icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院78巻6号

2019年06月発行

雑誌目次

対談

地域に求められる病院とは

著者: 斉藤正身 ,   山田隆司

ページ範囲:P.389 - P.394

今,全国で“地域”は変貌を遂げている.
“地域の病院”もまた,変化を求められている.
霞ヶ関南病院は川越の地に根差し,地域の変化に柔軟に応えながら先駆的な取り組みを進めてきた.
斉藤正身理事長に,地域における病院の役割,そしてまちづくりへの思いを聞く.

特集 地域の健康を支える病院

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.407 - P.407

 現在,地域医療構想が進むなか,自治体ごとの地域包括ケアシステムの構築が急がれている.各病院はその中での役割を明確にし,全体として地域住民に質の高いサービスを提供できるよう求められている.高齢化が進むにつれ,完全な治癒や回復が望めない患者の割合は多くなる一方で,患者は完全な治癒・回復を期待している場合も少なくない.そのような状況下で,病院には,単に高い医療技術だけを売り物にして,定型的な治療やリハビリテーションを提供するのではなく,地域の実情を理解し,個々の患者・家族が満足できるようなサービス提供が求められている.
 これからの医療サービスは,疾病治療がゴールではなく,一定の疾病や障害を抱えた患者がいかに地域の中で平穏に暮らしていけるように調整するかが目標となろう.そのために病院は患者のみならず,患者の家族,地域のありようを理解している必要がある.病院は率先して地域に関わり,地域の健康を支える視点を持つことが必要となっている.

地域で病院が担う健康を支援する役割

著者: 馬場園明

ページ範囲:P.408 - P.412

●現在,わが国では,「病院完結型医療」から「地域完結型医療」への転換が進められている.病院スタッフは,ヘルスプロモーションやICFの考え方を理解し,健康は社会的な要因に影響を受けるというソーシャルデターミナントの問題にも対応していかなければならない.
●今後,病院に求められるのは,慢性疾患や障害をもつ患者に,医療・介護・予防・生活支援・福祉の部門が一体となったサービスを統合して提供する,主たる役割を負うことである.統合がうまくいけば,地域における医療のアクセス・質の改善,経済規模による効率化,情報や設備の共有,学習効果による改善によって,病院の持続可能性も高まるはずである.

自立生活を支える病院の地域づくり活動

著者: 浜村明徳

ページ範囲:P.413 - P.419

●自立生活には,フォーマルなサービスの提供だけでなく,地域とのつながりのある生活への支援が重要である.
●プロボノなどの地域活動は,単なる社会貢献という一方向的活動ではなく,関わる者の専門職としての成長にもつながる双方向の活動と思われる.
●病院(医療・介護機関)が持つ機能は自立生活を支える地域づくりにも活用でき,地域のニーズもある.今後,活動を実施する機関やその活動を評価する制度上の仕組みが必要と考える.

【事例】

—勤医協札幌病院—ヘルスプロモーション病院(HPH)の理念と取り組み

著者: 尾形和泰

ページ範囲:P.420 - P.422

●HPHは,オタワ憲章で提唱されたヘルスプロモーションを実践する事業としてWHO欧州事務局が開発した.
●23の国と地域でネットワークが形成され,900近い医療機関が加盟している.
●HPHの活動対象は,患者・家族,病院スタッフ,地域住民,健康の社会的決定要因(SDH)である.
●日本HPHネットワークとその加盟事業所の多彩な活動をいくつか紹介する.

—医療法人和香会倉敷スイートホスピタル—地域包括ケアシステムで期待される病院の「地域貢献活動」

著者: 江澤和彦

ページ範囲:P.423 - P.426

●医療機関や介護事業所が取り組む「地域貢献活動」の重要性は,今後高まっていく.
●「地域貢献活動」とは,医療機関や介護事業所が自発的に行う,健康づくり教室や介護予防教室の開催,住民が集う認知症カフェの開催,地域の公民館や町内会へ専門職を派遣して行う座学や健康測定,体操などである.
●当院の「地域貢献活動」であるリウマチ教室,糖尿病教室,介護予防教室,認知症カフェ,健康体操,ワンコイン健診,地域ケア会議への参画をお示しする.

—特定医療法人仁医会あいちリハビリテーション病院—“食”にこだわる病院として健康を支える

著者: 中澤信

ページ範囲:P.427 - P.429

●当法人は設立以来,自前のフードサービス部にこだわり,食を大切にしてきた.
●リハビリテーション病院として食と栄養は要と考え,入院から退院後を見据えた訪問栄養指導を開始した.
●職員食を福利厚生ととらえ,よりよいものになるように努力している.

連載 Graph

「治し支える医療」を地域で叶える仕組みづくり—社会医療法人祐愛会 織田病院

ページ範囲:P.395 - P.397

■85歳以上人口急増のインパクト
 織田病院(佐賀県鹿島市)は111床ながら病床稼働率99%以上を誇るDPC病院である.公的病院のない鹿島市(人口3万人)の急性期医療を担うと同時に,退院後の高齢者の暮らしを支えるため,介護老人保健施設からグループホームまで需要に応じて整備してきた.
 ところが,85歳以上高齢者の救急搬送数・新規入院数の急増に伴い,状況は一変.85歳以上の高齢者は認知症罹患率が4割を超え,独居世帯や高齢者世帯も多く,退院や転院に困難が伴う.その先の人口ピークアウトを見据えると,いわゆる「箱もの」による対応は限界に達したと判断した織田正道理事長は,在宅医療の推進へと大きく舵を切った.

アーキテクチャー×マネジメント・54

西葛西・井上眼科病院

著者: 境野健太郎

ページ範囲:P.398 - P.403

■設立の経緯
 西葛西・井上眼科病院は,1991年,御茶の水(東京都千代田区)にある「井上眼科病院」の分院として江戸川区・西葛西の地に開院した.2004年に「西葛西・井上眼科こどもクリニック」(小児外来専門)と「西葛西・井上眼科クリニック」(コンタクトレンズの指導および処方)を開設し,2015年にこれらと統合移転するかたちで現在の西葛西・井上眼科病院(以下,新病院)が誕生した.
 新病院の開設に当たり,「お茶の水・井上眼科クリニック」の取り組みが参照された.お茶の水・井上眼科クリニックは,お茶の水の井上眼科病院の一般外来部門として,2006年にユニバーサルデザイン(以下,UD)を取り入れて開設しており,運用10年の検証が新病院の計画に反映された.お茶の水・井上眼科クリニックは電車で通院する患者が多いが,西葛西・井上眼科病院は近隣から徒歩や自転車,車いすで通院する患者が中心で,より高齢で重症度の高い患者が多くなっている.

医療提供体制の変貌 病院チェーンと保健・医療・福祉複合体を中心に・2

2010年以降の病院チェーン・複合体の文献レビュー

著者: 二木立

ページ範囲:P.430 - P.435

■はじめに
 今回は,病院チェーンと「保健・医療・福祉複合体」(以下,複合体)についての私以外の文献で,2010年以降に発表されたものを検討します.
 そのために,①今まで収集した日本語文献を読み直すとともに,②CiNii(国立情報学研究所)を用いて,「複合体」等をキーワードにした文献検索を行い,③『病院』,『日経ヘルスケア』等代表的な病院経営誌の過去10年分のバックナンバーをチェックしました.2010年以降の文献に限定するのは,2012年に2010年前後までに発表された文献レビューを行っているからです1).連載第1回で述べたように,複合体の網羅的な全国調査は私の『保健・医療・福祉複合体』(1998年.データは1996年まで)以降,20年間行われていません.病院チェーンの全国調査は,医療法人に限定しても私が1994年に発表した論文(データは1991年まで)以降,30年近く行われていません2)
 しかし,この間にも病院チェーンや複合体(以下,両者を総称する場合は病院グループ)の名簿や調査報告はいくつか発行されているし,本誌や『日経ヘルスケア』等の病院経営誌は,病院グループの新しい動きを特集したり,代表的な法人・経営者のレポートを時々掲載したりしています.今回はそれらのうち,病院グループの最新動向が分かるものや,本連載3回以降,各種全国調査等を行う上でのヒント・課題が得られたものを紹介します.本稿で紹介する文献以外にも,先進的な病院グループの単発の事例報告(研究者や雑誌編集者,または病院グループ理事長等が執筆したもの)は多数あります.しかし,今回は紙数の制約上,それらについてはごく一部しか紹介できないことをお断りします.また,文献は医療法人等の私的病院グループについてのものに限定します.

ケースレポート 地域医療構想と民間病院・29

医療法人起生会 大原病院—行政と協力し地域と共に歩む病院

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.437 - P.442

■はじめに
 医療法人起生会大原病院は,福岡県行橋市にある地域包括ケア病棟36床,回復期リハビリテーション病棟30床,医療療養病棟35床,介護療養病棟35床の合計136床からなるケアミックス病院である1).標榜科目は内科,呼吸器内科,消化器内科,循環器内科,リハビリテーション科,放射線科で,また人間ドックや健診などの予防医療や,デイケア,デイサービス,訪問看護などの介護保険サービスの提供にも力を入れている.なお,大原病院は2018年11月に現在の新病棟になっているが,それ以前は156床であったので,約20床のダウンサイジングを行っている.
 1931(昭和6)年の開院以来,同病院は地域医療の充実に貢献しており,特に平成に入ってからは,行政との緊密な協力の下,高齢者の介護に積極的に取り組んできている.例えば,介護保険制度発足前の1997年には行橋市の依頼を受けて在宅介護支援センターを開設し,理学療法士でケアマネジャーでもある稲冨武志氏(現・大原病院事務局長)を中心に,同市における介護保険事業の円滑な運営に取り組んできた.また,同市が行っている介護予防事業やまちづくり事業にも積極的に関わり続けており,行橋市における地域包括ケア体制構築の中核施設として機能し続けている.
 本稿ではこうした大原病院の取り組みについて紹介する.

「働き方改革」時代の労務管理・13

—メンタルヘルス不調への対応(後編)—メンタルヘルス不調者の休職・復職時の注意点

著者: 越本幸彦 ,   山崎祥光

ページ範囲:P.443 - P.447

■メンタルヘルス不調の原因と取り扱いの差異
 今回は,メンタルヘルス不調を来した労働者を休職・復職させる際の注意点について述べる.その取り扱いにおいては,メンタルヘルス不調の原因が何か,すなわち,「業務上の傷病」であるのか,それ以外の「私傷病」であるかが重要であり,両者の扱いには,表1のような大きな差がある.
 とはいえ,メンタルヘルス不調の原因は,複雑かつ多岐にわたり,複数の原因が重なり合って影響しているのが通常である.このため,メンタルヘルス不調の原因が業務に起因するのか,私傷病と評価してよいのか,明確に判断することは医学的にも難しいのが現実である.

多文化社会NIPPONの医療・21

「やさしい日本語」は医療者も日本人患者も救う

著者: 堀成美

ページ範囲:P.448 - P.449

 外国人患者の医療安全の要である医療通訳の体制を地域や医療機関の特性に合わせて構築する試みが各地で展開されているなか,医療の現場の困惑や負担を減らせるようなノウハウの共有が急がれる.今回は課題解決の一つ「やさしい日本語」を紹介する.

--------------------

目次

ページ範囲:P.404 - P.405

Back Number

ページ範囲:P.452 - P.452

Information

ページ範囲:P.453 - P.453

次号予告

ページ範囲:P.456 - P.456

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?