ケースレポート
地域医療構想と病院・35
医療法人社団豊生会 東苗穂病院—高齢化が進む都市部での地域包括ケアシステムの構築:病院を中核とした日本型Medical neighborhoodの実践
著者:
松田晋哉
ページ範囲:P.458 - P.464
■はじめに:札幌市東区の状況
今回紹介する東苗穂病院のある札幌市東区は,同市北区に次いで人口の多い地区で,2019年10月現在で129,152世帯,総人口264,164人(男:125,607人,女:138,557人)が居住している1).人口が増加している地域であり,2010〜2015年の人口増加率は2.36%で,その主たる要因は人口流入による社会増である.高齢化率は2015年現在で23.6%であるが,図1に示したように2045年まで増加が続き,65歳以上人口の割合37%,75歳以上人口割合21%になると予想されている2).図2からも明らかなように,高齢者人口が数としても増加するために,医療および介護需要は2015年を100とすると,それぞれ2045年には124,174まで増加する(しかも,増加傾向は継続する)2).
表1は,2017年度のNDBデータを用いて札幌市の各区の入院および在宅関連の年齢調整標準化レセプト出現比(Standardized Claim Ratio:SCR)を見たものである3).東区は一般病棟,回復期リハビリテーション病棟,地域包括ケア病棟に関しては十分な提供量があるが,療養病棟に関しては少なくなっている.また,在宅関連は提供量が多い.療養病棟への入院が必要な高齢者は他地域に入院していると考えられるが,住み慣れた地域で「時々入院,ほぼ在宅」の体制を構築していくためには,慢性期の患者の地域での受け入れ態勢を今後強化していくことが必要であると考えられる.図2からも明らかなように,東区では今後介護を必要とする高齢者が急増すると予想されること,病床過剰地域であり療養病床の増床は難しいことなどを勘案すると,地域包括ケアの体制づくりが急がれなければならない.
このような都市部における高齢化に対応するためには,地域包括ケアに積極的にコミットする病院を中心にシステムづくりを行うことが実際的であると筆者は考えている.本稿では,札幌市東区で地域包括ケア体制構築に積極的に取り組んでいる豊生会東苗穂病院の実践について報告する.