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雑誌目次

雑誌文献

病院81巻10号

2022年10月発行

雑誌目次

特集 心理的安全性がつくる新しい病院組織—イノベーションとリスクマネジメントの両輪を回す 心理的安全性が経営者に注目される理由

病院組織における心理的安全性—その必要性と構築の留意点

著者: 松原由美

ページ範囲:P.846 - P.852

 心理的安全性が注目を浴びている.例えば2019年には,金融庁1)や農林水産省2)の文書においてその重要性が指摘されるなど,心理的安全性は一般教養の一つになる可能性があるといえよう.
 一方で,多用され始めただけに誤解も多い.最たるものが,「仲良しクラブで仕事ができるか」という指摘であろう.医療業界においては,「医師が全責任を負う医療において心理的安全性は適切なのか」という意見も聞く.だが,心理的安全性の提唱者であるエイミー・C・エドモンドソン氏3)がこの概念の重要性に着目した発端は,医療現場の調査である.

レジリエンスを目指すマネジメントと心理的安全性

著者: 芳賀繁

ページ範囲:P.854 - P.857

■「失敗を防ぐ」だけでいいのか
 医療にとって安全が何より大事であり,優先すべきことであるのは言うまでもない.
 伝統的に,「安全」は事故やインシデントの数で測られてきた.中央労働災害防止協会が毎年『安全の指標』という冊子を刊行している.そこには前年度に起きた労働災害の件数,度数率(労働時間当たりの事故率),強度率(傷害の重篤度で重み付けをした労災発生率)などの統計資料がびっしりと掲載されている.経年変化もグラフで出ているので,業種別や事業者規模別に前年度はどの程度安全性が改善されたのか,あるいは悪化したのかが分かるようになっている.「安全の指標」は「事故の指標」なのである.

なぜ病院経営に心理的安全性が必要なのか—経営コンサルタントの視点から

著者: 裵英洙

ページ範囲:P.858 - P.861

■はじめに:ますます厳しくなる病院経営環境
 昨今,医療政策の三位一体改革やコロナ禍を含めたさまざまな外部環境の変化が激しく,病院経営環境は厳しさを増している.医療現場では,高齢化の進展とともに複合疾患を有する高齢患者・難症例患者の増加に伴い,職員の心身負担は増大傾向にある.さらに,医療の質の向上と患者要求の高まりが相まって,医師をはじめ医療職が習得すべき先進の医学知識や医療技術は日に日に増えてきている.このような環境下,人材不足の中で自己犠牲・自己献身の姿勢で心身ともに疲弊状態で臨床現場に立ち続ける医療職は少なくない.また,一般病院の多くが赤字経営,民間の一般病院の医業利益率は数%程度と,著しく厳しい経営環境に置かれており,人的資源への十分な投資が難しい病院が多いのが現状でもある.
 一方,医療機関経営は労働集約ビジネスであり,人的資本が基本財産であるため,医療職をはじめ全職員にいかに気持ちよく,そして効率的に働いてもらうかを基本に考える必要性がますます高まってきている.つまり,病院経営の視点では,職員が安心して働き続けられる職場づくり,多様なキャリア開発の推進,効果的なモチベーションマネジメントの実践,心身の疲弊しない労務環境の整備などを進めつつ,患者が納得する良質な医療を確実に提供していくことが病院経営の基本戦略となってきている.
 経営学の分野では,「ES(Employee Satisfaction)なければ,CS(Customer Satisfaction)なし」とあるが,これは間違いなく病院にも当てはまる.より良い医療機関を創るためには,より良い職員に集まってもらい,安心・安全を担保した上で働き続けてもらうのが鉄則である.そのために職員が安心して働ける組織づくりは病院経営の中枢の課題とも言える.

心理的安全性の構築と病院組織変革のための手法

心理的安全性が可能にするチャレンジする組織づくり—他産業の事例から学ぶ

著者: 川上憲人

ページ範囲:P.862 - P.865

■心理的安全性とポジティブメンタルヘルス
 産業保健の領域では,2000年代の半ばから労働者のポジティブメンタルヘルス(あるいは精神的ウェルビーイングとも呼ばれる)が重要視されるようになってきた1).職場のポジティブメンタルヘルスは,労働者が自分の仕事に意義を感じ,一所懸命に取り組み,そこから達成感を覚える前向きな感情のことであり,労働者の幸福にもつながるとともに,生産性にも直結する状態として,経営者にとっても注目されるようになった.今日,少子高齢化の進展による深刻な人手不足の時代が到来しつつあり,より多くの人材を獲得し,より高い生産性を上げてもらい,優秀な人材を自社にとどめるために,多くの企業が労働者のポジティブメンタルヘルスを向上させる施策を実施している.
 職場の心理的安全性は,労働者が立場やキャリアや人間関係を心配せずに,質問したり,発言したりすることができる職場の雰囲気や環境のことであり,労働者のポジティブメンタルヘルスのための基盤ともいえる.職場の心理的安全性は,職場の一体感や信頼関係とも強く関連している.本稿では,他産業におけるポジティブメンタルヘルスの職場づくりの活動の事例を通じて,心理的安全性を通じたいきいきした職場づくりの進め方について学ぶ.また医療機関における職場の心理的安全性向上の事例を紹介する.

ワーク・エンゲイジメントと心理的安全性—活き活きと働ける組織づくりに向けて

著者: 島津明人

ページ範囲:P.866 - P.869

■はじめに
 わが国では,少子高齢化,雇用・労働環境の変化,デジタル化が進展し,私たちの働き方は大きく変化している.また,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより,テレワークや在宅勤務,会議のオンライン化など新しい働き方も急速に広がっている.こうした変化を受け,職場のメンタルヘルス,健康経営,経営施策,労働経済政策など様々な領域で一段と注目されているのが,ワーク・エンゲイジメント1)である.
 本稿では,ワーク・エンゲイジメントを鍵概念にしながら,活き活きと働ける組織をどのように構築できるか,心理的安全性に注目しながら言及する.

心理的安全性と病院の「学習する組織」化の可能性

著者: 山口(中上)悦子

ページ範囲:P.870 - P.874

■はじめに:病院が「学習する組織」化する理由
 病院は,安全で質の高い医療を提供することを社会に求められている.医療の質は「個人と集団に対する医療サービスが望ましいアウトカムをもたらしうる可能性を高める度合いと,現時点の専門知識に合致する度合い」と定義される1).しかし,現在の医療システムは「望ましいアウトカムをもたらしうる可能性」を高められてはおらず,このような状態を克服するために,病院は「学習する組織」への変革を求められている1)
 「学習する組織」とは,アージリスとショーンが最初に提唱し2),センゲの著書3)によって広く知られるようになった概念である.ここでいう「学習」とは単なる知識の習得ではなく,世界の認識を変え,自己の創造する能力を伸ばし,以前にできなかったことができるようになることで,「発達を導く学習(Learning Leading Development)」ともいわれる4,5).「学習する組織」では,このタイプの学習が定着している.職員達は主体的に「望んでいる結果を生み出す能力を拡大」させ,「新しい発展的な思考パターン」を育て,「共に学習する方法を継続的に」学ぶ.その結果,「環境の変化に柔軟に適応して,人々の自発的な革新と創造によって,進化し続ける」組織になるのである6)
 さて,病院は,複雑な課題達成や問題解決に絶え間なく直面している.日常業務では患者のリスクを可能な限り低減するよう努め,より質の高い医療の提供を目指して活動し,加えて先般のコロナ禍のような社会状況の変化に対応していかなくてはならない.つまり,病院は「学習する組織」に変わらなければ,組織としての目的を果たすことができないのである.

明るい職場づくりの実現を—院長方針を浸透させ,鍵は「改善文化」

著者: 麻生泰

ページ範囲:P.875 - P.878

■はじめに:経営学の手法である改善文化が病院経営にも役立つ
 会社経営者であり,麻生 飯塚病院の運営責任者の一人として,私は,労働集約型事業である病院には,組織運営としての経営学の活用が効果的であり,継続的な改善活動から生み出される「改善文化」(カイゼン)は重要な経営手法だと思っている.病院運営かくあるべしという理論体系づくりには期待しており,それは非常にやりがいのある学問分野であると思う.現在は医療経営学という分野で先行して普及しており,大学では九州大学大学院の「医療経営・管理学講座」,慶應義塾大学大学院「医療マネジメント学」,広島国際大学「医療経営学部」他,多数あろう.
 病院経営は一つの生きている組織の運営であり,管理手法が重要である.組織の長の役割が何であり,いかに院内を盛り上げるのか.多くの病院スタッフが経営に参加してくる手法はかくあるべきという病院経営の理論がしっかりと確立されると,多くの医療スタッフがチームとして動き始め,医療の質と生産性が上がり,明るい職場づくりにつながっていく.
 日本の生産・製造現場で今までに大きな成果を出し続けている「改善文化」を取り入れていない病院がまだ多いことと思う.トップから方針が明確に出され,改善活動が始まると,大きな赤字を出している病院もかなり無駄がなくなり,医療の質が向上し,リスクが減り,働き方改革にもつながる流れが生まれると確信している.飯塚病院での改善実績が,病院経営学向上のヒントになればと思い,病院現場の変化,成長,改革の実績を発信する.読者の役に立つならば嬉しい.

コーチングで変革できる病院組織—働き方改革の成功を左右する心理的安全性

著者: 佐藤文彦

ページ範囲:P.879 - P.882

■はじめに
 病院長や診療部長といったベテラン医師の中には,自身の経験から,自己成長のためにはある程度の長時間労働が必要だと考える人も少なくない.しかし一方で,長時間労働を強いることで勤務する医師に万が一のことが生じた場合,安全配慮義務違反を問われる可能性があるのは上司である自分たちだという認識も持っておくことは,「医師の働き方改革」を理解する上で,非常に大切なポイントと言える.これらを総合的に勘案した上で,病院全体や各診療科において「医師の働き方改革」を進めていこうという過程のなかで,スタッフ全員に本気で残業削減やタスクシフトについて考えてもらうために,重要なカギとなってくるのが「心理的安全性」であると言える.これを,あらゆる立場の医療スタッフたちに,日頃から実感してもらっていない限りは,現実として抜本的な改革を行うことは不可能であろう.
 しかしながら他方で,病院経営者が覚悟を決めて「医師の働き方改革」を積極的に推し進めていくために,全ての医療スタッフに対し,コーチングなどのコミュニケーションスキルを積極的に活用し,「心理的安全性」を日頃から実感してもらうことができれば,どんな業態や規模・地域の病院であっても,飛躍的に病院組織を明るい方向に変化させる可能性が十分に考えられる.

心理的安全性を意識した医療安全とマネジメント

心理的安全性を医療安全管理に生かす—大学病院における実践を踏まえて

著者: 辰巳陽一

ページ範囲:P.883 - P.888

■はじめに
 優れた医療に優れた医療チームの構築が必要であることについて,異を唱える医療者はほとんどいないだろう.その中で「心理的安全性(Psychological Safety)」という規範の概念は,近年,医療の分野でも注目を集めてきている,優れた医療チーム構築のキーワードである.ただ,言葉は歩き出してはいるものの,とりわけ階層意識・サイロ意識が強い大学病院で,その流れをうねりにしようとするためには,それなりの心構えが必要で,「心理的安全性!」という錦の御旗を心に掲げつつ,忍耐強く歩みを進める覚悟が必要である.本稿では,心理的安全性を導入するのには,数多の困難が予想されるわが国の大学病院に,チーム医療・心理的安全性を根付かせるための課題とそのための実践方法について考えてみたい.

心理的安全性が地方独立行政法人化による新しい組織づくりに与えた影響—「アウトサイダー」管理者の挑戦

著者: 上田裕一

ページ範囲:P.889 - P.894

■はじめに
 昨今,「心理的安全性」という言葉が注目されているが,2010年頃,筆者は手術安全や心臓手術チームの取り組みに関する論文を渉猟していた際,Harvard Business Schoolの組織行動学者であるAmy C. Edmondson教授(以下,エドモンドソン)が2003年に発表した論文1)に遭遇し,「Psychological Safety(心理的安全性)」という言葉を知った.この論文には病院・手術を対象としたチームに関する研究内容が記載されていたが,引用文献にはエドモンドソンの研究の嚆矢と言える,1999年の“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”2)があった.さらにその後のエドモンドソンの著書『チームが機能するとはどういうことか』3)(原著2012年,邦訳2014年)には,Psychological Safetyの概念は,組織改革に関するマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン教授(本書3)の序文を執筆)とウォレン・ベニス教授の初期の研究4)に端を発することが紹介されていた.すなわち,彼らは半世紀以上も前の1965年に,組織においては心理的安全性を生み出して,従業員に変化を確信させたり,実感させたりする必要性を論じていたのであった.
 なお,上記のエドモンドソンの著書3)の第3章(p.117)では,「変革プロジェクトをフレーミングする」モデルとして,低侵襲心臓手術(MICS)の導入を試みた16施設を対象にリサーチを実施していた.このうちの4施設(大学病院2,市中病院2)を取り上げた成果「四つのチーム — 二つの結果」は,筆者の専門領域でもあったので,心理的安全性について論旨が明確に展開されており外科医・管理者として理解が深まった.心理的安全性の定義は,「それは対人関係の信頼と,人々が自分らしくいることへの相互尊重を特徴とするチーム風土を表している」とされ,「そのチーム内では,対人関係上のリスクを取ったとしても,安心できるという共通の信念」とも記載されていた.ただし,どのような発言をしても罰せられないというルールがあるのではなく,発言をしても罰せられない雰囲気や暗黙の了解が集団として規範となっていることのようである.つまり,心理的安全性を確保するには,組織を構成する個人個人の資質ではなく,こうした組織文化を醸成し定着していることが不可欠だというのである.
 後述するように筆者は稀な経歴の「アウトサイダー」管理者であるが,本稿では私的な経験を基に,筆者が考える心理的安全性について考察する.

病院における心理的安全性の実装—前向きな医療安全とチーム医療のハイパフォーマンスのために

著者: 長谷川剛

ページ範囲:P.895 - P.899

■はじめに
 本特集では,心理的安全性についての多くの優れた論考が併載されるので,本稿では筆者が考える心理的安全性実装のために必要ないくつかの問題について述べてみたい.筆者が心理的安全性という概念に大きな期待をかけた理由について簡単に表1に示した.
 医療安全の観点からは,二つの重要なポイントがある.一つはエラーや懸念事項があったときに,それを躊躇なく報告することができ,エラーや失敗を修正できること.もう一つは困難な状況に陥ったときに,その状況から脱却するためにさまざまなアイデアを自由に議論できることである.この二つを実現するために心理的安全性という考え方は非常に重要であり,同時に心理的安全性はチーム医療のパフォーマンスをより高度にするものであるといえる.
 心理的安全性はエイミー・エドモンドソン1)によって一躍有名となった概念で,さらにGoogleでの研究でビジネス界でも大きな話題となった.
 現在の日本では安全文化という言葉で,報告する文化について語られることが多い.航空業界など他業種の研究者との学会や研究会での情報交換において,医療界の大量のインシデントレポート報告数については群を抜くものがあり驚嘆の声が上がる.医療現場の業務特性とに差があることを踏まえても,看護師を中心とする真面目かつ誠実な報告の意識は驚嘆すべきものがある.インシデントレポート報告を推奨し,そこから院内の情報を得て適切な対応をとっていくことは,現在では大多数の医療機関において当然のこととして実践されている.これは医療における安全文化醸成の努力の一つの成果であり,心理的安全性がうまく達成された一例と考えることができるだろう.
 では医療現場における心理的安全性の実装は十分なものであろうか.決してそうではない.医療現場において患者の命を救い不必要な傷害を回避するためには,さらなる心理的安全性が必要とされる局面があることは事実である.
 本稿では,より前向きな医療安全の観点から病院における心理的安全性の実装を考えた場合,どのようなことを考慮していけば良いのかを,エドモンドソンの提起を基礎に議論する.

対談

病院でなぜ心理的安全性が必須なのか

著者: 松村由美 ,   松原由美

ページ範囲:P.831 - P.837

リスクマネジメントにも成長する組織づくりにも心理的安全性が重要である.
医療の質・安全学会理事長であり,京都大学医療安全管理学教授の松村由美氏に,病院でなぜ心理的安全性の構築が必須なのか,構築方法を含めて聞いた.

特別記事

公立病院が対応を迫られる改正個人情報保護法のポイント

著者: 増田拓也

ページ範囲:P.900 - P.903

■改正個人情報保護法の影響
 現在,いわゆる公立病院における個人情報の取り扱いは,主に,その病院が所在する地方公共団体の個人情報保護条例により規律されている注1〜3
 2023(令和5)年4月1日には,改正個人情報保護法が施行される注4.以降,公立病院における個人情報の取り扱いは,主に,国の個人情報保護法により規律されることになる注5.公立病院は,国の法令の内容を踏まえて,患者などの個人情報を適切に取り扱わなければならない注6

研究

リアルワールドデータを用いた診療放射線技師の需要と供給推計から考察した将来設計

著者: 森田雅士 ,   西岡祐一 ,   岡本左和子 ,   小野孝二 ,   今村知明

ページ範囲:P.904 - P.911

要旨
 近年,医師から医師以外の医療専門職へのタスク・シフト/シェアが進んでいる.診療放射線技師(技師)においては2015年と2021年に業務範囲が拡大したが,2015年に増加した業務にも対応できていない可能性がある.原因の一つは,技師の主な業務である画像検査の件数が増加しているためである.本研究では将来における画像検査件数の推計を行い,技師数の将来推計を合わせて需要と供給の両側面から多角的に考察した.この結果として,技師の需要は2030年ごろをピークに減少していき,供給は今後も増え続ける結果であった.この結果を踏まえてタスク・シフト/シェアを積極的に推進する必要があると示唆された.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・93

札幌南徳洲会病院・地域緩和ケアセンター

著者: 中村守宏

ページ範囲:P.838 - P.843

■病院を取り巻く環境/建て替えの背景
 札幌南徳洲会病院は札幌市の中心部から10km程度,豊かな自然と新しい住宅地が広がる清田区で,1987(昭和62)年「札幌医療生活協同組合」として開院して以来,地域に根差した医療を提供し続けてきた.1996(平成8)年には,札幌南青洲病院として徳洲会グループとなり,2001(平成13)年に現総長の前野宏先生の院長就任とともに,「ホスピスのこころを大切にする病院」が誕生した.2003(平成15)年には徳洲会グループとしては初となる緩和ケア病棟をオープン.そして,地域の在宅患者さんへさらなるホスピスのこころを届けるべく2008(平成20)年にホームケアクリニック札幌が開院した.
 今回の建て替えは,旧病院の建物の老朽化および狭隘化の改善であることはもちろん,札幌南徳洲会病院の「NEXT STAGE」へのチャレンジである.そして,新しい舞台となる敷地は,原生林が残り,閑静な住宅街の中心である最高の環境となった.敷地には,今まで分かれていた病院(図1)と地域緩和ケアセンター(図2)が寄りそうように整備され,一体となって活動.さらに,病院は緩和ケア病棟を18床→40床に増床し,地域緩和ケアセンターには,がん患者さんの心の拠り所となり,地域の全ての人が自由に過ごすことができる場所ruykaが新しく誕生した.地域にとって,札幌市にとって,さらに必要とされる「ホスピスのこころ」をより強く具現化した新病院が実現した.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・18

病院情報システム開発の遅滞と契約解除

著者: 増田拓也 ,   石﨑海詩

ページ範囲:P.912 - P.915

■1 はじめに
 新型コロナウイルスの影響により,あらゆる分野でDXが加速しています.病院においても,電子カルテシステムやオーダリングシステムなどの導入が進んでいます★1.厚生労働省は,以前から,データヘルス改革を推進しており,最近では,電子カルテ情報の標準化や電子処方箋の仕組みの構築に向けた取り組み,オンライン資格確認の導入に向けた積極的な働きかけなどが行われています.病院がシステムの開発や旧システムから新システムへの移行を企画する機会は,今後ますます増加すると考えられます.それに伴い,病院とベンダとの間で生じるトラブルも,同様に増加するでしょう.
 本稿では,病院情報システムの開発が遅滞している場面を例に,解除の判断における留意点を解説します.

ケースレポート 地域医療構想と病院・49

地域包括ケアシステムの中核施設としての在宅療養支援病院—志村フロイデグループの取り組み

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.916 - P.922

■法人の概要
 志村フロイデグループ(Shimura Freude Group:SFG,医療法人博仁会)1)は茨城県常陸大宮市にある複合体であり,まちづくりへの取り組みを積極的に行っている組織である.その概要についてはすでに本連載の第3回で取り上げている2)が,今回は,その後の取り組みについて紹介したい.
 志村大宮病院は,博仁会の中核施設で一般病床48床(看護体制10対1),地域包括ケア病床12床,緩和ケア病床20床,回復期リハビリテーション病床50床,医療療養型病床48床の計178床からなるケアミックス病院である.診療科目は内科・消化器科・循環器科・呼吸器科・神経内科・小児科・皮膚科・泌尿器科・婦人科・耳鼻咽喉科・眼科・整形外科・心療内科・放射線科・リハビリテーション科と幅広く,地域の医療を総合的に支えている.また,関連組織としては社会福祉法人の博友会,看護学校を経営する志村学園,福祉機器・介護関連グッズのレンタルや販売などを行ういばらき総合介護サービス(有限会社)がある.

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目次

ページ範囲:P.844 - P.845

Back Number

ページ範囲:P.923 - P.923

次号予告

ページ範囲:P.926 - P.926

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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