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文献詳細

雑誌文献

病院81巻10号

2022年10月発行

文献概要

特集 心理的安全性がつくる新しい病院組織—イノベーションとリスクマネジメントの両輪を回す 心理的安全性を意識した医療安全とマネジメント

心理的安全性が地方独立行政法人化による新しい組織づくりに与えた影響—「アウトサイダー」管理者の挑戦

著者: 上田裕一1

所属機関: 1地方独立行政法人奈良県立病院機構

ページ範囲:P.889 - P.894

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■はじめに
 昨今,「心理的安全性」という言葉が注目されているが,2010年頃,筆者は手術安全や心臓手術チームの取り組みに関する論文を渉猟していた際,Harvard Business Schoolの組織行動学者であるAmy C. Edmondson教授(以下,エドモンドソン)が2003年に発表した論文1)に遭遇し,「Psychological Safety(心理的安全性)」という言葉を知った.この論文には病院・手術を対象としたチームに関する研究内容が記載されていたが,引用文献にはエドモンドソンの研究の嚆矢と言える,1999年の“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”2)があった.さらにその後のエドモンドソンの著書『チームが機能するとはどういうことか』3)(原著2012年,邦訳2014年)には,Psychological Safetyの概念は,組織改革に関するマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン教授(本書3)の序文を執筆)とウォレン・ベニス教授の初期の研究4)に端を発することが紹介されていた.すなわち,彼らは半世紀以上も前の1965年に,組織においては心理的安全性を生み出して,従業員に変化を確信させたり,実感させたりする必要性を論じていたのであった.
 なお,上記のエドモンドソンの著書3)の第3章(p.117)では,「変革プロジェクトをフレーミングする」モデルとして,低侵襲心臓手術(MICS)の導入を試みた16施設を対象にリサーチを実施していた.このうちの4施設(大学病院2,市中病院2)を取り上げた成果「四つのチーム — 二つの結果」は,筆者の専門領域でもあったので,心理的安全性について論旨が明確に展開されており外科医・管理者として理解が深まった.心理的安全性の定義は,「それは対人関係の信頼と,人々が自分らしくいることへの相互尊重を特徴とするチーム風土を表している」とされ,「そのチーム内では,対人関係上のリスクを取ったとしても,安心できるという共通の信念」とも記載されていた.ただし,どのような発言をしても罰せられないというルールがあるのではなく,発言をしても罰せられない雰囲気や暗黙の了解が集団として規範となっていることのようである.つまり,心理的安全性を確保するには,組織を構成する個人個人の資質ではなく,こうした組織文化を醸成し定着していることが不可欠だというのである.
 後述するように筆者は稀な経歴の「アウトサイダー」管理者であるが,本稿では私的な経験を基に,筆者が考える心理的安全性について考察する.

参考文献

1)Edmondson AC:Speaking Up in the Operating Room; How Team Leaders Promote Learning in Interdisciplinary Action Teams. J Manag Stud 40:1419-1452, 2003
2)Edmondson AC:Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Admin Sci Quart 44:350-383, 1999
3)エイミー・C・エドモンドソン(著),野津智子(訳):チームが機能するとはどういうことか—「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ.英治出版,2014
4)Schein E, Bennis W:Personal and Organizational Change Through Group Method. Wiley,New York,1965
5)エイミー・C・エドモンドソン(著),野津智子(訳):恐れのない組織—「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす.英治出版,2021
6)The Royal College of Surgeons of Edinburgh:The Non-Technical Skills for Surgeons (NOTSS) System Handbook v2.0;Structuring observation, rating and feedback of surgeons' behaviours in the operating theatre. https://www.rcsed.ac.uk/media/682516/notss-system-handbook-v20.pdf
7)Edmondson AC:Building a psychologically safe workplace. TEDxHGSE. 2014年5月4日 https://www.youtube.com/watch?v=LhoLuui9gX8
8)シドニー・デッカー(著),小松原明哲・十亀洋(監訳):ヒューマンエラーを理解する 実務者のためのフィールドガイド.p222,海文堂,2010
9)Woods D:Culture of Blame. NHS:National Patient Safety Agency, Patient Safety 2004 https://www.gov.uk/government/organisations/national-patient-safety-agency (※National Patient Safety Agency は2012年に閉じられた)
10)上田裕一:「病院長のガバナンス」とは何か? 医療安全レポートNo.6,2017年9月号,医療安全全国共同行動

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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