icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院79巻8号

2020年08月発行

雑誌目次

対談

病院総合医の時代

著者: 園田幸生 ,   山田隆司

ページ範囲:P.563 - P.568

新興感染症の発生,働き方の多様化など,社会は予測不能な変化の時代に突入している.
このような時代にあって,病院に求められるのは変化に対応できる柔軟性をもつ総合医の活用ではないか.
済生会熊本病院で包括診療部を立ち上げた園田氏に,患者・職員双方に資する病院総合医の取り組みを伺う.

特集 病院総合医を活かす

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.579 - P.579

 超高齢化や人口減少が進む中,地域の医療ニーズが大きく変化している.多疾患罹患,多臓器障害を抱え,介護サービスや社会的支援を必要とする高齢患者が増え,地域包括ケアの視点からの医療サービスが求められている.病院においては“それぞれの診療領域における知識・経験を持った標準的な医療を提供できる”各科専門医の集合体だけでは対応できない状況に迫られている.そんな中,自らの役割を変化させ,病院全体のパフォーマンスを向上させる総合診療医/病院総合医による取り組みが各地で進められている.本特集では,そんな病院の取り組みを紹介しながら,今後の病院総合医の育成・活用に対して一つの指針が示されることを期待したい.
 小泉論文では,これまでの医学の進歩と専門分化に伴い,いかに“総合診療”の流れが生まれてきたかが説かれ,それを踏まえ,わが国において現状の医療ニーズに立ち向かう自覚的な病院総合医の育成の必要性が示されている.

地域包括ケア時代の病院医師に求められるもの

著者: 小泉俊三

ページ範囲:P.580 - P.584

●地域包括ケア時代には,地域密着型病院の勤務医にも“地域を診る”視点が求められる.
●21世紀の“内科”には,持続可能な保健医療システムへのパラダイム転換が求められる.
●わが国の場合,家庭医と病院総合医とを“地域総合医”として一体的に定義すべきである.

病院総合医への期待

著者: 神野正博

ページ範囲:P.585 - P.589

●地域医療の中で,患者の高齢化,人口減少が進み,多疾患罹患(multi-morbidity)に対応できる総合的医師の存在は欠かせない.
●病院において総合医を確保するためには,専門医制度による総合診療専門医ばかりではなく,医師のキャリアパスの中で総合医を養成することが肝要だ.

地域に必要な病院総合医とは—研修医,多職種,住民とともに歩む小規模病院の取り組み

著者: 黒木嘉人

ページ範囲:P.590 - P.594

●専門医確保の困難な小規模病院では全員が総合医であり,研修医も総合医としての経験を積みながら地域医療に貢献している.
●活動の場は病院内にとどまらず,介護・福祉・行政などの専門職と地域住民との交流を通した地域全体となっており,そこには大学や高次医療機関などとの人的交流・支援がある.

総合病院で活躍する病院総合医

著者: 石田岳史

ページ範囲:P.595 - P.599

●近年,患者や病院経営者は病院総合医の必要性を理解しつつあるが,いざ総合病院で総合診療を実践するとなると,既存の臓器別専門医との役割分担や院内ダブルスタンダードなどが障壁となり,二の足を踏むことがある.そこで,筆者らは病院総合医が輝ける救急総合診療科を創設し,内科診療部の中核に据えた.
●平常時はERと総合内科を担当するが,災害時には危機管理の中枢で活躍し,そして新型コロナウイルス感染症のようなパンデミック時には現場の陣頭指揮を執る.時代のニーズに合わせて,いち早く対応できる機動力こそが病院総合医の特徴といえよう.
●超高齢社会,ウィズコロナなど,社会情勢や価値観が激変する現在,フレキシブルに対応できる病院総合医は需要も高く,期待されている.

医療の質を高める日本版ホスピタリストの育成

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.600 - P.603

●高齢化と多疾患併存が背景となり,病院総合医,すなわちホスピタリスト増加のうねりが世界に広がっている.
●ホスピタリスト需要増加に対応するため,臓器系医師はホスピタリストにコンバートでき,地域のプライマリケア医は非常勤のホスピタリストとして病院診療に参画できる.

大学と地域で連携して育てる病院総合医

著者: 米田博輝 ,   加藤博之

ページ範囲:P.604 - P.608

●総合診療医(病院総合医,地域の家庭医など)であっても,臓器別専門医であっても,患者や住民を癒し,幸せや尊厳を守ることを最も基本的な価値観とする点は,今も,そしてこれからも共通している.
●共通する価値観を守るため,総合診療を他分野と分断・区別する学問ではなく,あらゆる分野と連携するための方法論として扱うことが,大学の病院総合医としての大きな役割の一つである.
●医療崩壊が容易に起こりうるほどの危機的状況が迫る中で,「地に足の着いた」底力を備えた総合診療医を育成するための5つの原則を提案する.

特別記事

COVID-19パンデミック下の人工呼吸器トリアージ問題にどう取り組むべきか—学際的協働に向けた医事法学からのアプローチ

著者: 一家綱邦 ,   船橋亜希子

ページ範囲:P.610 - P.616

■はじめに:人工呼吸器トリアージ問題とは何か
 本稿の執筆を構想したのは新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の拡大に対する緊急事態宣言下であり,その後,事態は日々変遷している.仮に現在の感染拡大が収束しても,新たな感染流行の波の到来も予測されている.COVID-19のパンデミックが現実のものになると,さまざまな医療資源の中でも患者の生命の保持をダイレクトに左右する人工呼吸器の不足が危惧されている*1.そこから,使用可能な人工呼吸器の数を上回る数の患者の中から,人工呼吸器を使用する患者を選択しなくてはならないトリアージの問題(以下,本稿では「人工呼吸器トリアージ問題」とする)が生じる恐れがある.
 筆者らは,この問題は大きく分けて2つの場面で生じると考える.第一例は,患者Aと患者Bが同時に人工呼吸器を必要とし,使用できる呼吸器が病院内に1台しかない場面である(Case1).しかし,従来にもこれに類似した場面は,顕在化の程度は別として,医療機関の中で一定程度生じていたのではないだろうか.すなわち,緊急手術が必要な患者が複数名いるが,手術室が1部屋しか空きがない,当該手術をできる医師が1人しかいないような場面である(素人の想像をご海容いただきたい).従って,人工呼吸器トリアージ問題でもCase1であれば,従来の考え方や対応と大きく変わることはないと考えられる*2
 第二例は,2人の患者を何らかの基準で比較して,患者Bの救命を優先するために,患者Aが使用中の人工呼吸器を取り外し,Bに装着させる選択が迫られる場面である(Case2).このCase2については,わが国の法学・生命倫理学はほとんど扱ってこなかったようだが*3,海外の深刻な状況が伝えられ,にわかに検討対象になってきた問題である*4.医療者が通常有する倫理観(担当患者の救命に全力を尽くすこと)に照らして非常に過酷な問題であり,法学からのアプローチとしては,ある行為を行った場合に,その行為から発生した損害の公平な分担の場である民事責任の検討よりも,その行為を行うことがそもそも許されるかどうかを検討する刑法的検討の方が,医療者の倫理観への影響も勘案して,より重要であると考える.
 本稿は,人工呼吸器トリアージ問題に関して,上記Case1とCase2を念頭に置いて,さまざまな論点を広くカバーすることよりも,今後の実務的対応の中で必要となる議論の礎の一つとなることを目指して管見を示したい.今のままでは人工呼吸器トリアージ問題が現実のものになった場合には,その対応が医療現場に委ねられてしまうことが予測できるが,法的・倫理的に解決されていない論点は多く,個々の医療機関が独自に取り組むことには限界があり,学際的協働が必要であると考える.

誤接続による医療事故防止のためのコネクタ製品の国際規格導入—事故防止への期待と円滑な製品切替えについて

著者: 寺井美峰子

ページ範囲:P.617 - P.620

■はじめに
 ライン・チューブ類の誤接続による医療事故を“モノ”で防止するために,日本でも国際規格を導入することとなった.誤接続を“できなくする”ことで,ヒューマンエラー対策として効果が期待できる.この導入のために,医療機関・施設には,使用中の製品を国際規格の新製品に円滑,かつ安全に切替えることが求められている.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・68

医療福祉建築賞2019

著者: 石井敏

ページ範囲:P.570 - P.575

■はじめに
 医療福祉建築賞(一般社団法人 日本医療福祉建築協会主催)の創設29年目にあたる2019年度は,2015〜2017年度(3年間)に竣工した作品が選考の対象となった.今回は計28作品,種別では病院15作品,診療所4作品,保健・福祉施設など9作品の応募があった.過去10年の平均応募数が27であることを考えると,平年並みの応募件数で,また施設種別の内訳も大きな変化はなかった.
 一次選考では,提出された応募資料を基に選考が行われ,11作品を現地視察対象とした.その後,現地視察を経た二次選考において審議の結果,医療福祉建築賞として4作品,医療福祉建築賞準賞として1作品を選定し,授与を決めた.
 選考過程では「完成度」をどのように考えるのかが議論となった.各施設種が抱える状況,歴史的な積み重ねが異なる中で,規模も種別も異なる施設を同一軸で評価することの難しさがある.その一方で,だからこそ価値のある本賞の意義や価値も議論した.受賞作品以外においても増築・改築・改修などの好事例があった.制約ある条件下で計画されるこのような作品事例に対する評価の難しさもあったが,社会的状況も踏まえると今後はこのような事例がさらに重要度を増すであろうことも確認した.今日的・地域的・社会的課題への意識と取り組み,建築・運営的な解決法とその成果から,将来に向けての医療福祉施設の発展,質の向上につながる芽を持つ作品,新しい型の創出や施設のあり方に一石を投じるような明確な姿勢や理念を持った施設が評価されたと言える.
 なお,選考委員は今期から,大野秀敏(アプルデザインワークショップ),川﨑つま子(東京医科歯科大学医学部附属病院),小林健一(国立保健医療科学院),渋谷明隆(北里大学),角晴輝(竹中工務店),山崎敏(トシ・ヤマサキまちづくり総合研究所)と筆者の石井敏(東北工業大学)の7名が務めている.以下,受賞作品を紹介していく.

ケースレポート 地域医療構想と病院・36

社会医療法人仁寿会 加藤病院—過疎が進む中山間地域の民間医療介護複合体が切り開く総合的ケア提供体制の新機軸

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.622 - P.628

■はじめに
 本稿で紹介する社会医療法人仁寿会加藤病院は,島根県のほぼ中央に位置する邑智郡川本町にある.川本町は,中国地方で最も大きい河川である江の川沿いに展開する自治体であり,可住地は総面積の約7%,あとは水田・畑地が約6%,山林が約72%という中山間地域である.島根県江津市と広島県三次市とを結ぶJR三江線の中継地でもあったが,利用客の減少により2018(平成30)年4月1日付で全線廃止となった.もともと道路での移動が一般的となっていたため,利便性が大きく低下したわけではないが,社会心理的なインパクトは大きい.
 図1は川本町の人口の状況を見たものである.2017(平成29)年現在で3,397人の人口は今後さらに減少し,2040年には2,100人程度になると予想される1).その主たる原因は,コホート分析の結果からも分かるように,死亡の増加である.2020(令和2)年の65歳以上人口割合は47.9%,75歳以上人口割合は29.8%と推計されるが,これが2040年にはそれぞれ49.5%,36.0%になると予想されている.また,75歳以上における女性比率も62.5%から65.4%に増加する.
 図2は上記の人口推移を前提としたときの傷病構造の変化を見たものである(推計は川本町のある大田医療圏).外来・入院とも傷病にかかわらず全て減少局面にある.要介護高齢者の数もすでに減少しており,川本町の所属する邑智郡総合事務組合は2040年に対2010(平成22)年比で70%,大田市は80%となる2)
 圏域内の医療機関の状況は,病院が4施設,診療所が54施設,歯科診療所が22施設,薬局が22施設で,病院の機能別病床数を2018(平成30)年度の病床機能報告で見ると表1のようになっている3).このうち大田市立病院については,建て替え時に335床を225床にダウンサイジングし,病棟構成も一般+療養のケアミックス化することが予定されており,既存の療養病床は介護医療院への転換も検討されている.
 本連載で紹介した東八幡平病院のケース4)と同様,人口減少と高齢化が進む地域で,地域医療を担う病院をいかに維持していくかは非常に重要な地域政策である.こうした地域においては,限られた人的資源で効率的にサービス提供を行うことが求められるが,それは必ずしも国の医療・介護政策と整合性のあるものではない.特にこうした地域で地域医療を担う病院が民間病院である場合,経営の自立性も求められるため,一般財政などからの補助の入る公立病院とは異なり,社会経済状況,医療・介護政策の状況を踏まえながら,より柔軟なマネジメントが求められる.
 本稿では,厳しい社会経済環境の中で,大田医療圏において在宅療養支援をコア事業とする医療・介護複合体として地域の安心を保証している仁寿会の取り組みを紹介する.

遥かなる霞が関・8【最終回】

アフターコロナを予想する

著者: 佐藤敏信

ページ範囲:P.630 - P.633

 さて,2回にわたって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について書いた.日本では収束に向けての希望の光は見えているようだが,まだまだ安心はできない.世界全体となるともっとだろう.仮に,それに近い状況になったとしても,全くそれ以前のビジネスのスタイル,ライフスタイルに戻るということもなさそうである.気の早いマスコミは,これを「アフターコロナ」とか「ウィズコロナ」などと表現している.「全く新しい常識=新常態=ニューノーマル」と表現しているものもある.医療機関においても,こうした変化とは無縁ではないはずである.そこで今回は,これから一体どういうことが予想されるのか,その影響はどうか,どう対応するかについて書くことにした.

病院で発生する「悩み」の解きほぐし方・4

転倒・誤嚥は家でも起きるのに,病院で起きると医療事故ですか?

著者: 越後純子

ページ範囲:P.634 - P.636

Case
❶夜中にドスンという音がしたため看護師が見に行ったところ,高齢の入院患者がベッドの通常座っている側とは反対側に倒れている状態で発見されました.誰も目撃してはいないので,転倒・転落のいずれかは分かりませんでした.頭部を打撲した形跡があったので,CTを行ったところ,外傷性硬膜下血腫,脳挫傷,くも膜下および脳内出血が見られ,転送先の病院で亡くなりました.離床センサーを付けていなかったこと,そのほか転倒・転落防止措置を怠ったとして遺族との間で紛争になっています.
❷90代の咀嚼・嚥下機能に問題のない患者でしたが,術後5日目でJCS(Japan Coma Scale)が3とやや低下していました.前日も摂食状況に問題ないと判断されていたため,通常の食事が出され,食事中に誤嚥・窒息しました.窒息後1分以内に吸引が開始されましたが,低酸素脳症になってしまいました.蘇生時に吸引したところ,気道から,パンの大きな塊が出てきました.家族から,パンは誤嚥しやすく,誤嚥すると膨張して気道閉塞を来しやすいことから,食事介助を行わなかったこと,パンを細かく刻まずに与えたことが不適切であったとして賠償金を求められています.

医療現場の「働き方改革」医療の質を担保しつつ労働負荷を低減させる方法・8

健康管理を踏まえた産業医・産業保健機能の強化

著者: 福島通子 ,   佐々木光成

ページ範囲:P.638 - P.643

 新型コロナウイルス感染症に係る2件の労災が認定された.うち1件は医療従事者である.患者の診療などに従事する医療従事者については,業務外で感染したことが明らかな場合を除いては労災と認定される可能性が高い.これまで医療従事者は患者の健康を第一と考え,自身の健康への関心は二の次だったように思う.しかし,自身の健康と安全が守られなければ,質の高い医療は提供できない.医療提供体制の維持のために,医療従事者の健康管理の強化を図ることが重要だと感じたはずだ.医療従事者が業務を通して健康を害するという矛盾は絶対に起こってはならないことなのだ.緊急時であるからこそ,安全衛生の視点で医療従事者の勤務環境を見直し,健康を害する危険因子を取り除く対策を講じなければならない.
 感染予防対策の検討に当たっては,衛生管理の知見を持つ労働衛生の担当者の関与が欠かせないが,関与の仕方もこれまでのやり方を見直すことにもなりそうだ.一例として,産業保健スタッフの重要な業務の一つである面接に際しては,テレビ会議で行う,やむなく対面で行う場合には距離を十分に取り,換気に気を使うといった配慮が必要である.産業医・産業保健スタッフの重要性を再認識するとともに,新しい在り方も考えていかなければならない.今回は,労働時間などの物理的な負荷の軽減とともに,健康管理面からの支援が医療の質を担保するということについて考えてみよう.

多文化社会NIPPONの医療 外国人患者受け入れの課題解決Q&A・35【最終回】

2020年以降の外国人医療

著者: 堀成美

ページ範囲:P.644 - P.645

 2019年12月までは,東京オリンピック・パラリンピックに備えての訪日客対応セミナーや,留学生・技能実習生など長期在留者の健康支援のための研修も展開されていた.しかし,2020年3月以降に予定されていた企画はほぼ中止か延期になっている.東京では電車や繁華街で聞こえていた外国語の声は消えている.
 しかし,2020年6月に入って政府は大きく経済活動再開へ舵を切り,最初にベトナムとのビジネスでの渡航が再開された.そして,新型コロナウイルス対応がうまくいっているタイ,ニュージーランド,オーストラリアへと拡大される予定である.本連載の最終回は,2021年に向けて,医療機関が外国人医療として取り組む課題を整理したい.

--------------------

目次

ページ範囲:P.576 - P.577

Book Review 地域医療構想のデータをどう活用するか

著者: 仲井培雄

ページ範囲:P.629 - P.629

Back Number

ページ範囲:P.647 - P.647

次号予告

ページ範囲:P.650 - P.650

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?