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雑誌目次

雑誌文献

病院77巻5号

2018年05月発行

雑誌目次

特集 看護職のタスクシフト・タスクシェア

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.369 - P.369

 超高齢社会に伴う医療需要の量的拡大とともに,患者の価値観の変化が起きようとしている.これまでの医療者目線の標準的な治療から,患者や家族の価値観に応じた「個」への対応が求められ,その治療法や生き方,死に方の選択が多様化してきた.一方,新しい知見の蓄積や医療技術の進歩もとどまるところを知らない.
 新たな「量と多様性の時代」へ医療従事者が個人で対応するのは不可能であり,総力戦としてのチーム医療の充実は必須となろう.他方,職種の細分化が進み,さらには組織の中で「認定」や「専門」など高度化・専門分化していく.それぞれがどのように立ち振る舞うことで,患者の益を生むチーム医療が構築されるのであろうか.

チーム医療における看護職の役割—特定行為に係る看護師の研修制度を中心に

著者: 島田陽子 ,   後藤友美

ページ範囲:P.370 - P.375

●医療ニーズがますます高まり,チーム医療のいっそうの推進が重要となる中で,チーム医療のキーパーソンである看護師が,急性期や慢性期,在宅医療などのさまざまな場で,患者の状態を自律的に判断し,より安全かつタイムリーに患者に必要な医療を提供し,患者を治療と生活の両面から支えるなど,広く活躍することが期待されている.
●特定行為に係る看護師の研修制度は,看護師のこのような実践能力を育成する仕組みの一つであり,チーム医療のキーパーソンとして期待に応えられる看護師が一人でも多く育成されるよう,本制度を推進していきたい.

認定看護師制度の再構築—チーム医療のキーパーソンとしてさらなる役割発揮への期待

著者: 荒木暁子

ページ範囲:P.376 - P.381

●日本看護協会は,2025年へ向けて疾病構造や医療提供体制の変化を踏まえ,認定看護師にさらなる役割を期待し,認定看護師制度の再構築を行い,2020年度から新たな制度による教育を開始する.
●新たな認定看護師教育には特定行為研修を組み込むことにより,認定看護師の臨床推論力,病態判断力をさらに強化し,状態悪化時の早期対応が可能となる.さらに,重症化の予防や症状改善を進めることができることから,あらゆる場所での療養生活の維持およびQOLの向上が可能となり,チーム医療のキーパーソンとしての役割を発揮できることを期待する.

チーム医療における看護職の業務の明確化—実態調査を踏まえた看護師から他職種へのタスクシフト・タスクシェアの可能性

著者: 望月泉

ページ範囲:P.382 - P.386

●日本病院会「平成27年度 看護業務の役割分担に関する実態調査」の結果を踏まえて,看護業務の他職種への委譲・協働について考察した.
●病棟における多くの業務(環境整備,清潔ケア,排泄ケア,入院時の対応など)が,すでに看護業務補助者へ委譲・協働されつつある.
●業務によっては臨床工学技士や検査技師,薬剤師など少ない人数の職種への委譲・協働が望まれるが,雇用面での難しさ,他職種が新たな役割拡大を行う場合の人材確保など育成の課題は多い.また,新たな人材活用が診療報酬で評価されるようになることを望む.
●役割分担は質が担保され,向上につながることが前提であり,看護師でなくてはならない業務の明確化,責任の範囲の明確化が必要で,看護業務補助者に委譲した場合,看護師が責任を持つ体制も大切である.

地域の看護職をエンパワメントするために—中小病院の挑戦

著者: 横倉義典

ページ範囲:P.388 - P.392

●地域包括ケアシステムによる医療・介護の連携と医療提供体制の変革期において,医療の担い手として地域密着を目指す中小病院に求められる立場の見直しと人口減少を乗り切るための体制づくりに挑戦している.
●看護師の育成に対する地域の期待に応え,地域密着型病院を支える看護職を支援するための教育体制の検討と看護師の特定行為研修を利用した教育システムの構築を目指している.

急性期病院における特定行為研修修了看護師の活躍の可能性

著者: 星北斗

ページ範囲:P.393 - P.397

●看護師の資質の向上とキャリアパスの多様化・魅力化のため,当院では特定行為に係る看護師の研修制度に取り組む前から,専門看護師・認定看護師の活用や看護管理者研修修了者の戦略的育成と配置などを行ってきた.
●当院が特定行為指定研修機関を取得した主な理由は,地域への貢献と地域看護力の向上と均てん化である.この研修制度が地域医療,とりわけ在宅へのシフトを促し,看護師が自信と誇りを持って働き続けられる環境となることを心から望む.

病院と在宅医療における看護師のタスクシフト・タスクシェア—特定行為に係る看護師の研修受講者の立場から

著者: 北川智美

ページ範囲:P.398 - P.401

●当院では,急性期病院からの退院が困難である患者の医療的な支援をすることにより患者が在宅療養できるのではないか,また24時間訪問診療を行っている診療所が少ない医療圏であることから地域医療支援にもなるのではないかと考え,在宅診療科を設置した.
●在宅医療を国は推進しており,看護もそれに伴い変化が必要となる.なかでも,医師が常駐しない在宅の現場で必要とされる特定行為を行える看護師の育成は,医療現場と暮らしをつなぐ看護の強みとなるだろう.

対談

これからのチーム医療とタスクシフト・タスクシェア

著者: 永井良三 ,   神野正博

ページ範囲:P.351 - P.356

これからのチーム医療を推進するに当たり不可避とされるタスクシフト・タスクシェア.
はたして人口減少時代の切り札となるのか,医療の質向上につながるのか,病院管理のイノベーターが語る.

特別記事

遠隔での死亡診断の実際と課題—「通信情報機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」を中心に

著者: 大澤資樹

ページ範囲:P.404 - P.407

■はじめに:遠隔死亡診断の背景
 超高齢社会を迎えようとしているわが国だが,その時代は多死社会でもある.現在年間130万人の死亡者は今後も増え続け,2040年頃に160万人台でピークに達すると推定されており,看取りの体制整備は早急に取り組まなければならない課題である.平成24(2012)年に厚生労働省(以下,厚労省)「在宅医療の体制構築に係る指針」として,退院支援,日常の療養生活支援,急変時の対応,看取りの4項目についてまとめられ,「住み慣れた自宅や介護施設等,患者が望む場所での看取りの実施」が方向付けられた.1950年代には,8割の人々が自宅で臨終を迎え,病院では1割足らずに過ぎなかったものが,50年後の2000年代になると8割を超える人が病院で死を迎えるようになった.これを自宅や老人保健施設,老人ホームでの臨終に変えてゆこうとする取り組みが始まっている.
 そこで問題となるのが,医師が不在の場合の死亡診断である.特に,離島や過疎の進行した地域では,医師による直接診察に時間がかかり,死亡診断の目的だけで不必要な救急搬送があったり,亡くなった患者を長時間放置せざるを得なかったりと,家族や地域に大きな負担を強いているのが現状である.平成28(2016)年度の規制改革推進会議で閣議決定された健康・医療分野「在宅での看取りにおける規制の見直し」では,5要件を満たせば,看護師の補助のもと遠隔での死亡診断を可能とした.それに沿うように「通信情報機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」1)(以下,ガイドライン)が2017年に策定されたので,本稿では適応と実際の手順,想定される問題点,さらに外国の例として英国の実情について紹介したい.

連載 Graph

患者本位のサービス創造で地域の「生きる」をデザインする—社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院

ページ範囲:P.357 - P.359

 社会医療法人董仙会恵寿総合病院は,2016年日本サービス大賞総務大臣賞受賞をはじめ,グッドキャリア企業アワード2017イノベーション賞受賞,健康経営優良法人2018(ホワイト500)認定と,その取り組みが医療の枠を越えて評価されている.

アーキテクチャー×マネジメント・41

社会福祉法人浴風会 浴風会病院

著者: 小林健一

ページ範囲:P.360 - P.365

■はじめに
 浴風会は,1923年の関東大震災で被災した高齢者を援護することを目的として,皇室からの御下賜金および一般義捐金を資金とし,内務省社会局により1925年に財団法人として設立された1).現在の京王井の頭線高井戸駅からほど近い場所に約9万m2の敷地を得,家庭寮を中心に54棟,延べ8,415m2を建設したのが始まりであった.
 浴風会は設立当初より,わが国の養老事業の模範的施設として,また老年医学の発祥として活動を行っていたが,1941年に太平洋戦争が始まると施設の大半が陸軍に接収され,事業は一時的に困難となった.終戦後の1946年に生活保護法に基づく保護施設として再生復興し,1952年には社会福祉法人へと改組されている.1963年の老人福祉法施行に伴い,老人福祉施設としての事業を展開し,さらに2000年の介護保険法施行を経て現在に至っている2)
 本稿では,社会福祉法人浴風会における今日の事業展開について触れつつ,法人内で医療施設がどのように整備・運営されてきたのかを概観したい.

医療管理 原点からの展望・5【最終回】

病床機能と医療連携

著者: 池上直己

ページ範囲:P.409 - P.417

 病床の機能は,法令と診療報酬で規定されており,その中で病院は自院に蓄積された技能と診療圏におけるニーズに対応して選んできた.これに対して,診療科は各医療機関の裁量で標榜してきたが,今後,医療連携を推進するには,連携先の提供する医療を補完する形で整理する必要がある.今回は,医療計画と診療報酬の変遷を分析した後,連携関係を強化するために病院が採るべき対応を解説する.

事例から探る地域医療再生のカギ・21

茨城県筑西・桜川地域の病院再編

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.418 - P.423

■何が問題だったのか
①医療崩壊に直面する2つの自治体病院
 茨城県筑西市・桜川市は,茨城県の県西部に位置し,北西部を栃木県と接する県境の自治体である.筑西市は2005年に旧下館市,旧関城町,旧明野町,旧協和町が合併した人口約10万人の市.桜川市は,2005年に旧岩瀬町,旧真壁町,旧大和村が合併した人口約4万人の市である.
 2つの市は,2つの自治体病院を運営している.一つは,筑西市に立地し,筑西市が設置する筑西市民病院(173床),もう一つは,桜川市に立地し,桜川市と筑西市が一部事務組合として設置する県西総合病院(303床)で,筑西・下妻保健医療圏における急性期医療を担っていた.しかし,2つの病院では,2004年の新医師臨床研修制度以降,医師の退職が相次ぐ.筑西市民病院は,2002年度末に非常勤を含み22.3人いた医師は,2007年度末13.5人(常勤6人)に半減,県西総合病院も,2002年度に非常勤を含み34.0人いた医師が,2007年度末には20.0人(常勤17人)まで減少する.医師数の急減で,救急を始めとする急性期医療が担えない状態となり,多くの患者がつくば保健医療圏や栃木県に流出していた.流出先の高次医療機関(筑波大学附属病院,筑波メディカルセンター病院,自治医科大学附属病院)からは,重篤な患者については受け入れるものの,初期から二次医療までの患者については,医療圏内で受診できる体制を整備することを強く求められていた.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・9

社会医療法人緑壮会 金田病院—人口減少地域における共存のための病院連携

著者: 関悠希

ページ範囲:P.425 - P.430

 地域医療構想では全国のほとんどの医療圏において,近い将来病床が過剰になることが推計されており,各地域では病床数や機能の適正化,地域医療連携推進法人といった医療機関の連携に向けた動きが見られるようになってきた.
 こうした動きが目立つようになったのはごく最近のことであるが,約40年も前から将来の人口減少を見越してダウンサイジングを段階的に実施し,地域医療連携推進法人の制度設計の際にも参考にされた地域連携を進めてきたのが,岡山県真庭市にある金田病院(以下,同院)である.

医療と法の潮流を読む・12【最終回】

—[鼎談]連載を振り返って—潮流を読む力を養うために

著者: 宇都木伸 ,   三木知博 ,   小西知世

ページ範囲:P.432 - P.437

■はじめに:激流に翻弄される医療
小西 最終回に当たり,本連載を法の立場から見守り続けてくださった宇都木伸先生と,医療の立場から見守り続けてくださった三木知博先生をお招きして,今,そしてこれからの医療と法の潮流の読み方を一緒に考えたいと思います.まず,宇都木先生に口火を切っていただきましょう.
宇都木 本連載で取り上げたあらゆる分野で,総合化が問題になっていると感じました.領域ごとのそれぞれの歩みを相関させ・総合しないと,どうにもならない時代に立ち至ったのだと思います.
 法律の動きも,まず「社会保障制度改革推進法」(2012年)で基本方針を定め,それに従って「社会保障改革プログラム法」(2013年)がつくられ,その施策の一部として「地域医療介護総合確保法」(2014年)がつくられてゆく.まさに総合的思考はすばらしいと思う一方で,危惧を抱きます.最初の方向付けは抽象性が高くて解釈の余地は広く問題点がよく見えないところがあるが,次々につくられてゆく具体的な各法の中で方針が具体化されて,初めて見えてくる側面がある.こういう状況の中では,現場の人は「現場の必要性」という観点にしっかりと立って,法制度の解釈の声を上げてゆく必要がある,と思うのです.
 例えば,上記の社会保障制度改革推進法第2条が挙げる基本的考え方4点は,すべて「費用」の問題でした.これを,本連載の中で疑問とされた諸点に照らしてみると,全体像が見えてくるところがある.もう一度,社会保障という経済制度の中での「医療」というものの位置づけから問い直してゆかないと,「なにか変だなー」と思いつつも,大きな流れに押し流されてしまう.
 この「変だなー」という「感覚」は,現場の人だからこそ抱くことができるものであって,これを生かしてゆくことは患者さんに対する専門家の責任であると思うんです.
小西 ありがとうございました.三木先生,いかがでしょう.
三木 宇都木先生から法の大きな流れについてお話がありましたが,超高齢社会を迎え,それに伴い医療もそのシステムが大きく変化してきています.私は臨床医として,問題がますます先鋭化し,例えば,本連載で取り上げたテーマの中では,医療と介護の関係とか,ガイドラインをめぐる問題とか,尊厳死の問題などは待ったなしの状況になっている気がします.
小西 どうもありがとうございました.
 さて,ここで本連載で何を取り上げてきたかを振り返ってみましょう.すると,「チーム医療」「医療安全」「医療政策」という3つのキーワードが浮上してくることがわかると思います(表1).

多文化社会NIPPONの医療・8

緊急帰国支援に備えよう

著者: 堀成美

ページ範囲:P.438 - P.439

 外国人患者の受け入れのためには,遠隔医療通訳の整備や未収金対策が重要であることは間違いないが,それは初期対応における課題である.実際に受け入れが始まり,患者数が増加するなかで医療機関は別の問題に直面する.それは,退院や転院の際の受け入れ先探し,そして期待通りには回復や治癒をしないケースへの対応である.遠隔医療通訳の契約などにかかる費用負担を決めている医療機関の方がまだ少数であるなか,地域の診療所や高齢者施設,訪問サービスなどの現場ではどうなのか.実態の把握も,医療連携としてどのような相互支援ができるのかの検討もこれからである.

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目次

ページ範囲:P.366 - P.367

Back Number

ページ範囲:P.440 - P.440

Information

ページ範囲:P.441 - P.441

次号予告

ページ範囲:P.444 - P.444

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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