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雑誌目次

雑誌文献

病院76巻11号

2017年11月発行

雑誌目次

特集 病院の生産性とは何か

巻頭言

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.839 - P.839

 今回の特集では,病院における生産性を取り上げた.そもそも医療の世界で「生産性」を論ずることが可能か,もしくは適切かという疑問を抱く医療関係者も多いだろう.例えば,ある会合で,厚生行政に長年携わっている国会議員である医師が(アベノミクスの成長戦略では生産性向上が掲げられてはいるが)「医療の世界に生産性という概念を持ち込むのは慎重でなければならない」と発言しておられた.
 翻って病院現場では,7:1看護配置基準の要件の厳格化,重症度,医療・介護必要度の基準の引き上げ,回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカム評価の導入,療養病床における医療区分の見直しといった制度改革に加え,生産年齢人口減少による医療人材不足に直面している.その結果,限られた医療資源で一人でも多くの患者にサービスを提供することが求められている.これを「生産性向上」の要請とみなすのであれば,病院の現場は,すでに生産性向上の渦中に巻き込まれているのではないだろうか.そうであるならば,今こそ病院は生産性と対峙しなくてはいけないのではないか.

生産性とは何か—病院で活用するための注意点

著者: 泉田信行

ページ範囲:P.840 - P.844

●生産性指標は,診療報酬でアウトプットが評価される病院部門においても活用可能なものである.
●標準的治療で必要とされる医療従事者数などのインプットの情報がなければ,標準的な医療からの逸脱を招く可能性もあり,注意して活用する必要がある.
●生産性の向上策が離職率の増加などをもたらす場合は,その費用の増大を考慮するなど,費用構造についての情報を合わせて活用する必要がある.

生産性重視と医療提供体制確保との調和—医療制度改革が求める病院医療の生産性向上とは何か

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.845 - P.849

●医療提供の持続可能性を確保するための改革アプローチは,医療においても効率や生産性について積極的に提起していく方向が,「社会保障制度改革国民会議報告書」以降の検討会報告書などにおいて打ち出されている.
●病院医療における生産性の議論は努めて具体的で実務的なものであり,個別サービスのレベルを中心に投入資源とアウトプットの効率を高めるという地道な取り組みが基本になる.
●“医療における効率や生産性の重視”という視点は,“地域医療ニーズに対応できる体制の確保”という医療の基盤的なアプローチとのバランス・調和こそが重要である.
●病院医療について言えば,このような理念を具現化しようとする地域医療構想の実現に向けた,それぞれの構想区域における調整会議に期待される役割そのものであろう.

病院に求められる安全・良質な医療サービス提供と生産性向上

著者: 林田賢史

ページ範囲:P.850 - P.854

●近年,病院には安全で質の高い医療サービスの提供と生産性の向上が求められている.
●そのため,①クオリティマネジメントにおける品質不良を起こさないための予防・評価活動の充実,②医療資源(ヒト,モノ,カネ,情報など)の適切な活用,③しっかりしたマネジメントシステムの構築などが重要となる.
●しかし,安全で質の高い医療サービスを提供しながら生産性を向上させる際には,留意点や限界があることも事実である.
●さらに,個々の病院の生産性向上だけでは部分最適に陥ってしまう可能性があるため,地域で協力し合いながら地域としての生産性向上(全体最適)を図ることも必要である.

病院医療スタッフの生産性を上げる働き方改革

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.855 - P.859

●病院医療スタッフの生産性向上のために「タスク・シフティング(業務の移管)/タスク・シェアリング(業務の共同化)の推進」が求められている.
●生産性向上のためには医療職の長い労働時間の改善も必要である.
●生産性向上のために病院機能の正しい理解が国民の側にも求められている.

経営指標から見る病院の生産性

著者: 荒牧登史治

ページ範囲:P.860 - P.865

●福祉医療機構の融資先病院のデータに基づくと,近年の病院の労働生産性は,病床機能の違いにより金額の差はあるが,概ね横ばいから微増で推移している.
●従事者を増やしながら労働生産性を向上させた病院は,そうでない病院と比較して経営状況への影響は顕著であるが,病棟種別によってその内容に違いが見られる.
●今後,ICTの推進や診療報酬体系の見直しにより,これまで以上に生産性の視点を踏まえた経営が重要になる.

病院の生産性改善への示唆—他産業,米国やインドの病院の事例から

著者: 木畑宏一

ページ範囲:P.866 - P.870

●他産業や他国の病院での生産性改善への取り組みから,日本の病院における生産性改善への示唆を得た.
●解くべき課題の同定と仮説構築が,コンサルティング会社における生産性改善のポイントである.
●他産業のベストプラクティスを導入することが海外の病院では積極的に行われており,インドの病院では規模の経済を追求することで,医療の質向上とコスト削減を同時に実現した.

対談

病院に生産性が求められる時代

著者: 裴英洙 ,   今村英仁

ページ範囲:P.823 - P.828

医療制度改革の中で,医療費をめぐる財源は乏しく,打開策としてイノベーションが待たれる.
同時に,病院にも働き方改革の波が押し寄せている.
鍵となるのは「生産性」だ.
これからの病院にとって,生産性向上の秘策はあるか.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・35

医療法人杏和会 阪南病院

著者: 河合慎介

ページ範囲:P.832 - P.837

 阪南病院は昭和31(1956)年に現在の地で開院し,今年で61年目を迎えた(図1,2).この間に積極的な精神科医療の展開と施設整備を図り,リーディングホスピタルの立場を築いた.本稿では,これまでの変遷を踏まえながら,運営と建築計画の関係を考察したい.

医療と法の潮流を読む・6

医療事故調査制度は期待に応えられるか

著者: 平野哲郎 ,   宇都木伸 ,   三木知博

ページ範囲:P.872 - P.877

 医療安全への意識の高まりを背景に,紆余曲折を経て2015年10月に発足した医療事故調査制度が始まって2年が経った.この制度は医療界の自浄作用に期待した設計となっているが,事故調査は制度発足前に予期されたほどの数にはなっていない.その背景と今後どのような展開が予想されるのかを解説する.

事例から探る地域医療再生のカギ・18

夕張医療センターの医療再生(前編)

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.878 - P.883

■何が問題だったのか
夕張市の財政破綻
 2006年6月20日,夕張市長は市議会において財政再建団体の指定を国に申請する方針を表明した.当時夕張市は,一時借入金の会計操作などにより約600億円に及ぶ巨額の借り入れを行っていた.夕張市は夕張市立総合病院(171床.以下,総合病院)を経営しており,病院は毎年3億円近くの借り入れを行って運営がなされていた.一時借入金の総額は約39億円に達していた.夕張市本体が破綻したことにより,総合病院はこれ以上の借り入れができず,倒産状態に陥ることとなった.
 筆者は,縁あって2006年8月〜2007年3月末まで,夕張市から病院経営アドバイザーを委嘱され,総合病院の医療再生に関わった.当時,総合病院は炭鉱の閉山による急激な人口(患者)の減少,大学からの医師引き揚げに伴う医師不足,看護師の大量退職,福祉の貧困による社会的入院の多さ,不適切な救急車の利用や無診察投薬の横行などを抱えていた.院内のマネジメントも,夕張市役所本体が多額の借入金を隠していたこともあって非常に閉鎖的で,情報統制をしていた.病院幹部間のコミュケーションも悪く,組織としての体を成していなかった

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・6

公益財団法人慈愛会 今村総合病院—医療介護連携・データマネジメントに向けた電子カルテの統合

著者: 関悠希

ページ範囲:P.884 - P.889

 公益財団法人慈愛会は2017年5月にいづろ今村病院注1と今村総合病院注2の電子カルテを統合した.
 電子カルテの統合は,法人が目指す医療介護の連携,各種指標の数値を経営や運営に活かしたデータマネジメントの推進には必須であったが,その実現にはさまざまな障壁があった.
 今回は,電子カルテの統合に際し,どのような障壁があったのか,そしてそれをどのように克服していったのかを見ていくことで,病院におけるシステム整備やマネジメント,ひいてはICTを活用した地域医療を推進していく上での参考としたい.

多文化社会NIPPONの医療・2

医療ツーリズムの落とし穴

著者: 堀成美

ページ範囲:P.890 - P.891

 最近増えている質問の一つが「医療ツーリズムってどうですかねえ」というものである.
 居住している地域から健康の改善のために移動することは昔から行われてきた.温泉で戦の傷や病を癒す「湯治」は,外国でも日本でもはるか昔から行われている.本稿では,「医療を受ける目的で他の国に渡航すること」を医療ツーリズムと呼ぶ.もともと医療制度は自国民の生命や健康を守るために設計されており,サービスの全て/多くが公費で運営されている.そこに国外からやってくる患者はどのように位置づけられるのだろうか.もちろん救命のために医療を提供することは対象が日本人でも外国人でも変わらないので,問題となるのは受診のために余裕をもって渡航を計画してくるような人たちである.冒頭の質問は,そもそも国の制度上どのような位置づけかという話なのだが,同時に「当院ではこのように対応をする」と意思表示が求められるガバナンスの問題でもある.トラブルや混乱が生じる前に,ぜひご検討いただきたい.

病院勤務者のためのDPCデータ解析入門(番外編)・4

診療報酬改定時におけるDPC点数のシミュレーション

著者: 本野勝己

ページ範囲:P.892 - P.897

■はじめに
 今回は診療報酬点数改定時における診断群分類点数表(DPC包括評価部分)の改定前後の点数比較のシミュレーション方法について解説する.来春の平成30年度診療報酬改定時には,前回解説した通り,暫定調整係数が廃止される予定であり,ますます各症例の在院日数に対するマネジメントが必要とされる.
 DPCに参加している医療機関には,改定前の2月上旬頃に厚生労働省から「医療機関別係数について」の公示文書と共に,改定後の「診断群分類点数表(案)」や「定義テーブル(案)」などのExcelファイルが送られて来る.その中に「施設コード_患者別返却データ」というExcelファイルがあり,ここに収載されているデータが,実際に診断群分類点数表の見直しに使われたデータである(図1).このデータは扱いが難しく,なかなか利用する機会が少ないと思われるが,診断群分類の見直し前後のDPC番号(14桁)が載っているので,今回はこの14桁を利用した包括評価部分の改定前後の点数比較方法について解説する.

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Back Number

ページ範囲:P.898 - P.898

Information

ページ範囲:P.899 - P.899

次号予告

ページ範囲:P.902 - P.902

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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