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雑誌目次

雑誌文献

病院77巻4号

2018年04月発行

雑誌目次

特集 病院が直面する「すでに起こった未来」

巻頭言

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.283 - P.283

 少子高齢化の進行は傷病構造を変え,そして社会環境の変化や医療技術の進歩も相まって患者の受療行動を変化させる.日常生活で携帯端末を用いることが当たり前の状況になり,その使用方法もかつての閲覧中心のものから,SNSで見知らぬ者同士がネット上でつながる,Uberで配車予約を行うといったコーディネーション機能が中心となっている.こうした社会認識の変化により,ICTを活用した遠隔診断やチーム医療の提供が加速しつつある.本特集の小阪論文では,自治体レベルでICTの活用に積極的に取り組んできた島根県の事例「まめネット」が紹介されている.
 超高齢社会では多くの者が何らかの障害を持って生きていくことになる.失われた機能をロボット技術を活用することで補い,障害者の自立に資するものにしようという期待が高まっている.しかしながら,陳論文では,そのために克服されなければならない課題が冷静に議論される.「個々人の残存能力を適度に引き出してくれる程度のロボットが,本来リハビリには必要」という指摘は重要である.

わが国のこれからの社会経済環境の変化と医療の課題

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.284 - P.288

●今後,わが国では人口構成の変化に伴い,医療需要の構造が大きく変化する.
●また,外国人労働者の増加に対応した医療提供体制の整備も必要である.
●上記のような環境下で医療サービスの効率性を向上させるために,インダストリー4.0的な情報改革が必要になる.

超高齢社会に対応した医療機関を中核とするCCRCの展開

著者: 馬場園明

ページ範囲:P.289 - P.293

●超高齢化が進行し,社会保障制度の維持が憂慮されるなか,政府は,「地域包括ケアシステム」の構築を進めている.一方,医療機関と関係する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの高齢者住宅は増加してきたが,その多くは地域包括ケアで必要とされる機能を備えてはいない.
●筆者は,米国のCCRCにヒントを得て,複合拠点を中心として高齢者に生活支援・予防・医療・介護を統合した包括的なサービスを提供する「日本型CCRC」が地域包括システムの核となりうるとしてきた1).本稿では,医療機関が展開できる「日本型CCRC」の可能性について解説したい.

大学病院を中核とした地域医療連携推進法人「尾三会」の目指すもの

著者: 湯澤由紀夫

ページ範囲:P.294 - P.299

●大学病院も参加する地域医療連携推進法人「尾三会」が2017年4月2日に発足した.
●尾三会は,急性期医療から介護までのきめ細かな地域連携を目指し,在宅医療・介護を含めた地域住民の安心につながる新しい医療・ケアモデルの広域展開を考えている.
●また,大学病院が参加することにより,連携区域内での幅広い医療人の育成が可能となり,時代の要請に応える未来型の医療・介護サービス連携の多面的発展を目指している.

ICTを用いた離島支援と地域医療連携—しまね医療情報ネットワーク(まめネット)の試み

著者: 小阪真二

ページ範囲:P.300 - P.304

●島根県では1998年の遠隔画像読影支援事業を皮切りに地域医療におけるICT化実証実験を積み重ね,地域医療におけるICT化を推進してきた.2013年に地域医療再生基金を利用して診療情報共有の仕組みを強化し,しまね医療情報ネットワーク(まめネット)としてリニューアルした.
●まめネットは利用料,患者同意の考え方などを工夫し,簡便に地域で患者診療情報共有を行える仕組みを構築,利用権限を多職種に広げ,また在宅ケア支援サービスを追加することにより,地域包括ケアの現場で利用価値の高いネットワークを目指し,病診連携から地域包括ケアまでを幅広くカバーする医療情報ネットワークとして運営している.

ロボットリハビリテーションの可能性

著者: 陳隆明

ページ範囲:P.305 - P.309

●筆者らは,全国に先駆けて最先端ロボットテクノロジーを駆使したリハビリテーションを実践している.そのために,臨床実践と工学研究開発の機能を併せもつロボットリハビリテーションセンターを2011年に設立した.
●リハビリの現場で役立つロボットの代表は人間装着型ロボットである.しかし,機器運用マニュアルの未整備や財政的な問題が今後の課題である.

外国人居住者に対する医療提供のあり方

著者: 小林幹男 ,   茂木寛

ページ範囲:P.310 - P.315

●伊勢崎市は外国人数が県内1位,全国で30位と,多数の外国人が居住する圏域である.伊勢崎市民病院における平成28年度の外国人受診者数の割合は,外来で4.0%,入院で2.2%,分娩数で10.6%を占め,年々増加傾向にある.
●外国人患者に対する医療サポートは言語サービスが中心であり,群馬県のNPO法人に医療通訳を依頼し,タブレットの通訳機能やアプリによる対応なども実施している.外国人受診者の健康保険加入率は96.4%と高いが,外来受診者の未収金は過去3年で平均約10%強と,入院と共に未納率は高かった.
●外国人に対しても日本人と同等の生活環境を設定することで,医療受診体制が向上することが示唆された.

対談

医療の“情報爆発”にどう対応するか

著者: 堀口裕正 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.265 - P.270

医療・介護の「見える化」が進みつつある.
医療と介護の統合によって,病院には患者一人一人をコーディネートする機能が求められる.
一方,「見える化」を加速化させた技術の進歩は,ヘルスケア情報の爆発をもたらそうとしている.
この未来に病院はどう対応すべきかを問う.

研究

病院臨床研究推進のための研究倫理教育研修受講に関する分析

著者: 延命吉世子 ,   佐藤栄梨 ,   岡田靖

ページ範囲:P.316 - P.321

要旨
 臨床研究の倫理指針において,研究者および臨床研究に携わる医療従事者は研究倫理教育研修の受講が推奨されている.当院は高度総合急性期施設として医師・メディカルスタッフ全員参加型の臨床研究を目指し,2014年度からeラーニング研修受講を義務化した.4年間にわたる受講者の修了率,未受講・遅延の要因および効果的支援について分析した.受講者は145名から505名(医師割合は51〜66%)に増加し,受講修了率は初年度97%,以後は100%を達成した.医師に比較し,臨床研究コーディネーター・放射線部・臨床検査科のeラーニング受講者は早期に修了していた.受講必須の組織風土の醸成と研究者の意識向上,研究事務局による受講支援体制の整備と達成状況の周知,事務局と倫理審査委員会との連携などが受講修了完全達成に有効であった.大規模急性期病院において,臨床研究倫理講習の徹底は臨床研究の質,ひいては病院の医療の質をも向上させる可能性がある.

連載 Graph

よろこびあふれるまちづくり—医療法人博仁会 志村大宮病院

ページ範囲:P.271 - P.273

■地域包括ケアのその先へ
 志村フロイデグループ(SFG)の中核を担う志村大宮病院は,この地域へ公的急性期病院が誘致された際に機能分化を迫られた.急性期以降の患者を引き受ける方向へ舵を切り,リハビリテーション・緩和ケア・認知症ケアを3本柱として地域住民の安心を支えている.
 1996年志村大宮病院院長,1998年医療法人博仁会理事長に就任した鈴木邦彦氏は,日本医師会常任理事の立場で3期6年を務めた中医協委員を退任する際,「地域の医療と介護を支援する病院が必要だ」と提言し,それが2018年度の改定で「地域包括ケア病棟入院料」へと結実した.同時改定により,制度上の医療と介護の連携は進むだろう.しかし,はたしてそれだけで高齢者の生活を支える病院となれるだろうか.

アーキテクチャー×マネジメント・40

名古屋大学医学部附属病院

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.274 - P.279

■はじめに
 国立大学法人附属病院の場合,毎年度の概算要求で建物の整備を計画するので,長期的な視点で作成されるマスタープラン(以下,MP)を持つことが必須になる.本稿では,筆者が関わった,名古屋大学医学部附属病院のMP作り(2001年作成)と,その後の現在に至る実際の使われ方,そして将来に向けた問題や課題,に焦点を絞って考えてみたい.
 本題に入る前に,MP作成の背景に触れておきたい.名古屋大学医学部附属病院では,主に老朽化の解消が主眼であったが,その以前に作成されたMPでは,中央診療棟をⅡ期・2棟の計画となっていたものを,「可能な限り早く建設して使用したい」という医療者の強い希望があり,Ⅰ期で1棟計画に変更した.また当時は,研究成果を実用の段階に移すための施設(トランスレーショナル・リサーチセンター)も,中央診療棟の中に整備しようという思惑もあったが,概算要求という手続きを踏むわけなので,思惑通りに建設の時期が決められず,段階や手順を示す程度の計画にならざるを得なかった.また,エネルギーセンターや病棟などの既存施設が存在し,それらを長期間使い続けることを前提に,その途中段階(完成した姿というものが存在しない)での完結性が求められること,さらには教育・研究施設との共存を前提としていたことなどを,あらかじめ弁解しておきたい.

医療管理 原点からの展望・4

人事管理

著者: 池上直己

ページ範囲:P.322 - P.328

 人事管理の基本課題は,従業員の意欲の維持・向上と,人件費の抑制である.しかし,賃金を上げれば従業員の意欲は向上し,定着するが,人件費は増える.一方,賃金を上げなければ人件費は抑制されるが,意欲は低下し,有能な人材が離職する可能性は高まる.この難問に対して,まず人事管理の発展の足跡を辿り,次に医療の特殊性を踏まえて医師,看護職,事務職における課題を分析し,それぞれにおいて一般的管理技能(general management skill)を修得する可能性について述べる.最後に医師,看護職,事務職の人事管理上の留意点についてそれぞれまとめる.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・22

医師の働き方改革が医療提供体制に及ぼす影響

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.329 - P.332

■はじめに
 平成30(2018)年度は医療と介護の同時改革の年である.診療報酬改定の基本的指針として,地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化・連携の推進,ICTの活用,成果に応じた支払い,医療従事者の負担軽減・働き方改革の推進などが示され,それに沿った改定が行われた.7対1および10対1の一般病棟入院基本料は急性期一般入院基本料に再編され,従来の7対1と10対1の間に急性期の患者割合によって7段階の入院料が設定された.13対1および15対1の一般病棟入院基本料は地域一般入院基本料に再編され,3段階の入院料となった.さらに地域包括ケア病棟入院料・入院管理料については自宅等からの患者受け入れを行う施設に高い点数が設定されている.これらの点数設定により,地域医療構想で目指されている回復期・亜急性期(軽度急性期)を担う病床の増加が加速すると考えられる.加えて,医療施設間・医療と介護間の連携がさらに評価されるようになったことも機能分化を進める方向で作用するだろう.
 以上のような診療報酬による誘導は今後それなりの効果を持つであろうが,加えて,医師の働き方改革が医療提供体制のあり方に大きな影響を及ぼすようになるであろう.今回は,わが国に先んじて医師の働き方改革を行ったフランスの例を参考としながら,医師の働き方改革が医療提供体制に及ぼす影響について私見を述べてみたい.

医療と法の潮流を読む・11

残された課題—意思決定を中心に

著者: 小西知世 ,   宇都木伸 ,   三木知博

ページ範囲:P.333 - P.336

 「こうしてぼくたちは,絶えず過去へ過去へと運び去られながらも,流れにさからう舟のように,力のかぎり漕ぎ進んでゆく」1)—フィツジェラルド『グレート・ギャツビー』のラストを飾るこの一節は,おそらく,この連載の執筆者・読者双方に共通する心象風景だろう.たった1年の連載期間中にも,医療法が改正されたり,「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が大改訂されるなどのことが起こった.今日の医療と法の潮流は,あたかも濁流のごとき激しく厳しく底が見えないものとなっており,私たちは,日々,この潮流に呑み込まれ翻弄されている.流れるがままに身を任せてしまう方が楽なことはよく知っている.にもかかわらず,医の側に立つ者であるか法の側に立つ者であるかに関係なく,自らが置かれた立場・責任,そして矜恃に従い目指すべき港を定め進んでいかなければならない…….
 振り返ってみれば,この連載の真の目的は,医療に関わる者は皆,今という時代は力のかぎり漕ぎ進まなければならない状況にあることを,あらためて確認することにあったのかもしれない.そしてその確認作業も,あと2回を残すのみとなった.今回は,本連載のこれまでの回で採り上げることができなかったテーマをごく簡単に指摘した上で,至急,対応が必要になると思われる意思決定に関する問題について,少し考えてみようと思う.

多文化社会NIPPONの医療・7

異文化研修の落としどころ—ゴールは共感や理解ではない

著者: 堀成美

ページ範囲:P.338 - P.339

 外国人患者の受け入れ体制の整備を始めた医療機関の課題の一つに,職員研修がある.テーマの一つに「異文化」があり,「職員に何を学んでもらえばいいでしょう?」という問い合わせがある.このテーマでの研修自体が初めてであったり,医療職の養成課程でも学んだことがない人の方が多いのが現状だ.
 多忙な医療現場でわざわざ開催するのだから,「○○を知る」といった教養セミナーのような企画ではダメなことは皆さんにもご理解いただけるだろう.内容は現場に役立つものでなければならない.「共感する・寄り添う」も研修のゴールではない.相談があったときは次のような研修を企画するよう提案している.

赤ふん坊やの地域ケア最前線!—病院と地域のかかわりを学ぶ旅・[20]

山梨県山梨市

著者: 古屋聡

ページ範囲:P.340 - P.343

 山梨県山梨市では,とある事例での食支援をきっかけとして,職種や地域の枠を超えた食支援の動きを広め,全国的な研究会に発展させて,人の権利や幸福に貢献することを通じて,地域の連携ネットワークを広げている病院があるんだ!連載第20回目の今回は,在宅医療から震災支援,研究会コーディネートまで幅広く手掛ける,山梨市立牧丘病院の古屋聡先生にお話を聞きました!

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目次

ページ範囲:P.280 - P.281

Book Review ポケット医学英和辞典 第3版

著者: 冨岡洋海

ページ範囲:P.345 - P.345

Back Number

ページ範囲:P.346 - P.346

Information

ページ範囲:P.347 - P.347

次号予告

ページ範囲:P.350 - P.350

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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