icon fsr

文献詳細

雑誌文献

病院80巻8号

2021年08月発行

文献概要

特集 データヘルスで変わる病院 データヘルスの潮流——海外の事例から

オーストリアにおけるELGAシステム

著者: 松田晋哉1

所属機関: 1産業医科大学公衆衛生学

ページ範囲:P.710 - P.714

文献購入ページに移動
 わが国は2000年の森内閣時代にe-Japan戦略を立ち上げ,ブロードバンドによる通信網の整備,それを基盤とした情報活用を進めることとした1).これに対応して,厚生労働省は,2001年12月に「保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を公表し2),電子カルテの普及に向けた事業をスタートした.しかし,情報の標準化が不十分なまま医療機関が個別に電子化に対応してしまったために,ネットワーク化された情報の活用というe-Japan構想本来の目的に応えることはできなかった.その後,公的資金を用いた地域共通電子カルテの導入実験などが数多く行われているが,今日に至るまで十分な成果を上げているとはいいがたい.今回の新型コロナウイルス感染症の流行は,わが国の医療情報基盤の脆弱性をあらためて認識させることになった.医療崩壊は新型コロナウイルス感染症対応の困難さだけで生じるわけではない.他の急性期疾患への対応も困難になることが本当の意味でも医療崩壊である.しかしながら,わが国では全国の医療機関の診療状況について,迅速かつ体系的に把握できる仕組みがない.大規模地震や洪水などの自然災害のリスクが高く,また今後も新型コロナウイルス感染症のような新興感染症流行の可能性がある以上,わが国のこの情報基盤の弱さは早急に解決されなければならない問題である.
 本稿で紹介するオーストリアは,わが国やフランス,ドイツ,オランダと同じように,社会保険制度に基づいて医療サービスを提供している国である.そして,わが国と同様,国民皆保険下における自由開業制とフリーアクセスという提供体制のために,医療機関間の情報共有や医療サービスの質評価など,わが国と類似の理念で政策課題を抱えていた国でもある.オーストリア政府はこの問題に対処するために,ELGA(Elektronische Gesundheitsakte)プロジェクトというe-healthのプログラムを展開し,短期間でその一般化に成功し,今日では予防から第三次医療までをカバーするこのシステムに国民の96%以上がアクセスできる体制を構築している.本稿では,その概要とそこから得られる日本への示唆について論考してみたい.

参考文献

1)首相官邸:e-Japan戦略. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai1/1siryou05_2.html
2)厚生労働省・保健医療情報システム検討会:「保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」最終提言.2001 https://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/dl/s1226-1.pdf
3)民間病院ドイツ・オーストリア医療・福祉調査団報告書2019「医療介護連携に取り組むドイツ・豊かで医師会が強力なオーストリア」.医療法人博仁会,2020 https://www.hakujinkai.com/SFG/books2019.php
4)松田晋哉:欧州医療制度改革から何を学ぶか—超高齢社会日本への示唆.勁草書房,2017
5)厚生労働省:電子カルテシステム等の普及状況の推移 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000482158.pdf
6)OECD:Graph of the Month,2017 http://www.oecd.org/health/graph-of-the-month.htm
7)厚生労働省:医療分野の情報化の推進について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら