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雑誌目次

雑誌文献

病院80巻12号

2021年12月発行

雑誌目次

特集 ワクワクする病院組織づくりは可能か—人間重視の病院組織マネジメント 病院の組織マネジメントのあり方

現代日本の病院の組織マネジメントと人材マネジメントのあり方

著者: 川村尚也

ページ範囲:P.1034 - P.1037

■複雑な内部機構と「二重の権限構造」をもつ多目的・機能組織
 まず,現代日本の病院組織の特徴とマネジメントの課題を検討しておきたい1).米国では1960年代以降に病院組織の実証研究が多数蓄積されてきた.これらの研究によれば,病院組織は患者の治療,医学の研究,医療者および患者の教育,放置すれば社会活動の妨げになる患者の収容などの複数の目的・機能を同時に追求する「多目的・機能組織」である.このためそれらは「専門職profession」の自律的な業務遂行権限と,近代公式組織(「官僚制bureaucracy」)の規則・計画的な業務管理権限が併存する,「二重の権限構造」2)をもつ.
 医師や看護師などの近代専門職は,高度に公式化された科学的知識に基づいて,制度的に分業され「独占」を認められた業務を自律的に遂行しようとする3).一方,近代公式組織(官僚制)は,規則に基づく水平・垂直的分業と計画によって業務の効率性を追求する.病院組織は,患者個々のニーズに対応して診療サービスの有効性(柔軟・即時性)を追求する専門職原理と,組織の全ての活動の効率性(規則・計画性)を追求する官僚制原理との対立4〜6)を内包しており,「専門職官僚制professional bureaucracy」7)とも呼ばれる.

幸福経営による病院組織マネジメント

著者: 前野隆司

ページ範囲:P.1038 - P.1042

■はじめに
 私は幸福経営学・幸福学の研究・教育を行っている1〜3).なぜなら,幸せなスタッフは不幸せな者よりも創造性が3倍高く,生産性が30%高く,欠勤率と離職率が低い4)ことが知られているなど,経営者にとって幸福経営は不可欠になりつつあるからである.研究の一環として,これまでに,社員の幸せを考慮している事業体を多く見学してきた.病院としては,川越市の川越胃腸病院にうかがい,交流をさせていただいている.本稿では,川崎胃腸病院の例を述べたのちに,幸福経営に関する筆者らの3つの研究結果について述べたい.

組織マネジメントの実際

マインドフルネスと病院組織マネジメント

著者: 熊野宏昭

ページ範囲:P.1043 - P.1046

■はじめに
 少子高齢化が進むわが国では,昨年(2020年)2月から始まったコロナ禍によって,2020年の出生数が1899年の調査開始以来過去最少を記録し,2021年の上半期は前年同期比をさらに下回る状況になっている.これは明らかに,日本社会全体に対して質的な転換を迫っているが,「人が最大の資産である病院経営」においてはなおのことであり,「貴重な人財が活き活きと活躍できるマネジメント」の推進は喫緊の課題であろう.そして,本誌5月号の「働き方改革のための生産性向上」の特集でも,髙田氏の「病院が健康経営を行う意義」と題した論文において,健康経営推進について見直し,職員の健康増進につながる職場環境の向上にも取り組んだ結果が紹介されている.そこでは,医師の働き方改革,全職員の新卒・中途入職者数,離職者・離職率,復職リハビリテーションの進み具合の他,運動習慣の改善,ワークエンゲージメント,院内のコミュニケーションの改善なども含め,さまざまな成果が見られたという実践報告がなされており1),実際の病院経営の現場でもさまざまな試みが始まっているようである.
 ちなみに,経済産業省のホームページには,健康経営について,「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え,戦略的に実践することです.企業理念に基づき,従業員等への健康投資を行うことは,従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし,結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます2)」と説明されているが,アフターコロナの時代では,この考え方ではもう間に合わなくなるのではないかということが,現在,漠然と感じられている危機感なのではないだろうか.つまり,生産性の向上や組織の活性化という次元を超えて,「職員一人一人が人間として前向きに心を整えていること」が個人にとっても組織にとっても,これまでになく重要な時代がそこまで来ているのではないかという予感が,多くの人に共有されるようになって来ているように思われる.
 そこで本稿では,心を整えるとはどういうことなのか,それはどうすれば実現できるのか,そしてそれが病院経営に何をもたらすのかということを,座禅やヨーガはもとより,日本の武道や芸道も含めさまざまな領域で実践されてきた,マインドフルネスという心の使い方の解説を通して,探ってみたいと思う.

ポジティブ心理学と対話を通じた病院組織マネジメント

著者: 小林正弥

ページ範囲:P.1048 - P.1052

■21世紀の心理学と組織理論
 「ワクワクする病院組織づくりは可能か?」—本稿ではその答えをポジティブ心理学から引き出してみたい.
 組織理論を顧みれば,古典的な組織理論では,確固たる上下の階層性が存在し,上位者の命令に従って下位者が歯車のコマのように行動することが組織の効率を高めるとされていた.20世紀初頭にはこの観点から,科学的に作業を分析して賃金を決めることが生産性を高めると説かれた(科学的管理法).

ホスピタリティマネジメントと病院組織マネジメント

著者: 吉原敬典

ページ範囲:P.1053 - P.1058

■はじめに
 ワクワクする病院組織づくりは可能である.そのためには,経営学の一分野であるホスピタリティマネジメントを実践することが効果的だ.現在,ホスピタリティという言葉とその用法については,おもてなしやサービスとの混同が見受けられる.このあたりから説明したい.

病院における経験学習

著者: 松尾睦

ページ範囲:P.1059 - P.1062

 プロフェッショナルの成長は,どのような仕事を経験したかによって大きな影響を受けるといわれている1).これまでは,主に民間企業の管理職を対象とした研究を通して,リーダーシップを促す仕事経験が検討されてきた2).しかし,さまざまな分野の医療専門職は,独自の世界を持っていることから,人材の成長を促す経験内容も異なることが予想される.
 この点を明らかにするために,筆者を含む複数の研究者は,看護師,保健師,救急救命医,公衆衛生医,薬剤師,診療放射線技師,医療事務職,救急救命士を対象として,仕事経験と能力獲得の関係を検討してきた.2018年に,その研究成果をまとめ『医療プロフェッショナルの経験学習』3)を上梓することができた.本稿では,この書籍の内容に基づいて,各分野の医療専門家が「どのような経験を通して,いかなる能力を獲得しているか」について概説し,病院における経験学習のあり方を考えたい.

ナレッジマネジメント(知識経営)と組織活力

著者: 紺野登

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 本稿では,今後の病院経営の要となる組織活力を生み出すためのナレッジマネジメント(Knowledge Management:KM)について考えてみたい.KMは経営の一手法ではあるが,イノベーション経営の時代とされる今,経営全体にとって,組織の情報・知識の基礎を形成するシステムとして捉えられる.

病院におけるミッションマネジメント

著者: 守屋文貴

ページ範囲:P.1067 - P.1069

■病院組織を「タテ」と「ヨコ」の構造から捉える
 本稿では,病院組織を「タテ」と「ヨコ」の構造から捉えて,その特徴と課題を整理する.その上で,どのようにミッションやビジョン,バリューに基づいた組織づくりをしていけばよいか述べていきたい.
 まず,病院を「タテ」の構造で見ると,現場が強く,上層部が弱いという特徴を持つ.プロフェッショナルの本質は「自律性」であり,誰にも干渉されることなしに自らの判断で物事を決めることにある.そのため,日常的な意思決定は現場でなされることが多い.上層部が何らかの意思決定をしても,現場が従うとは限らない.権力で無理やり従わせようとすれば反発が生じ,離職リスクを高めてしまう.特に,医師は学会などの専門家集団への帰属意識が強い一方,自院に対する帰属意識は低い.医局による医師派遣システムもそれに拍車をかける.

ワクワクする組織を創造する

著者: 勝原裕美子

ページ範囲:P.1070 - P.1073

 筆者が看護教育を受け,看護師になったのは,1980年代後半から1990年代前半にかけてだった.当時の看護師は,3Kやら9Kやらと言われ,離職率も高く,社会の評価が今のように高くなかった.だから,看護師の仕事の魅力をどう伝えるのか,また魅力ある仕事を支える組織はどうあるべきかについては,30年前からの関心事であった.
 本稿では,看護管理の研究者として,また病院現場のトップマネジャー(副院長/看護部長)としての経験,そしてオフィスKATSUHARAの代表(病院顧問,コンサルタント,コーチ,セミナー講師など)の仕事を通して関わってきた看護師や組織を想起しながら,ワクワクする組織について考察してみよう.

地域包括ケアを実現させる組織マネジメント

著者: 小室貴之

ページ範囲:P.1075 - P.1079

■地域包括ケアが目指すものを見極める
 2021年春,介護保険制度は「地域包括ケアの推進」とともに「自立支援・重度化防止の取組の推進」へとさらなる進化を遂げた.また,それらを踏まえた「介護人財の確保・介護現場の革新」を唱え,もって「制度の安定性・持続可能性の確保」を実現するとしている1).これにより,介護保険に関わる医療介護事業者は,個々の理念や哲学の推進によるおのおのの想いによるケアの実践に加えて自立支援ケアへの徹底が求められ,究極はサービスを使わずとも自由に生きていける社会の実現を目指す視点が求められている.
 このような大きな改定に戸惑いを隠せない事業者も数多く存在するだろう.制度の期待に応えなければ報酬減は免れず,かつ限られた人材の雇用と定着の課題も乗り越えるマネジメントを実践しなければならない.すなわちスタッフたちに目的を理解させ,共感し,個々の特性や専門性,キャリアを存分に生かしつつ,地域包括ケアの理念を実現する目的的かつ自律的な活動を実現する組織づくりである.

対談

職員が安心して働ける「やさしい施設」づくり

著者: 前原くるみ ,   松原由美

ページ範囲:P.1019 - P.1024

患者・利用者だけではなく職員に対しても「日本一やさしい施設」をめざす.
鹿児島県日置市で職員も地域住民も元気にする施設を運営する前原くるみ氏に,職員が辞めない職場,職員が安心して自発的に動ける組織運営の秘訣を聞いた.

特別記事

診療放射線技師法改正により期待される診療放射線技師の活躍

著者: 上田克彦

ページ範囲:P.1080 - P.1083

■令和3年診療放射線技師法改正と医師からのタスク・シフト/シェアの経緯
 2017年に「医師の働き方改革に関する検討会」が発足し本稿執筆時から3年後の2024年4月から“勤務医の時間外労動制限”が設けられることになった.これを受けて,医師から他の医療専門職へのタスク・シフト/シェアを積極的に推進することになった.厚生労働省は医療関係30団体に対して医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリングを実施した.日本診療放射線技師会では第2回ヒアリング(2019年7月17日)において,診療放射線技師が実施可能なタスク・シフティングについて意見を述べた.その後,2019年10月に発足した「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」において,6分野,286業務・行為についての検討がなされ,「現行制度の下で実施可能な業務」「現行制度では明確に示されていない業務」「現行制度上実施できない業務」の3つに分類して議論された.同検討会の最終報告「議論の整理」(2020年12月)では診療放射線技師関連で法令改正を行い拡大する業務としては表1に示す6項目が挙げられた.
 同報告書においては,この6項目の行為(拡大6項目)が「医師の指示にて実施できる」とされており,具体的な指示が成立する条件についても明記されている.また,表1に示すように各行為は法律改正によるものと省令改正によって認められたものがある.このほか健診マンモグラフィも医師の立ち会い不要となった.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・83

岩手医科大学附属病院

著者: 近藤彰宏

ページ範囲:P.1026 - P.1031

■病院を取り巻く環境/建て替えの背景
 岩手医科大学附属病院は盛岡市の中心部である県庁や市役所が立ち並ぶ内丸地区に,1897(明治30)年に私立岩手病院として開院して以来,地域に根差した医療を提供し続けてきた.1982年には東北新幹線の盛岡駅が開業し,盛岡市中心部が発展していく中で慢性的な交通渋滞や駐車場不足が発生し,それまで同じ内丸地区内にあった県立中央病院や盛岡赤十字病院が郊外へ移転していった.岩手医科大学も,駐車場不足の問題に加え,施設の老朽化,敷地の狭隘化が進んでいた.そこで,盛岡南新都市開発整備事業により大型商業施設や住環境の整備が進んでいた盛岡市の南部に隣接する矢巾町への大学キャンパス移転が,創立120周年記念事業として2002年に決定された(図1).約37万haの広大な農地を転用し,2005年から第1次事業として医学部,歯学部,薬学部(新設)のための大学教育施設の整備を行った.これにより3学部の揃った医学系総合大学(現在は看護学部も開設)として矢巾町キャンパスが整備された(図2).

これからの病院経営の考え方・7

コロナ禍での手術,内視鏡検査

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.1084 - P.1089

 新型コロナウイルス感染症により,外科手術や内視鏡検査に大きな支障をきたしている.また,感染症対策以外にも,新型コロナウイルス感染症受け入れ病床の増床が求められている.さらに,限られた医療資源を新型コロナウイルス感染症の重症患者へ集約化する方向性も示されてきた.そのため,外科医療全体にも影響が出ているのが現状である.そして予定手術の中で延期可能なものは延期するという対応が図られている.新型コロナウイルスへの感染リスクを抑えるため受診控えによる外来患者数や検査が減少している.その結果,がんの発見の遅れが危惧されている.
 日本消化器外科学会のアンケート調査1)によると手術実施件数が減少したという病院は2020年3月では40%,4月には57%に及んでいるとの報告がされている.その内,延期しないで優先される消化器がん手術があったとする病院は70%で,その主なものは膵臓がんと大腸がんであった.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・8

労災事故への対応—「パワハラによるうつ病」と申請された例を中心に

著者: 長谷川葵

ページ範囲:P.1090 - P.1094

■1 医療従事者を取り巻く労災事故
 労災事故には,業務災害と通勤災害があり,このうち業務災害として労災の対象となるのは「労働者の業務上の負傷,疾病,傷害又は死亡★1」(労働者災害補償保険法第7条1項1号)です.
 業種にもよるものの,一般に労災事故としては,転倒,墜落・転落,無理な動作によるもの,交通事故などが多くみられますが,病院に限って言えば,感染症への感染(最近では新型コロナウイルス感染★2なども含まれます),介助作業による腰痛,針刺し事故や過重な時間外労働,患者・同僚などからのハラスメント,患者の死や重い障害に直面することに伴う精神的ストレスなどからの精神疾患などが挙げられます.特に,精神疾患にかかる労災請求件数は近年増加の一途をたどっています.

ケースレポート 地域医療構想と病院・44

—医療・介護サービスを提供する複合体—Les Abondances-Le Rouvray高齢者総合センター

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.1096 - P.1102

 わが国と同様,フランスにおいても高齢化の進行に伴う医療介護サービス提供体制の再構築が進んでいる.本稿では高齢者の医療介護を総合的に担うLes Abondances-Le Rouvray高齢者総合センターの事例を基に,フランスの状況を解説し,わが国の今後の医療計画の在り方についても論考する.

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目次

ページ範囲:P.1032 - P.1033

Book Review 新・栄養塾

著者: 佐々木雅也

ページ範囲:P.1095 - P.1095

Book Review 病院前救護学

著者: 田島典夫

ページ範囲:P.1103 - P.1103

Back Number

ページ範囲:P.1105 - P.1105

次号予告

ページ範囲:P.1108 - P.1108

「病院」第80巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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