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雑誌目次

雑誌文献

病院79巻2号

2020年02月発行

雑誌目次

対談

—いま病院に求められる—生活を支える医療

著者: 江澤和彦 ,   神野正博

ページ範囲:P.89 - P.94

病院はもはや,ただ医療を提供するだけではなく,地域住民の生活を支える核となりつつある.
自ら病院の殻を破り,地域のためにさまざまなサービスを展開し続ける江澤・神野両氏が,これからの「病院が生きる道」を説く.

特集 病院の殻を破れるか—中小病院の柔軟性を生かす経営改革

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.105 - P.105

 縮小社会に向かう「令和」の時代に必要なのは“病院”のパラダイムシフトかもしれない.人口減は医療ニーズの縮小を意味する.一方,超高齢社会においても急性期医療のニーズがなくなることはない.脳卒中や虚血性心疾患ばかりではなく,高齢者に特有な肺炎や大腿骨骨折の罹患率は高くなる.また,2人に1人ががんに罹患する時代において,より副作用の少ない薬物療法・免疫療法,低侵襲の手術のニーズも増大する.
 問題は,これらの急性期疾患の治療が終わった後の患者,あるいは不幸にして治癒できなかった患者の生活に,病院がどこまで関与するかである.急性期疾患の治療期間が短くなる中で,どこまで「面倒見よく」対応できるかがカギとなるのではないだろうか.さらには,病院に来る前,すなわち未病の段階で,健康増進,生活習慣の見直しに病院は関わる必要はないのか.これは行政,健康保険組合,コミュニティの仕事とおっしゃる読者も多いだろう.しかし,病院がこの分野に参入しない理由もない.入退院支援で言うところのPFM(Patient Flow Management)を拡大したLife Stage Managementを考えていく必要がある.人生の中では,病院の前後の生活が大半を占め,ごく一部の時間に病院がある.あたかも,耐久自動車レース中のピットのような役割だ.短い時間にベストコンディションに調整して過酷なレースに送り出すわけだ.

2040年に向けた医療提供体制の再構築と中小病院の展開

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.106 - P.111

●2040年を展望した医療提供体制・三位一体の取り組みでは,より長期的な視点が求められる地域医療構想を基軸とした対応が不可欠である.
●三位一体による病床活用の効率化を通じて,今後展開が期待される機能・役割の基軸は「疾患治療の拠点」と「地域生活に寄り添うケアの拠点」ではないか.
●中小病院では,それぞれの限られた施設・設備や人材などの経営資源の特質を背景とした長期ビジョンを踏まえた診療体制の展開が重要である.

ヘルスケアの未来を見据えた病院づくり

著者: 奥村隆一

ページ範囲:P.112 - P.117

●医療における限られた人的・物的資源を有効に活用し,増大するヘルスケアニーズに対応するには新たなサービス提供システムの創出が課題となっている.
●2040年の未来の医療を展望すると,「ヘルスケアデータの共有・活用」と「デジタル(遠隔・AI・ロボット)と生身の人間(対面)のリソースの融合」の視点が重要になる.
●対象者や医療機関の再定義,海外展開など発想の転換を図ることで,持続的な経営のヒントが得られる.

「病院」が「病院」でなくなる日

著者: 神野正博

ページ範囲:P.118 - P.123

●病院の経営資源として,これまでのヒト,モノ,カネ,情報に加えて,コトづくりを視野に入れる必要がある.
●人口構造の変化と価値観の変貌の中で病院の持続可能性を図るためには,病院は介護や福祉との連携はもとより,Life産業として,生活支援までをも行う「ごちゃまぜ」事業体へと変態していく覚悟を持つべきだ.

「面倒見のいい病院」指標

著者: 林修一郎

ページ範囲:P.124 - P.128

●奈良県では,地域医療構想の急性期機能を「重症急性期」「軽症急性期」に区分することで,病院の機能分化と連携の議論を活性化させてきた.
●今後,求められる病院の機能は,「断らない病院」と「面倒見のいい病院」に大別される.
●「面倒見のいい病院」は,中規模・小規模の病院が2020年代にわたり志向すべき,中核的なコンセプトとなるだろう.

【事例】

—医療法人社団東京医心会ニューハート・ワタナベ国際病院—特定の領域に特化する中小病院の戦略と効果—心臓血管外科を中心とした専門病院の特殊性とその経営

著者: 渡邊剛

ページ範囲:P.129 - P.132

●専門病院のよさは,機動力が高く迅速な対応が可能な点である.
●低侵襲手術は,標準手術より請求点数は低く,病院経営上は不利に働く.
●手術手技料を含めた包括DPCが,医療経済の破綻を防ぎ,医療レベルの向上に最良の策と思う.

—医療法人社団元気会横浜病院—認知症ケアの質を高める病院

著者: 北島明佳

ページ範囲:P.133 - P.135

●患者・家族に選ばれる価値を提供する病院になるために,まずは理念をもとに全職員が同じ方向を向き,組織として機能することが重要である.
●慢性期医療における介護職の重要性を確信し,介護職員専用の教育部門である介護開発室を設置している.
●4年半かけ実現した身体拘束ゼロなどの認知症ケアの技術向上により,患者・家族への提供価値の向上と職員が活き活きと働く職場を醸成している.
●地域にとって必要不可欠な病院となるために,培ってきた病院の強みを生かした戦略を展開している.

—医療法人久仁会鳴門山上病院—病院が生活の場・介護医療院に変わった日

著者: 山上敦子

ページ範囲:P.136 - P.138

●介護療養病床を特養と介護医療院に転換し,加えて50床のダウンサイジングも行い,平成25年当時に280床あった病院は現在118床となっている.
●介護医療院は職員の意識変化をもたらし,医療をもつ「生活の場」として機能している.

特別記事

病床機能報告データをいかに活用するか(2)

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.139 - P.145

 今回は,前回作成したAccessデータ(2020年1月号,p49参照)を用いた他の分析例について紹介する.

研究

病院全職員を対象とした院内ハラスメントの実態調査

著者: 渡部基信

ページ範囲:P.146 - P.152

要旨
【目的】病院内のハラスメントの現状を把握するために,病院全職員を対象としたハラスメント調査を行う.
【方法】2018年6〜7月の間に,当院に勤務する全職員(322名)を対象に,無記名の「病院職員のハラスメントに関するアンケート調査」を実施した.主な調査項目は,①院内のハラスメントの実数と被害内容,②ハラスメントの被害者に対する影響,③ハラスメント加害者の実数,④病院職員のハラスメントに対する意識,の4つである.
【結果】194名の回答があり,ハラスメント被害経験者は73名だった.被害者の47.9%は離職を考えていた.一方,加害者は28名で,その半数以上はハラスメントの被害経験者であった.被害経験の有無によって,ハラスメント報道に関する意識について統計学的有意差が見られた.
【結論】本調査によって,病院内の現状を可視化することができ,ハラスメント防止策に向けての有益な情報が得られた.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・62

公益財団法人慈愛会 今村総合病院

著者: 河合慎介

ページ範囲:P.96 - P.101

 慈愛会は,1934年の産婦人科医院の開設に始まり,2019年には85周年を迎えた.2011年に公益財団法人化され,2017年5月には80周年記念事業として今村病院分院の新棟が竣工した.同年6月1日に今村病院分院を「今村総合病院」へ,今村病院を「いづろ今村病院」へ名称変更し,新たな出発とした.法人として“鹿児島県の保健・医療・介護・福祉・教育複合体”を目指し,今村総合病院は24時間365日体制で,充実した救急医療と高度専門医療を提供できる施設へと進化した.本稿では,今村総合病院の機能展開に着目し,運営と建築計画の関係を考察したい.

遥かなる霞が関・2

医師の働き方改革は,うまくいくか?

著者: 佐藤敏信

ページ範囲:P.153 - P.156

 なぜ今頃になって,このテーマを取り上げるのか,と疑問を持たれる読者もおられると思う.正直に申し上げれば,私はこの改革は進むはずがないと思っていた.あまりにも問題が複雑すぎる上に,解決の方策が見当たらないからだ.ところが,時間がたっても厚生労働省の意欲が衰えないことに気づいた.そうだとするなら,やはり書いておくべきなのだろう.そもそも論をすると,医療機関と医師がいつかはこの問題に取り組み,解決へ向けて努力をしなければならないということは間違いない.むしろ遅すぎたくらいかもしれない.しかし,それが今この時でなければならないのか,仮に今だとして,真の解決への下準備が十分できた上での取り組みなのかについては,いささか疑問がある.厚生労働省や関係の会議が問題点を列挙するのはいいが,対案や解決案と示されているものの多くは吟味・検討が十分ではないように思える.
 いずれにしても,多くの医療機関が,医師の働き方改革の影響を深刻に受け止めていることだろう.現状でさえ医師確保が難しいところに,この動きである.

ケースレポート 地域医療構想と病院・33

地方独立行政法人加古川市民病院機構 加古川中央市民病院—公民統合のモデルケース:理事長のリーダーシップに基づく目標管理型経営の展開

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.157 - P.163

■病院の概要1)
 加古川中央市民病院は,公民の病院統合のモデルケースであると評価されている.この統合には2つのステップがある.まず,2011(平成23)年に加古川市民病院と神鋼加古川病院とが統合し,地方独立行政法人加古川市民病院機構となった.その後,組織文化の異なる2病院の統合に向けた種々の取り組みがなされ,2016(平成28)年7月に新統合病院・加古川中央市民病院として開院している.加古川中央市民病院は,600床,32診療科を有する急性期総合病院であり,消化器センター,心臓血管センター,こどもセンター,周産母子センター,がん集学的治療センターの5つのセンターを中心に診療科間の連携を強化し,その総合力で救急医療を実践するとともに,医療職の教育研修機能の充実も図っている.高度医療についても計画的に対応しており,例えば内視鏡下手術支援ロボットのダヴィンチやマグネティックナビゲーションシステムなどの多くの新しい機器を積極的に導入している.
 ともすれば病院経営は問題解決型の後追い経営になりがちだが,加古川中央市民病院は大西祥男理事長のリーダーシップの下,理念とそれを実現するための基本方針に基づいて中期計画・年度計画を策定し,各項目に対応したKey Performance Indicator (KPI)を体系的に構築した上で,その実施状況を独自開発したBIツールでモニタリングするという目標管理型の経営を行っている.

医療現場の「働き方改革」 医療の質を担保しつつ労働負荷を低減させる方法・2

医師の時間外労働の上限規制

著者: 福島通子 ,   羽兼朋宏

ページ範囲:P.164 - P.169

 今般の働き方改革では,「長時間労働の是正」が改革の主要なテーマとなっている.政府は,その目標を達成すべく労働基準法(以下,労基法)を改正し,時間外労働に罰則付きの上限規制を設けた.これまでは,労使の合意があれば,いわば無制限に時間外労働が合法化されていた.これに制限が加わったことは画期的な改正であると同時に,労働力の確保が難しい業界にとっては非常に厳しい試練ともいえる.これまでと同じ働き方では違反となる.よって,十分ではない人員をどのように働かせることが最も効果的なのか,不足する労働力を補うためにはどうしたらよいのか,真剣に考えなければならない.
 医療業界も例外ではない.時間外労働の上限規制については2019年4月(中小医療機関については2020年4月)より医師以外の一般医療従事者への適用が開始された.医師への適用は,医師の診療業務の特殊性や地域医療の実情などを考慮し5年間の猶予が設けられた.しかし,医師が置かれている過酷な労働環境を鑑みれば,応召義務を理由にした際限のない長時間労働の是正など取り組むべき課題は山積しており,早急な改革が求められることは言うまでもない.

多文化社会NIPPONの医療 外国人患者受け入れの課題解決Q&A・29

医療通訳体制 何をどこまで整備すべきか

著者: 堀成美

ページ範囲:P.170 - P.171

 今回のテーマは言語サポートです.国立国際医療研究センターには,患者・行政・医療機関などから問い合わせが絶えません.ある病院の「困った」は他の病院でも同じように問題となっています.取り組みのヒントを見つけてください.

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目次

ページ範囲:P.102 - P.103

Back Number

ページ範囲:P.172 - P.172

Book Review 図説 医学の歴史

著者: 鈴木晃仁

ページ範囲:P.173 - P.173

次号予告

ページ範囲:P.176 - P.176

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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