そのため,医師,歯科医師,薬剤師の働き方を分析することが可能です.

アーキテクチャー×マネジメント・16

社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部 大阪府済生会中津病院

著者: 小菅瑠香

ページ範囲:P.248 - P.252

■開院百年の増改築の歴史
 大阪市北区,梅田に近い都心部に建つ大阪府済生会中津病院は,その特徴的な外観でもよく知られている(図1).背後にそびえる病棟の高層建物群に守られるように,玄関を構えるレトロで優雅なルネサンス様式の二階建ては,地域に根差し,親しまれてきた病院の顔と呼ぶにふさわしい.その中央には時計台ではなく,十字のついた小さな灯台が載っている.これは1999年からの整備計画で解体した旧本館の正面ファサードを,新病院(北棟)の玄関建物として復元したものである.
 さて,大阪府済生会中津病院の元祖は1916年,北区中崎町に「済生会大阪府病院」として開院した(75床).今からちょうど百年前のことである.患者の増加によって手狭となり,現在の敷地に移ったのは1935年,篤志家の嘉門長蔵翁による私財100万円の寄付を受けてのことであった.当時の貨幣価値であるから,よほどの額と思われる.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・4

社会医療法人社団陽正会 寺岡記念病院—コモンズ創設の試みとスローメディシンの実践

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.295 - P.300

■病院の概要
 寺岡記念病院は広島県福山市にある社会医療法人社団陽正会の中核施設で,一般病床211床(急性期病床94床,回復期リハビリテーション病床34床,地域包括ケア病床53床,障害者施設等病床30床),療養病床52床の計263床からなるケアミックス病院である.診療科目は内科・外科・脳神経外科・整形外科・泌尿器科・リハビリテーション科・リウマチ科・形成外科・循環器内科・神経内科と幅広く,地域の医療を総合的に支えている.医療圏は福山・府中二次医療圏,地区医師会としては府中地区医師会に所属し,同医師会圏域(府中市,福山市北部)の急性期医療,特に救急医療を一手に支えている.また,関連組織としては社会福祉法人新市福祉会がある1)
 同法人は近年,地域の安心づくりに力を入れており,寺岡暉理事長のもと種々の社会活動を展開している.大変柔軟な組織運営を行っており,中山間地域で活動する他の民間病院の参考になる事例であると考える.
 本稿では過疎化が進む中山間地域で「スローメディシン」という医療概念に基づき,ローカルコモンズの設立など新しい社会実験に積極的に取り組んでいる陽正会の活動について紹介したい.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!—全国各地の取り組みに出会う旅・[8]

群馬県沼田市

著者: 田中志子

ページ範囲:P.302 - P.305

 群馬県沼田市では,長年にわたり医療法人大誠会が中心となって,認知症ケアや慢性期医療にとどまらない地域で安心して住み続けられるための多様な取り組みを展開されているんだ! 連載第8回目の今回は,地域に根ざした医療法人大誠会の取り組み「大誠会スタイル」を紹介するね! 合言葉「笑顔でゴー!」の通り笑顔が素敵な,田中志子医師にお話を聞きました!

医療・病院をめぐる文献ガイド・7

サルコペニアとフレイルについて知る文献

著者: 浦野友彦

ページ範囲:P.306 - P.309

■サルコペニアとフレイルの動向
 日本における2015(平成27)年現在の高齢者人口は3384万人,総人口に占める割合は26.7%となっており超高齢社会に突入している.このままでいくと2050年には,高齢者人口が40%近くになるのではないかと推測されており,超高齢社会の最先端を日本は走っている.
 平成27年に発表された平均寿命でも,日本は女性が86.83歳で世界1位.男性は世界3位の80.50歳である.また,平成27年に発表になった世界の健康寿命において,日本は男性が71.11歳,女性が75.56歳であり,認知症や寝たきりなど,介護を必要とせずに自立して生きていられる期間が世界1位となっている.ただし,平均寿命から健康寿命の引き算をすると,男性で9年ほど,女性でも11年ほどあり,これをなるべく短くすることが現在の日本の超高齢社会を迎えての課題となる.

病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・1【新連載】

連載の目的と概要

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.310 - P.313

■はじめに─連載の目的
 少子高齢化の進行,そして長引く経済の低迷といった社会経済環境の中で医療制度のあり方が問題になっている.平成27(2015)年度に設置された内閣府の経済・財政一体改革推進委員会(会長:新浪剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)では,政府が2020年度にプライマリバランスを黒字化するという目標を閣議決定したことを受けて,「社会保障」「社会資本整備等」「制度・地方行財政」「教育,産業・雇用等」の4領域ごとにワーキンググループが設置され,より効率的な社会システムを作るための工程表の作成が行われている.社会保障領域では44項目の改善領域が設定され,それぞれの進捗状況をモニタリングするためのKey Performance Indicator(KPI)の策定が行われている1)
 日々の業務に追われている現場の医療職の立場から考えると,対GDPで見たとき先進国で最も低い比率の医療費であるにもかかわらず,これだけの医療へのアクセスのしやすさと医療の質を達成しているわが国の医療制度は十分効率的であるというのが正直な思いであろう.こうした現状を反映して医療者は医療へのより多くの資金投入を求めるが,支払い側である財界関係者は「医療には効率性という点において改善すべき無駄があり,それを改善することで医療費の適正化は可能である」と主張する.例えば,土居らは医療提供体制の改革(地域差の是正)で3.4〜5.5兆円,ジェネリック医薬品の普及で0.8〜0.5兆円の削減が可能であるという試算を紹介している2)

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Book Review 感染症疫学ハンドブック

著者: 井上栄

ページ範囲:P.301 - P.301

Back Number

ページ範囲:P.314 - P.314

Information

ページ範囲:P.315 - P.315

次号予告

ページ範囲:P.318 - P.318

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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