icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院81巻11号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 戦略的病院広報—病院の魅力を高めリスクを減らす いま求められる戦略的広報

病院マーケティングの本質と戦略的病院広報の勘所

著者: 松本卓

ページ範囲:P.942 - P.948

■病院にマーケティングは必要か
 以前は医療機関が市場原理を理解し「生き残り」を意識して経営を行うことは少なかったように思う.しかし,近年では社会保障費の抑制に伴い診療保険点数が右肩上がりに増え続けることは現実的ではないため,自院の存続をかけた経営が必要となり,ステークホルダーに選ばれるための「マーケティング」を行う病院も増えてきている.ただ,医療従事者の中には「マーケティング=金儲け」と認識し,医療とはそぐわない考え方だと思っている人もいるかもしれない.そういう人はマーケティングを「良くないものを良く見せて売りつける手法」と捉えていることが多いが,そうではない.自院の医療サービスの伝達を行うことが「悪」だとするのであれば,患者は目隠しをした状況で病院を選ぶべきだと言っていることと等しい.それが許される状況があるとすれば,日本の病院は全て同じ水準の医療を提供することができて,どこで治療をしても満足度は変わらないということであろう.そうすれば「病院を選ぶ」ということ自体必要ないのかもしれないが,現実はそうなっていない.つまり,マーケティングとは自院を存続させるためだけにあるのではなく,患者側にも利益をもたらす.加えて日本では,患者側に不利益が出ないように医療広告ガイドラインなどのルールも整備されており,医療機関はこれらのルールに則りながら適正な競争を行うことで社会全体の豊かさに寄与できる.

病院を取り巻くさまざまなステークホルダーとの良好な関係構築に不可欠なパブリック・リレーションズ

著者: 鈴木孝徳

ページ範囲:P.949 - P.954

■はじめに:パブリック・リレーションズとは
 株式会社井之上パブリックリレーションズ(以下,当社)は,独立系のパブリック・リレーションズ(PR)のコンサルティング会社として井之上喬(現:代表取締役会長兼CEO)が設立し2020年7月に設立50周年を迎えた.設立以来,国内外の企業をはじめ政府機関,各種団体など幅広い分野の顧客に対して危機管理も含めたさまざまなパブリック・リレーションズに関するコンサルテーションや戦略的広報の立案,実践を通じ日本でのパブリック・リレーションズの啓発活動,社会への普及活動を継続している.
 こうした実践的活動を通して,さまざまなパブリックとの良好な関係性の構築・維持・発展活動であるリレーションシップ・マネジメントをコアとするパブリック・リレーションズについて,井之上は「個人や組織体が最短距離で目標や目的を達成する,『倫理観』に支えられた『双方向性コミュニケーション』と『自己修正』をベースとしたリレーションズ(関係構築)活動である」と定義している1)

院外に向けた戦略的広報

地域包括ケア時代における戦略的病院広報—メディアミックスで全世代へ発信する

著者: 石川賀代

ページ範囲:P.956 - P.958

 2013年に病院名を改称し,HITO病院(以下,当院)として開院してから,経営理念である「HITOを中心に社会に貢献する」に基づき,「地域を元気に,地域を市民と共に作っていく」情報を,地域包括ケアシステム実現のための種まきとして発信し続けてきた.2020年新型コロナウイルス感染症拡大に伴い,日々変化する感染状況・社会情勢を踏まえて,新たな日常を模索する中で,情報を伝える難しさに直面した.当院の広報活動においても,デジタル化・オンライン化への転換の必要性を実感した.これまでの広報戦略の変遷を含め,その取り組み事例を紹介する.

甲状腺疾患専門病院における戦略的病院広報への取り組み

著者: 伊藤公一 ,   熊野真吾 ,   白田有香

ページ範囲:P.959 - P.963

■はじめに
 伊藤病院(以下,当院)は1937年開設の民間病院である.始まりは甲状腺外科医であった祖父・伊藤尹が自ら手術をし,術後管理を施す有床診療所であった.開業通知には「バセドウ氏病及甲状腺疾患の外科及物理療法」と明記され,専門特化に立ち向かう決意を表している.
 その2年後に病院となり,1959年に父・伊藤國彦が,そして1998年に筆者が院長職を引き継いでいる.
 このように血縁で3代続く個人病院として,甲状腺疾患診療のみを貫いてきた1-5)
 とはいえ,昔も今も「専門病院」の明確な定義や基準は存在せず,医療法上「甲状腺疾患専門病院」と標榜することはできない.
 そこで1997年に「甲状腺を病む方々のために」という明確な理念と,甲状腺の形状に例えられる「蝶々が羽を広げた姿」をホスピタル・アイデンティティ(HI)内に掲げた(図1).これらが専門病院としての院内外への広報の始まりである.
 本稿では,当院の持つ医療特性を見据えた上での病院広報への取り組みを紹介する.

地域連携に資する広報—連携先・患者とのパートナーシップ宣言と協働

著者: 橋本もも

ページ範囲:P.964 - P.966

■はじめに
 今回のテーマである地域連携に資する広報とは,集客のための宣伝戦略のような視点で議論されていることも多いが,これは結果として生まれるものであり,そもそもは,組織の理念やアジェンダの表明ではないだろうか.言い換えれば,地域連携に資する広報とは,医療機関が地域包括ケアシステムの1ピースとして,地域で果たす使命,他の医療機関とどのようなパートナーシップを実践するかの宣言であると,筆者は考える.
 例えば,筆者が属する上尾中央医科グループ(以下,AMG)の理念は,「愛し愛される病院・施設」である.ゆえにAMGにおける地域連携は,地域(医療機関,住民,介護施設,福祉施設など)に愛をもって提供する医療サービスに基づき,それにより愛し愛される関係性,パートナーシップを築くもの.そしてこのことを地域と自院に示すのが,地域連携に資するAMGの広報である.
 筆者は広報のプロでも地域連携の研究者でもないが,現場で地域連携の一端を担う実践者の一人として,私見も交えて一例を示したい.

コロナ禍に求められる病院広報の柔軟性

著者: 安藤あすか

ページ範囲:P.967 - P.971

 医療法人丸山会(以下,当法人)が運営する丸子中央病院(病床数:199床,介護医療院:定員97人.以下,当院)は,長野県上田市に位置しており,1959年,合併前の長野県小県郡丸子町に丸山医院を開業したことに始まる.約60年間の長きにわたり地域医療・介護に携わってきた.病院の他にも上田市内に透析クリニック,介護老人保健施設を2施設,東京都・埼玉県にも介護老人保健施設を3施設運営しており約1,200人の職員が働いている.
 2013年の新築移転を皮切りに「地域のしあわせ創りへの貢献」を理念とし地域との関わりを積極的に持ってきた.当院の最も重要なステークホルダーは,地域住民であり,これまでにも広報活動を通じ関係構築を行ってきた1).しかし,新型コロナウイルスの影響により地域住民と関わりを持てる場となっていたイベントや,講座の延期や中止が余儀なくされた.

職員に向けた戦略的広報

職員間のコミュニケーション向上を目指した「中吊り広告」—中小規模病院でも対応可能な戦略的病院広報

著者: 山本美穂 ,   風晴俊之 ,   美原盤

ページ範囲:P.973 - P.975

■はじめに
 脳血管研究所美原記念病院(当院)は,群馬県に所在する「脳・神経疾患の急性期から在宅まで一貫した医療介護の提供」をミッションとする総病床数189床,脳神経内科,脳神経外科,循環器内科,リハビリテーション科,精神神経科などを標榜したケアミックス型の脳・神経疾患専門病院である.医師,看護師らメディカルスタッフ,事務職など,およそ400人の常勤職員が在籍している.
 病院運営において広報活動は重要な課題と認識されるが,当院のような200床未満の中小規模の病院の場合,広報活動に特化した部署を設置することは多くなく,例えば事務部の中に広報機能を置く,あるいは多職種のメンバーで構成される広報委員会などを設けて対応するのが一般的だと思われる.当院においても,従来,広報活動は委員会活動の一つとして位置づけ,院外報,院内報の発刊,院内掲示物の管理などを行っていた.しかし,広報活動は委員会メンバーにとって本業の片手間に行うものであり,適切に機能しているとは言い難く,院外報,院内報の発刊も不定期になってしまっていた.
 そこで,2021年4月,事務部内に広報課を設置,専従職員として1人を新規採用し,広報の責任者として一定の権限を与え機能強化を図った.権限を持った専従職員を配置したことにより,広報課からの依頼に対し,例えば記事のネタとなる情報提供など,各職場の職員の対応は協力的になった.一方,広報課の存在が職員間に周知された結果,各部署から広報に関わる相談や講演会のポスターなど,掲示物作成の依頼も増えた.職員のニーズに応えることにより広報課の業務が確立されつつあると感じられた.
 広報課の主な業務は,院外向けの病院ホームページのコンテンツの更新や管理,院外報の企画・作成,マスコミに対しての取材依頼などがある.また,院内に対しては,院内ホームページの更新,院内掲示物の制作・管理,そして院内報の企画・作成などがあるが,本稿では職員間のコミュニケーション向上に寄与していると思われる当院の院内報,「中吊り広告」について紹介する.

何が求職者に刺さるか—マーケティング視点での採用活動

著者: 加納一樹

ページ範囲:P.976 - P.978

■はじめに
 「戦略的病院広報とはなんだろうか」.本記事の執筆依頼をいただいた際に,筆者が初めて抱いた感想だ.正直に申し上げると,戦略的広報が何かは筆者も分かっていないし,今もできているとは思ってはいない.ただ,医療系人材紹介,経営コンサルティング,病院人事の経験から,さまざまな視点で採用・広報について携わってきた.結果として,これまでに,「Dの血族(ゲーム調の初期研修医採用サイト)」「プロ野球医師採用」「筋肉医師採用」といった,新しい採用手法を多数手掛けてきた.採用は待っているだけでは誰も来ない.問い合わせの数を増やすためには,病院の取り組みを知ってもらう広報の役割が極めて重要だ.本稿では,これまでの事例を紹介しつつ,採用広報に関する筆者の考えを述べたい.

危機管理/リスク管理としての戦略的広報

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機としたメディア対応の見直し

著者: 安井謙太

ページ範囲:P.980 - P.982

■はじめに
 地方独立行政法人堺市立病院機構堺市立総合医療センター(以下,当院)は,大阪府で人口,面積が第二の政令指定都市である堺市に位置する総合病院である.
 当院の病床数は487床(一般480床,感染7床)で,二次医療圏で唯一の救命救急センターを備え「救急医療最後の砦」としての役割を担っている.
 また,感染症指定医療機関として,新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)が蔓延する以前から地域の中心となって感染症診療に対応していたことから,感染拡大初期にはマスコミからの取材依頼が殺到し,迅速かつ適切なメディア対応が求められた(図1).
 当院では,患者の個人情報を守るとともに風評被害につながらないよう,当院の診療体制や個別の診療内容は一切公表しない方針を取る一方,一般的な感染予防などについては積極的に情報発信していたところではあるが,①メディアによる当院に関する誤報道,②職員による誤情報の発信,③院内における感染者発生時の公表基準の未整備といった問題が発生したため,以下のような改善に取り組んだ.

病院の風評被害とネットの口コミ対策

著者: 大月美里

ページ範囲:P.983 - P.985

■はじめに
 インターネットの普及により,「人のうわさも75日」は,もはや過去のものとなった.ネガティブなトピックスほど拡散され,検索結果の上位に残り,5年,10年と影響を及ぼしている.中には,10年以上前の情報で困っているという事例もあり,風評被害は長期化する傾向が顕著である.
 風評被害につながるのは事実無根の中傷や,事実が含まれるもの,いやがらせ目的のものなど,内容もさまざまある.そこで本稿では,代表的な事例である口コミ投稿を取り上げながら,対策について考えてゆく.

病院ウェブサイトにおける医療広告コンプライアンスの要点

著者: 長谷川葵 ,   増田拓也

ページ範囲:P.986 - P.989

 ウェブサイトは,言うまでもなく病院広報の重要なツールの一つである.医療法は,従来,病院のウェブサイトを原則として規制対象とせずに,ガイドラインにより自主的な取り組みを促してきた注1.しかし,美容医療サービスに関する情報提供を契機とした消費者トラブルが発生していたことなどから注2,2018(平成30)年に改正法が施行され,病院のウェブサイトについてもほかの媒体と同様に広告規制の対象となった.
 本稿では,医療法における広告規制を概観した後,病院のウェブサイトにおける医療広告コンプライアンスのポイントについて述べる.

対談

病院の広報戦略は経営戦略そのもの

著者: 伊藤雅史 ,   川原丈貴

ページ範囲:P.927 - P.932

提供している医療の内容を適切に伝えてステークホルダーと信頼関係を築くことが,平時の円滑な病院運営を支え,危機発生時のリスク低減につながる.
病院経営者に求められる広報戦略とはどうあるべきか.

実践報告

業務フロー図作成を通した多職種チーム支援機能のシステム化事例

著者: 七種伸行 ,   後藤恵美子 ,   高野正代 ,   山本都江 ,   永松あゆ ,   靍久士保利 ,   坂本早季 ,   東舘成希 ,   古賀義法

ページ範囲:P.992 - P.996

要旨
 業務フロー図(Process Flow Chart:PFC)は工業分野で開発された工程分析手法であり,医療分野でも病院情報システム導入や医療安全管理,多職種協働で活用されている.当院ではPFC作成により多職種チーム活動の業務フロー標準化と支援システムの機能用件定義を行い,「チーム患者一覧機能」を開発・導入した.現在は計23のチームが多職種協働の基盤として活用しており,導入前後のPFC比較では栄養サポートチームの業務フローおよびデータフローの改善を認め,対人業務である回診を除く業務を本機能上で網羅できた.各医療職が対人業務へのシフトを求められる中,PFC作成は業務変革やシステム開発に資する文書化手法として有用であり,中心となる院内指導者の組織的・継続的な養成が求められる.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・94

相良病院

著者: 井内雅子

ページ範囲:P.934 - P.939

■病院を取り巻く環境/建て替えの背景
 相良病院は,鹿児島市の中心地に1946年に外科病院として開業し,1973年に乳腺X線装置を導入して以来,乳腺外科を中心とした先進女性医療の専門病院として成長し続けている.2014年には,日本唯一である乳がん領域においての「特定領域がん診療連携拠点病院」に認定された.乳がん治療を中心とした先進女性医療の地位を確立していく中で,患者の利便性,スタッフの働きやすさに配慮し,今まで市内4カ所に分散されていた機能を1カ所にまとめ,持続可能な医療を構築する必要があった.同時にさまざまな企業とのコラボレーションも計画され,後述するように医療機器メーカーのシーメンスヘルシニアーズにおいてアジア唯一のグローバルリファレンスサイトとなることが決まり,新病院開院時に発表されることになった.2016年には,全国の乳がん専門病院とグループ化や経営統合を図り,乳がん手術数全国一の実績を持つ「SWHG」(さがらウィメンズヘルスケアグループ)を設立した.新病院は,この中核施設である.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・19

—診療録を巡る問題点①—どのような記載が不適切なのか

著者: 高坂佳郁子

ページ範囲:P.997 - P.1001

 日々忙しい医療現場において,丁寧な診療と詳細な診療録★1の記載とを両立させるのは非常に難しいことです.「診療録を書く時間があったら,一人でも多くの患者に対応したい」「私が説明したと言っているのに疑われるなんて不愉快だ」という医師の声を聞くこともあります.しかし,診療録の記載次第で,トラブルが生じる場合に医療機関および担当医の負担が大きく変わることがあるのは事実です.本稿では,実際に見られる診療録の問題点を踏まえ,望ましい記載について検討します.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・36

社会医療法人療仕会 松本病院—三代にわたり地元の医療機関として地域に仕えるケアミックス病院

著者: 髙橋佑輔

ページ範囲:P.1002 - P.1007

 福岡県田川郡川崎町にある松本病院(以下,同院)は,社会医療法人療仕会が運営する80床のケアミックス病院として,戦後間もない頃から地域医療を支えてきた.開院以来,「救急医療こそ医の原点」をモットーに,救急医療で社会医療法人の認定を受け,また,一次脳卒中センター(以下,PSC)の認定施設となるなど,救急医療と脳神経外科の領域を得意としている.
 また,2022(令和4)年10月に新棟をオープンし,総病床数はそのままに,脳卒中ケアユニット(以下,SCU)の新設,地域包括ケア病床の増床を予定している.田川保健医療圏(以下,同圏)に不足している高度急性期および回復期機能を拡充する,地域医療構想にも資する取り組みである.

--------------------

目次

ページ範囲:P.940 - P.941

Book Review 外来・病棟・地域をつなぐケア移行実践ガイド

著者: 筒泉貴彦

ページ範囲:P.991 - P.991

Back Number

ページ範囲:P.1011 - P.1011

次号予告

ページ範囲:P.1014 - P.1014

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?