ケースレポート
地域医療構想と民間病院・23
医療法人真正会 霞ヶ関南病院—地域との一体化を目指す病院戦略
著者:
松田晋哉
ページ範囲:P.500 - P.504
■はじめに
医療法人真正会霞ヶ関南病院のルーツは,1972年に現理事長の斉藤正身氏の父である斉藤正男氏がその開設に努力した川越市霞ヶ関中央病院(48床)である.その後,1977年に特別養護老人ホーム真寿園が設立され,霞ヶ関中央病院も1984年には200床の病院となった.1987年に霞ヶ関南病院(100床)が開設され,以後,同病院で急性期後の医療・介護機能強化が図られる.具体的には,在宅医療開始(1990年),訪問看護ステーション「やさしい手」開設(1994年),訪問看護ステーション「スマイル」開設(1998年),療養型病床(127床)認可(1998年),総合リハビリテーション施設認可(1998年),在宅介護支援センター「かすみ」開設(1999年),障害者等一般病棟(すみれ37床・ふじ41床)承認(2007年),通所介護「デイリビング」開設(2009年)というように,急性期後の医療・介護の複合体としての機能拡充が積極的に行われてきた.ここで注目されるのは,こうした機能の拡張が国の制度変更を後追いする形で行われたのではなく,真正会の利用者が生きがいをもって地域で生活していくために必要であるからという「想い」によって,国の制度に先駆けて行われてきたことである.
この点について斉藤理事長は「今は,入院だけでなく在宅も通所も含めて病院と長く付き合う時代で,ある意味でその人の生活の一部になっています.そのlifeやlivingが無機質なものであってはならないでしょう.病院もその人の生活の一部と考えることが必要なのです」と説明する.そして「良い病院とは患者さんが人間らしく生活することができ,一人一人と向き合うことを可能にする施設であり,人生に必要な3つの場所,『居場所,行く場所,座る場所』になっていることが必要であり,われわれはそれを利用者の方々のニーズに応える形で整備してきたのです」と強調する.
霞ヶ関南病院を運営する真正会が創設来40年以上にわたって掲げている理念は「老人にも明日がある」というものである.これは同法人の提供する医療サービスの原点に常に福祉の心を持とうというものである.そして,徹底的な地域志向・地域貢献と先駆性が目指されており,そのために職員がチームとして協働的に動くことが行動指針となっている.
この連載の目的の一つは,医療機関がまちづくりの中核として重要であること,そしてそうした試みのsocial businessとしての面白さを紹介することにある.本稿では,筆者より少し年上の斉藤理事長が,30代前半のころからこの分野の先駆者として創り上げてきた医療法人真正会および社会福祉法人真寿会の取り組みを紹介したい.