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雑誌目次

雑誌文献

病院81巻5号

2022年05月発行

雑誌目次

特集 病院人事マネジメントの具体策 人事マネジメントのポイント

病院における人事評価の必要性—業績評価の重要性の高まり

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.390 - P.393

■はじめに
 人的資源が提供サービスの価値の重要な源泉であるという点で,病院にとって人事管理は極めて重要である.職員を採用し,育て,評価・動機付けし,健康を守らなければ,質が高く効率的な医療サービスを持続的に提供することができないことは自明である.人事管理は入職から退職までの職員の管理全般に関わるため,人事管理と一口に言っても,採用,人材育成,人事評価,賃金,労働時間管理など多様な要素が含まれている.どの要素も人事管理にとって重要な論点であり,最近では医師の働き方改革を背景とした2024年からの労働時間規制の強化と関連して労働時間管理への関心も高いが,本稿では,人事評価に焦点を絞ることにする.

病院人事制度の課題と経営リスクを考察する

著者: 服部英治

ページ範囲:P.394 - P.397

■はじめに:病院人事制度の実態
 民間病院の人事制度は公的病院における制度や大企業の人事制度をそのまま転用して活用しているところが少なくない.これが診療所といった小規模な医療機関になるとそもそも賃金表などなく,既存職員とのバランスをみてその都度賃金額を決定するといった運用も見られるが,規模が大きくなればなるほど運用にあたっての基準が必要となり,公的病院や大企業の人事制度を参考に転用することがある.
 こうした制度は,元来,日本の高度成長期においてその基本が設計されており,新卒採用によって人材を確保し,定年まで勤め上げるように終身雇用制度を維持する前提となっており,給与カーブについても一定年齢から大きな右肩上がりを描いていることが一般的である.
 ところが,こうした制度が多くの病院経営においてさまざまな問題を引き起こしているのも事実であり,本稿においては病院人事制度における課題や主な要点について論考したい.

組織内の納得性を高めながら人事制度の見直しを実施するポイント

著者: 川原丈貴 ,   薄井和人

ページ範囲:P.398 - P.401

■はじめに
 近年,病院を取り巻く環境変化が厳しさを増している.入院・外来患者数は横ばいか,地域によっては既に減少傾向にあり医業収益の増加は見込めず,人件費・人材紹介手数料をはじめとする医業費用は年々増加傾向にある.さらには,昨今の働き方改革に関しては規程上の対応だけでなく,人材の定着を促進するための具体的な仕組みづくりも求められる.職員の多様な働き方をサポートしつつ,人件費を適正に管理することが,これからの病院経営の成否を分けると言っても過言ではない.
 本稿では,このような外部環境の変化を踏まえ,組織内の納得性を高めながら人事制度の見直しを実施するポイントを解説する.

制度の構築と運用の実際

頑張る職員が報われる人事考課制度

著者: 田中学 ,   山村達雄

ページ範囲:P.402 - P.406

■医療組織における人事考課
 社会医療法人生長会グループ(当法人)は,社会福祉法人悠人会グループと共に大阪府南部地域で48事業をトータルヘルスケアとして展開している(図1).職員数は延べ約5,000人,医師数は330人と大規模化を辿り,組織人事マネジメントや人事考課の導入・運用は企業的な手法・フレームを中心に進めてきた.医療と福祉はもともと公共事業としての性質が強く,一般企業のような営利に価値を置く考えは馴染みにくいこと,国家資格をもつ専門職が多く人事制度3要素(透明性・独立性・公平性)の確保が難しいとされてきたことも踏まえ,コミュニケーションと客観性を重要視して今日の安定した運用に至った.
 経営の原点としての人事,すなわち人事制度が経営に直結して機能していることが最重要である.経営理念からビジョンと戦略は,組織を動かす基盤の組織・人材マネジメントと財務が一連のものとして一体化していることが重要で,これは一般企業も病院も変わらない.むしろ労働集約型産業とされる病院は,一般企業より繊細な人事制度の研究開発が必要と感じている.当法人では頑張る人が報われ,常に成長する組織を目指すため,人材マネジメントプラットフォーム(図2)を構築して運営している.

病院におけるトータル人事制度

著者: 長田修一郎

ページ範囲:P.407 - P.412

■はじめに
 医療法人清和会長田病院(以下,当院)は福岡県南部の柳川市(2022年2月末現在,人口63,802人)に位置する内科単科の病院である.病床数は182床(一般96床,療養86床)であり,呼吸器内科・消化器内科を専門とし法人の複合施設と合わせ,急性期から在宅までの医療と介護で地域のニーズに応えている.
 当院では,個人の成長が組織パフォーマンスを最大化することを目的として,2003年8月に加点主義人事制度を導入し2022年で20年を迎える.その基本軸となるのが職能・職務資格等級制度(院内資格制度)であり,個人が能力を高めることによって上位等級に昇格できる仕組みである.また,キャリアを積みながら個人の意思や適性に応じてコースを選択できる複線型人事制度を運用し,昇進や戦略的な人材の選出や,経営層への選抜人事も可能としている.
 これらの制度は単独で成り立っているのではなく,病院の3つの期待像(等級・職務・職群)を基準とし,目標面接,人事考課,能力開発,配置転換,賃金など複数の制度と連動して人材マネジメントを図る「トータル人事制度」として運用している.また,その制度は社会情勢,医療を取り巻く環境,職員満足度などを考えながら柔軟に対応している.

事業所横断的な会議体設置による人事制度見直しの推進—考課制度の改定を中心に

著者: 清水洋邦

ページ範囲:P.413 - P.417

■はじめに
 医療法人社団永生会は東京都八王子市を中心に3つの病院の他,老健3施設,訪問看護ステーション5事業所などを運営し,職員数は非常勤も含めて約2,000名である.
 これまでに等級,考課などの人事制度を導入してきたが,全体的な見直しが行われてこなかった.また,修正に際しては,法人本部の人事部と部署や事業所単位での協議により調整してきたため,導入状況や内容に差が生じていた.各制度の内容や制度間のつながりも職員にとっては不明瞭な面も多かった.
 医療介護の基本となるのは「人」である,という思いから,あらためて職員にとって資するような人事制度を法人全体で整えるべく,「人事制度改革」と銘打ち,改革に着手した.そして,その推進のため法人内の事業所横断的な「人事制度改革部会」という会議体を設置した.本稿では,これまでに行われた制度の見直しとして,考課制度の改定について報告したい.

人材採用と定着を意識した賃金制度・雇用形態

著者: 高橋肇 ,   福澤高廣

ページ範囲:P.418 - P.422

■はじめに
 「人材を採用し,定着に結びつける」には組織全体の意識変革が要求される.何を変革させるのか,その一つが「働き方」ということなのだろう.職員側が理解,納得しやすい業務改革が管理者側にますます求められている.
 本稿では,社会医療法人高橋病院(当法人)の事例を通して,働き方の大きな要素を占める賃金制度と雇用形態に焦点を合わせてみたい.

人事考課の必要性と組織づくり—ゼロからの構築と撤廃を経て再構築へ

著者: 林政徳

ページ範囲:P.423 - P.426

■はじめに
 医療法人社団十善会(以下,当法人)は,兵庫県神戸市長田区という1995年の阪神・淡路大震災にて甚大な被害を受けた地域に立地する.2022年の今,27年の歳月をかけて復興してきた地域と共に約90年,紆余曲折はあったが地域医療を提供し続けてきた.提供してきた医療はその時代によって異なり,筆者が当法人に入職して10年目になるが,事業内容,診療科目,法人規模など多岐にわたり劇的に変化している.そして,全てに最大の影響をもたらすのが「人」である.この「人」を大切に考えることができる人事制度の構築と,それに対する人からの信頼を得る法人運営が組織のさらなる発展につながると筆者は信じ続けている.創業時から変わらない法人の理念「愛情・丁寧・親切」は,いつの時代も変わらない「人」を大切にする心を育む取り組みであると捉え,人事制度を改善し続けることが重要である.

セカンドキャリアの制度設計—健康経営から定年制廃止

著者: 神野正博

ページ範囲:P.427 - P.432

■働き方改革がなぜ必要か
 「大きなお荷物を抱えながら大きな嵐の中」にいる.
 現在,われわれの置かれている状況を表し,さらにwithコロナの社会を占う言葉として,これほど適切なものはないと思う.

対談

病院再建を契機に職員のやる気を上げる人事マネジメント

著者: 古城資久 ,   川原丈貴

ページ範囲:P.375 - P.380

来る人口減少社会では,職員は財産となる.
M&Aで数多くの病院を立て直してきた古城氏に,人事制度を構築する過程でスタッフのモチベーションを上げるために重要な点や留意点などを掘り下げてお話しいただく.

研究

がん診療連携拠点病院等の指定要件関連の詳細に関する実態

著者: 力武諒子 ,   渡邊ともね ,   山元遥子 ,   市瀬雄一 ,   新野真理子 ,   松木明 ,   太田将仁 ,   坂根純奈 ,   伊藤ゆり ,   東尚弘 ,   若尾文彦

ページ範囲:P.436 - P.441

要旨
【目的】がん診療連携拠点病院等(以下,拠点病院)は,各施設からの現況報告で指定要件充足が確認されているが,今回は現況報告に含まれない施設の実態の把握を目的とした.
【方法】全国の拠点病院施設長に質問紙を送付し,患者の身体的・精神心理的苦痛や社会的問題のスクリーニング,術後管理体制,緩和ケア,がん患者や家族の情報入手環境,がん看護の研修,がん教育,医療安全管理体制,がん相談支援センター,セカンドオピニオンについて調査した.また,新型コロナウイルス感染症による影響についても併せて調査した.
【結果】拠点病院451施設中253施設(回収率56.1%)から回答を得た.各結果より,施設における詳細な実態,施設別による違いや問題点が明らかになった.
【結論】拠点病院の指定要件項目による意見聴取を行い,現況報告では今まで知り得なかった現況が明らかになった.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・88

さいたま市立病院

著者: 加藤拓郎 ,   堀江伸

ページ範囲:P.382 - P.387

■建て替えの背景
 さいたま市立病院は,古くから市民に親しまれている大規模緑地である「見沼田んぼ」を一望する緑豊かな田園風景の広がる同市郊外に位置する.超高齢社会を迎え,入院患者の増加や医療の高度化への対応と専門性の高い急性期医療(救急医療,精神科身体合併症患者対応,周産期医療など)の提供を通じ,「地域完結型医療の要」としての役割を担う,さいたま市が運営する唯一の公立病院である.
 既存病院は,機能増強・刷新のため増改築を繰り返していたが,施設の老朽化および狭隘化が進み,また配置上も非効率となっていた.そこで,抜本的にこれらの課題を解消するため,「敷地内での全面建て替え」を行い,併せて医療機能の充実および強化を図った.さらに,市内において必要な政策医療に対応することで,市民に対して今後も安全で安心な医療の提供を行うことを目指し,2019年12月に新病院が開院した(図1).現在は,既存病院の解体工事に着手した.今後は外構整備などを予定している.

これからの病院経営の考え方・12【最終回】

病院会計としての貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.444 - P.449

 今回は,前回の損益計算書に続き,残りの財務諸表について解説する.地域医療への影響を考えると,病院の経営は止まることなく継続的に行わなければならない.そのためには財務諸表の理解は大切である.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・13

病院広報と肖像権への配慮

著者: 増田拓也

ページ範囲:P.452 - P.455

 現代の病院広報は,社会の情報化を反映して,看板や紙媒体だけでなく,ホームページの開設★1,広報誌の電子化,ブログ,SNS,公式動画チャンネルなど,極めて多様化しており★2,検討すべき法的課題も多様化しています★3
 本稿では,その中でも特に扱いが難しい肖像権の問題を解説します.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・33

公益社団法人昭和会 いまきいれ総合病院—急性期機能の特化による地域における役割の確立

著者: 内記恵和

ページ範囲:P.456 - P.460

 公益社団法人昭和会が運営するいまきいれ総合病院(以下,同院)は,鹿児島県鹿児島市(以下,同市)にあり,JR鹿児島中央駅にもほど近く,周辺には鹿児島県庁や鹿児島大学などもある市街地の中心部に位置している.
 同市は人口600,411人で,鹿児島県全体の人口1,579,872人の1/3以上を占める.また,同市の高齢化率は27.7%と全国平均の28.9%よりも低い注1

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目次

ページ範囲:P.388 - P.389

Back Number

ページ範囲:P.463 - P.463

次号予告

ページ範囲:P.466 - P.466

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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