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雑誌目次

雑誌文献

病院80巻10号

2021年10月発行

雑誌目次

特集 新・ケアミックスが病院を変える—超高齢社会の患者ニーズの複合化への対応 ケアミックス化の必然性

データから考えるケアミックス化の現状と課題

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.850 - P.853

■問題の所在
 筆者はこれまで病院に関連する種々の公的委員会に参加してきた.そこでの議論では,時に「ケアミックスは営利主義の事業展開であり,医療を望ましくない方向に誘導するものである」という意見が出される.大学における急性期を中心とした医学教育,看護教育を背景に,医療者の中に急性期>回復期(亜急性期)>慢性期という「医療の格」に関する暗黙のヒエラルキーがそこには見え隠れする.
 また,メディアの論調でも,急性期以後の医療において営利的な診療が横行しているようなイメージのものが少なくない.この背景には1980年代から1990年代にかけて老人病院のケアの質に関する実態を報道したメディアの影響も大きいだろう.営利目的での「検査漬け,薬漬け」というのが老人病院の実態であるというイメージが広がってしまったことは,その後の高齢者医療の展開の大きな足かせとなった.

医療経営学からみたケアミックス化の構造と利点

著者: 西田在賢

ページ範囲:P.854 - P.857

■はじめに
 ケアミックスという用語は医療関係者の間で使われるようになって久しいが,意外なほど人によって捉え方が違うのではないだろうか.そのようなことからも,本誌が「新・ケアミックス」と題した特集を組んで昨今のケアミックスの考え方を包括的に説明しようとするのはたいへん興味深い.そこで,医療経営学(Health Policy, Business and Management)の視点から「新・」とわざわざ断わる理由を考えてみたい.
 まず経営学の視点から見れば,言うまでもなくケアミックスは「病院における事業の多角化」のことである.ただし,その多角化は病院の付帯業務でもなければ,社会医療法人などに許されているような収益業務でもなく,病院の本来業務,つまり医業・介護の本体事業に限った多角化と言える.
 さて,経営学では自分が営む事業がどういうものなのかをあらためて考える重要性を「事業ドメイン」の学びとして教える.例えば,かつて鉄道会社は自分たちを鉄道事業者と定義づけたため,自動車やバスなど競合する輸送事業者たちに負けてしまうということがあった.しかし,自分たちの利用者を念頭に事業展開を見直すことでターミナル百貨店,そして宅地やリゾート地の開発といった事業で会社を再興し,さらに近年はエキナカ商店などへと事業範囲を拡げていることは事業の多角化にほかならず,自身の事業ドメインを見直す努力を続けていることにほかならない.
 実のところ,事業ドメインは時代とともに見直しを図ることが不可欠であり,要するにドメインを設定することは,社会の変化に対応するために「どのような顧客に対して,どのような技術をもって,どういった価値を提供するのか」を特定することであり,昨今のように技術やビジネスや生活スタイルが大きく変わっていくときには,事業者それぞれでドメインの見直しと再定義をすることが不可欠となる.
 本特集が「新・ケアミックス」と題するのも,大きな時代変化に遭遇する昨今の病院事業者に向けて事業ドメインの見直しを促そうとしているものと考える.
 そこで,筆者が専門とする医療経営学の視点から「新・ケアミックス」の捉え方と今後の姿について説明してみたい.

新・ケアミックス化の潮流

急性期病院におけるケアミックス化の意義と課題

著者: 園田幸生 ,   森田絵茉

ページ範囲:P.858 - P.863

■はじめに
 超高齢社会を背景として,急性期病院においても入院患者の高齢化率は高く,また介護度が高い状態であることが多い.また高齢患者の病態は複雑化・多様化し,単一の診療科で主疾患のみの治療を行うことは少なくなってきており,さまざまな診療科や診療部門が関わる多様な疾病構造となってきている.高齢者は環境の変化に伴って容易に生活リズムが崩れるため,せん妄・不眠・転倒・転落・排泄障害・栄養障害といった高齢者特有のケアに対するマネジメントも必要となり,患者自身が「ケアミックス化」している病態・状態に対して,専門性の高いあらゆる職種が介入する「多職種協働によるチーム医療」の推進が急がれる.
 済生会熊本病院(以下,当院)では,患者にとってより質の高いチーム医療の提供を行うことを目的に,2017年4月に包括診療部という新たな部門を立ち上げた1,2).本稿ではその部門を中心に,患者のケアミックス化にどう対応しているのかを述べる.

地域一般病院におけるケアミックス戦略

著者: 西野憲史

ページ範囲:P.865 - P.869

■はじめに
 われわれ,ふらて会グループは,政令指定都市で最も高齢化の進む北九州市にあって,高齢者を主たる利用者として,医療・介護・予防・住まい・地域づくりなどの地域医療・福祉活動を行っている.
 われわれを構成する組織は,医療法人・社会福祉法人・NPO法人・株式会社が互いに協力して,地域のニーズを汲み上げケアミックスサービスを提供している(表1).本稿では日々の活動を通じた実感を基にした,地域医療・福祉・介護に対する基本的な考えと今後の展望について述べたい.

回復期リハビリテーション病院が取り組む地域ケアミックス戦略

著者: 児玉直俊

ページ範囲:P.870 - P.872

■はじめに
 京都市の北東端,市街地から離れた比叡山の麓にある大原は,四方を山々に囲まれた美しい山里だ.「三千院」「寂光院」など全国的にも名を馳せる古刹があり,昭和50年代JR(旧国鉄)が放ったディスカバージャパンのキャッチコピーに乗って,全国から多くの人が押し寄せた観光地でもある.
 京都大原記念病院グループ(以下,当グループ)は1981(昭和56)年,その大原の里に,74床(当時)の大原記念病院(現京都大原記念病院)を開設したところから始まる.薬価基準の切り下げをはじめとして厚生省(現厚生労働省)が本格的に医療費抑制策を打ち出した年の病院開設であり,船出は厳しいものであった.「市街から遠く,人口2,800人程度の小さな村で,病院経営は困難.2年と持たないであろう」といった忠告や揶揄もあった.
 しかし現在ではグループとして,京都大原記念病院(203床,以下,当院),京都近衛リハビリテーション病院(100床)といった2つの回復期リハビリテーション病院を中心に,外来クリニック,高齢者介護施設,高齢者住宅施設,自宅生活をサポートする訪問・通所サービス,介護予防・健康増進サービスなど,総合的なネットワークの展開に至っている(図1,2).
 むしろ「医療の転換期」に誕生した病院だったからこそ,時代の変化に柔軟に対応し発展することができたのではないかと考えている.

大都市での地域包括ケアシステム,そしてケアミックス化—安心・安全なまちづくりへの貢献

著者: 金光宇

ページ範囲:P.873 - P.876

■はじめに—結果としてのケアミックス,継続する変化
 本特集の一環として「高齢化が進む大都市におけるケアミックス戦略」というテーマをいただいた.私たちは今の医療法人社団成和会の状態をケアミックス戦略として位置付けていなかったので戸惑ったが,客観的にはケアミックスであると思い直し本稿を書いている.
 地方であろうが大都市圏であろうが,高齢化する患者ニーズに寄り添えば結果として地域包括ケアシステムに取り組まざるを得ないと考えている.その結果がいわゆるケアミックス化になった.日々,診療の中で患者・家族との会話での気づきが,今の法人の形態を生み出している.大都市圏での病院経営は建築投資・人材確保面で厳しい対応を迫られている.思うことと実践することのギャップは非常に大きいと感じている.しかし,当地で生まれ育ち医師になり理事長となった今,あらためて地域の変遷に沿った医療提供を実践しなければと思う.急性期医療を基盤にした法人経営は,ここに昔より暮らす地域住民が子供の時,走り回っていた野原に家が建ち,住む人が増え,そして老いていき医療と介護が必要になってきた現在,急性期医療だけでは支えきれない局面にある.経営戦略云々を議論する前に,学校へ出向き注1,町内会に顔を出し,地域の医療福祉団体,行政の方たちと会話をすれば何をなすべきかが見えてくる.この結果が十分ではないが現在の成和会の姿である.

過疎地域におけるケアミックス戦略

著者: 加藤節司

ページ範囲:P.878 - P.882

■はじめに
 島根県邑智郡川本町は,社会医療法人本部の所在する全国の自治体のうち,最小人口の町である注1.島根県の地理的中心に位置し,かつて郡都として行政・経済の中核を担った町も,人口減少による生活利便性の低下などを通じてさらなる人口減少を招くという悪循環に陥ってきた.われわれが日常生活を送るために必要なサービスは,一定の人口規模の上に成り立ち,必要な人口規模はサービスの種類により異なるとされている.ある市町に一般病院が80%以上の確率で存立するには,27,500人以上の人口規模が必要(50%以上の確率で立地するためには5,500人以上の規模が必要)というデータがある(国土交通白書,2015より).川本町の人口は,現在3,177人(2021年6月30日)であり,立地に必要な規模を大きく割り込んでいる.
 一方,われわれ社会医療法人は非営利性を徹底して担保しながら,医療の永続性を確保することを目的として制度化されている.それ故,住民の健康保持に寄与し続けるためには,ドラッカー1)の提唱する①自らの組織に特有の使命を機能させる,②働く人たちを活かす,③社会に害を与えない,マネジメントの実践が重要となる.
 本稿では,過疎・中山間へき地という医療経営環境において社会医療法人仁寿会(以下,当法人)が選択し実行してきた戦略的マネジメントについて報告する.

医療・介護の複合化戦略としてのケアミックス

著者: 星野豊

ページ範囲:P.884 - P.888

■はじめに
 団塊の世代が後期高齢者となる2025年まであと数年,さらに団塊ジュニアが高齢となる2040年まで高齢人口は増え続け(高齢化率は2060年にピークと予測されている),いよいよ本格的な超高齢社会に突入している.
 医療面では2016年から地域医療構想が調整会議の場で具体化が図られ,介護面でも地域支援事業などを加え日常生活での介護予防や重症化防止へ重点が移りつつあり,平成から令和への年号の変更を機に医療・介護も合わせた地域包括ケアシステムの構築が一気に進むと思われた.遺伝子治療や再生医療など引き続き医学の進歩は目覚ましいが,一方「治す」治療主体から「癒す」治療へと重点も移り,ACP・人生会議・健康寿命・人生百年時代など,世相やニーズも変わりつつある.
 しかし,2020年初めからの新型コロナウイルスのパンデミックによる医療の逼迫や新たな弱点が露呈し,介護でも従来のサービス提供体制の見直しが迫られるかもしれない.
 いずれにしても,医療での急性・慢性,一般・療養という機能別の垣根を少しでも低くし,医療・介護の一層の連携,そして地域でのネットワークの構築などは,これからの超高齢時代に避けられない課題と考えている.本稿ではこれらに対応するための取り組みを「新・ケアミックス」ととらえ,自法人の経過・現状・今後を考える.

医療・介護の複合化戦略としてのMedical Neighborhood

著者: 馬場園明

ページ範囲:P.890 - P.893

■はじめに
 わが国では,人口の高齢化に伴い,複雑な病態を複数有する患者が増加してきている.近年,医療の高度化に伴い,専門診療は細分化され,医療機能の分化は進行してきたものの,患者ケアは細切れに分断化されて医療やケアの責任の所在があいまいになり,医療の質や効率性に問題が認められるようになっている.また,地域包括ケアシステムが機能するためには,プライマリ・ケアと急性期病院との垂直連携,地域におけるプライマリ・ケアと他の医療機関,介護事業所,地域包括ケアセンター,自治体との水平連携も必要とされているが,必ずしもうまくいっているとはいえない.
 Medical Neighborhood(以下,MN)とは,米国で包括的なプライマリ・ケアを提供する医療機関であるPatient Centered Medical Home(以下,PCMH)が,他のヘルスケア機関やスタッフと連携して行う機能であり,効果的に統合・コーディネートすることの重要性を強調した概念である.
 わが国のケアミックス病院は,専門医療,回復期医療,慢性期医療を統合した機能を持っているが,これに加えて,MNの機能を他の医療機関,介護事業所,地域包括ケアセンター,自治体と連携して行う可能性について検討してみた.

対談

これからのケアミックスの在り方

著者: 原祐一 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.835 - P.840

本特集では,「新・ケアミックス」を「地域包括ケアシステムを構成する医療,介護,予防,生活支援,住まいの各サービスを総合的に提供する複合的サービス」と定義.複合ニーズを持つ高齢患者の増加に伴い,病院には新・ケアミックス化が求められているという問題意識の下,現在抱える課題や,これからのケアミックスの在り方を語り合う.

研究

財務指標の妥当性と信頼性を高める病院原価計算システムの再設計—運動器ケアしまだ病院を事例として

著者: 黒木淳 ,   岩崎僚 ,   島田永士 ,   藪野加弥子

ページ範囲:P.894 - P.901

要旨
【目的】本研究の目的は,原価計算システムから報告された財務指標の妥当性と信頼性の観点から,病院原価計算システムの利用を見直し,その有用性をあらためて検討することである.
【方法】2019年2月〜2020年7月末に財務指標の妥当性と信頼性を高める原価計算システムの検討および再導入を行い,その有用性をアクション・リサーチによって検証した.
【結果】それまで5つに区分されていた診療科区分を,8つの診療科部門に区分し直した会計責任単位に変更し,それによって財務指標の妥当性と信頼性が向上した.
【結論】原価計算システムが機能するために,原価計算システムによって導出される財務指標の妥当性と信頼性を再検討することの必要性を指摘した.情報利用者の意思決定に有用な診療科・部門に区分をし直すこと,また直課をできる限り測定段階から増やす重要性が示唆された.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・81

宮崎市郡医師会病院

著者: 富沢照秋

ページ範囲:P.842 - P.847

■病院建て替え計画の背景と新病院に求められる機能
 宮崎市郡医師会病院は,昭和59(1984)年に医師会会員医師からの紹介入院を主体とした開放型病院として開設された.現在は,地域医療支援病院,地域災害拠点病院,地域周産期母子医療センターとしての役割も持ち,宮崎市をはじめとした周辺地域の中核医療機関として重要な役割を担ってきた.
 しかし,約35年使用されていた既存建物は老朽化や最新医療機器への対応が困難になったこと,発生が予想されている巨大地震による津波対策など,早急な病院建て替えの必要性に迫られていた.

これからの病院経営の考え方・5

コロナ禍で考える病床稼働率と病床利用率

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.902 - P.906

 コロナ禍で患者受診控えなどによる外来患者数の減少が,多くの病院で喫緊の課題になっている.また病診連携においても,かかりつけ診療所を受診する患者が少なくなり,診療所から医療機関への紹介患者数は減少している.その結果,多くの病院は新入院患者数が減り,病床稼働率も低下しているのが現状である.そこで今回は,新型コロナウイルス感染拡大が始まった2020年4月〜2021年3月の足利赤十字病院(以下,当院)の病床稼働率などの経営指標を使って,病院経営のあり方について考えてみたい.また,コロナ禍の中であっても,われわれは今までの地域連携にとどまらず,ポストコロナを見据えた新規入院患者獲得に動かなくてはならない.今回は,病床稼働率,病床利用率と病床回転率について概説したい.
 一般的な病院経営のセミナーなどにおいては,病床稼働率と病床利用率を厳密に区別しておらず,同様な意味合いで扱われていることが多いように見受けられる.そこで今回は,それら二つの経営指標の算出方法を示し,その質的内容を明らかにしたい.院長ないし病院管理者は,これら二つの指標を明確に区別して病院経営に当たるべきである.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・6

—非正規従業員を巡る問題(2)—非正規従業員の労務リスク

著者: 高坂敬三 ,   堀田克明

ページ範囲:P.907 - P.911

1 労働者派遣とは
 いわゆる労働者派遣というのは昭和61(1986)年から始まった制度で,労働者派遣法★1に基づき労働者派遣事業の許可を得た労働者派遣事業者が,自己の雇用する労働者を派遣先の求めに応じて派遣し,派遣先の指揮命令の下に業務に従事させるというもので,派遣先は派遣元との労働者派遣契約に基づいて派遣料金を支払い,派遣労働者は派遣元から賃金を得るという制度です.本来,雇用関係は雇用主の指揮命令の下に業務に従事し,当該雇用主から賃金を得るという法律関係が基本ですが,労働者派遣は,雇用主と指揮命令する者とが異なるという点で特殊な制度です(図1).

ケースレポート 地域医療構想と病院・43

病院を中心としたケアミックス戦略—米国・モンテフィオーレシステムのACOモデル

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.912 - P.917

■はじめに:ACOとは何か
 高齢者人口の増大と医療技術の進歩は複数の慢性疾患と医療・介護・生活の複合ニーズを持った患者の増加をもたらす.こうした状況に従来の個別患者対応に基づいた医療・介護サービスの提供体制で対応することは難しいという認識に基づき,米国では集団全体を対象としたポピュレーションアプローチの仕組みの構築が進んでいる.その代表的なものがACO(Accountable Care Organization)である.
 ACOは,医師,病院,ナーシングホームその他の医療サービス提供者がグループを形成し,相互にケア調整を行うことにより,患者により質の高い医療を提供する仕組みである(図1).ケア調整の目的は,糖尿病,疼痛管理など主として慢性疾患を持つ患者に対して,適時適切な医療を提供するとともに,不必要な重複医療を回避し,かつ,医療過誤を防止することである.ACOの形成はCMS(Center for Medicare/Medicaid Service)による認証が必要である.
 ACOの基本的理念はPayment by Results (結果に基づく支払い)である.この背景にはMedicareにおける支出の増大は医療行為単位(狭義のFee for Service:FFS)あるいは診断群分類単位の包括支払いであるにしても行われたサービスの量に応じて支払いを行ってきた(広義の)FFSであったことによると考えられた.この問題に対応するために,ACOがカバーする人口集団が使う医療費を予見的に設定し(これをBenchmarkingという),Medicare患者に対する質の高い医療の提供と効率的な医療費節減の両方が成功した場合,節減費用相当の一定割合のシェアを行い,逆に,これが達成できずに過剰に医療費がかかってしまった場合,損失費用相当の一定割合の償還が得られないというリスクを負う仕組みが導入された(これをMedicare Shared Saving Model:MSSMという).
 ここでポイントとなるのが医療費予測の手法である.米国では疾病管理ビジネスの展開に合わせて,医療費の予測を行うPrediction modelの開発が行われてきており,MSSMの導入に当たっては医療費予測の手法の選択が行われた.最終的にボストン大学で開発されたDiagnostic Cost Group- Hierarchical Clinical Categories(DCG-HCC)が採用されCMS-HCCとなった.CMS-HCCに基づく医療費予測の手法については,すでに本誌で紹介しているので,詳細についてはそれを参照いただきたい1)
 MSSMでは年度ごとにCMS-HCCに基づく医療支出予測値(Benchmark)が設定され,MedicareとACOは節約額および損失に関する契約を結ぶ(図2).例えばBenchmark値の上下2%については利益および損失額のシェアは行わず,それを超える節約ができた場合は50%ずつ節約額(利益)をシェア,逆にそれを超える損失が出た場合はそれを半分ずつ負担するという契約が行われることになる.
 事前に支出額を設定した上で,利益および損失をシェアする仕組みを導入することで,サービス提供者により効率的な医療を行うインセンティブを持たせるというのがMSSMの基本的な枠組みである.すなわち支払総額をあらかじめ設定した上で,その枠組み内での医療提供をACO間で競わせるという管理競争Managed Competitionの仕組みが導入されたのである.
 このような支払い方式が将来的にわが国で採用される可能性については,筆者はわからない.しかしながら,治療というエピソード単位で個々の患者に対応するのではなく,ICTを活用して生活習慣の改善も含めて総合的に被保険者に関わっていく仕組みは,現在その推進が計画されているPHR(Personal Health Record)の活用の在り方を考える上で参考になると思われる.そこで,本稿では米国ニューヨーク市ブロンクス区にあるMontefiore Medical CenterによるACOの取り組みを紹介してみたい.

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目次

ページ範囲:P.848 - P.849

Book Review 病院前救護学

著者: 南浩一郎

ページ範囲:P.918 - P.918

Back Number

ページ範囲:P.919 - P.919

次号予告

ページ範囲:P.922 - P.922

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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