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雑誌目次

雑誌文献

病院81巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 これからの地域共生社会と病院経営の未来 地域共生社会における病院経営のあり方

人口減少時代における地域共生社会と病院経営

著者: 広井良典

ページ範囲:P.198 - P.202

 日本という国の際立った「特徴」は何かという点について,例えば1980年代であれば,当時『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本が話題になったように,日本とはまずもって「経済成長における最優等生」ないし「ハイテク技術の先進国」として認識されていた.現在はどうか.上記のような日本の性格は大きく変わり,日本という社会の最大の特徴は,世界における「人口減少と高齢化のフロントランナー」という点になっている.
 実際,図1に示されているように,明治維新以降,日本の人口は急速な増加を続けていたが,2008年をピークとして人口減少社会に移行し,現在の出生率(2020年で1.34)が続けば,2050年過ぎには1億人を切り,さらに減少を続けることが予測されている.明治以降百数十年にわたって続いた「人口や経済の限りない拡大・成長」という前提が,根本から変わる時代を私たちは迎えているのである.

地域共生社会のビジョンと病院に期待される役割

著者: 宮本太郎

ページ範囲:P.203 - P.206

■はじめに:地域社会の変化と病院
 かつて病院は,地域社会においてどこか周囲から屹立しているイメージが強かったが,今日では,地域社会と多様なかたちで結び付きながら,より多面的な機能を果たそうとしている.
 その背景として第一には,超高齢社会における医療の課題が,病気を完治させることのみならず,生活の質を高めることに広がってきた現実がある.障害者福祉の分野で使われてきた「医療モデルから社会モデルへ」という「標語」は,(異論も含めて)広く言及されるようになっている.2013年の社会保障制度改革国民会議報告書において,「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療への転換が説かれたこともこれに関連していよう.
 第二に,超高齢社会における健康寿命の延伸や,介護予防の推進が掲げられるようになったことも重要である.その際に,一部の高リスク群をスクリーニングする「ハイリスク・アプローチ」のみならず,広く住民の交流や活動のなかで健康増進を図る「ポピュレーション・アプローチ」が併せて強調されるようになった.地域社会のあり方のなかに,豊かなつながりをどう広げ,健康への日常の動機付け(ナッジ)をいかに埋め込むか,病院として無関心ではいられなくなっている.
 第三に付け加えれば,コロナ禍のなか,公衆衛生の視点から病院および医療機関と地域における教育,福祉,行政機関との連携が強く意識されるようになった.
 以上のことは,医療の視点から見た地域社会との関係の変化といえよう.これに対して本稿が主に扱うのは,こうした議論の前提となる地域社会そのものに関して,今日提起されている新たなビジョンについてである.
 地域社会における支え合いと,その制度化というべき地域福祉について,大きな転換が進められている.先に見た医療の側からの地域社会への接近は,このような,地域社会の側の変化に由来する医療への新たな期待と交差することで,初めてしっかりかみ合った展開となるであろう.以下では地域共生社会という言葉を手がかりに,地域社会の変容と政策対応を整理し,そこから浮上する病院の役割について考えたい.

地域包括ケアシステムの深化としての包括的支援体制—病院に期待される役割

著者: 原田正樹

ページ範囲:P.207 - P.211

 本稿では,「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会.以下,検討会)」での議論を踏まえて,①地域共生社会の考え方,②地域包括ケアシステムとの関連,③地域生活課題の考え方について整理し,これからの地域共生社会の実現に向けた病院への期待について述べたい.
 この検討会は,「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月閣議決定)にて「地域共生社会の実現」が盛り込まれた後,2016年10月に設置された.地域共生社会の実現に向けて地域福祉を推進していく方策と,包括的な相談支援体制の在り方について一体的に検討し,これから求められる基本的な考え方や施策について検討し,同年12月26日に中間とりまとめを公表.その後,第193回国会にて「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が成立(2017年6月2日公布).さらに検討会は,改正された法律を踏まえて,地域包括支援体制(社会福祉法第106条3)の基本指針,地域福祉計画(社会福祉法第107条)のガイドラインなど,地域づくりの展開に資するよう検討を重ね,最終とりまとめを2017年9月に公表して終了となった.

地域共生社会と病院のあり方

著者: 松原由美

ページ範囲:P.212 - P.215

■はじめに
 8050問題,ごみ屋敷,社会的孤立と,従来の縦割りの制度では解決できない問題がクローズアップされるようになってから久しい.事実,データを見てみると,既に約20年前の段階で,家族以外と交流のない人の割合は,OECD加盟国の中で日本が最も高かった(OECD,2005年)1)
 子どもに目をやると,ユニセフの調査(2003年)2)ではOECD加盟国の15歳の意識調査において,日本は孤独を感じる子どもの割合が29.8%と,次位のアイスランドの10.3%の約3倍を示し突出して高い.調査当時より約20年が過ぎようとしているが,残念ながらこの状況が改善されている状況にはない.高齢者を見ると,相談や互いに世話をし合う友人がいないとする高齢者の割合も,日本,ドイツ,米国,スウェーデンの中で日本が突出して高い(内閣府,2021年)3)
 日本の自殺率は韓国,リトアニア,スロベニアに次いでOECD諸国中,第4位の高さである(OECD,2019年)注1.若者にいたっては,死因のトップが自殺であり(人口動態統計,2022年),このような状況は先進国で日本と韓国だけである.しかし,これはバブル崩壊後の日本経済の低迷だけが要因ではないであろう.日本の自殺率の高さは昔から有名であり,約40年前,筆者がオーストリアの高校交換留学生に来日理由を聞いたところ,「自殺率が高い日本という国を自分の目で見たかったから」と言われ,衝撃を受けたことを今でも覚えている.
 これら長期にわたる問題の解決策が見つからないまま,毎年,日本全体で鳥取県1県分に近い人口が減少する中,地域共生社会の構築が国の政策として位置づけられた.

地域をつくる病院経営の実際

寺岡記念病院の「ローカルコモンズ」—7年の歩みと今後の展開

著者: 寺岡暉

ページ範囲:P.216 - P.220

■反省を込めた前書き
 広島県の福山・府中2次保健医療圏福山市北部の新市町(人口:新市町19,295人,福山市:463,713人.2021年11月)にある263床の寺岡記念病院を経営する社会医療法人社団陽正会と,同じ町で高齢者総合福祉施設ジョイトピアおおさを経営する社会福祉法人新市福祉会とが,地域包括共生体「ローカルコモンズしんいち」を創設して7年が経過した.寺岡記念病院は,急性期94床,回復期87床,慢性期82床(当時)からなる二次救急指定の,ケアミックス病院である.一方の,ジョイトピアは特別養護老人ホーム,介護老人保健施設ほかの高齢者総合福祉事業を経営しており,福山市からこの地域の「地域包括支援センター」の運営を委託されている.
 この7年を通じて,われわれは「地域共生社会」の実現と進化に向かって,また地域医療における「地域医療構想」の実現に取り組んできた.その背景は高齢化社会,さらには超高齢社会である.その高齢化の進展のもとで,今後必要とされる医療は,肺炎,脳血管疾患,心疾患,非感染性疾患,骨折などの日常的な診療の範疇,WHOでいうところの非感染性疾患(NCDs:Non-communicable diseases)である,がん・糖尿病・循環器疾患・呼吸器疾患・メンタルヘルスをはじめとする慢性疾患が主体となると見なされた.われわれは,WHOのKey Factsに掲げられていた「これからの医療の対象は非感染性疾患である」というフレーズに則って,一律に「地域医療構想」に向かっていたのは,やや安易であったかと反省している.これからの社会で必要なことは,多様性に対する認識やその対応であろう.

ソーシャル・インクルージョンと病院経営—0歳から100歳まで地域に暮らす人を支える「まちづくり」

著者: 田中志子

ページ範囲:P.221 - P.224

 大誠会グループ(以下,当グループ)がある群馬県沼田市は,県北部に広がる北毛地域の中心都市であり,古くから木材の集積地・市場町として栄えてきた.しかし,近年は少子高齢化が進み,人口は約群馬県内12市中で人口が最も少ない4万6,000人の市となっている.その沼田市において,「地域といっしょに.あなたのために.」を理念に,医療・介護・福祉はもとより,近年は商業や農業も含めた第三の事業の拡大を図り,事業展開しているのが当グループの特徴である.
 沼田市は県内北部山間の過疎地域のため,地元で生まれた多くの子どもたちは,成人すると東京都など都市部へ出ていってしまう.地域で育った子どもたちが,都会で永住するのではなく,故郷に帰ってきて暮らしたくなるような魅力のある場所にするためにはどうすればよいか.それを考えた時,働く場所や居場所があり,子育てがしやすく子どもが育ちやすい,高齢者に優しく安心して過ごせるなどを叶えるための,さまざまな地域の課題が見えてきた.その考えにスタッフや地域住民など多くの方が共感し,その過程でグループのコアとなる理念が,「まちづくり」に集約されていった.結果的に,障がいのある子を含めた子どもたちから高齢者まで,障がいや年齢の垣根を超えてみんなが住みやすいサービスを整えた当グループ独自の「地域包括ケアシステム」と言えるものとなっている.

地域共生社会に向けて医療・介護・生活型の在宅療養支援病院が果たす役割—多世代プラットフォームづくりから官民協働のまちづくりまで

著者: 鈴木邦彦

ページ範囲:P.225 - P.231

■地域共生社会を目指す中小病院を巡る動向
 わが国の医療制度は,公的国民皆保険の下での民間中心の医療提供体制という「公+民のミックス型」で,これまで比較的低コストで良質な医療を提供し,平均寿命を世界トップクラスに押し上げる原動力となった1)
 しかも病院数の約7割は許可病床数200床未満の中小病院であり,なかでも民間の場合はその歴史的経緯により診療所,有床診療所と同根であるため,同様にかかりつけ医機能を有し,身近なところでいつでも入院もできる地域包括ケアシステムの構築に欠かせない存在となっている.

仲よく楽しく 人と社会が健康になる病院経営

著者: 仲井培雄

ページ範囲:P.232 - P.236

 本特集に近いテーマとして,『病院』79巻5号で「生き残りをかけた民間病院としての取り組み—地域共生社会版Person Flow Managementを目指して」1)で既に筆者らの取り組みを紹介した.そこで本稿では,続編として地域共生社会の実現を目指す予防医療介護福祉子育て複合体創設の経緯と,コロナ禍での課題や取り組みを紹介する.

「みんなの力で,みんなの幸せを」を掲げる福祉村病院の挑戦

著者: 山本左近

ページ範囲:P.237 - P.240

■医師のなかの“異端児”
 私の父であり,現さわらびグループ理事長の山本孝之が愛知県豊橋市に「山本病院」を創設したのは,1962年8月15日だ.当時の日本は戦争の焼け跡から立ち上がり,高度経済成長を果たすまでに復活を遂げていた.日本人の平均寿命は右肩上がりで伸びており,そんな中,国内では脳卒中の患者が急増していた.当時は今と違って「脳卒中は絶対安静」がセオリーだったが,父は患者の予後を考え,脳卒中の治療にいち早くリハビリテーション(リハビリ)を取り入れて,院内に充実のリハビリ機器を取り揃えた.
 「幸せとは,自立して自由に生き,今,自分のできることで周りの人に役立つ働きのできる時に感じるもの」

医療と地域をつなぐサードプレイス

病院でも家でもない新しい居場所づくり

著者: 秋山正子

ページ範囲:P.241 - P.245

■はじめに
 2021年は,筆者が立ち上げた患者が気兼ねなく相談できる場である暮らしの保健室10周年,マギーズ東京5周年を迎えたことになり,あらためて,その意義を考えることになった.この間の多くの相談内容から,病院と家の中間にある第2の我が家=第3の居場所で,心のうちの不安や,心配事を十分に吐き出す場所が必要であり,十分に聴きながら,その中にある問題の整理を手伝い,自分を取り戻して歩きだせるように背中を押す,その場所と人の必要性を実感している.
 第3期がん対策推進基本計画(2018年3月9日閣議決定)1)の全体目標は「がん患者を含めた国民が,がんを知り,がんの克服を目指す.」とし,次の3つが示された.
①科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実
②患者本位のがん医療の実現
③尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築
 この中で③は「がんとの共生」と表現され,5つの分野別施策が示された.
(1)がんと診断された時からの緩和ケア
(2)相談支援,情報提供
(3)社会連携に基づくがん対策・がん患者支援
(4)がん患者等の就労を含めた社会的な問題
(5)ライフステージに応じたがん対策
 予約なし・相談料無料で,がんのどの時期でも受け入れる体制を取るスタイルのマギーズ東京の機能は,このがんとの共生の課題を解決する一助を担うものとして注目されている.
 本稿では,なぜマギーズ東京のような場が必要とされているか,誕生の背景から実績を踏まえて意義を述べる.

世界での先進事例

オランダのまちづくりで注目されるポジティヴヘルス

著者: シャボットあかね

ページ範囲:P.246 - P.250

■健康の概念としてのポジティヴヘルス
 「健康とは,肉体的,精神的および社会的に完全に良好な状態であり,単に疾病または病弱の存在しないことではない.」1)
 このうっとりする状態は,1947年にWHOが採択し,おそらく現在でも医科大学で伝えている健康の定義である.

対談

「ごちゃまぜ」の本質

著者: 雄谷良成 ,   松原由美

ページ範囲:P.183 - P.188

地域共生社会とイコールで語られる「ごちゃまぜ」.
最初に提言し実践している社会福祉法人佛子園の取り組みから「ごちゃまぜ」の本質について伺い,病院がこれからの地域共生社会で期待される役割について示唆を得る.

研究

病院薬剤師は評価されるべきである—病院と保険薬局における薬剤師業務の違いから

著者: 山下雄介 ,   南雲玖美 ,   風晴俊之 ,   美原盤

ページ範囲:P.251 - P.258

要旨
 薬学部卒業生の就職先は保険薬局の人気が高く,中小病院にとって薬剤師確保は大きな課題である.本研究では,病院と保険薬局の薬剤師のあり方について検討した.6年制薬学部を卒業し中小病院に勤務する薬剤師(8病院,19人),保険薬局に勤務する薬剤師(19店舗,27人)を対象に業務内容(タイムスタディ),就職理由,待遇について調査した.業務内容は,病院では業務が多岐にわたっており,処方提案,チーム医療に関わる時間が多かった.一方,保険薬局では調剤と服薬指導が業務時間全体の74%を占めた.就職理由は,病院は自らのスキルアップやさまざまな職種と関われることを求める者が多く,薬局は地元での就職や生活の安定を希望している者が多かった.保険薬局の初任給は病院の約1.2倍であった.病院薬剤師は6年制薬学教育が生かされる業務を遂行している.病院薬剤師が診療報酬上,適切に評価されることが望まれる.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・86

東邦大学医療センター大橋病院

著者: 本村公一 ,   宮本将毅

ページ範囲:P.190 - P.195

■病院を取り巻く環境
 東邦大学医療センター大橋病院(以下,大橋病院)は,東京都目黒区,世田谷区,渋谷区からなる区西南部保健医療圏に位置し,大学病院ならではの高度な医療と地域に密着した診療を提供する都市型の急性期病院である.二次救急医療機関としての医療機能を提供し,東京都災害拠点連携病院として地域の医療への安心感を高めている.また,地域医療支援病院として,地域の医療機関と緊密なネットワークを構築している.

これからの病院経営の考え方・10

職員1人当たりの医業収益などの経営指標

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.260 - P.263

■はじめに
 コロナ禍において,一般の患者に加えコロナ感染患者の診療という厳しい責務を背負って,多くの医療機関はその対応に当たっている.このような時期だからこそ,ポストコロナを見据えた病院経営を考える必要があるのではないだろうか.診療報酬体系の中で質の高い医療を提供し,医業収益を上げていかなくてはならない.前回は医療における付加価値の重要性について,労働生産性という側面より概説した.今回は,付加価値額の再配分によって得られる「生活の糧」としての職員給与に焦点を当て,職員1人当たりの医業収益など労働生産性についてさらに詳細に検討したい.データは足利赤十字病院(以下,当院)の医業収益などを参考にする.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・32

社会医療法人寿人会 木村病院—職員への思いやりの視点から考える病院経営

著者: 内記恵和

ページ範囲:P.264 - P.268

 社会医療法人寿人会が運営する木村病院(以下,同院)は,福井県中央部の鯖江市に位置しており,JR鯖江駅から商店街や歴史ある街並みを抜けて徒歩10分程度の場所にある.
 鯖江市は,人口69,353人で,2016年度に6万9千人を超えて以降,その水準を維持している.高齢化率も27.1%と全国平均の28.9%よりも低い.鯖江市の特徴としては,福井市中心部から車で30分程度というアクセスの良さのほか,「ゆるい移住」や「鯖江市役所JK課」など,さまざまな独自施策への取り組みが挙げられる.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・11

自己研鑽が労働時間に当たるかどうか

著者: 加古洋輔

ページ範囲:P.269 - P.273

■1 自己研鑽と労働時間の考え方
 勉強会,学会への参加,自主的な研鑽など,いわゆる自己研鑽といわれる活動のための時間について,労働基準法上の労働時間に当たらないと整理されている病院は多いのではないかと思います.
 もっとも,自己研鑽のための時間が,一律に労働基準法上の労働時間に当たらないわけではなく,使用者の指揮命令下にある労務提供と評価される場合には,その活動のための時間は労働基準法上の労働時間に当たります.

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目次

ページ範囲:P.196 - P.197

Back Number

ページ範囲:P.275 - P.275

次号予告

ページ範囲:P.278 - P.278

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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