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雑誌目次

雑誌文献

病院75巻6号

2016年06月発行

雑誌目次

特集 IPWの時代─チーム医療のための多職種間教育

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.407 - P.407

 病院を取り巻く環境は,急速な超高齢社会へのシフトを見据えて,いわゆる「治す医療」ばかりではなく,地域を包括的に見据えた「支える医療」「癒す医療」が求められてきている.そこでは医療の垂直連携ばかりではなく,病院から地域へ,あるいは施設間,制度間を跨ぐチーム医療の担い手が否応なく必要とされることとなる.その担い手に目を向けると,病院には数多くの職種が集う.その多くは,独自の専門教育体系によって輩出された国家資格保持者である.また,病院事務職もともすれば,より専門分化された専門職形成の方向にあるように思われる.
 出来上がった専門職集団が,自らのアイデンティティーを中心に据えて多職種連携・協働を実行するチーム医療から,もう一歩以前の専門職育成の教育課程,すなわち専門職が出来上がる前から,他職種と協働するための職種間教育の必要性が出てきたといってよい.さらに,専門職の生涯教育の中で多職種連携・協働を中心に据えた教育システムの確立と意識改革が必要とされることになるに違いない.

多職種協働のための教育—IPEからTPEへ

著者: 伴信太郎

ページ範囲:P.408 - P.412

●「地域包括ケア」の多職種協働は,日本では既に長い歴史がある.しかし,それは限られた地域に限定されていて,卒前教育や卒後研修にもほとんど反映されてこなかった.
●医療専門職は生涯にわたって学習を続けていく必要がある.これからの多職種協働は,どこかに先例があるわけではない.そのために柔軟に思考し,日本の保健・医療制度に見合ったシステムを地域ごとに創造的に構築していかなければならない.
●多職種協働は,住民を巻き込んだものでないと継続性は維持できない.このようなcommunity-based transprofessional activityは日本が世界に発信すべき重要なモデルである.

—多職種チームをまとめ,患者の多様なニーズに応える—「地域包括ケア・コンシェルジュ」の育成—エビデンスに基づいたチームトレーニングのすすめ

著者: 種田憲一郎

ページ範囲:P.414 - P.419

●超高齢社会を迎え,病院の役割も変わりつつある.すなわち,医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスが切れ目なく,包括的に確保される地域包括ケアシステムを構築していくことが求められている.
●地域の病院がこの一翼を担うためには,患者のニーズを適切に把握し,院内および院外・地域の資源を活用して,そのニーズにチームで応える「地域包括ケア・コンシェルジュ」の育成が必要である.
●その育成には患者・家族もチームの一員・パートナーとして考慮し,エビデンスに基づいたチームトレーニング「チームSTEPPS」が有用である.

北里大学における卒前IPW教育の実際

著者: 伊藤智夫

ページ範囲:P.420 - P.425

●北里大学においては,医療系4学部と2専修学校の教員に加えて,大学附属4病院の病院職員によるチーム医療に係る基礎教育が実施されている.
●低学年においては学部相互に他職種を紹介する講義が行われ,高学年になると全学的な取り組みである「チーム医療論」,「チーム医療演習」,「チーム医療病院実習」が実施されている.
●現在,チーム医療教育のさらなる展開を目指し臨床教育研究棟(IPE棟)の建設が進んでいる.

福井県済生会病院における多職種教育研修の取り組み

著者: 齋藤哲哉

ページ範囲:P.426 - P.429

●病院の規模が大きくなり職員数が増加していく中で,組織風土の変化が起こり,組織間連携や情報共有,方向性の統一などに影響が生じた.
●対話の場を通して理念の共有を図るため,新入職員対象のワールド・カフェや中堅職員を対象としたリーダー研修など,階層に応じた多職種研修を実施している.
●自由に意見を発言し,問題解決に取り組む多職種研修の場は,組織の活性化につながり,全職員で理念を実践する組織になっていくと考える.

病院における事務職の生涯教育のあり方とIPW

著者: 東瀬多美夫

ページ範囲:P.430 - P.436

●既に未来は決まっている.2025年に向け,病院を取り巻く環境は変化する.
●その中で,組織医療を提供し続けるための事務職員の存在意義とは何か.
●人材育成は,教育訓練のみで実現するものではなく,適時な人材配置によって実際の経験があってこそ成立するものである.

TQMを活用したIPE/IPWの可能性

著者: 狩野稔久 ,   広瀬強志

ページ範囲:P.438 - P.441

●超高齢社会を見据え,医療・介護のパラダイムシフトが求められている.われわれはこれに対応するため,組織横断的なチームとしてのIPE/IPWに傾注する必要が出てきた.
●しかし医療機関は極端に専門分化した専門職集団からなる組織であり,部署ごと・専門職ごとに「たこつぼ」化した縦割り構造であることが,その推進を難しくしている.こうした硬直化しがちな組織で,TQMはIPE/IPWを円滑に進める下地となる可能性がある.
●TQMを活用した「地域包括ケアシステムの構築」をテーマに,当院のリハビリテーション科管理職によるQCサークルが取り組んだ事例を紹介する.

デブリーフィングの取り組みによる救急外来チーム教育

著者: 田中美穂子 ,   津留英智

ページ範囲:P.442 - P.445

●デブリーフィングとは,業務終了後に短時間で問題点や課題を協議する「振り返り」として行われる一方,医療シミュレーション教育での「振り返り」としても用いられる技法の一つである.また精神的ショックを経験した人への心のケア・支援方法としての意味合いも持つ.
●救急蘇生にあたる救急外来チームにおいて,デブリーフィングを導入した.
●デブリーフィングを取り入れることにより,救急スタッフの不安や緊張を緩和することができ,救急救命処置に安心して参加できるようになった.

対談

多職種協働のための生涯教育

著者: 有賀徹 ,   神野正博

ページ範囲:P.391 - P.396

救急の現場ではチーム医療がものを言う.
長らく救急の世界で多職種を束ねた経験から,組織を率いる管理者となって見えたものとは.
リーダーシップとは何か,組織に属するとはどういうことか.
IPW時代の医療者のあり方を提言する.

連載 Data mania・18

病院経営管理指標×医療施設調査

著者: 堀越建

ページ範囲:P.398 - P.399

調査概要
 今回は,本連載の第11回でも取り上げた「病院経営管理指標」を中心に分析を行います.病院経営管理指標は,病院の機能や規模,地域別に経営状況を係数的に把握し,病院運営での参考値となる情報提供がなされています.平成25年度の指標では,7,066施設に調査票を送った中で有効回答数が1,349施設(有効回答率19.1%)となっています.そのため国内全ての病院指標ではありませんが,機能別,病床規模別などさまざまな指標が提供されており,財務上の数値においては非常に参考となる指標です.

アーキテクチャー×マネジメント・18

社会医療法人近森会 近森病院

著者: 宇田淳

ページ範囲:P.400 - P.404

■はじめに
 社会医療法人近森会は,近森病院(高度急性期〜急性期病院;以下,本院),近森リハビリテーション病院(脳卒中,脊損対象),近森オルソリハビリテーション病院(運動器中心)の3つの病院に分かれ,有機的に連携し,「高度急性期からリハビリテーション,在宅まで」のトータル医療を目指し,地域医療を支えている(図1).
 本院は,地域医療支援病院,災害拠点病院であり,患者数,手術件数ともに県内屈指の民間病院である.しかも救急車の搬入件数は年間約6,000件を超える救命救急センターもある.北米型ERを採用し,3次以外にも,1次,2次も受け入れており,心肺停止からウォークインにいたるまで,幅広い患者の診療をしている.さらに,病院の機能分化を推進し,「高度救命救急医療に絞り込む」,「外科医には外科医にしかできないことをする」をモットーに「選択と集中」で機能を絞り込み,各職種の専門性の向上に努め,医療の質と労働生産性を高め,チームアプローチすることで質の高い医療を提供することを目指している.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・6

社会医療法人緑壮会 金田病院—自らがまず1歩を踏み出す経営理念

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.450 - P.457

■病院の概要 1)
 社会医療法人緑壮会金田病院は岡山県真庭市にある.図1に示したように,同病院は岡山県北部で津山中央病院に次いで救急搬送による入院の多い病院であり,真庭医療圏の急性期入院医療を支える中核病院となっている.真庭市はバイオマス発電や新しい合板開発など林業を中心とした地域政策で,里山資本主義を実践する地域としても近年注目を集めている.しかしながら,急速な人口減少が進む中,教育や医療などの社会資本をどのように維持していくかが大きな課題となっている.今回取り上げる金田病院は,こうした社会経済環境の変化に積極的に対応してきた医療機関である.地域に対する責任感とその役割を担い続けるための経営努力は,今後同様の問題に直面する地方の民間病院の参考になると考え,紹介させていただく.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!—全国各地の取り組みに出会う旅・[9]

京都府福知山市

著者: 川島篤志

ページ範囲:P.458 - P.461

 京都府福知山市には,もともとなかった総合内科部門を立ち上げて精力的な研修を展開し,医師数と収益を飛躍的に改善させた市立病院があるんだ! 連載第9回目の今回は,地域の中核病院・市立福知山市民病院の,地域を見据えた総合内科教育の取り組みを紹介するね! 病院も研修医も家族も大事にするカリスマ総合内科医・川島篤志医師にお話を聞きました!

Current Issue

総務省「公立病院経営改革事例集」から学べること

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.462 - P.463

「公立病院経営改革事例集」の公表
 2016年3月,総務省準公営企業室は「公立病院経営改革事例集」(以下,事例集)を公表した1).これは,2015年3月に「新公立病院改革ガイドライン(新ガイドライン)」を示し,地方自治体に対して新しい公立病院改革プランを策定し,新たな改革に取り組むよう要請したことを踏まえ,新しい改革プランの策定とその実施に資することを目的に作成された.
 事例集は,2007年12 月に公表された「公立病院改革ガイドライン(前ガイドライン)」に基づく取り組みを概括した上で,2014年度までの決算情報に基づき経営指標が安定的に向上した公立病院を選び出し,前ガイドラインに掲げた改革の柱(経営の効率化,再編・ネットワーク化,経営形態の見直し)ごとに,健全経営と良質な医療の確保の両立に成果を挙げている事例を紹介している.

病院組織コーチング・1【新連載】

[総論]なぜ病院に組織コーチングが必要なのか

著者: 安藤潔

ページ範囲:P.464 - P.466

■医療パラダイムの変化
 今,保健・医療システムが大きな変革を迎えようとしている.2025年に向けて,地域包括ケアネットワークの構築が進み始め,同時に病院も地域医療連携の中で機能再編されようとしている.直近の課題としては,超高齢社会を迎えて,日本の保健・医療システムがそれに対応した姿に変化しなければならない.しかし,これらの変化は大きな文脈で捉えると,日本社会が「成長」や「拡大」を目標としない「定常型社会」に移行しつつあることを示しており,引き続きさまざまな変革が予想される1).病院組織にはこれらの変化に柔軟に対応する能力が求められている.
 2015年6月に厚生労働省の懇談会がまとめた「保健医療2035」提言書(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/hokeniryou2035//)の中には,このことを反映した20年後の医療の形が示されている.「定常型社会」では,現場の医療パラダイムが「医学モデル」から「生活モデル」へシフトする必要がある.すなわち,国民のマジョリティが青年期・壮年期であった1990年代には,特定病因論に基づいた治癒を目指す医療が医療のスタンダードであったが,今後高齢者・後期高齢者がマジョリティとなる時代の医療においては,治癒よりはQOLを維持する医療が必要とされる(図1).そのために,「保健医療2035」では5つのパラダイムシフトを想定している(表1).これらのパラダイムシフトを実現するためにも,今後は技術革新と同時に,「組織マネジメント」,「人と人のコミュニケーション」が今まで以上に必要とされる時代が訪れる.

病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・3

厚生労働省公開データの分析(2)Excelによる可視化

著者: 村松圭司

ページ範囲:P.467 - P.473

 今回は,多くの病院勤務者に最もなじみのある表計算ソフトウェアであるMicrosoft Office Excel(以下,Excel)を用いた厚生労働省公開データの可視化方法の一例について解説する.厚生労働省公開データのほとんどがExcelファイルで配布されており,分析入門としては最適なソフトウェアであると考えられる.まず分析前の準備作業について解説し,その後ピボットテーブル・ピボットグラフを用いた可視化を行うこととする.なお,説明のための図表に使用するバージョンはWindows用のExcel 2013である.

実践報告

地域密着型病院における医療連携マーケティングの実践研修

著者: 佐野哲

ページ範囲:P.446 - P.449

要旨
 地域包括ケアシステムへの対応が求められるなか,地域医療連携の拡充を目的として,医療連携の現場に,マーケティングのノウハウに基づく改革メソッドの導入を試みた.
 ここで提案する「医療連携マーケティング」は,従来型(メーカーなど営利企業向け)のマーケティング理論の基本的な体系と構造を維持しつつ,医療機関向けに一部アレンジを加えた手法である.プロダクトを置き換えたポートフォリオ概念(「診療力」の文書化)を軸に,病院において広く普及しているパス制度(「クリティカルパス」の援用)をプレイスに代えて取り込み,多様な「営業ツール(文書)」を開発しながら,連携プロモーション活動の有効性を引き出していく新たな枠組みである.
 大都市に立地する地域密着型の中小病院において,オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)研修として実践したところ,医療連携に基づく新規紹介患者数の伸びや病床稼働率の向上に資することが確認できた.

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Book Review 診療情報学 第2版

著者: 武田隆久

ページ範囲:P.437 - P.437

Back Number

ページ範囲:P.474 - P.474

Information

ページ範囲:P.475 - P.475

次号予告

ページ範囲:P.478 - P.478

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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