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雑誌目次

雑誌文献

病院79巻11号

2020年11月発行

雑誌目次

対談

持続可能な医療提供体制改革

著者: 小黒一正 ,   川原丈貴

ページ範囲:P.805 - P.810

人口構造の変化や高額薬剤の登場などが医療財政に大きな影響を与えると想定される.
環境の変化に応じて規制や制度は修正すべきだが,守るべき価値のあるものを見誤ってはならない.
経済学の視点から,今後の医療制度改革を探る.

特集 医療経済からみた病院経営

巻頭言

著者: 川原丈貴

ページ範囲:P.821 - P.821

 新型コロナウイルス感染症による財政支出の拡大以前から,日本の財政状態はかなり厳しい状況にあった.これに加え,新型コロナウイルス感染症による財政支出や景気の冷え込みにより,医療を取り巻く経済環境はさらに厳しくなるものと予想される.
 このような状況下,病院経営はどのように医療経済と向き合っていけばよいのか,識者の識見を伺った.

わが国財政と当面の社会保障改革

著者: 一松旬

ページ範囲:P.822 - P.826

●わが国財政は容易ならざる状況にあったが,そこに新型コロナウイルス感染症への対応が加わった.
●社会保障は,わが国財政悪化の最大の要因であり,受益(給付)と負担の不均衡を是正する必要があるが,当面は医療分野の給付面の取組が中心となる.
●本稿では,当面の動きとして,全世代型社会保障改革(後期高齢者の患者負担割合のあり方,大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大),毎年薬価調査・毎年薬価改定そして地域医療構想の推進を取り上げる.

病院への医療費の配分—患者の治療上の恩恵向上と医療費節約の両立に向けて

著者: 中村洋

ページ範囲:P.827 - P.831

●少子高齢化が進む日本において,「2022年危機」が叫ばれるなど,医療保険財政の悪化が懸念されている.さらに,新型コロナによる悪影響に備えなければならない.今後必要なことの一つは,患者による「賢い選択」の促進などを通じて,患者の治療上の恩恵を高めつつ医療費の節約につながる施策を推進することである.
●その推進に大きな役割を果たしうるのが病院である.また病院は,診療所など他の医療提供者と役割分担・連携することで,その推進を加速するとともに,病院自体の経営を改善することも可能となる.
●医療費の配分に関しては,限られた財源を医療提供者間で奪い合うのではなく,上記の「患者の治療上の恩恵向上と医療費節約の両立」を果たす機能に応じて,病院ならびに(役割分担・連携する)他の医療提供者への診療報酬上の評価を高めることが重要となる.

病床再編の医療経済的効果

著者: 伊藤由希子

ページ範囲:P.832 - P.836

●病床再編は「先送り」ではなく「前倒し」こそ必要である.過剰な病床機能は,いざというときに人材や設備の柔軟な配置を妨げる無用の長物となる.
●病床再編の目的は「医療費削減」ではなく「医療資源の有効活用」である.前倒しして行いソフトランディングを図る方が,現場の混乱が少ない.
●病床再編を機に「病院」から「健院」へのシフトが必要である.継続性・信頼性のある外来診療により,不要不急の健康時にこそ頼れるサービスを目指すべきである.

病院経営者からみた医療経済—地域医療を担う病院に正当な評価を

著者: 加納繁照

ページ範囲:P.837 - P.839

 高齢化の進展による社会保障費増大に加えて,新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)拡大への対応のため多大な財政出動を余儀なくされ,国家財政は緊迫した状況になっている.かかる状況下,将来に向けた医療提供体制について,医療経済の面から今,何が必要なのかを考えた.

病院経営者からみた医療経済—医療は社会にとってコストなのか

著者: 原祐一

ページ範囲:P.840 - P.843

■はじめに
 「医療とは医学の社会的適用である」とは元日本医師会会長・武見太郎氏の言葉である.医学は全世界に普遍的な科学であるが,日々の医療は社会制度や経済的な要因に大きな影響を受ける.病院経営は医療の一部であり,医療制度や経済状況に大きく左右されることは多くの関係者の実感であろう.バブル崩壊後から日本の経済は低迷しているが,経済の低迷は医療の停滞に結び付く.さらに,今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は,日本全体に皆保険が始まって以来の影響を与えているといっても過言ではない.
 本稿においては,病院経営と医療経済,最後に新型コロナウイルス感染症と今後の医療について触れたい.

地域経済循環分析からみた医療の役割

著者: 山崎清 ,   佐原あきほ ,   伊藤弘人

ページ範囲:P.844 - P.850

●地方創生などで活用されている地域経済循環分析の観点からみると,医療は地域経済で大きな役割を果たしており,地域のGDPの約5%程度を占めている.
●医療を核とした地域経済の再生施策としては,医療モールなどを形成し,小売りや娯楽,健康管理,通院などの複合的な消費である「抱き合わせ消費」を促すことで地域の生産性が向上する.
●地域政策として医療を考えると,PFIによる複合施設整備やPFSなどを活用したヘルスケアビジネス,さらに,地域の面的な転換による医療クラスターの形成が考えられる.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・71

益城病院

著者: 永田敦士 ,   西園誠

ページ範囲:P.812 - P.817

■被災,その後の新築移転の決断
 2016年4月14日,熊本県でマグニチュード6.5の地震が発生した.同県益城町において震度7を記録したこの前震は町中に目に見える形で甚大な被害をもたらした.益城病院では余震が続く混乱の中にもかかわらず,全ての入院患者199名の避難を最優先事項とし,翌日早朝からの活動により,安全な地域への転院や避難所または自宅への移動を完了した.そして,その日の深夜(16日1時25分)にマグニチュード7.3,震度7を記録する本震が再び熊本地方を襲った.
 完全にインフラが途絶えた病院は,復旧までの期間,比較的損傷の少なかった関連施設の特別養護老人ホーム「花へんろ」に外来機能(本震の翌日から再開)と災害対策本部を設けた.その後インフラの完全復旧(特に汚水排水経路を確保する改修工事が長期化)まで約3カ月を要した(図1).

医療現場の「働き方改革」医療の質を担保しつつ労働負荷を低減させる方法・11

働き方改革を阻害するハラスメント

著者: 福島通子 ,   富澤昌平

ページ範囲:P.854 - P.859

 都道府県労働局などに設置した総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は年々増加している.経済環境,社会環境,労働市場環境の急激な変化や,労働者の仕事に対する意識や価値観の変化と相まって増加しているようだ.
 医療の現場では,医師,看護師,薬剤師など,さまざまな職種や職位が存在する.また,外部の第三者,患者やその家族など院内組織以外との関わりも多く,さまざまなハラスメントが生じやすい.その反面,生命を左右するような急変時や緊急時に社会性を欠く言動や行動があったとしても,安全管理上の問題と受け止められ,ハラスメントとして取り上げられにくいといった実情もある.ハラスメントとして露呈しにくい環境であることから,加害者も自覚がないことが多い.特にパワーハラスメント(以下,パワハラ)と指導との境が難しく,相手の成長のためを思って行う指導も,度を超すとパワハラと受け取られかねない.「自分はこうしてきた.あなたもそうすべき」と,自分の看護観を押し付けてしまうケースもよく見られる.加害者本人に悪気がなくとも,相手に対し業務の適正な範囲を超え精神的・身体的な苦痛を与えれば,それはハラスメントになる.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・24

医療法人財団 日扇会第一病院—地域の身近なかかりつけ医として在宅医療に取り組む病院

著者: 深澤宏一

ページ範囲:P.862 - P.866

 日扇会第一病院(以下,同院)は,「目黒のさんま」で有名な東京都目黒区にある東急東横線・都立大学駅から徒歩5分に位置する65床(介護医療院含む)の病院である.
 同院は「医療は患者さんのために存在する」という理念を掲げ,地域のニーズに応えながら,提供する医療機能を柔軟に変化させてきた.

病院で発生する「悩み」の解きほぐし方・7

患者の意思をどのように確認すればよいのでしょうか?—②認知機能低下編

著者: 越後純子

ページ範囲:P.868 - P.870

Case
80代の患者Aは,前医で生検の結果がんと診断され,手術目的でB病院へ紹介されました.B病院では,ガイドラインに従って,術前化学療法の上,手術を行いました.担当医Cは,術後の病理診断の結果では,がんは検出されなかった旨説明したところ,Aは,不必要な手術をされたと言い始めました.そこで,C医師は,化学療法が奏功して消失したと考えられる旨,時間をかけ説明しました.その場では収まったのですが,しばらく時間が経過すると,がんではなかったのに不要な手術をされたと同じ苦情を繰り返し言ってくるので,Cはその度に長時間説明することを数回繰り返しましたが,Aは,説明の度に激昂し,対応に難渋しました.これらの経緯と,家族の話も総合すると,Aには軽度の認知機能低下があることが分かってきました.

感染症新時代—病院はどう生き抜くか・2

旭中央病院・中村朗医師インタビュー(2)

著者: 堀成美 ,   中村朗

ページ範囲:P.872 - P.875

新しい感染症とその流行は,常に人類や社会にとって大きな脅威である.過去の歴史を振り返っても,地域の人口の1/3が失われた感染症の大流行事例もあり,当然のことながらその結果,社会経済も大きなダメージを受けている.2019年12月に中国の武漢で増加が把握された肺炎を引き起こしたウイルスは,2020年1月には遺伝子情報が世界で共有された.これまでにないスピードで検査・治療薬・ワクチンの開発が進められており,各地での経験は,査読前論文を含め,膨大な情報となって私たちの目の前に蓄積されている.日本での「物語」も多様だ.本連載では,このような経験知を共有すべく,地域特性の大きい感染症対策について,各地のリーダーの視点を紹介する.
第2回は,第1回に続き,千葉県旭市にある旭中央病院の中村朗医師にお話を伺う.

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目次

ページ範囲:P.818 - P.819

Book Review 地域医療構想のデータをどう活用するか

著者: 二木立

ページ範囲:P.853 - P.853

Book Review 病状説明—ケースで学ぶハートとスキル

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.861 - P.861

Book Review プロメテウス解剖学コア アトラス 第3版

著者: 徳田信子

ページ範囲:P.877 - P.877

Back Number

ページ範囲:P.879 - P.879

次号予告

ページ範囲:P.882 - P.882

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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