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雑誌目次

雑誌文献

病院80巻1号

2021年01月発行

雑誌目次

特集 地域医療構想を踏まえた病院機能の選択 総論

地域医療構想の現状と課題

著者: 鈴木健彦

ページ範囲:P.16 - P.21

■背景
 現在,わが国は世界でも類を見ない高齢化が進み,団塊の世代(1947〜1949年生まれ)が75歳になる2025年には,75歳以上の高齢者(後期高齢者)が2000万人以上になる一方,15〜64歳の生産年齢人口が減少することが予測されている.この高齢化については,2025年までに75歳以上人口が減少する市町村もあり,地域の状況に差があるのが現状である.こうしたことから,2014年の医療法改正により,2025年の超高齢社会を見据えて,各地域において質が高く効率的な医療提供体制を構築するため,都道府県は医療計画の一部として「地域医療構想」を策定することとなり,現在,各地域において地域医療構想の実現に向けた取組が進められているところである(図1).

データから考える地域医療構想の現状と課題

著者: 今村知明

ページ範囲:P.22 - P.25

■地域医療構想の目的
ピークを迎える高齢者数と医療需要総量
 2025年を見据え,わが国はこれから大きな変化を迎える.総人口は減少しているにもかかわらず,慢性的な疾患を抱える高齢者や要介護人口は,近年10年足らずで1.5倍という凄まじい早さで増加する.社会を支える若い世代や財源は減少し,医師や看護師の数も到底足りなくなる.2025年,団塊の世代は後期高齢者となるため医療・介護の需要が著しく増大する.人も財源もなく,この課題にどう対応するかが日本にとって最大の問題となる.
 地方の高齢化はすでに進んでいるのだが,これからは地方から都市部に出て働き,住まいを構えてきた,いわゆる団塊世代の多くが,そのまま都市部で後期高齢者となる.すると,高齢者の医療・介護の需要を都市部で受け止めきれず,近隣地域に医療・介護が必要な人々が溢れ出てしまう.

自院の位置づけをどう考えて機能選択してきたか

急性期を中心とした病院における機能選択の考え方

著者: 牧野憲一

ページ範囲:P.26 - P.29

■はじめに
 地域医療構想は2025年の新たな医療提供体制を構築することを目指して進められてきた.地域の中で将来の医療需要を見据え,それに向けて必要な機能と必要な病床数を確保することが求められた.確保するといっても,首都圏などの一部の地域を除いて,高齢化と人口減少が加速することをデータは示しており,病床過剰をどのように調整するかが計画の中心になりがちであった.特に,急性期病床の過剰が多くの地域で起きている.さらに,2019年には公立・公的病院の中で,その役割を十分に果たしていない医療機関として再検証対象病院が公表された.これにより再編統合が加速するかに思われたが,2020年に吹き荒れた新型コロナウイルス感染症の嵐の中で,さらなる見直しも起きている.本稿では,このような状況の中で,地方の急性期病院がどのように先を見据え,どのように進もうとしているのかを述べていく.

回復期を中心とした病院における機能選択の考え方

著者: 戸田爲久

ページ範囲:P.30 - P.34

■はじめに
 現在,医療と介護の領域では,いわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて,地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想に基づく病床再編が行われつつある.地域医療構想では,病床の機能分化と連携を進めるために,各病院は地域の中での自院の役割を把握し,病棟機能を選択することが求められている.本稿では,回復期機能(回復期リハビリテーション病棟,地域包括ケア病棟)と慢性期機能(療養病棟)を有するベルピアノ病院(以下,当院)における病床機能の選択について報告する.

地域密着多機能病院を目指した機能選択の考え方

著者: 井川誠一郎

ページ範囲:P.35 - P.39

■はじめに:平成医療福祉グループの紹介
 平成医療福祉グループ(以下,当グループ)は約30年前に徳島県で60床の病院として生まれた博愛記念病院から始まり,現在26病院を含む100以上の医療・介護施設を有する大きな医療福祉グループである.この間,病院では急性期治療後の患者を受け入れ,治療とリハビリテーションを行うPost Acute Care(PAC),在宅療養中で状態が悪化した患者の入院を速やかに受け入れ,治療とリハビリテーションを行うSub Acute Care(SAC)を中心として,いずれも早期の在宅復帰を目指す慢性期病院として邁進してきた.さらに良質な医療・介護施設を機能的に運営できるように,一般急性期病院や施設の運営,さらには在宅支援分野へも力を入れている.
 超高齢社会に突入した今,医療福祉分野の効率化は喫緊の課題となっているが,当グループは「絶対に見捨てない」「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」を理念とし,患者のためになる医療福祉を追求し続けている.

病院ごとの立ち位置に応じた機能選択

過疎地域の病院における機能選択の現状と課題

著者: 住友正幸

ページ範囲:P.40 - P.43

■はじめに:徳島県西部圏域の概要
 徳島県立三好病院(以下,当院)は徳島県の西の端,四国で言えば中央部に当たる中山間地に位置する.高知県に発して北へ進んだ吉野川が讃岐山脈の隆起した岩盤に当たり,直角に東に進路を変えるところ,阿讃山脈に沿って走る中央構造線のすぐ南側の人口1万人ほどの田舎町にある.三方を山で囲まれ,平家の落人で有名な祖谷を代表に歴史に富み,風光明媚,緑と水の豊かな地域であるが,裏を返せば吉野川沿いを除けば人口はまばらで,「地方」といわれる徳島県の中でも最も過疎が進んだ地域でもある.一方,車を20分も走らせれば,隣県である香川県,愛媛県,高知県に通じており,仕事で通ったり,買い物に出かけたり,医療を他県に頼っている患者も少なくない.
 そして,われわれが守るべき徳島県西部圏域(以下,当圏域)は,東西約50km,南北約40km,広さは徳島県のちょうど1/3だが,人口は1割強の7万3千人で,人口減少率は年2%を超える.公的病院としては,西端に220床の当院,中間部に60床の(三好)市立三野病院と,120床のつるぎ町立半田病院がある(図1).つるぎ町立半田病院は当圏域の周産期医療を担っており,小児救急は当院と輪番となっている.市立三野病院はリウマチ膠原病のセンター化と,地域包括ケア病床の運営で特殊性を出している.そして当院は,当圏域の三次救急を担っている.

民間病院からみた病院における機能選択の現状と課題

著者: 江頭啓介

ページ範囲:P.44 - P.49

■はじめに
 いわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025年,そして団塊ジュニアが高齢者となり,高齢者人口がピークを迎える2040年を展望して,医療提供体制の改革が強力に進められている.その大きな柱は,地域包括ケアシステムの構築と並行して進められている,地域医療構想・働き方改革・医師偏在対策を合わせた三位一体の改革である.今般の新型コロナウイルス感染症蔓延により,削減圧迫を受けてきた急性期病床の存在意義が再確認されたが,また同時に日常医療の安定提供の大切さにあらためて気付かされたと思う.地域医療構想調整会議の開催は,現在のところ遅延された状況であるが,生活と生命を守る社会インフラである医療の重要性が強く認識されたことは,今後の5疾病5事業や地域医療構想など地域医療計画の進め方に確実に影響を及ぼすと思われる.本稿では,民間病院の立場から病院機能選択の考え方について述べる.

Withコロナ時代の地域医療構想を考える

著者: 望月泉

ページ範囲:P.50 - P.55

■はじめに
 急速な少子高齢化の進展に伴い,医療介護需要の増大と疾病構造の変化が予測される2025年に向けて,構想区域ごとに協議の場で話し合い,将来の必要病床数や在宅医療などの需要を推計し,将来のあるべき医療提供体制の構築に取り組んでいく必要がある.同時に,効率的かつ質の高い医療提供体制の確保が求められ,限られた医療資源の下では,病院・病床ごとに機能を分け,連携することが効率的であると考えられてきた.
 新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)のパンデミックに際し,コロナ患者が多発している地域でも,かろうじて医療崩壊に至らなかったのは,全体的に入院ベッドに余裕があったためと思われる.
 本稿ではコロナが一定レベルで続くことを想定して,これからをWithコロナ時代と捉え,病院の機能分化および連携のあり方を地域医療構想との関連で論考する.

病院の機能選択をどうみるか

地域医療構想アドバイザーからみた病院における機能選択の現状と課題

著者: 伊藤健一

ページ範囲:P.56 - P.60

■はじめに
 2014年から,将来の医療需要に応じた医療資源の効率的運用を目指して,地域医療構想が策定され,各都道府県において病床機能報告データに基づき,議論を開始することになった.特に,公立・公的病院の不採算に着目した方向性で,地域医療構想調整会議(以下,調整会議)を設置し,ほぼ二次医療圏単位で議論をすることとなった.公立・公的病院はその成り立ちが個人ではなく地域における自治体を含めた集団の希望により設立されたという歴史的事実がある.従って,病院の機能変更,規模縮小は一医療機関の判断ではなく,自治体にある病院という立ち位置が前提となって,議論が行われる場合が多かった.
 筆者は,地域医療構想アドバイザーとして,それらの議論に参加して,松田晋哉先生(産業医科大学)が以前より指摘しているように,大学を頂点とした医療機関ヒエラルキーが厳然として存在し,病院の評価が病床数をはじめとする病院規模を表す数字で評価されていると感じた.そこでは,住民が医療を受けるために必要な病院の機能について,具体的な議論がされてこなかった.さらに,この医療機関のヒエラルキー構造が病院で働く医療人の労働価値をも定めてしまっている.

対談

新型コロナが拍車をかける病院機能の選択

著者: 松田晋哉 ,   猪口雄二

ページ範囲:P.1 - P.6

新型コロナウイルス感染症の広がりは,これまでの医療提供体制の虚を衝いた.
一方で,高齢化と人口減少の勢いは止まらず,病院は機能選択を迫られている.
地域の安全を保障するために,どうすべきか.
これからの医療提供体制のあり方を再考する.

特別記事

地方の弱小病院の事務長が直面した医師確保の厳しい現実と打開策

著者: 實吉俊介

ページ範囲:P.62 - P.66

■はじめに
 筆者は1984年4月,北海道赤平市へ奉職した.経済建設部から始まり,商工,観光,保健,企画,市民相談,広報,生活環境,健康づくり,介護などの部署を経て,2009年4月にあかびら市立病院(以下,当院)へ事務長として異動し,経営再建に携った1)
 本稿では,そこで直面した医師確保の厳しい現実と打開策を紹介する.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・73

東京都済生会中央病院

著者: 中山純一

ページ範囲:P.8 - P.13

■東京都済生会中央病院の沿革
 済生会は,1911(明治44)年に,「生活苦で医療を受けることができずに困っている人たちを施薬救療によって救おう」との明治天皇の済生勅語に基づいて創設された恩賜財団である.「済生」の意味は中国の古典に由来し,「済」は「すくう」で,「生」は「いのち」「国民の生命と繁栄」を指しており,「生活困窮者を済(すく)う」「医療で地域の生(いのち)を守る」「医療と福祉,会を挙げて切れ目のないサービスを提供する」といった「済生の精神」に基づいた思いやりのある保健・医療・福祉サービスの提供を通じて社会に貢献している.2019年3月31日現在は,全国に99の病院・診療所と,292の福祉施設等を運営する,日本最大の社会福祉法人となっている1)
 東京都済生会中央病院(以下,同病院)は,その中で2番目に古く,1915(大正4)年に済生会本部直営の「済生会芝病院」として開院した(表1)2).1967年に完成した旧主棟など,老朽化,狭隘化した施設の建て替えが必要となり,2005年に7階建ての新棟(現北棟),2008年には4階建ての新外来棟(現外来棟)がオープンした.2017年にオープンした主棟(図1)は,開設100周年記念事業として位置づけられ,465床の病棟や中央診療部を含み,北棟,外来棟と続いた一連の建て替えの最終ステージを迎えることとなった.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・25

社会福祉法人あそか会 あそか病院—経営改善への取り組みとCOVID-19クラスターへの対応

著者: 深澤宏一

ページ範囲:P.68 - P.72

 社会福祉法人あそか会が運営するあそか病院(以下,同院)は,東京都江東区の北部にある都営新宿線住吉駅から徒歩5分,JR総武線錦糸町駅からも徒歩9分と好立地にある254床の病院である.同院の周辺には昔ながらの商店街があり下町の雰囲気が残る.
 同院は古くからこの地で地域医療を支えてきているが,現在も猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の重症患者を関連の特別養護老人ホームから受け入れたことで,その対応に追われることになった.

病院で発生する「悩み」の解きほぐし方・9

このお金は支払わなければならないでしょうか?

著者: 越後純子

ページ範囲:P.74 - P.76

Case
 採血をして1週間後の患者から,病院に電話があり,「採血をした側の手が痺れ,他院で診察を受けたところ,採血が原因だと言われた.どうしれくれるのか」と声を荒げていました.
 院長は,電話では状況がよくわからないので,とりあえず,患者の状態を確認した上で話をしようと思い,患者に診療時間外に病院に来てもらいました.採血をした部位を確認しましたが,特に腫れや出血の跡は見られませんでしたが,患者は痺れると言っています.患者は,他院でかかった費用と今後の診療費を支払え,この件で迷惑を被ったのだから誠意を見せろと部屋の外まで聞こえるような大声ですごんできました.ちなみに,他院の診断書や領収証は持参していません.今後も,もしこの患者が診療時間中に来院し,他の患者の前で大声を出したらと考えると,気が気ではありません.
 院長が採血をした看護師に確認したところ,以下の事情が分かりました.
Ⓐ採血は,翼状針を用いて行われ,穿刺時,痺れや痛みの訴えはなく,テープで針を固定し,3本目に付け替えた時点で一瞬「痛い」と訴えがありましたが,痛みの性状は電撃痛や放散痛ではなく,その後痛みや痺れの訴えもなく,そのまま残り2本の採血を完了しました.
Ⓑ採血時,駆血しても静脈が浮かず,静脈が分かりにくかったため,深い位置の静脈を針先で探っていたところ,患者が強い痛みを訴えましたが,わずかに針を進めたところ,血液の逆流がみられたため,そのまま採血をしました.ちなみに,痛みの性状は電撃痛でした.

感染症新時代—病院はどう生き抜くか・4

武蔵野中央病院・大西潤子看護部長インタビュー(2)

著者: 堀成美 ,   大西潤子

ページ範囲:P.78 - P.80

前回は,感染管理の専門スタッフがいない精神科の病棟が,新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクに直面し,感染拡大初期には外部の支援ナースを受け入れながら,現場スタッフが自ら日々使用する物品を用いて教育動画やスライド資料を作成し始めたところまでを紹介した.振り返ると,この頃が外部支援者の関わりが縮小し,スタッフが自分たちで今後を考えて展開するターニングポイントとなった.今回も,前回に引き続き武蔵野中央病院・大西看護部長にお話を伺う.

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目次

ページ範囲:P.14 - P.15

Book Review 基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版

著者: 坂本史衣

ページ範囲:P.73 - P.73

Book Review 世界一わかりやすい「医療政策」の教科書

著者: 二木立

ページ範囲:P.87 - P.87

Information

ページ範囲:P.83 - P.85

Back Number

ページ範囲:P.89 - P.89

次号予告

ページ範囲:P.92 - P.92

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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