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文献詳細

雑誌文献

病院80巻10号

2021年10月発行

文献概要

連載 ケースレポート 地域医療構想と病院・43

病院を中心としたケアミックス戦略—米国・モンテフィオーレシステムのACOモデル

著者: 松田晋哉1

所属機関: 1産業医科大学公衆衛生学教室

ページ範囲:P.912 - P.917

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■はじめに:ACOとは何か
 高齢者人口の増大と医療技術の進歩は複数の慢性疾患と医療・介護・生活の複合ニーズを持った患者の増加をもたらす.こうした状況に従来の個別患者対応に基づいた医療・介護サービスの提供体制で対応することは難しいという認識に基づき,米国では集団全体を対象としたポピュレーションアプローチの仕組みの構築が進んでいる.その代表的なものがACO(Accountable Care Organization)である.
 ACOは,医師,病院,ナーシングホームその他の医療サービス提供者がグループを形成し,相互にケア調整を行うことにより,患者により質の高い医療を提供する仕組みである(図1).ケア調整の目的は,糖尿病,疼痛管理など主として慢性疾患を持つ患者に対して,適時適切な医療を提供するとともに,不必要な重複医療を回避し,かつ,医療過誤を防止することである.ACOの形成はCMS(Center for Medicare/Medicaid Service)による認証が必要である.
 ACOの基本的理念はPayment by Results (結果に基づく支払い)である.この背景にはMedicareにおける支出の増大は医療行為単位(狭義のFee for Service:FFS)あるいは診断群分類単位の包括支払いであるにしても行われたサービスの量に応じて支払いを行ってきた(広義の)FFSであったことによると考えられた.この問題に対応するために,ACOがカバーする人口集団が使う医療費を予見的に設定し(これをBenchmarkingという),Medicare患者に対する質の高い医療の提供と効率的な医療費節減の両方が成功した場合,節減費用相当の一定割合のシェアを行い,逆に,これが達成できずに過剰に医療費がかかってしまった場合,損失費用相当の一定割合の償還が得られないというリスクを負う仕組みが導入された(これをMedicare Shared Saving Model:MSSMという).
 ここでポイントとなるのが医療費予測の手法である.米国では疾病管理ビジネスの展開に合わせて,医療費の予測を行うPrediction modelの開発が行われてきており,MSSMの導入に当たっては医療費予測の手法の選択が行われた.最終的にボストン大学で開発されたDiagnostic Cost Group- Hierarchical Clinical Categories(DCG-HCC)が採用されCMS-HCCとなった.CMS-HCCに基づく医療費予測の手法については,すでに本誌で紹介しているので,詳細についてはそれを参照いただきたい1)
 MSSMでは年度ごとにCMS-HCCに基づく医療支出予測値(Benchmark)が設定され,MedicareとACOは節約額および損失に関する契約を結ぶ(図2).例えばBenchmark値の上下2%については利益および損失額のシェアは行わず,それを超える節約ができた場合は50%ずつ節約額(利益)をシェア,逆にそれを超える損失が出た場合はそれを半分ずつ負担するという契約が行われることになる.
 事前に支出額を設定した上で,利益および損失をシェアする仕組みを導入することで,サービス提供者により効率的な医療を行うインセンティブを持たせるというのがMSSMの基本的な枠組みである.すなわち支払総額をあらかじめ設定した上で,その枠組み内での医療提供をACO間で競わせるという管理競争Managed Competitionの仕組みが導入されたのである.
 このような支払い方式が将来的にわが国で採用される可能性については,筆者はわからない.しかしながら,治療というエピソード単位で個々の患者に対応するのではなく,ICTを活用して生活習慣の改善も含めて総合的に被保険者に関わっていく仕組みは,現在その推進が計画されているPHR(Personal Health Record)の活用の在り方を考える上で参考になると思われる.そこで,本稿では米国ニューヨーク市ブロンクス区にあるMontefiore Medical CenterによるACOの取り組みを紹介してみたい.

参考文献

1)松田晋哉:DPCの一般化の可能性—DPCを活用した医療・介護の需要構造の把握に向けて.病院76: 132-137, 2017
2)Montefioreサイト https://www.montefiore.org/
3)Medicare Shared Savings Program Quality Measure Benchmarks for the 2015 Reporting Year, 2015 https://www.cms.gov/Medicare/Medicare-Fee-for-Service-Payment/sharedsavingsprogram/Downloads/MSSP-QM-Benchmarks-2015.pdf
4)田村誠:マネジドケアで医療はどう変わるのか—その問題点と潜在力,医学書院,1999
5)伊原和人・荒木謙:揺れ動く米国の医療—政策・マネジドケア・医薬品企業,じほう,2004
6)李啓充:市場原理に揺れるアメリカの医療,医学書院,1998
7)李啓充:アメリカ医療の光と影—医療過誤防止からマネジドケアまで,医学書院,2000
8)李啓充:市場原理が医療を亡ぼす—アメリカの失敗,医学書院,2004
9)李啓充:続 アメリカ医療の光と影,医学書院,2009
10)松田晋哉:医療法人ふらて会西野病院 病院の持つ「安心保障機能」の地域への開放・社会化の実践.病院75:134-140,2016
11)松田晋哉:医療法人博仁会志村大宮病院—地域リハビリテーションのネットワーク構築を通したまちづくりへの積極的参画と地域共生型CCRCの提案.病院 75:211-218,2016
12)松田晋哉:社会医療法人陽正会寺岡記念病院—コモンズ創設の試みとスローメディシンの実践.病院75:295-300,2016
13)松田晋哉:医療法人和香会倉敷スイートホスピタル—ホスピタリティ経営の実践.病院75:368-373,2016
14)松田晋哉:社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院 施設品質から地域品質へ—変化の先頭に立つ経営.病院 75:536-543,2016
15)松田晋哉:医療法人社団豊生会東苗穂病院—高齢化が進む都市部での地域包括ケアシステムの構築:病院を中核とした日本型Medical neighborhoodの実践.病院79:458-464,2020
16)平成30年〜令和2年度文部科学省・科学研究費助成事業(基盤研究(B)(一般)「地域包括ケア推進のための医療介護総合ニーズ評価手法の開発」報告書(研究代表者 松田晋哉),令和3(2021)年3月31日

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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