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雑誌目次

雑誌文献

病院77巻3号

2018年03月発行

雑誌目次

特集 地域とともに進化する中小病院

巻頭言

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.195 - P.195

 つい最近まで,高度急性期医療を提供できる大病院だけが生き残り,「中小病院の役割は終わった」と言われていた.果たしてそれは真実か,というのが本特集の主題である.
 最初に結論を述べる.「中小病院こそ地域密着型の病院として地域包括ケアシステムを支え,日本の医療の大事な役割を担う」のである.では,そのために何をすべきか.

これからの中小病院の経営を考えるための地域軸・提供医療軸による分類

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.196 - P.201

●中小病院の経営戦略を考える上で主要な軸を2つ選ぶとするなら「地域軸」と「提供医療軸」である.
●地域軸の大都市に属する病院は「急増する高齢者」への対応.過疎地の病院は「人口減少」への対応が重要である.
●中小病院が「とことん型医療」を行うならば専門特化した部門を作ること,「まあまあ型医療」を行うには徹底した地域連携が必要である.

かかりつけ医,医師会と連携して生活を支える病院を目指す

著者: 鈴木邦彦

ページ範囲:P.202 - P.209

●地域包括ケアシステムを構築するためには,かかりつけ医,医師会とともに地域密着型の中小病院が必要である.
●地域包括ケアを支援する中小病院は,その人的資源を地域や医師会に開放しなければならない.
●地域包括ケアシステムの構築は,平成30年度の診療報酬・介護報酬同時改定を経て,医療と介護の連携から次の段階であるまちづくりへと進化させる必要がある.
●まちづくりを実現するためには,中小病院はかかりつけ医,医師会と連携しながら,医療,介護だけでなく生活を支える活動を展開する必要がある.
●少子化対策を含む全世代・全対象型地域包括ケアによって若年層に明るい未来を示すことが求められている.

人口減少社会において小病院が生き残るためには—保健・医療・福祉複合体としてのまちづくりと多角的連携の実践

著者: 黒澤一也

ページ範囲:P.210 - P.215

●当院は83床の小病院で,現在まで保健・医療・福祉の複合体としてさまざまな事業を展開してきた.しかし,時代の流れとともに法人全体の事業は整理縮小してきている.医療においては地域の医療情勢の変化とともに救急・手術件数が増加し,さらに新病院建て替えとともに患者数も増加し,近隣の医療機関・介護施設との連携強化,退院支援の強化などにより,療養病棟を地域包括ケア病棟に転換し経営の改善・安定を図っている.
●平成29(2017)年4月にJR小海線中込駅前に移転した新病院は,建物内に地元公民館が併設され市に貸与する形で運営されており,公民館や駅前に人が集まることが期待され,旧病院跡地とその周辺の再開発と周辺商店街の活性化により地域包括ケアシステムの拠点になることを視野に入れている.
●人口減少社会に向けて,当院のような小病院が生き残るために,まちづくりと多角的連携に取り組んでいる.

良い病院は地域を変える—地域密着型中小病院の新しいモデルを目指して

著者: 三島秀康

ページ範囲:P.216 - P.221

●医療需要が増大する時期に設立された医療法人は,時の流れに乗り大きくなっていった.
●医療界の成長が頭打ちになった時,新しい環境への適応が必要となった.
●地域密着型中小病院のあるべき姿として,地域完結型医療の中で確固たる地位を築き,地域のインフラとなっていることを目指した.
●将来の医療需要が減少する環境においても生き残るためには,柔軟に対応できる組織を作っておく必要がある.

認知症疾患治療センターの役割を担い,認知症ケアを積極的に進める

著者: 田中志子

ページ範囲:P.222 - P.227

●父が開設した19床の診療所を認知症疾患医療センターに発展させた.一貫して変わらないのは,この地域への思い.幼い子どもたちが年老いてもずっとこの地で安心して暮らしていけるような地域づくりを今後も推進していく.
●20数年にわたる認知症ケアの取り組みを通じて,当法人グループの活動は広がりを続けている.障害者の支援,学童保育に注力するほか,デイケア利用者との畑仕事やリンゴの収穫などにボランティアが多く参加.近隣住民を巻き込んだ「ミニ地域包括ケアシステム」を展開している.
●原点は,この地域への思い.そして,ふるさとへの愛である.若者や高齢者が活躍できる場を増やし,魅力ある地域にしていくために,医療的な支援だけではなく福祉的な支援にも取り組む.医療・介護・福祉を一体化した「地域完結型」がいま求められている.

ケアミックス型で急性期から在宅医療まで多様なニーズに応える

著者: 入江興四郎

ページ範囲:P.228 - P.232

●当院の総合診療科医は,救急搬送患者の初期対応,外来診察,入院患者の主治医,訪問診療,さらには研修医の受け入れと指導を行うだけでなく,臓器別専門医の隙間を埋める役割を担っている.
●急性期〜慢性期医療と在宅医療を高いレベルで提供できる病院となり,病病連携,病診連携,医療介護連携の中核を担うことを目指している.
●人材確保については,医師・看護師・介護職の採用について当院の取り組みを紹介する.

対談

地域から頼られる病院という道を選ぶ

著者: 織田正道 ,   今村英仁

ページ範囲:P.177 - P.182

111床ならではの地域との距離感や機動力を生かし,退院後の訪問診療やICTの医療連携への導入など,先駆的な取り組みを発信し続ける織田病院.
地域とともに進化する中小病院のあり方を探る.

連載 Graph

医療的ケア児と家族の暮らしをサポートする—国立成育医療研究センター 医療型短期入所施設 もみじの家

ページ範囲:P.183 - P.185

 2016年春,国立成育医療研究センターが敷地内に開設した「もみじの家」は,自宅で人工呼吸器や経管栄養などのケアを受ける「医療的ケア児」とその家族のための医療型短期入所施設である.滞在中,家族は子どもと共に過ごすことも,外出することも自由に選択できる.重症度を問わず受け入れる方針で,利用できるのは月に約60家族だが,申し込みが常に上回り,ニーズを受け止めきれない状況が続いている.

アーキテクチャー×マネジメント・39

のぞえ総合心療病院

著者: 安川智

ページ範囲:P.186 - P.191

■田園地域に佇むリゾートホテルのような精神科病院
 のぞえ総合心療病院を訪れたのは,大型台風が通過した翌日,色付き始めた木々がより美しく映える晴れた日であった.
 敷地出入口からは建物を窺うことはできず,小高い丘の中腹あたりでようやく建物の外観が現れる.丘の斜面に自然に沿うように,なだらかにセットバックした3階建ての建物は,リゾートホテルのようであり,医療福祉建築賞(2008年)の受賞から約10年を経過した今でも,佇まいは美しく,寧ろ成長を重ねた樹木によって周囲の自然と建物がより溶け込んだ印象であった(図1).

医療管理 原点からの展望・3

病院の経営改革

著者: 池上直己

ページ範囲:P.233 - P.239

 病院の経営改革の成功例として国立病院機構をはじめ1),多くの報告がなされている2, 3).しかし,事例から成功要因を見出し,それを普遍化するのは難しい.そのうえ一時成功しても,経営は常に悪化する可能性がある.ちなみに,300万部以上売れた『エクセレント・カンパニー』に登場した企業の多くは,その後衰退している4, 5).以上の観点から,筆者は事例によってではなく,理論に基づいて経営改革の課題を整理する.
 まず,業務の捉え方を変えれば,組織を改革できるというMintzbergの理論を紹介する6).次に,同理論を病院に当てはめ,クリニカル・パスなどの管理手法を導入して効率化する可能性を検討する.次に,病院の職員が組織の文化を共有することで,患者の満足度が高まる可能性を示唆する調査結果を紹介する.最後に,病院が直面する課題と対応の方法を病院の類型ごとに提示する.

事例から探る地域医療再生のカギ・20

宇和島徳洲会病院の経営改善

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.240 - P.245

■何が問題だったのか
厳しい経営環境に置かれる地方の中小病院
 愛媛県宇和島市は愛媛県の南部(南予地方)に位置する人口約7万7千人の都市.旧伊達藩の城下町で,南予地方の中心都市である.市内には,市立宇和島病院(435床),JCHO宇和島病院(199床),市立吉田病院(144床),市立津島病院(133床),そして宇和島徳洲会病院(300床)がある.
 宇和島徳洲会病院は,「生命(いのち)だけは平等だ」の理念の下,全国に71の病院,340の医療・介護の事業所を有する徳洲会グループに属している.2004年に開院し,現在,300床のうち273床で運用している(一般108,回復期リハ32,移植25,障害者54,医療療養54).病院としては,万波誠医師を中心とした泌尿器科の腎移植手術が有名で,2015年度までの生体腎移植件数が560件,修復腎移植(病気腎移植)の臨床研究が17件と,腎移植の実施件数としては全国4位の実績を誇る.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・8

社会医療法人抱生会 丸の内病院—病院の強みを生かした在宅サービスの展開

著者: 関悠希

ページ範囲:P.246 - P.250

 今や,病院が在宅サービスを行うことは珍しくない.本稿で取り上げる丸の内病院(長野県松本市.以下,同院)の在宅サービスが特徴的なのは,複合型施設によるシームレスなサービス提供と小児訪問看護により,他の在宅サービスとは差別化されている点である.サービス付き高齢者向け住宅(以下,サ高住)と小規模多機能型居宅介護(以下,小規模多機能)を含む複合型施設注1は,構想時点で松本市には事例がなく,同施設が先駆け的な存在となった.また,小児訪問看護は,母体となる病院において小児医療の実績がないとリスク対応が難しく,現在も担い手が少ない.
 複合型施設の開設から7年.現在,サ高住は満室,リハビリ専門デイサービスは利用率85%[ちなみに,一般型デイサービスの利用率は約7割(福祉医療機構のデータによる2016年度実績)],小規模多機能は宿泊室も満室のことが多く,順調に稼働している.さらに2017年には地域ニーズに応えるため,地域密着型特定入居者生活介護を病院の1km圏内に開設し,これも即時満室となった.在宅サービスは参入障壁が低く,競争が激化している地域もあるが,同院ではニーズが充足されていない領域を担っていった結果,他の事業所との差別化につながり,経営的にも成功した.

医療と法の潮流を読む・10

臨床現場での研究と被験者保護—近年の法制化と残された課題

著者: 井上悠輔 ,   宇都木伸 ,   三木知博

ページ範囲:P.251 - P.256

 従来,基礎研究への傾斜が強いといわれてきた日本でも,成果の社会還元を促す観点から,臨床での医学研究に各種の振興策が打たれるようになった.一方,産学連携における利益相反や研究不正をめぐる問題が世間の耳目を引き,規制のあり方が検討されている.本稿では,こうした動きに対応して2018年度から施行される「臨床研究法」を含め,臨床での研究活動をめぐる諸制度を振り返り,今後の展望や課題を共有する.

多文化社会NIPPONの医療・6

「医療通訳」とその最適化

著者: 堀成美

ページ範囲:P.258 - P.259

 医療機関が外国人患者の受け入れ体制整備を始めてすぐに直面するのがコミュニケーション=「通訳」の問題である.日本人の医師と患者で病気や治療の話をしても,100%通じ合えるわけではない.夫婦や親子であっても誤解や勘違いが起こりうる.一方で命や健康を扱う医療の現場では,誠意を尽くして正確な説明を心がけ,「質問はないですか?」と確認をしたとしても「十分に説明責任を果たしたのか?」と問われることがある.このような時代に,日本語がわからない患者にはどのように対応すれば,安全と安心のための説明責任を果たしたことになるのだろうか.

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Book Review 日常診療に潜むクスリのリスク—臨床医のための薬物有害反応の知識

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.257 - P.257

Back Number

ページ範囲:P.260 - P.260

Information

ページ範囲:P.261 - P.261

次号予告

ページ範囲:P.264 - P.264

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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