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文献詳細

雑誌文献

病院81巻10号

2022年10月発行

文献概要

特集 心理的安全性がつくる新しい病院組織—イノベーションとリスクマネジメントの両輪を回す 心理的安全性の構築と病院組織変革のための手法

心理的安全性と病院の「学習する組織」化の可能性

著者: 山口(中上)悦子1

所属機関: 1大阪公立大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部

ページ範囲:P.870 - P.874

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■はじめに:病院が「学習する組織」化する理由
 病院は,安全で質の高い医療を提供することを社会に求められている.医療の質は「個人と集団に対する医療サービスが望ましいアウトカムをもたらしうる可能性を高める度合いと,現時点の専門知識に合致する度合い」と定義される1).しかし,現在の医療システムは「望ましいアウトカムをもたらしうる可能性」を高められてはおらず,このような状態を克服するために,病院は「学習する組織」への変革を求められている1)
 「学習する組織」とは,アージリスとショーンが最初に提唱し2),センゲの著書3)によって広く知られるようになった概念である.ここでいう「学習」とは単なる知識の習得ではなく,世界の認識を変え,自己の創造する能力を伸ばし,以前にできなかったことができるようになることで,「発達を導く学習(Learning Leading Development)」ともいわれる4,5).「学習する組織」では,このタイプの学習が定着している.職員達は主体的に「望んでいる結果を生み出す能力を拡大」させ,「新しい発展的な思考パターン」を育て,「共に学習する方法を継続的に」学ぶ.その結果,「環境の変化に柔軟に適応して,人々の自発的な革新と創造によって,進化し続ける」組織になるのである6)
 さて,病院は,複雑な課題達成や問題解決に絶え間なく直面している.日常業務では患者のリスクを可能な限り低減するよう努め,より質の高い医療の提供を目指して活動し,加えて先般のコロナ禍のような社会状況の変化に対応していかなくてはならない.つまり,病院は「学習する組織」に変わらなければ,組織としての目的を果たすことができないのである.

参考文献

1)米国医療の質委員会/医学研究所(著),医学ジャーナリスト協会(訳):医療の質—谷間を越えて21世紀システムへ.日本評論社,2002
2)Argyris C, Schön DA:Organizational learning;A theory of action perspective. Addison-Wesley. Boston, 1978
3)Senge PM:The fifth discipline:The art and practice of the learning organization. Doubleday/Currency, New York, 2006 〔ピーター・M・センゲ(著),枝廣淳子,小田理一郎,中小路佳代子(訳):学習する組織—システム思考で未来を創造する.英治出版,2011〕
4)Newman F, Holzman L:Lev Vygotsky;Revolutionary scientist.Routledge, London, 1993
5)Holzman L:Vygotsky at work and play. Routledge, 2009〔ロイス・ホルツマン(著),茂呂雄二(訳):遊ぶヴィゴツキー—生成の心理学へ.新曜社,2014〕
6)廣枝淳子,小田理一郎:なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?—小さな力で大きく動かす! システム思考の上手な使い方.東洋経済新報社,2007
7)Liker JK:The Toyota Way;14 Management Principles from the World's Greatest Manufacturer. McGraw-Hill, New York, 2004
8)OJTソリューションズ:トヨタ仕事の基本大全.KADOKAWA,2015
9)QCサークル本部(編):新版 QCサークル活動運営の基本.日科技連出版社,1997
10)山田佳明,新倉健一,羽田源太郎,他:QCサークル活動の基本と進め方—あらゆる小集団活動に役立つ.日科技連出版社,2011
11)OJTソリューションズ:トヨタの失敗学—「ミス」を「成果」に変える仕事術.KADOKAWA,2016
12)Edmondson AC:Teaming;How organizations learn, innovate, and compete in the knowledge economy. John Wiley & Sons, Hoboken, NJ, 2012〔エイミー・C・エドモンドソン(著),野津智子(訳):チームが機能するとはどういうことか.英治出版,2014〕
13)Edmondson AC:The Fearless Organization;Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth. John Wiley & Sons, Hoboken, NJ, 2019〔エイミー・C・エドモンドソン(著),野津智子,村瀬俊朗(訳):恐れのない組織—「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす.英治出版,2021〕
14)Vygotsky L:Mind in Society;The Development of Higher Psychological Processes. Harvard University Press, Cambridge, MA, 1978
15)Engestrom Y:Learning by expanding;An activity-theoretical approach to developmental research. Orienta-Konsultit, Helsinki, Finland, 1987〔ユーリア・エンゲストローム(著),山住勝広,松下佳代,百合草禎二,他(訳):拡張による学習—活動理論からのアプローチ,新曜社,1999〕
16)Lobman C, Lundquist M:Unscripted Learning:Using Improv Activities Across the K-8 Curriculum. Teachers College Press, New York, 2007〔C・ロブマン,M・ルンドクゥイスト(著),ジャパン・オールスターズ(訳):インプロをすべての教室へ—学びを革新する即興ゲーム・ガイド.新曜社,2016〕
17)山口(中上)悦子:学習する病院組織を育てる—よりよい医療の質と安全を求めて.システム/制御/情報 61;233-239,2017
18)宮本匠:災害復興における“めざす”かかわりと“すごす”かかわり—東日本大震災の復興曲線インタビューから.質的心理学研究 14;6-18,2015
19)肥後功一:通じ合うことの心理臨床—保育・教育のための臨床コミュニケーション論.同成社,2003

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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