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雑誌目次

雑誌文献

病院80巻11号

2021年11月発行

雑誌目次

特集 病院とお金の深い関係 総論

病院経営における資金の重要性

著者: 松本庄平

ページ範囲:P.938 - P.942

■はじめに
 本稿を執筆している2021年8月現在,依然として,新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)の感染拡大が繰り返されている.最前線における感染患者の治療や,一日も早い収束に向けたワクチン接種への対応など,日々献身的に奮闘されている全ての方々に深い敬意を表すとともに,心から感謝申し上げたい.
 近年では,医療提供体制の構築において一貫して病院の機能分化による役割の明確化と,連携の強化が重視されてきた.このため,一つの医療機関で治療が完結することは少なく,病状などに応じた連携が一般的となっている.新型コロナの感染拡大は,地域における感染の程度や,提供する医療機能の違いによる濃淡はあったものの,全国の病院運営に大きな影響を及ぼした.受診抑制,救急搬送件数の減少,医療機関側の受け入れ態勢の問題により生じた急性期病院の患者数の減少は,回復期や慢性期の医療機関にも連動し波及した.しかし,このような非常事態にあっても,各病院は地域住民の命や健康を守るとともに,運営の継続が求められる.
 本稿では,新型コロナが病院経営に与えた影響を振り返りながら,福祉医療機構(以下,当機構)が有する病院の決算データを用い,今次のような非常事態でも安定的に医療を提供するために必要な手元資金の備えについて考えるとともに,当機構の新型コロナウイルス対応支援資金(以下,新型コロナ対応資金)の状況を確認したい.
 なお,文中における見解に関する部分については,個人的所見であり,当機構の見解でないことを申し添える.

病院に入るお金の最大化

医療機関のための補助金や融資—新型コロナウイルス感染症対策への支援を中心に

著者: 前田由美子

ページ範囲:P.943 - P.946

■はじめに
 新型コロナウイルス感染症流行下において,医療機関に対してさまざまな支援が行われている.大きく分類して,①新型コロナウイルス感染症対応,②病床機能の再編支援,③働き方改革に関する支援,④融資がある.本稿では,診療報酬以外のこれらの補助金や融資(以下,補助金等)の概要を紹介する.なお,補助金等の詳細や申請期限は都道府県によって異なるので,詳細は個別に確認していただきたい.

病院における寄附の活用法

著者: 星北斗

ページ範囲:P.947 - P.949

■はじめに
 福島県は全国的に見ると特異的に大型の民間病院が多い地域である.一方で国公立の病院は少なく,その理由は戊辰戦争にまで遡るそうだが,詳細は割愛する.民間とはいえ,大半は旧民法法人である「財団法人」として長年運営されており,先の公益法人改革に伴っていくつかの法人は公益認定を受けたが,残りの多くの病院も一般財団法人として病院運営を担っている.
 公益法人改革の際に病院の公益認定が認められるように,全国の旧財団法人・社団法人の病院団体である「一般社団法人全国法人立病院協会」を設立して活動したが,これも福島県で古くから活動していた任意団体「福島県財団法人病院協会」が中心となって組織化を図ったという経緯がある.この活動の主眼は,当時難しいとされていた病院を運営する法人の公益認定を可能とすることであったが,公益認定によってもたらされる恩恵の一つが「寄附税制」の適用である.
 公益法人に寄附を行った者の所得税における寄附控除が可能となるこの税制は,欧米での病院運営資金の柱の一つとされる寄附金の確保に大きな役割を果たしているとされ,当時の政府もその方向を探ろうとしたらしい.しかしながら,宗教的な背景の違いもあり,病院運営の柱とまではなっていないのが現状であるが,当院では比較的早くから寄附の重要性を意識しながらさまざまな寄附募集の試みやそれを活用した事業などを試行しているので,その一部を紹介したい.

病院の資金調達手法—融資(ファイナンス)・リース・ファクタリング

著者: 岡安保雄

ページ範囲:P.950 - P.953

■資金使途から選択されるべき調達手法
 「資金を調達する」際は,手元資金が不足している,新しく設備投資をしたい,など資金の使い道,「資金使途」が必ず存在する.金融機関は,まず,この資金使途について吟味する.具体的には,コンプライアンスや事業継続性などと照らし合わせて,問題はないのかを検証する.例えば,他の法人へ貸付するための資金や不動産投資・株式投資などの資金なら,審査に値しない使途と言える.2020年度は新型コロナ感染症のため,急激な患者の減少あるいは抑制,予期せぬ大規模な院内感染症対策などで資金繰りが逼迫することを懸念し,福祉医療機構の「コロナ対策緊急融資」を目一杯利用した病院が相当数あったと承知しているが,こうした「念のため」や「万が一」という資金使途はレアケースである.資金使途の妥当性が認められると,最も適正な調達手法が検討される.これが掲題の融資・リース・ファクタリングなどの調達手法ということになる.資金使途から調達手法が決まると,金利,返済期間,担保,保証人などの融資の諸条件について返済計画と照らし合わせて審査が行われ,融資が実行される,これが一連の流れである.
 当たり前のことであるが,「資金を調達する」ことは,その資金で病院事業をサスティナブルなものにし,向上,発展させるために行われるものでなければならない.融資する金融機関も分かっていることではあるが,業界全体で融資残高が伸び悩んでいる中で,病院にとって使い勝手の良い提案をすることで,自行の融資残高の拡大を図ろうとする金融機関も実在する.結果として,その資金使途から本来選ばれるべき,最も適正な調達手法が選択されていないケースも散見される.もっと言えば,金融機関としての社会性・公共性から,本来なら融資すべきでないような案件まで実行され,窮地に追い込まれる病院経営者も目にする.本稿では融資(ファイナンス)の基礎ならびに選択されるべき調達手法について説明し,アフターコロナを展望した金融の在り方について解説する.

医療法人債,社会医療法人債,ファンドおよびヘルスケアREITの活用

著者: 長谷川英司

ページ範囲:P.954 - P.959

■はじめに
 病院経営に当たっては,多額の設備投資資金や運転資金を確保する必要があり,最近は事業承継のための資金も必要になるケースが多い.このため,病院は広く資金の調達手段を有しておくことが必要である.病院にとってなじみのある借入金,リース,ファクタリングによる資金調達は他に譲るとして,本稿では,それ以外の資金調達の手法について概説するとともに,病院にとってのメリットや留意点についても示す.

キャッシュレス化の現状と病院への導入の課題

著者: 熊田健一

ページ範囲:P.960 - P.964

■キャッシュレスの進展・拡大状況
 まず,世界で新型コロナウイルスの感染拡大が進む中,日々医療の最前線で患者さんの治療に尽力されている医療従事者の皆様に,心から敬意を表するとともに,深く感謝を申し上げる.
 さて,日本政府が旗振り役となってキャッシュレス化が推進され,従来あるクレジットカードに加え,コード決済,非接触ICカード決済などがさまざまな形で,ユーザー・加盟店を巻き込み,キャッシュレス決済(以下,キャッシュレス)は5年前と比較し一気に普及した(経済産業省資料によれば2014年16.9%→2019年26.8%.図1).

未収金管理—発生予防から入院保証金制限への対応,法的回収まで

著者: 棚瀬慎治

ページ範囲:P.965 - P.969

■はじめに
 患者の診療報酬支払義務は,患者と医療機関との間で診療契約が締結されることによって発生する.診療契約は,民法上の「準委任契約」に当たるとされており,医療機関が適切な医療を提供することの対価として,患者は診療報酬の自己負担分を支払うべき義務を負う.すなわち,患者の診療報酬支払義務は,診療契約の中核をなす基本的な義務である.しかるに,さまざまな理由によって患者が診療報酬支払義務を履行せず,未収金となってしまうケースが増加しており,頭を悩ませている医療機関も多い.
 本稿では,未収金への対処方法について,医療機関に関する法律問題を専門的に扱う弁護士の立場から述べたい.

医療現場におけるクラウドファンディングの活用法

著者: 金久保智哉

ページ範囲:P.970 - P.975

■はじめに
 近年,病院をはじめとした医療機関がクラウドファンディングを活用する機会が増えている.READYFOR(レディーフォー)では,2017年頃から,医療分野でのクラウドファンディング活用を推進してきた.以来,これまでの支援総額は20億円を超えている(2021年8月現在).特に,新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)に見舞われた2020年,READYFORで実施された医療系クラウドファンディングの支援総額は前年比約7.5倍に達した.コロナと闘う医療現場への世の中の関心が高まり,共感と支援が集まりやすくなっている.本稿では,医療現場におけるクラウドファンディング事例を紹介しながら,活用方法についてまとめる.

病院から出ていくお金の最小化

病院の設備投資の最適化

著者: 関丈太郎

ページ範囲:P.976 - P.979

■病院のライフサイクルコスト
 病院の新築や大規模な増改築は,30〜40年に一度という事業である.本稿では,こうした自院にとっても,地域にとっても将来を決めることとなる「病院整備事業」について,ライフサイクルコストの観点から,イニシャルコストとランニングコスト双方の適正化に向けた概観的なトレンドや課題などを整理したい.さらに,病院のライフサイクルコストに大きく影響する官民連携による経営形態の多様化と,それに伴う整備方式についても言及する.
 一般的に地域の中核病院など,規模の大きな病院を開院するまでには,調査,構想段階から数えて約5年を要する.この開院までの費用がイニシャルコストで,ここにはコンサルタント費,設計費,建設費,医療機器導入費,ICT導入費などが含まれる.一方,ランニングコストには,開院後30年以上にわたる医師や医療従事者などの「人件費」,医薬品,医療材料などの「材料費」,委託費,光熱水費,維持管理費などの「経費」,建築,設備や医療機器などの「減価償却費」などが含まれる.

病院経営にとっての適正な納税

著者: 青木惠一

ページ範囲:P.980 - P.984

■はじめに
 利益が数千万円出ている医療法人が決算対策で1000万円の大規模修繕を行い,これを修繕費として一括経費計上したとする.法人税率を30%と仮定すれば,300万円(1000万円×30%)の「節税」になる.しかし,1000万円は法人からキャッシュアウト(資金流出)しており,積み上がるはずの内部留保は700万円減少している(修繕を行わない場合300万円の税金を払うので,1000万円-300万円が内部留保となる).視点を変えると,この大規模修繕は30%分を税金が負担してくれた工事といえる.本当に必要な修繕であれば3割引きで意味があるが,「節税」目的が主であるなら,それをやめて70%の内部留保を確保する方が法人の体力は増す.「税金」を望んで払いたい者はいないが,「節税」という言葉に惑わされて無駄な支出をし,内部留保を毀損させることのないよう「納税と内部留保」の関係を正しく理解しておく必要がある.

医療法人の経営に資する会計監査の受け方

著者: 石尾肇

ページ範囲:P.985 - P.988

■会計監査導入の背景
 2015(平成27)年9月に成立した「医療法の一部を改正する法律」(平成27年法律第74号)により,2017(平成29)年4月2日以降に開始される会計年度から,一定規模以上の医療法人に対し公認会計士監査が義務付けられた.
 わが国の医療・介護に係る社会保障関係支出は年々増加しており,2020年の社会保障費のうち医療・介護に関連するものの総額は53兆円規模となり,年金の規模に匹敵する状況になってきている.今後も増加傾向は続き2040年頃がピークになると予想されている.このように社会保障に関する領域は,少子高齢化が進む中,今後ますます重要な役割を占めてくるものと思われる.社会保険制度などを通じて税金が投入される極めて重要な医療・介護分野を担う医療機関のうち,その中心となる民間医療組織としての医療法人は,自立経営力の向上,資金調達の多様化,経営の効率化などの多くの期待が寄せられているといえる.これらの期待に応えるためには,事業活動の状況や財務会計に関する説明責任を適切に果たしていくことが重要であるといえ,会計監査の導入は,これを担保するものとして社会的影響が強いと考えられる一定規模以上の法人に対し,経営の透明性を高めることを目的としたものと考えられる.

対談

病院経営の姿勢から考える資金調達

著者: 中村康彦 ,   川原丈貴

ページ範囲:P.923 - P.928

コロナ禍では,コロナ患者を受け入れた病院も非コロナ患者の診療を担った病院も経営の危機に曝された.
今後も安定的に医療を提供するために不可欠な病院の資金調達の考え方についてうかがう.

特別記事

救急救命士法改正により期待される病院救急救命士の動向

著者: 鈴木哲司

ページ範囲:P.990 - P.994

■救急救命士が活動する“場”の拡大
病院前救急医療体制の充実を図る救急救命士制度
 救急救命士制度は,1991(平成3)年に病院前救急医療体制のさらなる充実を図り,わが国の救命率の向上を目指すことを目的として整備された制度である.制度発足以前は,救急用自動車の中での救急隊員による医療行為が禁じられていたため,傷病者の搬送を主体とした業務であり,助かるはずの命が失われていたという悲しい歴史があった.それらをいち早く解消するために公的養成機関,専門学校,短大,大学において救急救命士の養成が行われ,量的充実が図られてきた.
 改正前の救急救命士法第44条第2項によって「救急救命士は,救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの(「救急用自動車等」という.)以外の場所においてその業務を行ってはならない.ただし,病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は,この限りではない.」と救急救命士が業務の行う場所の厳格な規定と制約がなされ,今日まで救急救命士の活躍する場は,消防機関が主たる職域であった.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・82

虎の門病院

著者: 永井豊彦

ページ範囲:P.930 - P.935

■はじめに
 虎の門病院は,東京・港区の虎ノ門二丁目地区再開発計画の一環として隣地に移転新築し,令和元(2019)年5月1日に開院し2年が経過した(図1).長い間この地で医療を支え続けた旧病院の建物は解体され,再開発事業の新たな業務棟が建設中であり,新たなまちづくりは進行中の段階である.
 竣工当時は予想もしていなかった世界的な新型コロナによる感染症拡大の中,病院の運用に対し,建築がどう貢献できたのか.また,オリンピックの「大会指定病院」としての運用に対してはどうであったのか.
 病院運営として率直なご意見を受けて病院建築のあり方をあらためて考えさせられた点に触れてみたい.

これからの病院経営の考え方・6

曜日ごとの病床稼働率から考える病院マネジメント

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.995 - P.999

 前回は,病床稼働率と病床利用率についてそれぞれの月次データを基に概説した.病床稼働率については月平均,半期ごと,年度平均について検討することが多いが,今回は曜日ごとの病床稼働率について述べることとする.病院長や病院管理者は,曜日ごとの病床稼働率についても日々注意を払わなくてはならない.月曜日からの1週間に,どのように病床稼働率が推移していくか,足利赤十字病院(以下,当院)のデータを基に検討した.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・7

ハラスメント対応—パワーハラスメントの例をもとに

著者: 長谷川葵 ,   堀田克明

ページ範囲:P.1002 - P.1006

1 パワハラとは
 パワハラ(パワーハラスメント)とは何でしょうか.意外と答えに窮しませんか.実は,厚生労働省の指針★1で以下の3要素の要件を全て満たす場合にはパワハラであると定められていますが,法律★2や指針で明確に定義されたのは最近のことです.
パワハラの定義
(1)職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,
(3)その雇用する労働者の就業環境が害されるもの

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・30

社会医療法人ささき会 藍の都脳神経外科病院—脳卒中治療を軸とした医療・介護の垂直統合を実現する病院

著者: 深澤宏一

ページ範囲:P.1007 - P.1011

 社会医療法人ささき会が運営する藍の都脳神経外科病院(以下,同院)がある大阪市鶴見区(以下,同区)は,大阪市の最東部に位置する人口約11万人の行政区である.地域医療情報システム1)によると,同区では今後も大幅な人口減少はなく,そのため医療・介護の需要も2040年に向けて全国平均を超えて伸びていく見込みである.
 同院では,脳神経外科領域を中心とした急性期から在宅までの医療・介護の垂直統合モデルを構築し,ニッチな需要を取り込んで発展してきた.本稿では80床という限られた病床を最大限活用した同院の経営戦略を見ていく.

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目次

ページ範囲:P.936 - P.937

Book Review 医療の価値と価格—決定と説明の時代へ

著者: 安藤高夫

ページ範囲:P.1001 - P.1001

Book Review 薬剤師レジデントマニュアル 第3版

著者: 筒井由佳

ページ範囲:P.1013 - P.1013

Back Number

ページ範囲:P.1015 - P.1015

次号予告

ページ範囲:P.1018 - P.1018

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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