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雑誌目次

雑誌文献

病院79巻1号

2020年01月発行

雑誌目次

対談

地域医療構想のゆくえ

著者: 中川俊男 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.1 - P.6

地域医療構想が各構想区域で策定され,2025年まであと5年となった.
地域医療構想調整会議の議論は進んだのか.
その準備段階から議論をリードし続けてきた日本医師会の中川俊男副会長に地域医療構想の意義と今後の展望を伺う.

特集 地域医療構想で変わるこれからの病院

巻頭言

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.17 - P.17

 本特集では,地域医療構想とそれに関連した施策の内容とその影響についてあらためて整理した.
 松本論文では厚生労働省の政策担当者の立場から,あらためて地域医療構想の目的について説明がされ,データに基づいて分析を行い,地域のニーズにふさわしい医療提供体制が各施設の自主的な判断に基づいて行われるという基本が解説されている.

地域医療構想調整会議の議論の活性化に向けて

著者: 松本晴樹 ,   佐々木優李

ページ範囲:P.18 - P.22

●「地域医療構想」「医師偏在対策」「医師の働き方改革」は,いずれも,医療の持続可能性の担保のため,また,質の維持・向上のためになくてはならないものである.
●地域医療構想調整会議を活性化する観点から,一定の条件を設定して急性期機能等に関する医療機能について分析し,各公立・公的医療機関等が担う急性期機能やそのために必要な病床数等について再検証を要請する.これは必ずしも医療機関そのものの統廃合やダウンサイジング・機能分化等の方向性を機械的に決めるものでもない.地域での決定が重要で,尊重されるべきものである.
●地域医療構想の目的は,2025年に向けて,地域ごとに効率的で不足のない医療体制を構築することである.今後,地域の医療体制の確保に向け,必要ならば国も支援を行いながら,2025年にあるべき医療の姿を目指す.

新専門医制度と働き方改革の地域医療構想への影響

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.23 - P.28

●厚生労働省は高度急性期・急性期を一定数以上の手術,がん治療,救急を行っている施設と定義した
●上記3領域を担う中核施設は当該領域の医師数を一定以上確保することが,働き方改革,新専門医制度との関連で求められる.
●人口減少と高齢化の進展により,特に地方の一般病院で総合医のニーズが高まることから,その育成が喫緊の課題となる.

地域医療構想アドバイザーの立場から見た地域医療構想の課題

著者: 村松圭司

ページ範囲:P.29 - P.33

●地域医療構想アドバイザーには,データサイエンティストやファシリテーターの機能が求められている.
●検討に用いることができる情報量は増加しており,今後はデータに基づく意思決定支援が重要な役割となる.
●2025年やその先の医療提供体制の中核を担う世代を地域医療構想アドバイザーとして育成し,地域医療構想の実現に向けて積極的に関与してもらう必要がある.

地域医療構想の進め方—県行政の立場から

著者: 野原勝

ページ範囲:P.34 - P.37

●2025年に向けて,急性期から回復期への転換,慢性期から介護医療院等への転換など,医療需要の変化を見据えた対応方針が検討されている.
●各病床機能や在宅医療等への医療資源の最適な配分のため,幅広いニーズに対応している中小病院の機能の実態や地域の介護力・看護力等の適切な把握が課題として指摘されている.
●都道府県には,地域医療構想調整会議における適切な論点の設定や必要なデータの提供などを行い,地域の実情を踏まえた議論を進めることが求められている.

地域医療構想は公立・公的病院に何を求めるか

著者: 末永裕之

ページ範囲:P.38 - P.43

●病床利用率を考慮した病院のダウンサイジング,地域によっては民間も含めた再編・統合,機能に応じた病院間の連携が必要である.
●公立・公的病院,民間病院であっても,その地になくてはならない機能を持った病院が残ることができる方策を考える必要がある.
●不採算地域等の医療提供のあり方では,有床・無床診療所化も含めた集約と,医師の派遣システムを作る必要がある.

地域医療構想は民間病院に何を求めるか

著者: 太田圭洋

ページ範囲:P.44 - P.48

●現在行われている地域医療構想をはじめとする医療提供体制の見直しは,一時的な政策ではなく,今後のわが国の人口動態の変化を見据えた本格的なものと医療者は認識し,対応していく必要がある.
●しかし,将来の地域に必要な医療をどのように効率的に維持していくかを議論する上では,各病院の診療実績だけでなく,繰入金など財政的な補助の情報も共に議論していく必要がある.
●また,公立病院に交付金として繰り入れが行われている不採算医療とは何かをしっかりと再定義し,官民病院のイコール・フッティングを進めていく必要がある.

特別記事

病床機能報告データをいかに活用するか(1)

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.49 - P.56

■はじめに
 令和元(2019)年9月26日に,厚生労働省は病床機能の見直しが必要と考えられる424の公立病院・公的病院のリスト公開を行った1).この公開に当たって厚生労働省は,がん・手術・救急を高度急性期/急性期病院の主たる機能とした上で,これらの診療実績が少ない病院および近隣に当該施設以上の類似機能を持っている病院がある病院について,自施設の機能選択(ここでは高度急性期・急性期)の見直しをしていただきたいという説明を行った.この説明にはさらに「必要に応じて近隣の施設との統合も検討することが望ましい」と記載されていたことから,メディアなどがこの部分のみを取り上げ「病院を統廃合する方針が示された」という論調の報道を行った.リストに挙げられた病院の責任者およびその設置主体である自治体や組織の中には,これらの報道に反応して「厚生労働省を告発する」といった批判を行った例もあった.
 このリスト公開に当たっては「いきなり公開を行うのはけしからん」というような意見も多々出されているが,公開のために分析されたデータはすでに厚生労働省あるいは各都道府県のホームページで公開されているものであり,誰でもそれを用いた分析が可能である.高度急性期・急性期の定義に関しては,病床機能報告から把握されるがん・手術・救急の病床当たり実施数に着目した定量基準がすでにいくつか提案されており,これについても誰でも分析を行うことが可能となっている.また,厚生労働省の関連委員会では,公立病院・公的病院のリストが公開されること,その分析の考え方について議論されている.さらに,病院名の公開は内閣で閣議決定された事項でもある.従って,本件で厚生労働省のみが批判にさらされるのは公平性に欠けるという印象を筆者は持っている.厳しい見方をすれば,各病院が公開されている関連委員会の議事録を読み,上記データを自ら分析するという作業を行っていれば,今回のような誤解に基づく混乱は最小限に抑えられたのではないかと思う.
 厚生労働省がこのようなリスト公開に踏み切った理由としては,各施設が作成した「公的病院改革プラン2025」の内容が不十分であったことが指摘されている.このプラン策定に当たって,筆者はDPCやNDBに基づいて作成されている各種資料を活用し,データに基づいて地域の現状と将来,そしてその中での自施設の立ち位置を検討した結果をプランの記述に反映させることの必要性を繰り返し述べてきた.実際に,筆者らの教室は福岡県医師会,福岡県と共同で関連データの解析を行い,分析結果に基づく研修会も数多く行ってきた.それでも,データに基づく議論が遅々として進まない現状に直面しており,あらためて地域医療構想の難しさを実感している.
 社会保障制度改革国民会議で永井良三委員が指摘したように2),わが国の場合,医療サービス提供体制の変革を米国のように「市場経済」に任せることもできないし,フランスのように「国の強い力」で強制的に行うこともできない.各施設が自施設の在り方を考えることができるデータを整備し,それに基づいて自主的に対応することしか方法がないのである.もちろん,国は診療報酬制度を介して間接的にサービス提供体制をコントロールすることはできる.平成30年度の診療報酬改定が「地域医療構想に寄り添ったもの」になっているという評価があることから,各施設はその対応ももちろん求められることになる.いずれにしても,各施設の情報分析能力が重要になっているのである.
 そこで本連載では,厚生労働省および各都道府県が公開している病床機能報告のデータを用いてどのような分析が可能であるかについて,2回に分けて説明したい.1回目は病床機能報告データの概要と基本的な加工,2回目は加工したデータを用いた分析の例について筆者の私見を述べる.

研究

救急・集中治療領域の終末期において代理意思決定支援を行う救急集中治療医の倫理的ジレンマ

著者: 市川由佳 ,   二井谷真由美 ,   林容子 ,   志馬伸朗 ,   片岡健

ページ範囲:P.57 - P.63

要旨
救急・集中治療領域で代理意思決定支援を行う救急集中治療医が感じている倫理的ジレンマの内容と,期待する解決策を明らかにすることを目的に本研究を実施した.救命救急センターに専従する救急集中治療医9名を対象に,インタビューガイドに基づく半構成的面接を行った.その結果,倫理的ジレンマとして「自身の価値観との対立から生じるジレンマ」「救急科内の医師間でのジレンマ」「他科の医師との関わりの中で生じるジレンマ」「方針決定の過程の中で生じるジレンマ」「方針決定した後に生じるジレンマ」「家族との関わりの中で生じるジレンマ」「上下関係から生じるジレンマ」「地域医療との関わりの中で生じるジレンマ」「社会情勢に対するジレンマ」の9つのカテゴリーが抽出された.さらに,その解決策として「患者本人の事前意思が確認できること」「臨床倫理委員会などの第三者委員会の設置」「個人の知識・技術を向上させること」「他職種との連携」「救急科内での振り返り・話し合いの場を設けること」「法整備」などを期待していることが明らかになった.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・61

芳賀赤十字病院

著者: 小林健一

ページ範囲:P.8 - P.13

■はじめに:地域医療の担い手として
 芳賀赤十字病院(図1)が位置する栃木県の県東保健医療圏は,真岡市,芳賀郡益子町,茂木町,市貝町,芳賀町から構成され,およそ14万人が暮らす圏域である(図2)1).圏内には民間病院が3つ(うち精神病院が1つ)あるが,芳賀赤十字病院は県東保健医療圏において急性期医療を提供する唯一の公的病院である.
 真岡駅を中心とする住宅エリアは,県庁所在地で経済の中心でもある宇都宮市(人口52万人)から車で約1時間,隣接する県南保健医療圏に2つある大学病院には30〜40分程度の距離であり,入院医療の半数近くがこれらの医療圏に流出している状況であった.
 創立から100年近い歴史をもつ芳賀赤十字病院は,敷地内の各棟の老朽化が著しいことから新病院の整備が求められていたが,建て替えに際しては上述のような圏外への流出患者を受け止め,地域医療の中心的な担い手となることが期待された.

遥かなる霞が関・1【新連載】

ふたたびの東京五輪を前に

著者: 佐藤敏信

ページ範囲:P.64 - P.67

 医学書院から依頼を受けて連載をスタートすることとなった.本来なら地域医療構想への対応や目前に迫った診療報酬改定について書き進むべきなのだろうが,連載のスタートであり,また年の初めでもあるので,もっと根源的で,わが国の将来を考える上で重要と思われることを書いてみたい.

医療現場の「働き方改革」 医療の質を担保しつつ労働負荷を低減させる方法・1【新連載】

病院の「働き方改革」とは

著者: 福島通子

ページ範囲:P.68 - P.73

■連載を始めるにあたって
なぜ「働き方改革」が必要なのか
 国を挙げて進められている「働き方改革」の影響が,良かれ悪しかれ医療現場に出始めている.これまで,日本の質の高い医療は,医師をはじめとする医療従事者の自己犠牲的な精神によって支えられてきたといっても過言ではない.そのような中で,実害として長時間労働を原因とする過労死や過労自殺などが起こり,労働基準監督の是正勧告も増加傾向にあることが報道されると,やっと医療業界も例外ではないことに気付き,業界を挙げて改革に乗り出すこととなった.しかし,医療機関特有の理由などが阻害要因となって,なかなか改革が進まない.国の管理下で医師数が制限され,他の医療従事者の絶対数不足にも苦しみながら,増加する患者の診療に追われている医療機関が少なくない.特に,地域医療を支える特定の病院や,研修医を抱える医療機関などでは,医療崩壊を懸念する声も聞かれるほど,病院の働き方改革は一筋縄ではいかない状況だ.さらに医療機関にはまだまだヒエラルキーが存在し,保守的な雰囲気がぬぐえない.これらの解消には,法的な拘束以前に,組織上層部の意識改革や民間企業に倣った業務プロセス改革が必要になってくるものと思われる.
 国が目指す「働き方改革」は,人手不足が深刻化する中,多様な働き方を整備して,育児・介護などの問題を抱えながら働く者や高齢者や障害を持った者を含めた労働力人口を増やし,かつ労働生産性を上げるという目的を持って,労働環境の見直しを求めている.往々にして改革を強制されていると考えがちだが,特に医療機関では,形だけではない真の改革に着手する絶好の機会と捉えるべきだ.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・19

医療法人 篠原湘南クリニック クローバーホスピタル—在宅療養支援病院として地域包括ケアシステムを支える病院

著者: 林和希

ページ範囲:P.74 - P.79

 神奈川県藤沢市は,古都鎌倉に近い湘南の観光地であり,また,戦後東京のベッドタウンとして発展した地域である.今回紹介するクローバーホスピタルは,藤沢駅から江ノ島電鉄で1駅目の石上駅徒歩3分の立地にある.
 クローバーホスピタルの前身の篠原湘南クリニックは,1988(昭和63)年の有床診療所の開業後,20年以上にわたって在宅医療により地域に貢献してきた.現病院は,回復期リハビリテーション病棟,地域包括ケア病棟,療養病棟,特殊疾患病棟による多様な医療機能を提供している.

多文化社会NIPPONの医療 外国人患者受け入れの課題解決Q&A・28

病院としてのガバナンスが問われる「受け入れ体制の説明」

著者: 堀成美

ページ範囲:P.80 - P.81

 今回からは,外国人患者の受け入れ体制整備を始めた医療機関がぶつかる課題の解決法について,事例をベースとしたQ&A方式で解説をしていきます.相談事例は実際にあったケースをもとに,一部を改変しています.

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目次

ページ範囲:P.14 - P.15

Book Review 図説 医学の歴史

著者: 北村聖

ページ範囲:P.83 - P.83

Back Number

ページ範囲:P.84 - P.84

次号予告

ページ範囲:P.88 - P.88

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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