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雑誌目次

雑誌文献

病院81巻2号

2022年02月発行

雑誌目次

特集 すぐそこまで来た,医師の働き方改革—課題と実現可能性 総論 医師の働き方改革

医師の働き方改革は何をもたらすか

著者: 桐野高明

ページ範囲:P.112 - P.115

 働き方改革は,少子高齢化の時代にあって,社会の活力を維持するために国全体の課題として進められるもので,必ずしも一定の職種に限定するものではない.しかし,医師には医師法19条に規定する「応召義務」があり,他の職種と同様に論じると,現場の医療に支障を来す恐れがあった.このために,医師の働き方改革は別途の審議に委ねられることになり,その結果,医師労働時間の上限規制などの政策が2024年から開始されることになったことは,周知のとおりである.この働き方改革では,医師の労働時間の総計を一定時間に制限することがその主要なポイントではあるが,一方で医師の健康管理改革であるとの観点が重要である.単に規定の労働時間を超えた分の給与を支払えというだけの問題ではない.医師の健康やワーク・ライフ・バランスの確保は,医師個人の問題にとどまらず,医療の質の維持や医療の安全の向上のためにも重要である.
 今回の医師の働き方改革による労働時間の上限は,今後2035年に向かって徐々に削減され,最終的にはごく例外的な場合を除いて,全ての医師の時間外労働時間は年間960時間を上限として制限することが目指される.この上限自体が,一般の労働者の過労死基準の上限にほぼ等しく,この上限を順守することは,医師が人間的な生き方をしていく上では,今後当然のことと考えられるようになるだろう.

病院はいかに医師の働き方改革に向き合うか

著者: 裵英洙

ページ範囲:P.116 - P.119

■はじめに:なぜ医師の働き方改革が必要か
 空前のスピードで迫りくる超高齢社会・多死社会に対応しなければならない医療界.また,新型コロナウイルス,地域医療構想,医師偏在問題など,外部環境の大きな変化も進みつつある.そのような中で,ますます加速する多様かつ多量な医療・介護ニーズに応えなければならない過酷な医療現場では,より高い生産性を追求する“働き方”が今まで以上に重要視されてきている.また,医療機関は女性職員が多い職場であり,看護師だけでなく,女性医師の割合もますます増加している.今や,全医師数に占める女性医師の割合は約22%であり,すでに5人に1人を越えた.また,さらに,29歳以下に限定すれば女性医師の割合は35.9%であり,ますます女性医師は増えていく流れである1).さらなる女性活躍,男性の育児・介護などへの参画を視野に入れた職場環境の整備は時代の要請とも言えるだろう.
 これらの時代の変化を踏まえ,医師の働き方改革が2024年4月から本格的にスタートする.医師の時間外労働時間の上限規制が大きなトピックであり,ようやく,働きすぎといわれて久しい医師の世界に法的拘束力を持った大きなメスが入る.ただ,実際に医療機関内で働き方改革を進める際に,「効率的な進め方が分からない」「すべきことが多すぎて何から手を付けるべきか分からない」「大きな問題すぎて対処できない」などの経営・マネジメント側の困惑の声も少なくない.
 本稿では,これらの声を踏まえて病院が働き方改革とどう向き合うか,働き方改革のポイント,効率的な改革の進め方などについて述べたい.

医師の働き方改革のポイント

宿日直許可基準とは

著者: 福島通子

ページ範囲:P.121 - P.126

 医師の働き方改革を進める上で欠かせないのは適正な労働時間の把握である.現実的に適正に労働時間を把握するのは容易ではないが,少なくとも労働時間であるか否かの判断がつかなければ全体像すらつかめない.
 労働時間か否かの判断に迷う業務の一つが「宿日直」勤務である.医療機関における「当直」は,労働基準法で「宿直」と定義される勤務と同一の場合もあれば,いわゆる「夜勤」である場合もある.つまり,同じ呼び名の「当直」であっても,労働時間として算定されない場合と算定される場合が混在しているのだ.これが医師の労働を過酷なものにしている一因でもある.

医師の働き方改革とお金の問題

著者: 後藤励

ページ範囲:P.127 - P.129

■内部労働市場と外部労働市場
 医師の労働市場は,大学病院を中心とした医局組織の中で個々の医師が評価され,診療・研究・教育の業務の配分や関連病院への配置転換や昇進をしながら医師一人一人のキャリアを蓄積させていく内部労働市場と,個々の医師が独立して自分のキャリアを考え,収入,やりがいや個人的な状況を考えて医療機関を自由に選択し,医療機関側も医師の能力を見て採用や賃金を決めていく外部労働市場の両者が混在している.
 内部労働市場は,新卒一括採用後の転職が少ない日本の大企業で重視されていたが,一般の労働市場では近年外部労働市場の役割が高まっている.一方,医師の内部労働市場は,必ずしも終身雇用を前提にされておらず,設立主体が異なる医療機関の間の転職を続けるため雇用期間が累積されないなど,日本の大企業の内部労働市場と比較すると長期雇用による医師側のメリットはそもそも少ない.そのため,卒後すぐに各診療科の実態を十分把握していないうちに医局の選択を決定することは,不完全情報下の意思決定となってしまう.また,勤務医として内部労働市場の中で働くことは,当然ながら外部労働市場で働くよりも労働時間に対する裁量が少ないため,医師としての技能を高めることができた段階では,研究・教育など大学病院に特化した業務を志向するのでなければ外部労働市場に参加することも合理的な判断と言える.従って,個々の医師のキャリア形成にとっては,内部労働市場に入るとしても,医学部卒業後に臨床研修という猶予期間ができたことと,外部労働市場が活発化することは望ましい場合も多い.

各病院はどのように対応するか

地域に医師を派遣している大学病院は,医師の働き方改革にどう対応するか

著者: 横手幸太郎 ,   湯澤由紀夫

ページ範囲:P.130 - P.133

■はじめに
 全ての勤務医に時間外労働の上限規制が適用される2024年度が近づいている.診療・研究・教育のそれぞれに役割を期待され,成果を求められる大学病院の医師には,これまで,むしろ早朝から深夜まで働くことが美徳とされてきた時代が長かったようにも思われる.その意味において,医療界の中でも特に大学で働く臨床医にとって,この働き方改革は価値観と構造の大転換と言えよう.
 一方,現状のまま,単純に労働時間を縮減するだけでは,既存業務の担い手が不足し,地域医療の崩壊や研究力の著しい低下を招くことが想像に難くない.まずは,勤務時間とその内容の正確な把握,業務の効率化,タスク・シフト/シェアを含めた新たな担い手の確保,収入の確保,そして,地域や医療界全体を巻き込んだ機能分担や体制づくりなどを包括的かつ速やかに検討していくことが必要となる.
 本稿では,主に一般社団法人全国医学部長病院長会議(AJMC)の医師の働き方改革検討委員会の立場から,大学病院における課題と対応について考えてみたい.

地域の公的病院における医師の働き方改革

著者: 山本修一

ページ範囲:P.135 - P.139

 2024年4月から始まる医師の労働時間規制では,時間外労働の上限時間は年間960時間となり,地域医療確保や研修を目的とする特例として年間1,860時間が認められる.本稿では,2017年の厚生労働省(厚労省)の医師の働き方改革に関する検討会の発足時から,国立大学病院長会議会長として議論に加わり,現在は地域医療機能推進機構(JCHO)理事として地域の公的病院を預かる立場から,その背景や課題について述べてみたい.

中小病院の医師の働き方改革への対応と課題

著者: 小川聡子

ページ範囲:P.140 - P.144

 私は基本的に「医師の働き方改革」には賛成である.この改革で,医師が適正に心と体を休めること,大切な家族との時間が保証されるなら,働き甲斐を求めてハードと言われている科に医師が戻ってくる可能性があるからだ.また,それは医療の質,安全性が高まることにもなると思われる.
 そこに至るまでの変革の期間に,医療崩壊は簡単に生じるのだということを念頭に置いて,できるだけ現場が被る悪影響を最小限に抑えるために,働き方改革と共に何に注力して事を進めるべきか,大都市東京の地域密着型急性期を担っている中小病院の立場で考えてみたい.

へき地医療と医師の働き方改革—へき地の医療を守ることはできるか

著者: 須藤泰史

ページ範囲:P.146 - P.150

■徳島県西部医療圏の状況
 徳島県は,人口10万人当たりの医師数が全国1位であると報じられることが多い県としてご存じの方もいらっしゃることであろう.事実,厚生労働省の第28回医師需給分科会(2019年2月18日)の資料でも,三次医療圏(都道府県)の「医師偏在指標」(暫定版)において,全国第8位(指標265.9)に入る医師の多い県と報告されている(図1)1).しかし,当院の存在する西部医療圏は,この二次医療圏の「医師偏在指標」において下位1/3(33.3%)に入り(244位/指標139.0)(表1),医師派遣が十分に行われていないエリアである.さらに,将来の医療需要の低迷が予想されることなどから,近年は開業医も跡継ぎが戻ることがなく,閉院が続いているような地域である(図2,3).
 また,小児科・産婦人科においても「医師偏在指標」では,徳島県は全国で高位の供給体制となっているが(図4)2),当院のある西部医療圏では,小児医療体制は,当院の常勤医師1人と非常勤医師1人,開業医の2人,そして県立病院の非常勤医師1人と徳島大学からの小児輪番日の支援パート医師という体制であり,産婦人科に関しては,当院が西部医療圏唯一の分娩施設であり,4人の常勤医師と徳島大学からの産直医師の派遣で支えている状況である.つまり,全国上位という順位は,決して十分な数ではない現実とのギャップがある.

対談

医師の働き方改革を乗り切るために—地域医療の状況を国民が理解するには何が必要か

著者: 自見はなこ ,   太田圭洋

ページ範囲:P.97 - P.102

医師の働き方改革の影響の大きさを,医療界は法案審議の終盤になって認識したように見える.
また,コロナ禍では医療提供体制の実情を国民が理解していないことが露呈した.
地域医療へ甚大な影響を与える本改革を乗り切るためには何が必要か.
医師で国会議員の自見はなこ氏に聞いた.

特別記事

病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方

著者: 秋下雅弘

ページ範囲:P.153 - P.156

■はじめに
 2017年に厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」が結成され,2018年に「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」1),2019年に同各論編(療養環境別)2)を作成,発出するなど活動を続けている.2021年3月には「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」(以下,手順書)3)を発出した.筆者は,検討会座長代理および「高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る業務手順書等の検討・作成一式」調査検討委員会委員長として手順書の作成に関わった.本稿では,その経緯とスタートアップツールのポイントを中心に解説する.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・85

小牧市民病院

著者: 安川智

ページ範囲:P.104 - P.109

 2021年10月,設計着手から約7年の歳月を経て,新小牧市民病院建設プロジェクトが完了を迎えた.本プロジェクト実施に当たり,関係者の方々と建築計画や経営面や運営面に渡るさまざまな議論が行われた.制約の多い狭隘敷地での建て替え,施設の老朽化や病院を取り巻く環境の変化に応えるための医療機能の拡充や,療養環境・職場環境の向上,旧病院が抱えていたさまざまな課題を解決するための工夫などを随所に盛り込んだ新病院の取り組みについて紹介したい(図1).

これからの病院経営の考え方・9

付加価値率と関連する生産性指標

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.158 - P.161

■はじめに
 医療経営の目標は,医療の付加価値の増大であると筆者は考えている.そのため,われわれ医療機関は,質の高い医療を患者に提供することが重要である.われわれは社会から,医療の質を担保しつつ,その継続性が問われるのである.何より,提供した医療サービスを,患者に満足してもらわなければならない.患者が治療効果に満足し,感謝して帰ることによって,目に見えない付加価値が生まれるのである.お金で表せない社会的付加価値が大切であり,健全な病院経営の継続がその創生につながることを知ってほしい.そしてその効果としてお金で表せる付加価値額が継続的に生まれてくるのである.この事実を多くの職員が認識しなくてはならない.
 DPC(診断群分類別包括評価)ではアウトカム評価が求められることになり,医療資源などの投入,すなわちインプットではなくアウトカムが問われることとなった.アウトカム評価には,平均在院日数,病床稼働率などの臨床的アウトカムと,ADL(日常生活動作),感染率,再入院率,死亡率などの機能的アウトカムがある.それらのアウトカムはDPCの中で機能評価係数Ⅱに反映されるようになった.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・10

宿日直勤務・宅直勤務が労働時間に当たるかどうか

著者: 加古洋輔

ページ範囲:P.164 - P.168

■1 宿日直勤務
宿日直勤務と労働基準法の関係
 宿日直勤務とは,労働時間に当たるか否かの判断に迷う業務の一つであり,医師の働き方改革においても注目を集めています.宿日直勤務が使用者の指揮命令下にある場合は,宿日直勤務に従事する時間は労働基準法上の労働時間に当たります.そのため,宿日直勤務が時間外労働・休日労働に当たる場合については,労働基準法37条の定める割増賃金の支払いが必要となる場合もあります.
 もっとも,労働基準法41条3号は,実作業が間欠的に行われ手待時間の多い労働,すなわち「断続的労働」については,行政官庁の許可を受けた場合,労働基準法上の労働時間,休憩および休日に関する規定は適用されないものと定めています.

ケースレポート 地域医療構想と病院・45

新型コロナウイルス感染症と地域医療体制の在り方—北九州医療圏の経験から(1)

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.170 - P.174

■はじめに:新型コロナウイルス感染症対策から明らかとなった課題
 新型コロナウイルス感染症への対応をめぐって,医療界に対する国民の評価が分かれている.献身的に対応した医療機関が高く評価される一方で,新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病床に対する補助金を受けながらも,その対応が十分にできなかった医療機関に対する批判の声が大きくなっている.2021年10月11日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会では「日本は欧米と比べて感染者数も死亡者数も桁違いに少ないのに,入院・外来ともに医療へのアクセスが制限される事態が発生.一方,医療機関への支援も含めた財政支出の規模と経済損失は巨大で欧米並み」であるとして,次の3つの課題が提起されている1)
①現行の診療報酬制度により,治療行為の行われない“素泊まり入院”の敢行や外来医療を入院で提供している実態.結果として平時から医療従事者の分散を招いており,新型コロナウイルス感染症患者の入院に対応できるリソースの枯渇を招き病床確保が低調に.
②外来においても,当初は新型コロナ疑いの患者の診察を断る医療機関も多く,施設療養あるいは自宅待機している新型コロナウイルス感染症患者への対応も限定的.
③医療機関への補助金について効果検証が必要であるが,補助金に関するデータの入手が困難.
 この議論の中では救急対応も含めて急性期医療を十分に行う力がないにもかかわらず,経営的な動機で全般的に低密度な医療を行っている病院があることが指摘され,これらの施設が「なんちゃって急性期」であると批判された.そして,そうした低密度診療の病院が数多くあることが,全体としては病床数が十分あるにもかかわらず,東京や大阪などにおける第5波の流行時に十分な受け入れができない原因である可能性が高いと結論された.
 この問題は,その後,鈴木亘氏の書籍でも取り上げられている2).この本では,①少ない医療スタッフ,②多すぎる病院,③小規模の病院,④フル稼働できない大病院,⑤病院間の不連携・非協力体制,⑥「地域医療構想」の呪縛,⑦政府のガバナンス不足,の7項目が医療崩壊を招いた容疑者として取り上げられ,検証されている.結論として,鈴木氏はガバナンス不足と小規模の病院が多いことによる病床当たりの少ない医療スタッフが真犯人の可能性が高いとしている.その上で,今回の状況を奇貨として,今後も起こりうるパンデミックや大災害にも耐えられる医療提供体制を構築すべきであると述べている.また,鈴木氏はこの本で,今回の状況下でも機能した墨田区や杉並区,長野県松本医療圏のように地域関係者のイニシアティブで適切な対応が可能であった好事例を紹介し,その横展開を提言している.
 人口構造や医療資源の状況に大きな地域差がある現状を考えると,国の明確な方針が必要であることは間違いないが,各地域で実行可能な対応策を準備することがそれ以上に重要であり,実際的であろう.その意味で,上記以外のさまざまな好事例も収集し,それを組織論的に分析しパターン化することが,今後も起こりうる同様の事態に対応するためにも,早急に行われなければならない研究課題であると考える.
 そこで,本稿ではこの問題意識に基づき,医師会のリーダーシップの下,病院間の連携をベースに新型コロナウイルス感染症対応を行っている福岡県北九州市の事例を紹介する.今回は全体の仕組みを記述し,次回以降,各レベルで対応を行った医療機関の事例を紹介する.

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目次

ページ範囲:P.110 - P.111

Book Review —医療者のための—成功するメンタリングガイド

著者: 青島周一

ページ範囲:P.175 - P.175

Book Review 薬剤師レジデントマニュアル 第3版

著者: 宮﨑長一郎

ページ範囲:P.177 - P.177

Back Number

ページ範囲:P.179 - P.179

次号予告

ページ範囲:P.182 - P.182

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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