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雑誌目次

雑誌文献

病院80巻2号

2021年02月発行

雑誌目次

特集 大学病院は地域病院を支えられるか 医師需給問題—医師養成から専門医制度まで

医学教育から提案する大学病院と地域病院の役割

著者: 吉田素文

ページ範囲:P.108 - P.112

■はじめに
 筆者は,九州大学医学教育学講座に在職中,地域医療教育組織の設立,および医学部医学科のカリキュラムへの地域医療実習と地域包括ケアシステムに関する授業の導入に携わった.本稿では,まず,海外における地域基盤型医学教育の一端を紹介し,冒頭のカリキュラム導入の背景として,わが国の医学教育に大きな影響を与えている「医学教育モデル・コア・カリキュラム」から,地域医療やその教育に関する記載を紹介し,大学病院と地域病院の役割を論じてみたい.

新医師臨床研修制度が期待する大学病院と地域病院の役割

著者: 古谷伸之

ページ範囲:P.114 - P.117

■2004年の新医師臨床研修制度前後の動向
 2004年に新医師臨床研修制度が開始されるまでは,臨床研修の多くは出身大学で行われており,その後も大学医局に所属する形でキャリア形成がなされていた.地域病院の多くは大学からの派遣医師により人材の充足がなされ,地域の中核大学医学部が地方の人材供給源となっていた.確かに,安定した人材資源の配分に寄与する構造ではあった一方で,大学を中心としたいびつな社会構造であったとも考えられた.新医師臨床研修制度では,2年間の臨床研修が義務づけられ,研修先も大学病院から一般病院へと徐々に移行し,現在では大学病院研修よりも一般病院研修の方が多数を占めることとなった(図1).
 一方,大都市圏以外の大学では,都市部の大学や病院への人材移動が活発化したこともあり,人材資源が減少傾向となり,かつて大学が担っていた人材資源の再配分が難しくなった.そのために人材不足となる地域が顕著となっている.厚生労働省では,研修医の募集倍率を低くとどめたり,都市部の大学や病院の研修定員を減少させることで,大都市以外への地域への研修医の再配分を実現しようとしており,研修内容の改善と相まって,わずかに大都市圏以外の病院での研修医数は増加傾向にあったが,ここ数年は変化に乏しい(図2).

新専門医制度における地域病院の役割とは

著者: 寺本民生

ページ範囲:P.118 - P.121

■はじめに
 わが国の医師には,医師免許取得後,2年間の臨床研修が義務化されている.しかし,その後は,各学会に所属して学会専門医を取得することは自助努力に任されていた.1962年に日本麻酔科学会により麻酔科の指導医制度が確立され,その後各学会がそれぞれの専門医を認定してきた.その結果,現在では100以上の学会認定専門医が存在し,その名称や診療内容が国民にとって分かりにくい(受診する判断材料となりにくい)制度となり,問題視されていた.この問題を解決すべく,1981年以降,学会としても第三者による専門医認定制度を創設する方向で協議会を立ち上げ,度重なる議論を重ねてきたが,学会から独立した組織にするということには,それぞれ意見の違いがあり,なかなか克服できない状態が続いた.厚生労働省もこの問題に取り組むべく「専門医の在り方に関する検討会」を2011年に立ち上げ,2013年に報告書をまとめた.一般社団法人日本専門医機構(以下,専門医機構)はその報告書に則り,2014年5月に発足した.その基本像は「①学会ではなく第三者機関として,制度の統一化・標準化を図る.②基本19領域を取得してからサブスペシャルティ領域を取得.③総合診療専門医を作り,基本領域に位置づける.④プロフェッショナルオートノミーを基本とする」とされた.

地域医療問題—地域医療構想策定下の地域病院と大学病院の関係

大学病院から見たこれからの医局制度のあり方

著者: 尾野恭一

ページ範囲:P.122 - P.125

■はじめに
 筆者は現在,医学部長を務めているが,立場上地域の医療機関や行政の方々から日々支援を求められている.地方大学は,地域全体に医師を提供する役割をも担っており,その都度,医局に事情を聞きながら対応せざるを得ないのが現状である.また,秋田県の地域医療対策会議などを通じた地域医療構想の策定に関する種々の会議においても,地方においては「大学の役割=人材派遣」といった考え方が定着している.大学が,地方への医師派遣をその役割の一環として担っている以上,医局は必要不可欠である.本稿では,医局の役割,とりわけ地方において医局制度での医師派遣,医師偏在で果たす医局の役割について私見を述べる.

地域病院から見たこれからの医局制度のあり方—地方の公立病院の立場から

著者: 鴻江俊治

ページ範囲:P.126 - P.130

■はじめに
 2004(平成16)年に新医師臨床研修制度が始まり,予想以上に研修医の医局離れが生じてしまった.やがて医師偏在が起こり,さらに地域医療の破綻があちこちに見られる.医局員が減少しつつも,大学医局による医師派遣が,かろうじて地域医療を支えている.医局制度以外の方法で現在の地域医療を支えられるだろうか.本稿では,医局に頼らない人材確保および人材教育が可能か,あるいは医局に変わる仕組みが可能か,検討する.

地域医療構想で医学部・大学病院が果たすべき役割

著者: 村上正泰

ページ範囲:P.131 - P.134

■大学病院に求められる機能明確化と連携強化
 大学病院本院は,そのほとんどが特定機能病院に指定されており,それ以外の病院では通常提供が困難な診療を含め,最先端の専門的な診療機能を有している.そして,各都道府県に必ず1病院以上は存在しており,それぞれの地域で高い医療水準を確保する上での「最後の砦」として機能している.
 しかし,大学病院にも比較的軽度な患者が入院している場合がある.また,人口の高齢化が急速に進む中で,大学病院でも入院患者の高齢化が顕著であり,転院や在宅療養への移行の調整に時間を要すると,入院期間が長期化しがちになる.しかも,少子高齢化・人口減少が深刻な地方においては,診療密度の高い典型的な急性期患者数は頭打ちから減少局面に入りつつあるが,大学病院と他の大規模急性期病院が競合し,患者を「奪い合っている」場合も少なくない.これらは大学病院の経営にとっても頭の痛い問題となる.

地域病院から見た地域医療構想策定における医学部・大学病院の役割

著者: 井上健一郎

ページ範囲:P.136 - P.140

■はじめに
 大学病院(本院)は全国に82病院あり,1970年代の「1県1医大構想」以降,全国各都道府県には1校以上の医科大学(医学部)が必ずあり,附属して大学病院がある体制が40年余り続いている.47都道府県のうち1大学のみの県が33カ所,2大学が8カ所,3大学以上が6カ所である.1県1大学の県において,大学病院(本院)は県もしくは所属医療圏において最大規模の病床を有し,高度先進医療を実践し地域全体のリーダーたる存在である.一方,地域病院はまさしく地域に根差した病院であり,一般急性期から回復期,慢性期,在宅までの機能を担っている,いわゆる中小病院であり,公的・民間いずれの場合もあるが,都市部においては民間が担っていることが多い.本稿では,民間の地域病院の立場から,地域医療において大学病院に期待する役割について述べたい.

地域の病院経営に貢献できる医学教育—課題解決型高度医療人材養成プログラム事業を中心に

著者: 馬場園明

ページ範囲:P.141 - P.144

■はじめに
 今日の医療は,疾病構造の変化,少子・高齢化の進行に伴う社会保障財政の逼迫化,病院完結型医療から地域完結型医療への政策への転換,医療技術の高度化・専門分化,医療に対する国民意識の変化,新しい感染症の出現など,多様な課題に直面している.これらの課題に対応するため,医学部には,教育を通じた地域の病院経営への貢献が求められていると思われる.このような背景から,文部科学省は,平成26(2014)年度から課題解決型高度医療人材養成プログラム事業を進めており,平成29(2017)年度では病院経営支援に関する領域の事業を支援している.そこで本稿では,この事業で採択されたプログラムの内容,筆者が担当する九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻(以下,当専攻)の教育,ならびに2020年から,最も医療経営者を悩ませている新型コロナウイルス対策について,医療経営・管理学の立場から述べてみたい.

地域医療連携推進法人北河内メディカルネットワーク—大学病院が進める地域医療連携推進法人のあり方

著者: 山下敏夫

ページ範囲:P.146 - P.149

■はじめに
 地域医療連携推進法人は,2017年4月の医療法改正に伴い創設された制度で,「競争から協調への転換」の観点から医療機関相互の機能分担や業務連携を推進し,地域において質の高い効率的な医療の提供を目的とした法人である.
 2019年6月に関西医科大学(以下,本学)をはじめとした11法人と1病院は,地域医療連携推進法人「北河内メディカルネットワーク」(通称「KMN」)を設立し,大阪府から認可を受けた.地域医療連携推進法人は,今となっては全国で20法人も設置されているが,本学が設置を検討し始めた頃は4法人しか存在しておらず,この数年で全国的に注目を浴び,これからの日本の医療を担っていく上で期待される制度であると思われる.本稿では,本学が設立を進めた背景に触れながら,大学病院主導で進めていく地域医療連携推進法人のあり方,さらには大学病院が地域医療に果たす役割について述べる.

地域医療連携推進法人北河内メディカルネットワーク—参加法人の立場から

著者: 小林卓

ページ範囲:P.150 - P.152

■はじめに
 初めて関西医科大学から地域連携推進法人の立ち上げと参加の打診をいただいた時は,そのような法人が新たに位置づけられたことを耳にした程度で,詳細は知らなかった.そのため,まさかわれわれの法人[社会医療法人山弘会(以下,当法人)]に関係することになるとは思いもよらなかった.
 大学病院と地域の中小病院(以下,地域病院という)の関係は,大学病院が三次救急,高度医療,専門医療などを担い,地域病院が一次・二次救急や日常診療を担うという役割分担がなされてきており,双方は患者紹介と逆紹介を主とする病病連携を通しての関係が中心になっていると認識していた.しかし,近年の関西医科大学は,夜間診療,民間病院の買収,介護事業の展開など,これまで地域病院が担ってきていた診療や事業にも進出しており,両者が競合する状況も生まれている.この状況は,顧客の取り合いにもつながることが危惧され,この変化に地域病院としては,大学病院を経営的にも脅威と感じていた.このタイミングで出た話であったため,最初はM&Aの話と勘違いするほどであった.
 しかし,地域医療連携推進法人 北河内メディカルネットワーク(以下,KMN)へ参加したことで,大学病院の経営状況が変化してきていること,それにより地域医療との関わり方や地域病院への支援に変化が生じていることを知る機会となった.さらに,当法人が存在する北河内医療圏では,関西医科大学を中心としたネットワークが形成されることで,かかりつけ医から高度医療まで,一次救急から三次救急まで,をつなぐ医療システムが構築されることになり,患者を含む全ての地域住民が安心して暮らし続けることができる.これは,当法人が目指す「医療の提供を通じて地域の健康と安心に貢献する」ことにもつながると考えた.これらのことは,法人設置に向けての準備会議などに参加し,無事に大阪府より第1号として認可(正確には2法人同時認可)され,理事としてKMNに関わる中で感じている.
 以下,まずは当法人の紹介を行い,その後にKMNへの参加に至る経緯,最後に参加法人から見る現在の活動と今後の活動への期待を述べる.

対談

大学病院と地域病院の役割

著者: 金澤右 ,   今村英仁

ページ範囲:P.94 - P.99

かつて地域病院への医師の供給源だった大学病院は,新医師臨床研修制度開始以降,その姿を大きく変えた.
高齢化と人口減少で患者が減り,専門医制度や働き方改革によって医療従事者の確保が困難になる中,大学病院と地域病院はどのように役割を分担し,共存を図っていくべきかを探る.

特別記事

Power BIを用いた病床機能報告データの可視化—地域医療構想の議論活性化を目的として(前編)

著者: 今村英香

ページ範囲:P.154 - P.161

■はじめに
 DPC公開データ,病床機能報告など,地域医療の在り方やそれを踏まえた上で自院の機能を考えるための有用なデータが数多く公開されている.しかしながら,これらのデータは大規模化しており,迅速な集計およびグラフなどを用いた可視化が,ExcelやAccessでは難しくなっている.他方で,QlikViewやTableauなどの有料のソフトは価格が高く,個人ユーザーがそれらを購入して分析に活用することも容易ではない.
 そこで本稿では,無料の範囲内でこれらのデータを容易に可視化できるBI(Business Intelligence)ツールであるMicrosoft Power BIⓇ 1)(ここではPower BI Desktopを指す)の紹介を,実際に病床機能報告のデータを用いた分析例を示しながら行う.具体的には,二次医療圏における各病院の「入院経路・退院経路別患者割合」のグラフ化,そして病床機能区分ごとの各病院の「病床利用率・平均在院日数」のグラフ化の実際を例示する.
 今回はデータの取り込みまでを解説する.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・74

住友別子病院

著者: 大守昌利 ,   滝口秀樹 ,   村瀬慶征

ページ範囲:P.100 - P.105

■はじめに
 かつて世界一の産銅量を誇った住友グループの原点である「別子銅山」において,住友家事業の従事者とその家族の診療を目的として,明治16(1883)年に住友別子病院は開設された.以来幾多の変遷を経て,昭和41(1966)年現在地に移転(旧病院).愛媛県の新居浜・西条医療圏の基幹病院として,地域と共に発展してきた.旧病院は医療機能の拡大,患者数の増加に応え増改築を繰り返してきたが,設備の老朽化と狭隘化が進行.また,県の耐震改修促進計画への対応が求められた.2010年病院は独自に「新住友別子病院建設基本構想」をまとめ,慣れ親しまれた現地で建て替えが行われることとなった.その後,多くの荒波を乗り越え,2014年9月に着工.工事は3期,約3年半に及び(図1),2018年7月にグランドオープンを迎えた.

ケースレポート 地域医療構想と病院・39

変革の時代における人間中心マネジメントの意義—ドラッカー思想再考

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.162 - P.166

■はじめに
 筆者のように大学から給料をもらいながら安定した生活を送っている者が,日々の経営に心臓が締め付けられるような苦労をされている医療機関の経営者の方々に代わって経営を語る資格などないだろうことは十分自覚している.しかしながら,筆者のような制度(マクロ)研究を行っている者にとって,現場(ミクロ)を見学させていただき,マクロの政策がミクロの現場でどのような影響をもたらしているのか,そして現場で「すでに起こっている未来」を知ることは,制度研究の方向性を間違えないためにも重要であると考えている.また,訪問調査で得られた知見を整理して提示することは,現場の経営者の方々に何らかの役に立ちうるのではないかと思う.そこで,本稿ではこれまでの連載を通していろいろな組織を見学させていただいた経験をもとに,これからの病院の経営について私論を述べてみたい.

病院で発生する「悩み」の解きほぐし方・10

院内でも医師法21条の異状死として警察へ通報すべきでしょうか?

著者: 越後純子

ページ範囲:P.167 - P.169

Case
 手術が予定されていた患者に,術前抗菌薬の点滴が終了し,ヘパリンで輸液ルートのロックを行いました.その直後に胸苦しさを訴えたため,医師の指示で維持輸液を開始しましたが,その際も同じ輸液ルートが用いられました.その直後に急激な血圧上昇を来し,間もなく心停止に至り,蘇生措置が施されましたが,心拍は再開せず,間もなく死亡が確認されました.
 その後,患者の病理解剖が行われましたが,その際,体表を確認したところ,右前腕の点滴針の穿刺部位から,静脈の走行に沿って暗褐色の索状皮膚反応が見られました.解剖の結果,多数の血栓が肺に認められ,死因は肺塞栓であることが分かりました.
 また,患者の死後に確認したところ,スタッフステーションに「ヘパ生」とマジックで書かれ,10ccの透明な液体が入ったシリンジおよび消毒薬を吸い上げた同じ大きさの空シリンジが発見されました.これらの状況を合わせると,消毒薬を誤って注入し,その結果,多数の血栓が形成され,肺塞栓に至ってしまったと推察されました.

感染症新時代—病院はどう生き抜くか・5

港区みなと保健所・松本加代所長インタビュー(1)

著者: 堀成美 ,   松本加代

ページ範囲:P.170 - P.173

本連載で先に紹介した2つの事例では,地域の医療機関がどのように新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)に備えたか,また専門家が不在の中でどのようにクラスター対応をしたのかを紹介した.連載第5・6回は,新型コロナの医療の特徴である,保健所を介在した調整とその連携について紹介する.
新型コロナ診療が他の感染症の診療と大きく異なる点は,確定診断となった患者の入院調整に保健所が関わることである.結核やHIV感染症の場合,診断した医師がそのまま自分の施設で診るか,近隣の専門医療機関に紹介する.その場合,どのような現場・経緯の症例なのかは,医師同士で連絡を取り合い,事務的なことは医療連携部門のスタッフが調整するため,患者情報を得るのはそれほど難しいことではない.
一方,新型コロナでは,発生届が保健所に送られ(FAXまたはHER-SYS),その後,保健所の職員が電話で患者に連絡し,体調の確認,行動歴の確認と濃厚接触者の把握をしながら,入院調整を行う.件数が少なく,地域の受け入れ医療機関のベッドに余裕があればそう難しいことではないが,急性呼吸器感染症は広がりやすく,無症状者や軽症者を含めて規模の大きな症例群への対応が必要になるのが特徴であり,「稀な少数の症例対応」モデルはすぐに破綻する.重症以外は自宅療養を基本とする国も多い中,日本は当初,「全例」入院対応だった.その後,報告事例が増加し,軽症者がベッドを埋めて新規症例の入院調整が困難になる中,軽症者や回復者は一定条件の下,自宅療養やホテルなどの宿泊施設での療養が選択できるようになった.さらに2020年10月24日からは,年齢(65歳以上),基礎疾患などにより優先的に入院する人たちと,無症状・軽症者を初期に整理して準備した病床が軽症者で埋まらないようにするための運用の変更が行われ,地域事情に合わせて調整できるよう,自治体の判断が尊重されている.
連載第5・6回では,筆者がアドバイザーとして支援している東京都港区の経験から,医療機関と患者の間で調整している保健所の取り組み・課題を紹介する.

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目次

ページ範囲:P.106 - P.107

Back Number

ページ範囲:P.177 - P.177

次号予告

ページ範囲:P.180 - P.180

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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