Withコロナ時代の地域医療計画と地域医療構想
著者:
松田晋哉
ページ範囲:P.212 - P.218
■はじめに
新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)が全世界で拡大している.2020年12月20日現在で全世界の感染者数は75,110,651人,死者数は1,680,395人となっている1).ワクチンの開発およびその認可が急ピッチで行われ,米国,英国ではその接種が始まっている.ワクチンの導入により楽観的な見方もある一方で,一般人口での実際の効果は現時点で不明であり,むしろ英国での変異株発生による感染拡大の可能性が人々の不安を高めている.日本国内でも2020年11月に入ってから患者数が急増しており,同年12月20日現在で国内での新型コロナの感染者は195,880名,死亡者は2,873名,入院治療などを要する者は26,852名,退院または療養解除となった者は165,333名となっている2).本稿執筆時点で,わが国は感染者数,陽性者数ともに欧米より少ない.しかし,死亡率の高い高齢者で感染拡大が進めば,医療現場の崩壊やそれによる死亡者数の急増が起こる危険性は否定できない.特に,同年12月以降は高齢者施設,障害者施設でのクラスターの発生が続発しており,予断を許さない状況になっている.これまでの研究で高齢であることは新型コロナによる死亡の重要なリスクファクターであることが明らかとなっており,また糖尿病や悪性腫瘍,呼吸器疾患の罹患,肥満,低栄養,ADL障害も死亡に有意に関連する要因として指摘されている3).
こうした中,新型コロナをはじめとした感染症対策が地域医療計画に含まれることとなった.具体的には,2020年12月15日に開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」では医療計画の6事業目に「新興感染症対策」を盛り込み,「感染拡大時に対応するための準備などの平時からの取組」と「感染拡大時の取組」とを分けて記載することが了承された(図1)4).
この見直しにおける方針は適切である.しかしながら,新興感染症を含めた健康危機管理は2009年の新型インフルエンザの流行および2011年の東日本大震災の経験を踏まえて,2013年からの第6次医療計画で記載されることになっていた.実際,作成された計画の多くで「警察・消防・救命救急センター・検査機関・行政機関による健康危機管理対策会議を設置し,連絡体制の確保及び健康危機を想定したシミュレーションの実施を行う」といった内容が盛り込まれている.しかしながら,筆者が調べた限りにおいて,ほとんどの計画で連携の方法に関する具体的な記載がなかった.例えば,新型インフルエンザ流行時の基幹病院をどこに位置付けるのか,発熱外来をどの施設に設置し,その連携体制をどうするか,ロジスティックの確保をどうするのかなどの記載がある地域医療計画は見つけられなかった.もし,こうした検討が第6次医療計画で十分に行われていたとすれば,今回の新型コロナウイルス流行に当たっても,より適切な対応ができていたのではないかと悔やまれる.いずれにしても,今回の経験をもとに,われわれは健康危機管理に強い医療提供体制を構築することを求められており,そのためにも地域医療計画と地域医療構想の役割が重要になると考える.
本稿では以上の問題意識に基づき,今後の地域医療計画および地域医療構想で検討されるべき事項について筆者の私見を述べたい.