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雑誌目次

雑誌文献

病院76巻6号

2017年06月発行

雑誌目次

特集 備えよ常に! 病院のBCPを整備せよ

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.419 - P.419

 本誌では,2012年12月号で『病院のBCP』を特集した.2011年3月11日の東日本大震災を契機に叫ばれたBCP策定の必要性と,その内容をいち早く提示したものであった.
 その後も災害は「想定外」をあざ笑うかのように起こる.2016年の熊本地震ばかりではなく,近年の異常気象による水害や竜巻被害など,病院の事業継続性を危うくする事象が頻発している.

事業継続マネジメント(BCM)と事業継続計画(BCP)とは

著者: 大林厚臣

ページ範囲:P.420 - P.424

●BCMとBCPは,重要な業務を,何が起きても中断させないための取り組みと計画である.
●非常時でも継続すべき業務とその水準を絞り込む.そして最低限必要な医療資源を計算する.
●原因,医療資源,重要業務の各段階で被害を想定し,それぞれへの対策を検討する.
●医療資源と重要業務への対策は,原因を特定しないことで,幅広いリスクに対応できる.
●1回限りの計画作りに終わらせず,定期的な訓練と見直しを続ける.

病院の建築設備とBCP

著者: 小林健一

ページ範囲:P.425 - P.429

●病院の建築設備は,BCPを考える際の重要な要素である.
●わが国では地震への備えがBCPにおける最重要課題であり,過去の大震災からの教訓を活かすべきである.
●災害拠点病院ではない病院においても,平常時の機能の延長としてBCPを検討しておくことが必要である.

減災力強化を中心としたBCPに関わるファシリティマネジメント

著者: 馬越修

ページ範囲:P.430 - P.434

●BCP構築のファシリティマネジメント(FM)として減災力(建築物の耐震安全性の確保)を強化するため,病棟等の建て替え・改修工事を実施した.病院を稼働させながら該当工事棟の病床を順次他の棟に移動させて工事を行い,一時的にでも稼働病床を削減することなく,約10年をかけて全病棟等の約半数(計5棟)の建て替え・改修工事を完了させた.
●国際的な医療機能評価(JCI)の認証取得の中で,BCPに関連する「災害への備え」として,当院の最も大きな災害リスク(地震)の明確化,および対策の実施を確認(再評価)した.また,他の減災対策として,ユーティリティ関係の主要設備を設置している地下階の水害(浸水)対策の検討を実施している.

透析医療における災害対策

著者: 山川智之

ページ範囲:P.435 - P.440

●透析医療の災害対策は,日本透析医会の災害時情報ネットワークを中心とした高いレベルでの施設間および行政との情報共有がベースになっている.
●東日本大震災では,約1万人の透析患者が自施設での透析が受けられなくなったが,行政の協力による遠隔搬送などにより,患者が透析を受けることができない事態は避けられた.
●熊本地震では,福岡県への患者搬送を計画していたが,自衛隊などによる施設への給水により支援透析は熊本県内でほぼ完結した.

病院BCPにおけるシミュレーション訓練のあり方

著者: 宮田昭

ページ範囲:P.441 - P.446

●地域医療における中核病院のBCPは,地域住民が普段通りの医療を受けられる環境を維持または再開することを意味し,早期の通常診療再開は被災後の住民の健康における安心感の醸成と復興の第一歩につながる重要なステップである.
●エマルゴトレーニングシステム®を基にした机上訓練は実際の災害時の受け入れ態勢に即した構成にすることにより,非常に効果的な訓練手法となりうる.
●ソフト,ハード,システムが相補的にPDCAサイクルを機能させることにより,強固なBCPが育つ.

【事例】熊本地震における行政と病院の役割と連携

著者: 山田一隆

ページ範囲:P.447 - P.451

●熊本地震発災直後からの初動期,急性期ならびに亜急性期のフェーズにおいては,多くの県内病院・診療所・歯科診療所の被災・休診などにより災害医療提供体制の対策が重要課題であった.しかし,災害派遣医療チーム(DMAT)などの支援とともに,行政を中心とした地域病院と地域保健所などとの連携により,適切な医療提供が実施された.
●一方,震災後の慢性期へと変化する災害のフェーズにおいては,熊本県内病院・診療所・歯科診療所の外来・入院診療は一部の施設を除いてほとんど再開しており,医療提供体制に大きな障害はない状況になったと考えられる.

【事例】関東・東北豪雨,鬼怒川決壊水害被災の記憶

著者: 廣井信

ページ範囲:P.453 - P.456

●水害被災時の救出経過と被災後の病院復旧を振り返った.
●防災訓練の重要性,激甚災害指定国庫補助金申請と交付の実際,救助する側のUnified Command(統合指揮)欠如による混乱について言及した.

対談

災害医療のこれまでとこれから

著者: 山本保博 ,   神野正博

ページ範囲:P.403 - P.408

自然災害のみならず,世界でテロの脅威が増す現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックを控え,日本はマスギャザリング災害にも対応せねばならない.
病院が今やっておくべき備えとは何か,日本の救急医療をリードし続ける山本氏に聞く.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・30

徳島赤十字病院

著者: 小菅瑠香

ページ範囲:P.412 - P.417

■時代のニーズを追及した分棟型病院
 徳島県東部の小松島市は,小松島湾や日峰山など,豊かな自然に囲まれた地域である.古くは源義経伝説などでも知られ,一時は港湾都市を目指していたこともあった.現在は徳島県南部医療圏の中核病院である徳島赤十字病院を中心に,地域全体で医療福祉に力を注いでいる状況だ.地域医療支援病院,高度救命救急センター,臨床研修病院などの指定を受けて地域の基幹病院となっているだけでなく,2007年には医療福祉建築賞(一般社団法人日本医療福祉建築協会)も受賞し,今やその佇まいも地域のシンボルとなっている(図1).
 ブロックプランとしては,約30,000m2の敷地の北側にダブル十字型の病棟を載せた病院棟と,南側にブリッジでつながれた外来棟,その西側に防災エネルギーセンターの建物を持っている(図2).外来棟の上に病棟を載せた一体型の病院建築が全国的に多いなかで,徐々に増えてきたとはいえ,外来を完全に分棟としている事例はまだ珍しい.一般的に設計時の柱のスパンの自由がきくことや,増築・改築,設備更新の容易性など,多くの長所が聞かれる.さらに入院医療と外来医療の提供体制に一層の展開が予想される今,これらを分棟にしておくことは,使い方の自由度を上げる意味でも有効だろう.徳島赤十字病院では病院棟と外来棟の設計者を分けており,現在は病院棟の西側に,病院棟設計者による増築棟を建設中である.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・15

地域医療構想調整会議で何を検討するか─病床機能報告データを活用する

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.458 - P.464

■はじめに
 平成28(2016)年度に47都道府県の地域医療構想の策定が終わり,平成29(2017)年度は各構想区域で調整会議が開催されることになった.厚生労働省は図1に示したような工程表(案)を提示し,議論の進捗を促している1).筆者がこれまでも指摘しているように,地域医療構想の目標は病床数の削減ではない2).各地域の人口構造およびそれに関連した傷病構造の変化に対応するために,データに基づいて各施設が地域の他施設との関係性の中で自らの判断で医療機能を選択し,全体として適切な医療提供体制を構築していくことが目的である.その意味で地域医療構想の推計値が独り歩きしてしまい,数合わせの議論になってしまえば,本来の目的が達成できないばかりでなく,地域医療の現場に不要な感情論的混乱を招くことになりかねない.そもそも機能別病床数の推計に際しては,①機能分化を進める,②療養病床の医療区分1の患者の70%を入院以外で対応する,③療養病床入院受療率の都道府県格差を縮小する,という3つの仮定が置かれているが,地域によってこれらの仮定が成り立たない状況があるならば,それを現実的な対応策に置き換えていく必要がある.特に急性期以後の入院医療提供体制をどのように構築していくのかは,在宅医療や介護サービスの状況,さらには住環境に大きく影響される.こうした条件を丁寧に検討する場が調整会議であると筆者は考えている.
 本連載ですでに指摘しているように,高齢化の進行に伴い,医療と介護の複合化が進んでおり,その結果,一次医療→二次医療→三次医療という階層モデルではなく,種々の機能を持った施設が同じ平面上で相互に連携するネットワークモデルを構築する必要性が高まっている3).ネットワークが機能するためには調整機能が必要であり,その活動が制度として確立される必要がある.図2は筆者らが広島県の医療・介護レセプトをもとに,股関節大腿骨近位部骨折の患者が急性期病院に入院した月の連携状況(連携関連レセプトで把握)と3カ月後の訪問診療受療率(同じくレセプトで把握)の相関をみたものである4).両者の間には明確な正相関が認められる.国が目標とする「時々入院,ほぼ在宅」体制を実現しようとするのであれば,こうした施設間の連携をいかに進めていくかが課題となる.
 地域医療構想調整会議の場では,このような地域における患者の流れについてもデータに基づいて議論することが必要であろう.地域の各病院の患者の入退院の状況を検討することで連携の現状と課題が見えてくるはずである.そして,この検討のためのデータはすでに各都道府県に提出されホームページ上で公開されている.今回はこのデータの活用方法も含めて,地域医療構想調整会議における議論のあり方について論考してみたい.

医療と法の潮流を読む・1【新連載】

医療介護総合確保推進法とは何だったのか

著者: 小西知世 ,   宇都木伸 ,   三木知博

ページ範囲:P.466 - P.469

 医療介護総合確保推進法─正式名称は「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」という.医療に携わる者でこの法律のことを知らない者は,もはや誰もいないだろう.
 しかし,この法律のことを,地域医療構想や医療事故調査制度を導入するものであって,それらへの対応はもう大体終わった……と考えているようでは,理解が不十分である.この法律には“今”そして“これから”対応しなければならない課題が,まだまだたくさん残されているからである.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!—病院と地域のかかわりを学ぶ旅・[15]

宮城県涌谷町

著者: 青沼孝徳

ページ範囲:P.470 - P.473

 宮城県北部の町・涌谷町では,30年も前から行政と医療がタッグを組んで新しい保健・医療・介護・福祉の拠点を創造し,そこをもとに幅広い取り組みを展開することで,住民や地域が次第に成長してきているんだ! 連載第15回目の今回は,先駆的に多岐にわたるサービスを一体化して地域包括ケアの拡充に努めている涌谷町町民医療福祉センターの取り組みを紹介するね! 長年地域のことを考え続ける,青沼孝徳センター長にお話を聞きました!

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Book Review 災害時のメンタルヘルス

著者: 塩入俊樹

ページ範囲:P.475 - P.475

Back Number

ページ範囲:P.476 - P.476

Information

ページ範囲:P.477 - P.477

次号予告

ページ範囲:P.480 - P.480

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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