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雑誌目次

雑誌文献

病院79巻9号

2020年09月発行

雑誌目次

対談

地域に貢献する中小病院の心意気

著者: 美原盤 ,   今村英仁

ページ範囲:P.651 - P.656

日本の病院数が減少の一途を辿る中,特定の診療科や分野に専門特化して生き残りを図る中小病院がある.
その先駆けの一つである美原記念病院の選択と集中の軌跡を美原盤院長に聞く.

特集 選択と集中で生き残る病院

巻頭言

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.667 - P.667

 本誌では,2020年2月号「病院の殻を破れるか」,同4月号「グループ化する病院」,同5月号「地域包括ケアで輝く病院」と,さまざまな角度から中小病院にスポットライトを当てて特集を組んだ.2月号において厚生労働省の迫井正深氏が2040年に向けた中小病院の展開として大きく「①疾患治療の拠点」として特定の診療科や診療分野に特化した専門病院型の展開と「②地域生活に寄り添うケアの拠点」として地域包括ケア型の展開の2軸を指摘した.今号はこのうち「疾患治療の拠点」を取り上げて特集とした.
 はじめに2040年に向けた展開を考える中で,あらためて中小病院の推移と現状を概観し,さらに中小病院に関する先行研究をまとめた.次に,地域医療構想策定ワーキンググループ座長の尾形氏にこれからの中小病院の経営戦略について総括いただいた.具体的な経営戦略の考え方は『病院経営の教科書——数値と事例で見る中小病院の生き残り戦略』(日本医事新報社,2015年)著者の大石氏・小松氏にコンサルタントの立場から述べてもらった.

日本の中小病院の推移と現状

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.668 - P.672

●現在約8,400ある日本の病院の約7割が200床未満の中小病院である.
●毎年漸減(100床未満の病院数と200床以上の病院数),漸増(100床以上200床未満の病院数)しており,個々の病院では統廃合,アップサイジング,病院から診療所への転換を含むダウンサイジング,廃院などが行われている.
●中小病院の多くは,自院の機能や必要性に合わせて,さまざまな団体に所属して自院のあり方を検討している.

中小病院の経営戦略に関する考察

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.673 - P.676

●中小病院の定義につき検討した上で,わが国の中小病院の(経営状況を含む)現状について,政府統計に基づき素描する.連続的な施設体系と緩やかな二極分化,民間病院との重複,規模の経済・不経済の存在などが示唆される.
●近年のわが国における医療提供体制に関する政策の動向について,特に地域医療構想を中心に記述し,その中小病院経営への影響を論じる.
●わが国の中小病院の基本的な経営戦略について,「選択と集中」および「範囲の経済性の活用」という2つの観点から論じる.

経営戦略からみた中小病院の選択と集中

著者: 小松大介 ,   大石佳能子

ページ範囲:P.677 - P.682

●経営資源が限られている中小病院にとっての経営戦略は,集中戦略が主体となる.
●戦略の選択と集中においては,診療科や患者ステージ(急性期〜回復期〜慢性期)以外に,機能別の切り口も存在する.
●選択と集中によって,病院同士が上手に棲み分けることで,経営的にも良い効果が得られる可能性が高い.

【事例】

甲状腺疾患専門病院として生き残る—いままでも これからも

著者: 伊藤公一

ページ範囲:P.683 - P.687

●伊藤病院は1937年創業の個人病院であり,設立時より甲状腺疾患専門医療機関として,社会的責務を全うしている.
●都市部の中小民間病院を取り巻く環境はますます厳しくなっているが,専門病院としては政令指定都市での開業メリットが大きい.
●適正規模と守備範囲を守り,臨床医が管理するところの専門病院であり続けたいと考えている.

乳房疾患専門病院として生き残る—選択と集中から始まる価値の創造

著者: 相良吉昭

ページ範囲:P.688 - P.690

●高度成長期に支えられていた日本の医療は少子高齢化とPost-COVID Eraへと突入し,これからの日本の医療環境は急速に萎縮していく.今われわれはその分岐点に立っている.
●萎縮する日本の医療において,従来の経営手法は通用しない.今回特集される「選択と集中」だけでも,いずれ淘汰されてしまうであろう.われわれは「選択と集中」から始まる「価値の創造」が未来へ夢を描く手段と考える.
●アジアNo. 1の乳がんの専門グループをつくるという夢を実現するために,オープンイノベーションによる「価値の創造」を行っているので報告する.

総合診療医が診療の中心を担う病院—ポジショニングとブランディングによる地域貢献のための変革

著者: 本田宜久

ページ範囲:P.691 - P.694

●民営化により病院再建に成功した頴田病院は,総合診療医が診療の中心を担った.
●総合診療領域の中でも家庭医的なプライマリーケア外来,病棟でのポストアキュートケア,サブアキュートケアに注力し,大病院との差別化を図った.
●経営の多角化として在宅医療を拡充し,病床を増やすことなく診療規模を拡大した.在宅診療に必要な連携を通して,地域へのブランディング浸透に成功した.

特別記事

医療への人工知能(AI)の導入と患者・医師関係—AIの「最適解」をどう考えるか

著者: 井上悠輔 ,   菅原典夫

ページ範囲:P.698 - P.703

■はじめに
 本稿では,医療への人工知能(以下,AI)の導入をめぐる倫理問題,とりわけ,患者や医療者が直接経験しうる問題に注目して検討する.医療は,労力と知識を総動員して行う作業であり,業務の効率化・精緻化の観点から,AIを活用した作業の自動化・機械化への注目が高まることは,必然といえるかもしれない.背景には,医療の質や費用の問題,労働環境のほか,個人のニーズや病状に合ったより精緻な医療の開発など,医療が直面する切実な課題がある.2019年度末から本格化した新型コロナウイルス感染症についても,個々の患者に関する症状の重篤化予測,急増する関連論文からの情報の抽出などにおいて,AIの活用が提案されている1)
 本稿は,大きく二部により構成される.前半では,ELSI(Ethical,Legal and Social issues)の視点から,現状の主たる議論を概観する.ELSIとは,新しい科学技術の展開が及ぼす社会へのインパクトを考える視点であり,とりわけ生命科学・医学の文脈で展開してきた視点である注1.後半では,現時点で医療者(医師)・市民が,医療におけるAI(以下,医療AI)をどのように捉えているか,両者それぞれの理解・反応を比較できる質問票調査の結果を共有したい.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・69

横浜市立市民病院

著者: 室殿一哉 ,   吉田一博 ,   植木康剛

ページ範囲:P.658 - P.663

■病院を取り巻く環境
 横浜市立市民病院は,神奈川県横浜市の基幹病院として,高度・急性期医療,地域に必要な医療を提供している.新病院は,三ツ沢公園に隣接した建設地の条件を最大限に生かし,「パークホスピタル」として公園との共生と療養環境の向上を重視するとともに,安全で良質な医療を提供し市民の健康な生活に貢献する「安心とつながりの拠点」として計画された.
 本院は,災害拠点病院や神奈川県唯一の第一種感染症指定医療機関として大規模災害や感染症に対する病院機能を強化するとともに,患者総合サポートセンターを中心とする地域の医療機関との連携・役割分担さらには介護・行政との一層の連携を進め,地域医療人材育成のプラットホームとなるよう,研修の場と機会も提供していく予定である1)

医療現場の「働き方改革」医療の質を担保しつつ労働負荷を低減させる方法・9

医療機関の同一労働・同一賃金対策

著者: 福島通子

ページ範囲:P.705 - P.709

 2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)より,「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(略して「パートタイム・有期雇用労働法」)において,同一労働・同一賃金に関する規制が施行された.同法は,同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止している.
 少子高齢化や価値観の多様化により増加iiしてきた非正規労働者(短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)は,これまで正職員とは別個のものとして処遇されてきた.しかし,非正規労働者も正職員と同じ評価体系に組み込み,公正な待遇を確保しなければならないというのが同一労働・同一賃金の考え方である.これには,不合理な待遇差の解消により,非正規労働者の勤労意欲を高め,生産性向上につなげる狙いがあるとされている.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・23

2018年度の急性期病院の決算と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病院経営への影響

著者: 深澤宏一

ページ範囲:P.710 - P.715

●はじめに
 今回は2018年度の急性期病院の決算について分析するとともに,独立行政法人福祉医療機構(以下,機構)が実施した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病院経営への影響に関する特別調査の結果を踏まえ,過去に紹介した中小病院の特色ある取り組みをとりまとめた.

病院で発生する「悩み」の解きほぐし方・5

このような診断書を作成してよいのでしょうか?

著者: 越後純子

ページ範囲:P.716 - P.718

Case
❶交通事故から2年を経過して初めて来院した患者が,交通事故により歩行が困難になったという障害の診断書を書いてほしいと言っています.現在,腰痛を訴えているため,MRIを施行したところ,腰部に脊柱管狭窄が認められました.本人は,事故以前,歩行に支障はなかったが,事故後は杖をつかなければ歩けず,歩行できる時間も数分が限度であり,外出もままならないと言っています.検査の結果と現在の症状は一致しないわけではありません.
❷当直帯に顔面挫傷の患者が来院しました.明らかに酒を飲んでいることが分かります.左眼は開眼できないほど,左眼瞼周囲が腫脹していました.深夜なのでCTは撮れず,眼窩骨骨折の有無などは判断できませんでした.翌日,患者が警察から診断書を提出するように言われているので,診断書を書いてほしいと言ってきました.当直医は内科医であり,外傷の診療経験に乏しかったため,加療期間を正確に推定することができませんが,腫脹が強かったのでとりあえず1カ月と書いて交付しました.
❸半年前に人工膝関節の置換術を行いました.しかし,術後に感染を合併し,再手術が必要になり,リハビリテーションにも時間がかかってしまいました.担当医としては,時間がかかったものの,概ね術前に想定されていた機能を回復しており,入院中の状態を観察していたところ明らかな後遺症はなく,術前同様,就業が可能だと考えています.
 しかし,患者から,術前より状態が悪化し,以前のように立ち仕事をすることができず,新たな仕事を見つけることも困難であるとして,生活保護受給のための書類を書いてほしいと頼まれました.書類を書いてくれなければ,治療がうまくいかなかったために起こったことなので,弁護士に相談し,しかるべき措置を検討すると仄めかしています.
❹癌が疑われ,精密検査のために入院することになりました.本来は,翌日退院が可能な状態ですが,1日入院では保険金がもらえないので,もう1日入院させてほしい,保険会社に出す診断書には2日間入院したと書いてほしいと言われました.
❺事前に,心停止時には蘇生を希望しない旨の意思表示をしている患者が23時29分に心肺停止の状態になり,心肺蘇生は行いませんでした.家族が遠方に居住しており,連絡したところ,翌日の10時くらいにしか来院できないと言われました.そのため,翌日10時14分,家族立ち合いのもと死亡確認を行い,死亡診断書を作成しました.

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目次

ページ範囲:P.664 - P.665

Book Review 地域医療構想のデータをどう活用するか

著者: 望月泉

ページ範囲:P.697 - P.697

Back Number

ページ範囲:P.723 - P.723

次号予告

ページ範囲:P.726 - P.726

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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