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雑誌目次

雑誌文献

病院81巻7号

2022年07月発行

雑誌目次

特集 選定療養・評価療養制度のこれから 選定療養・評価療養制度の目的と課題

選定療養・評価療養制度の趣旨

著者: 宇都宮啓

ページ範囲:P.570 - P.574

■わが国における国民皆保険制度の特徴
 WHOが推進し,SDGsのターゲットの一つにもなったUniversal Health Coverage(UHC)とは,「全ての人が適切な予防,治療,リハビリ等の保健医療サービスを,支払い可能な費用で受けられる状態」であり,わが国では1961(昭和36)年4月に国民健康保険法が全面的に改正され,全ての国民が加入する公的医療保険が確立1).この国民皆保険達成をもってUHC達成とよく言われるが,もう少し厳密に言えばこれに加えて,自治体や保険者による予防サービス提供や医療供給体制の充実などによる保健医療へのアクセス改善をもってUHCを達成したと言える.
 このUHCの定義を見ると,カバーする「人口」「保健医療サービス」「費用」の3つの要素に分けられるが,実は1961(昭和36)年時点では,高価な抗生物質は自由には使えないなどのいわゆる制限診療や,同一疾病の給付期間は3年という期間制限などが行われていて,国民皆保険は「保健医療サービス」および「費用」の面では完全に具備されたとは言えなかった2).そして国民皆保険達成直後から昭和48(1973)年まで,こうした制限診療や給付制限などの撤廃が段階的に行われ制度の充実が図られてきた(図1).

選定療養・評価療養制度の課題

著者: 原祐一

ページ範囲:P.575 - P.579

■はじめに
 選定療養・評価療養が制度化されている理由は,本邦が公的医療保険を現物給付という形で実施していることに関連している.従って,本稿で選定療養・評価療養を検討するに際し,公的医療保険制度と混合診療を論じたのちに,選定療養・評価療養の経緯を振り返り,混合診療全面解禁論者の論点,近年の超高額医薬品の開発と評価療養のバランスなどを検討していきたい.

高度医療をどのように医療制度の中で評価するのか

特定機能病院からみた選定療養・評価療養制度の課題

著者: 沖田南都子

ページ範囲:P.580 - P.583

■はじめに
 近年のテクノロジーの急速な進展により医療技術も高度化・複雑化してきており,高度先進的な医療技術を診療の中に取り入れるための研究開発を迅速に進めることが求められている.ゲノム医療などの革新的な医療技術の導入は診療と研究両方の位置づけで実施することで,治療に難渋する患者への迅速な対応と技術自体の有用性評価の両立が可能と考えられる.一方,保険医は保険医療機関および保険医療養担当規則により特殊な療養や新しい療法,研究目的の検査などは原則禁止とされており,未承認や適応外の医薬品・医療機器などを用いた先進的な医療技術を保険診療と組み合わせて実施することにはさまざまな制約がある.本稿では,評価療養などの保険医療制度下での先進的な医療技術開発の現状を概説した上で,その課題・今後のあり方について考えたい.

国家戦略特区の経験から考える最先端医療の費用負担の在り方

著者: 橋田亨 ,   木原康樹

ページ範囲:P.584 - P.587

■はじめに
 神戸市立医療センター中央市民病院(以下,当院)は神戸市の基幹総合病院として,地域住民の生命と健康を守ることを専らに,高度で統合的な医療を提供している.1924(大正13)年の開設以来97年の歴史に基づき,神戸市民の厚い支援の下で,さらに高い医療水準を求めて日々努力を重ねている.加えて日本最大級のバイオメディカルクラスターである,神戸医療産業都市の高度専門医療病院群においてその中核的役割を果たし,神戸市がこれまでに行ってきた国家戦略特区の医療関連の規制緩和の提案にも関わってきた.本稿では,その経験を基に最先端医療の費用負担の在り方について考えたい.

なぜ選定療養・評価療養制度は改革されなければならないのか

著者: 八代尚宏

ページ範囲:P.588 - P.591

 保険診療と保険外診療を併用する,いわゆる混合診療の禁止は,医療の規制改革の大きなテーマの一つである.これは,例えばがんの治療で,欧米では幅広く使われているものの,日本の公的保険では対象外の医薬品を使う場合である.この医薬品の費用を患者が負担することは当然だが,その場合には,本来,公的保険の対象であるがんの検査や,医師の診察費用も含めた保険診療費が全て患者の負担になる.このように,「医療費の全額を公定保険で定められた枠内で行うか,それとも全く保険を使えない自由診療か」の二者択一を迫るのが,混合診療禁止の論理である.
 医療保険給付は,国から与えられる福祉ではなく,健康保険料の対価としての給付を定めた「保険契約」に基づいている.公的保険の枠内で,医師が患者にとって必要と考えて医療を提供した場合に,その費用がまったく償還されないことは,保険契約の違反ではないかというのが,混合診療禁止への基本的な疑問である.現行の混合診療の禁止が原則で,その例外の場合を個々に挙げていくポジティブリスト方式を,逆に混合診療は自由が原則であり,必要に応じて例外的に禁止するネガティブリスト方式に改革することが,医師や患者の選択を重視する規制改革の考え方である.

混合診療の拡大に伴う懸念

著者: 馬場園明

ページ範囲:P.592 - P.595

■はじめに
 国が医療を提供するために財源を用意したり規制を行ったりしている理由は,医療は市場で自由放任にできない特殊なサービスであると認識されているからである.これを市場の失敗という.市場の失敗となる要因としては,第一に医療は生命や健康にかかわるものであるから,平等に提供されなければならないという平等性の問題がある.第二に,医療は患者に医療機関が提供するが,この両者では情報が対等でないという,情報の非対称性の問題がある.患者自身が受けた診療の評価や価格を判断するのは困難であるからである.第三に,疾病や障害の発生は不確実であり,個人でリスクを負うことはできないという不確実性の問題がある.第四に,疾病で死亡したり障害が残ったりすることは,個人の問題のみならず社会的な生産性の低下などにもつながるといった,外部性の問題があるからである.
 「混合診療」とは,同一の疾病の一連の治療において,公的医療保険で認められている診療(保険診療)と,認められていない診療(保険外診療)を受けることであるが,原則禁止されており,混合診療を受けた場合には保険診療および保険外診療の全額を支払うことになる1).なお,この混合診療を例外として認めているのが保険外併用療養費制度である1).これは,保険診療の部分は保険を適用し,保険外の診療(特別なサービスなど)の部分は患者の自己負担とするという仕組みである.
 わが国では,保険外併用療養費制度の拡大や混合診療の解禁について,今世紀に入って総合規制改革会議などで議論されてきたが2),この問題は,平等性,情報の非対称性,不確実性,外部性の面からも考慮されるべきであると筆者は考えている.とりわけ,混合診療が解禁されれば,高所得者は受けられる医療は広がるが,低所得者は受けられる医療は制限されていく可能性があり,医療を受ける平等性が脅かされる可能性がある.
 これらの間接的な根拠として,患者自己負担が大きくなれば受診控えが起こり,所得が少ないほど自己負担増の影響は大きくなり,現実に所得に関する健康格差が存在することを挙げることができる.本稿では,これらのテーマに関し,筆者らが行ってきた研究を紹介したい.

高度医療技術の診療報酬制度における評価方法

著者: 池田俊也

ページ範囲:P.596 - P.599

■わが国における費用対効果評価の現状
 諸外国では医療技術の公的医療保険などでの償還可否の判断や償還価格設定に際し,有効性・安全性などに加え費用対効果の検討が行われる場合がある.例えば,英国(イングランド)では1999年に国立医療技術評価機構(NICE)が発足し,高額薬剤などを対象として技術評価(Technology Appraisal)を実施しており,臨床エビデンスと経済エビデンス(費用対効果)の両面から,国営保健制度(NHS)での使用の推奨・非推奨の判断が行われている.
 わが国においても,2012年に中央社会保険医療協議会(中医協)に費用対効果評価専門部会が設置され,診療報酬制度における費用対効果の活用について議論が開始された.同専門部会では諸外国での費用対効果の政策利用の状況などを基に検討が行われ,2016年の試行的導入を経て,2019年4月より「費用対効果評価制度」が本格導入となった.

病院の外来機能に関する考察

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.600 - P.603

■問題の経緯
 近年のわが国の医療政策において,外来機能報告を中心とする外来医療をめぐる改革が始動している.こうした改革は,医療提供サイドと医療保険サイドの議論が関連する形で進められている.初めにこうした近年の改革の動向を整理しておこう.
 まず,医療提供サイドでは,2018年の医療法改正において,外来医療機能の偏在・不足等に対応するため,都道府県が外来医療計画を作成することになった.わが国の外来医療については,先進諸国の中でも1人当たり受診回数が多いことが知られている.このことは医療へのアクセスの良さを示している一方で,本当に効率的・効果的な受診となっているかが問われている.しかしながら,地域医療構想調整会議においても,外来機能を含めた議論については低調な状況にある.

特別記事

東山四画面思考経営—「ありたい姿」を実現する全員主役の組織づくり

著者: 小川聡子

ページ範囲:P.605 - P.614

■はじめに
 2009年に私が理事長を継承したとき,組織には世代交代の嵐が吹き荒れていた.創業期はトップのカリスマで引っ張られ,医療機関によくある「管理型」の組織だった.「自分で考え自分で行動する」人は少なく,不満と不安が満ちた組織だった.当法人の理念の一つの「職員が誇りをもって仕事をしている」ためには,「自分で考え自分で行動する」職員であふれ,全員主役の組織になることだと,当時の私は考えた.
 「自分で考え自分で行動する」職員であふれさせるためには,具体的にどうしたらそうなるか.この答えにたどり着くのに,さらに長く険しい道のりがあった.
 一つ:職員が自分の中に強烈に「こうありたい・こうなりたい」という心の炎をもっていること.その目的・目標は,組織の方針と一致し,「顧客」のためであること.
 一つ:その炎を燃やすための安心・安全な「場」があること
 一つ:その炎を燃やすために必要な情報が組織内で常にフラットに共有されていること
 これが答えではないかと,今は考えている.
 「自分で考え自分で行動する」組織集団になるために,模索を繰り返すなかで出会ったのが,近藤修司先生(四画面思考研究所代表/北陸先端科学技術大学院大学元教授)開発の「四画面思考法」だった.
 〔自分で考え 行動する人 あふれさす〕注1

対談

高度医療の保険外診療をどう評価するか

著者: 印南一路 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.555 - P.560

高額な薬剤や医療材料などをどう賄うべきか.
救われる患者と,皆保険制度の持続可能性のバランスをどう取っていくか.
研究者として国の検討会座長などを歴任する印南一路氏に伺う.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・90

日本医科大学武蔵小杉病院

著者: 北川正仁 ,   高島真一

ページ範囲:P.562 - P.567

■はじめに:建て替えの背景
 日本医科大学武蔵小杉病院は,日本医科大学の付属病院として日本医科大学付属病院に次ぐ2番目に歴史のある病院である.1937年6月に付属丸子病院として開院,1963年4月に付属第二病院に改称,その後,増築を重ねながら規模を拡大し,2006年4月に救命救急センターの指定と共に武蔵小杉病院となった.本整備は旧病院の狭隘・老朽化に伴い,武蔵小杉キャンパス再開発計画事業の一環として新病院が整備された(図1,2).

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・15

病院内でのプライバシーへの配慮

著者: 長谷川葵

ページ範囲:P.618 - P.622

■1 プライバシーとは
 病院におけるプライバシー情報としては,カルテに記載されるような診療情報を一番に思い浮かべられると思いますが,カルテについては別の機会に譲ることとし,今回は設例のようにより一般的な患者の情報について検討します.
 まず,プライバシーとは何か,ということについては,一定の定義が固まっているものではなく,従来は「私生活をみだりに公開されないという権利★1」だと考えられてきましたが,最近ではより広く,「自己の情報をコントロールする権利」などと捉える向きもあり,判例でも単に私生活上の情報とは言えない情報であっても一定の場合には法的保護の対象となりうると判断したものがあります★2.そして,プライバシーに対する違法な侵害となるかどうかは,基本的には,取得・利用される情報の性質と,情報の取得・利用の目的,取得・利用の態様が適切かなどを総合的に判断して,社会生活を営む上での受忍限度の範囲内かどうかという観点から判断されます.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・34

医療法人慶睦会 千手堂病院—小規模病院の改革:地域医療の「ハブ」になる

著者: 髙橋佑輔

ページ範囲:P.626 - P.630

 医療法人慶睦会が運営する千手堂病院(以下,同院)は,北西には清流長良川が貫流し,北東に金華山・岐阜城を望む岐阜市の中心に位置する.
 同院は,「『療養する人・支える人・働く人』地域の全ての人に最適な環境を創出します」を理念に掲げ,療養病床と地域包括ケア病床を有効的に活用しながら,通所リハビリテーションや居宅介護支援事業所などの介護サービス,在宅医療も提供している.

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目次

ページ範囲:P.568 - P.569

Book Review ウォームアップ微生物学

著者: 錫谷達夫

ページ範囲:P.625 - P.625

Book Review —これで解決!—みんなの臨床研究・論文作成

著者: 後藤温

ページ範囲:P.633 - P.633

Back Number

ページ範囲:P.635 - P.635

次号予告

ページ範囲:P.638 - P.638

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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