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雑誌目次

雑誌文献

病院75巻5号

2016年05月発行

雑誌目次

特集 ポジティブ・マネジメント いきいき働く職場づくり

巻頭言

著者: 武村雪絵

ページ範囲:P.335 - P.335

 人口減時代に入った日本で,これからも良質な医療を確保するためには,医療従事者の健康と生活を守り,医療従事者がいきいきと働き続けられる職場づくりが必要である.職員がいきいきと働くことは,その個人にとって恩恵があるだけでなく,組織にとっても生産性が高まり,多くの恩恵がもたらされることが報告されている.いきいきと働く職場づくりの有効なアプローチとして,最近,個人や組織のポジティブな側面に注目するマネジメント,すなわち,今ないものや問題ではなく,今あるものや強み,やりがいや成長に注目して,ポジティブな側面を引き出すマネジメントが注目されている.
 そこで本特集では,まず「ポジティブ・マネジメント」の基本的な考え方と,ポジティブ・マネジメントによる組織開発の手法をご紹介いただく.先行きが見えない混沌とした状況だからこそ,問題解決型アプローチには限界があり,目標指向・価値共有型アプローチの可能性が広がっている.

いまなぜポジティブ・マネジメントが求められているのか

著者: 武村雪絵

ページ範囲:P.336 - P.337

●ポジティブ・マネジメントが目指すのは,一人ひとりの職員が力を発揮していきいきと働き,チームが機能して良質な医療を提供し,病院として社会に貢献する,そのような人と組織の理想的な状態である.
●病院で働く人々は,「命を守りたい」「人の役に立ちたい」といったポジティブな思いを根底に持っている.仕事を通じて職員が「善きこと」をできるよう職場を整えることは,職員と組織の両方を本来のあるべき姿に近づけることであり,管理者の重要な責任ではないだろうか.

ポジティブ・マネジメントの理論とプロセス

著者: 手島恵 ,   市瀬博基

ページ範囲:P.338 - P.343

●ポジティブ・マネジメントは,メンバーがポジティブな価値観を共有し,創造的でいきいきと仕事に取り組める組織環境を生み出す.
●対話を通じた内省の場を組織全体に広げることで,ポジティブなビジョンの浸透と,組織と個人の持続的成長が可能になる.
●ポジティブ・マネジメントは,PDCAサイクルなどの現行の取り組みを補完し,実効性を上げる手段として活用できる.

ポジティブメンタルヘルス—ワーク・エンゲイジメントに注目したマネジメント

著者: 島津明人

ページ範囲:P.344 - P.347

●近年の産業構造の変化や働き方の変化などから,職場のメンタルヘルス活動においても,個人や組織の活性化を視野に入れた対策を行うことが,広い意味での労働者の「こころの健康」を支援する上で重要になってきた.
●ワーク・エンゲイジメントは,バーンアウトの対概念として位置付けられており,ワーク・エンゲイジメントの高い従業員は,活力にあふれ,仕事に積極的に関与するという特徴を持つ.
●ワーク・エンゲイジメントを高めるには,「仕事の資源」と「個人の資源」を充実させることが重要である.

ポジティブな面に着目することで組織が主体的に動き出す

著者: 大林由美子

ページ範囲:P.348 - P.351

●医療を取り巻く環境の変化は著しく,複雑化したさまざまな課題が山積している状況では,個人あるいは組織の持つ資源や,大切にしている価値を共有しつつ,あるべき姿に向かうことが必要となる.
●今あるものを大切にしつつ,強みを生かして前向きに取り組むポジティブ・マネジメントは,職員のモチベーションを引き上げ,組織の活性化につながる.
●ポジティブな面に着目することによって,職員の主体的な行動を生み出し,それが生産性の高い活動となって,質の高い医療・看護の提供につながる.

持っている力に着目し組織に生かす—Patient Flow Managementで活躍する育児中ナースたち

著者: 横田弘子

ページ範囲:P.352 - P.355

●当院のPFMは,育児中など時間に制約があり短時間勤務で働く看護師の力を生かし経営貢献している.
●PFMを実践する入退院センターで働く看護師は,仕事に対する誇りが高く,職員満足度が高い.

障害者の可能性を引き出す—障害者,他の職員双方のやりがいへ

著者: 長澤京子

ページ範囲:P.356 - P.359

●国立がん研究センター東病院で働く知的障害者の担当業務は,看護職員の業務の一部を代行する「医療関連業務」が中心である.
●看護職員が夜勤時などに担っていた医療関連業務を知的障害者スタッフが代行することで,看護職員は他の専門的な業務にシフトできている.
●看護職員から感謝され,患者の役に立つことが実感できる「看板業務」の一端を担うことで,障害者スタッフに病院職員としての自覚が芽生え,やりがいとプライドが育まれ,職業的自立が獲得できる.

対談

ミッションとビジョンによるマネジメント

著者: 金井壽宏 ,   武村雪絵

ページ範囲:P.319 - P.324

人によって成り立っている病院にとって,職員一人ひとりが持てる力を発揮することは,サービスの質や成果に直結する.
職員が一丸となって患者・市民の期待に応え,社会に対する責任を果たすためには,ミッションによるマネジメントが鍵となる.

連載 Data mania・17

医療施設調査×出生数ほか

著者: 小松大介

ページ範囲:P.326 - P.327

調査概要
 今回取り上げるのは,第2回でも取り上げた「医療施設調査」です.本調査は,毎年実施される医療機関数などの基本的な動態調査と,3年に1回実施される詳細な動態・静態調査から成り立っています.特に静態調査では,医療機関の施設整備の概況がわかり,病棟・病床別の統計や,救急体制・専門外来などの医療機能統計,主立った手術などの実施統計,また,検査機器や電子カルテなどの整備状況が開設者別・病床規模別にわかるようになっています.

アーキテクチャー×マネジメント・17

聖路加国際病院

著者: 小林健一

ページ範囲:P.328 - P.333

■はじめに
 東京都心部に位置する都市型ブランド病院.近代的病院管理の先駆例.患者中心の看護教育とその実践の場.聖路加国際病院はおそらく,わが国で最も多く語られてきた病院だと思われる.その歴史は古く,築地の外国人居留地に起源となる病院が開設されたのは19世紀末にまで遡る.ここで病院の歴史すべてを紹介することは叶わないので,本稿ではこの20年あまりにおける聖路加国際病院の建築計画と病院運営の変化について紹介したい.

事例から探る地域医療再生のカギ・9

小樽市立病院の医療再生

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.361 - P.367

■何が問題だったのか
①衰退する港湾都市
 北海道小樽市は,明治期から小樽港が貿易港として樺太やロシアとの交易,道内で産出された石炭の積み出しなどで栄え,かつては「北のウォール街」とも呼ばれた.札幌市内から快速電車で約40分の位置にあり,ベッドタウンとしての顔を持つとともに,小樽運河など歴史的建造物を資源とした観光都市でもある.
 港湾都市として栄えた小樽市であるが,海外交易や石炭産業が衰退した上,都市の再興を目指した旧マイカル誘致などのバブル期の過大投資は,その崩壊により市や地元企業に大きな負債を残した.都市の衰退による人口減少は著しく,昭和30年代には20万人を数えた人口は約12万人まで減少し,2010年4月には総務省の過疎地域の指定を受けるに至る.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・5

医療法人和香会 倉敷スイートホスピタル—ホスピタリティ経営の実践

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.368 - P.373

■病院の概要 1)
 倉敷スイートホスピタルは,岡山県倉敷市にある医療法人和香会の中核施設である.同病院はサービス付き高齢者住宅を併設した「倉敷スイートタウン」の中にある.山陽本線中庄駅より徒歩3分という好立地条件にあるスイートホスピタルは図1からもわかるように,病院というよりは高級マンションかホテルといった外観である.しかしながら,同病院は196床の救急告示病院であり,診療科目としては内科,リウマチ科,糖尿病内科,内分泌・代謝内科,消化器内科,神経内科,呼吸器内科,胃腸内科,循環器内科,小児科,アレルギー科,整形外科,脳神経外科,外科,泌尿器科,放射線科,リハビリテーション科,歯科・口腔外科を標榜している.病棟構成は一般病棟入院基本料(15:1)98床,障害者施設等入院基本料(10:1)98床というケアミックス病院である.
 基本的な病院機能としては,急性期病院(例えば,川崎医科大学や倉敷中央病院)との連携を十分図った上で,急性期から慢性期の全ての患者を24時間365日対応で受け入れている.また,同病院は開放病床を採用しており,診療所との連携会議を毎月開催し,一次・二次救急対応および退院患者の紹介を積極的に行っている.

Current Issue

Choosing Wisely Campaign─適切な医療の選択

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.374 - P.375

 日本におけるChoosing Wisely Campaignについて筆者が耳にしたのは,ほんの2年ほど前のことである.調べてみればその概念は今世紀初頭ぐらいからあり,数年前からABIM(米国内科専門医認定機構)財団の主導で多くの学会に働きかけられ,実際の活動が行われている.日本でもほぼ同じ時期から徳田安春氏(地域医療機能推進機構)や小泉俊三氏(七条診療所,前・佐賀大学)がリーダーとなり,海外の集まりに代表が出席しながら,国内の数々の教育セミナーや学会などで,その概念の啓発や普及の努力がなされている.
 ではChoosing Wiselyとはいったい何を意味するのだろうか.患者の利益に結びつかない余分な検査を省き,過剰診断を防ぎ,また患者アウトカムの改善が期待できない無思慮な治療介入を放棄しようという思考と行動である.正直なところ,その内容は筆者にとって当たり前すぎることであり,当初それほど好奇心が湧いたわけではない.極論であるが,「医師の能力とオーダーする検査の数は反比例し,医師の自信と処方する薬の数も反比例する」という教えを受けた米国での研修医時代から,ずっとそのスタンスを守り続けてきた.けれども,あまりにも無分別な検査や治療が平然と提供され,患者側もむしろそれをありがたく感じている日本の現状を踏まえ,この活動のリーダーたちが主催するワーキンググループに参加させていただくこととなった.

病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・2

厚生労働省公開データの分析(1)データ構造の理解

著者: 村松圭司

ページ範囲:P.378 - P.383

 今回から3回にわたって,厚生労働省が公開している「DPC導入の影響評価に関する調査(参考資料)」(以下,公開データ)の活用方法について連載する.公開データはDPC調査に参加している医療機関に関するデータが実名で公表されており,さまざまな分析に用いることができる貴重な資料である.例えば,救急車で搬送された入院患者数や診断群分類別の平均在院日数を比較することで自院の診療実態を明らかにしたり,二次医療圏ごとの医療機関データを集計することでその地域の医療供給体制と医療需要などのバランスを見ることが可能となる.
 今回は厚生労働省のウェブサイトから公開データを入手し,どのようなデータがあるかについて整理する.

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Book Review 医療レジリエンス 医学アカデミアの社会的責任

著者: 安藤潔

ページ範囲:P.377 - P.377

Book Review 地域医療構想をどう策定するか

著者: 井部俊子

ページ範囲:P.385 - P.385

Back Number

ページ範囲:P.386 - P.386

Information

ページ範囲:P.387 - P.387

次号予告

ページ範囲:P.390 - P.390

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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