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雑誌目次

雑誌文献

病院76巻8号

2017年08月発行

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特集 終末期と向き合う病院

巻頭言 フリーアクセス

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.583 - P.583

 進みゆく超高齢多死社会において,病院は終末期とどう向き合い,地域ニーズにどう対応していくのか.終末期医療の問題は,単に病院関係者にとって今後の重要な課題というだけでなく,国民生活にとって差し迫った喫緊の課題となっている.個々の患者,家族の意向を尊重しつつ,生命維持に関するさまざまな倫理的な問題を乗り越え,誰もが納得できる穏やかな看取りを,地域ごとにどう実現するか.在宅,施設,病院を含めた地域全体,さらには国民全体での議論が求められている.本特集では現状での課題を見据え,今後のわが国の終末期医療の進むべき方向性について考察したい.
 伯野論文では,国民が安心して人生の最期を迎えられるよう,地域包括ケアシステム構築を進める国の方針が示されており,その実現に向けて在宅医療およびそれを支援する病院整備の必要性が説かれている.

人生の最終段階における医療の提供体制

著者: 伯野春彦 ,   桑木光太郎

ページ範囲:P.584 - P.590

●団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて,地域包括ケアシステムの構築が喫緊の課題である.
●医療計画では,5疾病・5事業に加えて居宅等における医療(在宅医療)の提供体制整備を行っている.
●人生の最終段階における医療の意思決定に関するガイドライン等で,本人の希望をかなえるための取組を推進している.

終末期医療をめぐる動向

著者: 木村厚

ページ範囲:P.592 - P.598

●以前の終末期医療はとにかく1秒でも長く患者を生かすことが主体であった.しかし,それでいいのかという疑問も湧いてきた.
●2000年代前半に終末期医療に関する事件がいくつか起こり,国民の関心も高まったことから,厚労省が終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインを発表した.
●患者本人の希望をはっきりさせておくにはリヴィングウイルが必要である.
●木村病院では患者・家族の希望を反映し,尊厳ある終末期を迎えてもらうための取り組みを行っている.
●全日病では,治療の中止に言及した終末期医療に関するガイドラインを作成した.しかし,その実現のためには,法の整備だけではなく,国民の意識の変革が必要である.

終末期医療の倫理的問題

著者: 尾藤誠司

ページ範囲:P.599 - P.603

●臨床における全ての意思決定は倫理的問題を内包する.
●人生の最終段階における医療の意思決定においては,特に患者が固有に持つ価値の尊重を中心としながら,患者に関わる多数の家族や医療職が対話を繰り返していくことが肝要である.
●以上の背景をもとに,厚生労働省は「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を作成し,現在普及活動を行っている.東京医療センターでは,そのモデル事業として院内に「倫理サポートチーム」を作り活動を始めた.

地域におけるアドバンス・ケア・プランニングの進め方

著者: 西川満則 ,   三浦久幸

ページ範囲:P.604 - P.608

●地域包括ケアを担い終末期と向き合う病院において,本人の選択や本人・家族の心構えを支えるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)がますます重要になってくる.地域でACPアライアンスを組み,病院内でACP導入の仕組みを作り,ACPトレーニングパッケージなどの教育プログラムを用いてACPファシリテーターを養成しつつ,患者のACPを地域でつなぐ意識が重要である.
●その結果,患者の意思が尊重され,残された遺族の気持ちのつらさが和らぎ,その恩恵を地域で享受できる.地域におけるACPの推進は,終末期医療と向き合う病院の未来像である.

緩和ケア病棟の現状と課題

著者: 宮森正

ページ範囲:P.609 - P.613

●がんと向き合うことは,緩和ケア病棟でも簡単なことではない.
●急性期病院でも,治療早期からの全人的緩和ケアが必要である.
●緩和ケア病棟は,在宅緩和ケアの後方支援の機能が求められている.

介護老人保健施設における看取りの現状と課題,病院との連携

著者: 折茂賢一郎

ページ範囲:P.614 - P.619

●多死社会を迎える現代日本の看取りの現状を踏まえ,介護老人保健施設での看取りの現状を分析するとともに,千葉県市川市にある介護老人保健施設市川ゆうゆうにおける1年間の看取りの状況を分析し,今後のわが国の看取りの方向性を考える一助としたい.

在宅での看取りの現状と課題,病院との連携

著者: 小澤竹俊

ページ範囲:P.620 - P.624

●在宅での看取りは,超高齢少子化多死時代に向けて,医療計画の中に謳われているが,実際には進んでいないのが現状である.その理由として,24時間の対応が困難であり医療者の負担感が大きいこと,介護する家族の負担や急変時対応への不安などが挙げられる.
●そのような背景から,在宅医療において積極的役割を担う医療機関が求められている.
●このような時代のニーズに応える病院として,一人で開業している診療所では対応しきれない夜間や不在時における連携や,人材育成に向けた研修が期待される.

対談

超高齢多死社会の看取りを支える

著者: 柏木哲夫 ,   山田隆司

ページ範囲:P.567 - P.572

日本は多死社会に直面している.
われわれはどこで死を迎え,誰に看取られるのか.
緩和ケア病棟は今後,どのような役割を果たしてゆくのか.
そして,この時代にあるべき医学教育と,医療の本流とは何か.
日本の終末期医療を変え,支えてきた柏木氏が語る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・32

医療福祉建築賞2016

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.576 - P.581

■はじめに
 一般社団法人日本医療福祉建築協会は,厚生省(当時)の後援を得て,平成3(1991)年に「病院建築賞」を創設し,以後,平成7(1995)年の「医療福祉建築賞」への名称変更を経て,わが国の模範となるべき医療福祉建築の顕彰事業を続けてきた.他の建築賞と大きく異なる点は,建築として質が高いことに加え,利用者ならびに職員にとって快適で使い勝手が良いこと,を選考の基準としていることである.
 本賞創設から26年目にあたる今年度は, 2012〜2014年度(3年間)に竣工した作品が選考の対象になる.応募作品の数は26点(うち病院15点,診療所2点,保健・福祉施設9点)で,昨年に比較して3つの分野ともに漸減している,という状況である.しかしながら力作が多く,建築賞については,以前に比べ全体の水準が上がってきた中で,また機能性の達成はある意味当然という状況での授賞であり,非常に高い水準での選定であった(表1).一方,とりわけ今年度の準賞それぞれは,その置かれている状況の中で,非常に意欲的で先駆的,かつ示唆に富む試みが行われた作品を選ぶことができた.そうした試みが敷衍化され,定着することによって,これからの医療・福祉建築の模範になるものと期待している.本稿では,このうちから,医療施設4作品について紹介したい.
 なお,選考委員は昨年度と同様,池田俊也(国際医療福祉大学),石井敏(東北工業大学),鶴田惠子(聖隷クリストファー大学),松村正人(大成建設),鷲見圭司(足利赤十字病院),渡部和生(惟建築計画)と山下哲郎(工学院大学・筆者)の7名である.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・16

地域医療構想をどのように具体化するのか(1)

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.630 - P.634

■はじめに
 2016(平成28)年度に47都道府県全ての地域医療構想が策定され,2017(平成29)年度からは地域医療計画,介護保険事業(支援)計画との整合性を考慮しながら,地域医療構想調整会議(以下,調整会議)でその具体化を図っていくことになる.
 しかし現在,調整会議の運営方法について戸惑っている都道府県や医師会関係者・病院関係者が多いと聞く.地域医療構想における病床機能別病床数の推計を行った研究者として,その後の議論のあり方についても一定の見解を示すことがその責任であると考えている.そこで,これから連載3回にわたって,地域医療構想をどのように具体化するかについて,筆者がお手伝いをさせていただいている福岡県地域医療構想の検討プロセスを例にとって検討してみたい.

病院勤務者のためのDPCデータ解析入門(番外編)・2

—病院経営陣とのコミュニケーションのためのレポート作成(2)—Qlik Sense®を使ったレポート作成

著者: 本野勝己 ,   村上玄樹

ページ範囲:P.635 - P.640

■はじめに
 前回に引き続き今回も,本誌2016年4月号〜2017年3月号に連載した「病院勤務者のためのDPCデータ解析入門」の番外編として,「病院経営陣とのコミュニケーションのためのレポート作成」について紹介する.今回は,前回加工したDPCデータをQlik Senseを用いて診療報酬算定の収入部分についての月報を作成する.

医療と法の潮流を読む・3

なぜ診療ガイドラインが裁判に用いられるのか

著者: 小谷昌子 ,   宇都木伸 ,   三木知博

ページ範囲:P.641 - P.645

■診療ガイドラインには従わなければならないのか
 医師や医療機関が患者から医療過誤があったとして損害賠償を求められ,訴訟となったとき,診療ガイドラインを根拠として医師の過失が肯定される例が近年みられる.これに対して,診療ガイドラインは個々の患者に適用できない場合があったり,内容が古くなってしまっているガイドラインも存在したりする,場合によってはガイドライン間で矛盾もみられるのが現実なのに,従わないからといって法的責任を負わされるのは不当だという声がしばしば聞こえてくる.また,医師をはじめとした医療スタッフがガイドラインと異なる処置をすることについて医療機関としてはどのように対処すればよいのかといった戸惑いもあるように思われる.
 診療ガイドラインは,「科学的根拠に基づき,系統的な手法により作成された推奨を含む文書」「患者と医療者を支援する目的で作成されており,臨床現場における意思決定の際に判定材料の一つとして利用することができ」るものと定義・説明注1される文書であり,医師の裁量を制限するものでも,その指針に従い医療を実施する法的義務を医療従事者に課す目的で作成されるものでもないとされる注2
 それではなぜ,種々の診療ガイドラインが訴訟で参照されることになるのだろうか.今回は,訴訟における法の論理について解説してみたい.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!—病院と地域のかかわりを学ぶ旅・[16]

兵庫県明石市

著者: 譜久山剛

ページ範囲:P.646 - P.649

 瀬戸内海に面した兵庫県南部・明石市では,このたび地域に開かれた,ただ単に医療を提供するだけではない病院がオープンしました! 連載第16回目の今回は,コミュニティの中で病院がどこまで地域に溶け込めるかを追究し,スタッフ・地域の総意として「また来てね」と言える病院を目指している,医療法人社団医仁会ふくやま病院の取り組みを紹介するね! 地域に開かれた病院の構想を打ち出した,譜久山剛理事長にお話を聞きました!

特別記事

医薬品政策をめぐる国際動向と政策決定プロセスの変化

著者: 小野崎耕平

ページ範囲:P.625 - P.629

■はじめに
 わが国では,高齢化の進展と人口減少という大きな人口構造の変化に伴い,医療ニーズは引き続き増加・多様化し,必要となるリソースもさらに増大するものと予想されている1).医療支出増加の主要因は高齢化と医療技術の進歩であるが,技術進歩とそれに伴う医療費の増大に関連して,近年とりわけ注目を集めているのが医薬品である.
 「高額医薬品のコストを社会は負担することができるのか」「医療のイノベーションと財政の持続可能性をいかに両立するか」という問いは世界共通課題ともいえる.
 本稿では,世界各国およびわが国における医薬品価格を中心とする医薬品政策をめぐる動向,その背景にある政策決定プロセスの変化について概観する.

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基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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