文献詳細
文献概要
連載 これからの病院経営の考え方・1【新連載】
連載の概略と病院の経営状況
著者: 小松本悟1
所属機関: 1足利赤十字病院
ページ範囲:P.532 - P.536
文献購入ページに移動◆はじめに:足利赤十字病院の紹介を兼ねて
新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)のアウトブレイクがいつ収まるのか予見することができず,われわれ医療機関は出口の見えない中で,日々その対応に追われ,医療崩壊の危機にさらされている.都心部の病院では院内感染が4人部屋などの多床室で発生し,患者同士,医療従事者,家族・面会者へと濃厚接触感染が起こり,クラスター化している.第2波が収まっても中小の病院では相変わらず院内感染が続いている.院内感染の封じ込めはなかなか実行できずに,コロナ感染は一般の市民にも蔓延し,今,第3波に続く第4波の中にわれわれが居る.そして,その対策は混迷を極めている.
そこで,院内のコロナ感染をどのように制御したらよいかという議論の中で,4人部屋を2人部屋にするとか,間仕切りとなるビニールカーテンの設置,換気や手洗いの徹底,消毒などのいろいろな感染防御策を立てて対応している病院が増えている.多くの病院はコロナ以前から経営難によって一部病棟を閉鎖していたが,コロナ感染が広まるにつれてさらに病棟閉鎖を推し進めざるを得ない状況下にある.日本の病院の8割方が以前より赤字経営を強いられている状況で,少子高齢化,地域医療構想,医師の働き方改革などの導入がさらに加速することが予想され,病院の経営面においては多くの課題が露呈してきた.
足利赤十字病院(540床.以下,当院)はコロナ禍の中,重症なコロナ患者を受け入れ,通常の診療も続けつつ,病床稼働率を100%に維持している.当院はコロナ対応を見据えた,またコロナに強い病院としてマスコミ,医療雑誌などの取材が続いている.
当院は2011年に全面新築移転し,旧病院の多床室から一般病床全室個室化を実現した(図1).全室個室化により,患者同士の接触による感染が起こりがたくなった.トイレやシャワー室の水まわりを外周部に設置したため,音と臭いの問題が解消された.個室化により消灯時間や面会時間制限が緩和された.患者と家族の行動容態の変化が見られるようになった.個室であるためプライバシーが保たれ,快適な療養環境が提供されていることから,患者のクレームは激減し,病院のいろいろなルールについても遵守してくれるようになり,われわれは医療に専念できるようになった.
各病棟には陰圧個室を備え,コロナ患者に対応している.また,透析中のコロナ患者は陰圧個室で透析可能である.バックヤードの有効活用と,患者とスタッフ動線の完全分離,ICT・AI技術を導入しコンタクトレスを促進した非接触型ICチップによるセキュリティシステムを導入した(図2).そうすることにより人と物,非感染と感染,未使用と使用済器材などのそれぞれの動線分離・非交叉が可能となった.さらに感染ゾーンと非感染ゾーンの完全区割化にも成功した.このような病院設備の導入と全室個室化により感染制御の面から多くの有効性が実証され始めた(表1).今後,全室個室化について議論する際,療養環境としてのトータルベネフィットを考える時,コロナ感染をはじめとした感染防御やプライバシー・セキュリティの確保など全室個室化のメリットは非常に高いと考えている.日本の各地で病院の増改築,新病院の計画,設計,建築がなされている.その中で病床個室率の上昇が議論されている.個室化が病棟運営,感染対策,患者への快適な療養環境の提供など様々な面から与える影響について,広く議論していくことは重要であり,当院の例がその一助になれば幸いである.
以上のような背景を踏まえて,コロナ禍の中で病院経営のあり方について,われわれは今一度考え直す時が来たのではないだろうか.本連載では並行して,当院の経営実績についても述べていきたい.
新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)のアウトブレイクがいつ収まるのか予見することができず,われわれ医療機関は出口の見えない中で,日々その対応に追われ,医療崩壊の危機にさらされている.都心部の病院では院内感染が4人部屋などの多床室で発生し,患者同士,医療従事者,家族・面会者へと濃厚接触感染が起こり,クラスター化している.第2波が収まっても中小の病院では相変わらず院内感染が続いている.院内感染の封じ込めはなかなか実行できずに,コロナ感染は一般の市民にも蔓延し,今,第3波に続く第4波の中にわれわれが居る.そして,その対策は混迷を極めている.
そこで,院内のコロナ感染をどのように制御したらよいかという議論の中で,4人部屋を2人部屋にするとか,間仕切りとなるビニールカーテンの設置,換気や手洗いの徹底,消毒などのいろいろな感染防御策を立てて対応している病院が増えている.多くの病院はコロナ以前から経営難によって一部病棟を閉鎖していたが,コロナ感染が広まるにつれてさらに病棟閉鎖を推し進めざるを得ない状況下にある.日本の病院の8割方が以前より赤字経営を強いられている状況で,少子高齢化,地域医療構想,医師の働き方改革などの導入がさらに加速することが予想され,病院の経営面においては多くの課題が露呈してきた.
足利赤十字病院(540床.以下,当院)はコロナ禍の中,重症なコロナ患者を受け入れ,通常の診療も続けつつ,病床稼働率を100%に維持している.当院はコロナ対応を見据えた,またコロナに強い病院としてマスコミ,医療雑誌などの取材が続いている.
当院は2011年に全面新築移転し,旧病院の多床室から一般病床全室個室化を実現した(図1).全室個室化により,患者同士の接触による感染が起こりがたくなった.トイレやシャワー室の水まわりを外周部に設置したため,音と臭いの問題が解消された.個室化により消灯時間や面会時間制限が緩和された.患者と家族の行動容態の変化が見られるようになった.個室であるためプライバシーが保たれ,快適な療養環境が提供されていることから,患者のクレームは激減し,病院のいろいろなルールについても遵守してくれるようになり,われわれは医療に専念できるようになった.
各病棟には陰圧個室を備え,コロナ患者に対応している.また,透析中のコロナ患者は陰圧個室で透析可能である.バックヤードの有効活用と,患者とスタッフ動線の完全分離,ICT・AI技術を導入しコンタクトレスを促進した非接触型ICチップによるセキュリティシステムを導入した(図2).そうすることにより人と物,非感染と感染,未使用と使用済器材などのそれぞれの動線分離・非交叉が可能となった.さらに感染ゾーンと非感染ゾーンの完全区割化にも成功した.このような病院設備の導入と全室個室化により感染制御の面から多くの有効性が実証され始めた(表1).今後,全室個室化について議論する際,療養環境としてのトータルベネフィットを考える時,コロナ感染をはじめとした感染防御やプライバシー・セキュリティの確保など全室個室化のメリットは非常に高いと考えている.日本の各地で病院の増改築,新病院の計画,設計,建築がなされている.その中で病床個室率の上昇が議論されている.個室化が病棟運営,感染対策,患者への快適な療養環境の提供など様々な面から与える影響について,広く議論していくことは重要であり,当院の例がその一助になれば幸いである.
以上のような背景を踏まえて,コロナ禍の中で病院経営のあり方について,われわれは今一度考え直す時が来たのではないだろうか.本連載では並行して,当院の経営実績についても述べていきたい.
参考文献
1)日本病院会,全日本病院協会,日本医療法人協会:新型コロナウイルス感染症拡大による病院経営状況の調査(2020年度第2四半期).2020.11.12
2)日本病院会,全日本病院協会,日本医療法人協会:新型コロナウイルス感染症拡大による病院経営状況の調査(2020年度第3四半期)-概要版.2021.2.16
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