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文献詳細

雑誌文献

病院81巻7号

2022年07月発行

文献概要

特集 選定療養・評価療養制度のこれから 高度医療をどのように医療制度の中で評価するのか

混合診療の拡大に伴う懸念

著者: 馬場園明1

所属機関: 1九州大学大学院医学研究院医療・経営管理学講座

ページ範囲:P.592 - P.595

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■はじめに
 国が医療を提供するために財源を用意したり規制を行ったりしている理由は,医療は市場で自由放任にできない特殊なサービスであると認識されているからである.これを市場の失敗という.市場の失敗となる要因としては,第一に医療は生命や健康にかかわるものであるから,平等に提供されなければならないという平等性の問題がある.第二に,医療は患者に医療機関が提供するが,この両者では情報が対等でないという,情報の非対称性の問題がある.患者自身が受けた診療の評価や価格を判断するのは困難であるからである.第三に,疾病や障害の発生は不確実であり,個人でリスクを負うことはできないという不確実性の問題がある.第四に,疾病で死亡したり障害が残ったりすることは,個人の問題のみならず社会的な生産性の低下などにもつながるといった,外部性の問題があるからである.
 「混合診療」とは,同一の疾病の一連の治療において,公的医療保険で認められている診療(保険診療)と,認められていない診療(保険外診療)を受けることであるが,原則禁止されており,混合診療を受けた場合には保険診療および保険外診療の全額を支払うことになる1).なお,この混合診療を例外として認めているのが保険外併用療養費制度である1).これは,保険診療の部分は保険を適用し,保険外の診療(特別なサービスなど)の部分は患者の自己負担とするという仕組みである.
 わが国では,保険外併用療養費制度の拡大や混合診療の解禁について,今世紀に入って総合規制改革会議などで議論されてきたが2),この問題は,平等性,情報の非対称性,不確実性,外部性の面からも考慮されるべきであると筆者は考えている.とりわけ,混合診療が解禁されれば,高所得者は受けられる医療は広がるが,低所得者は受けられる医療は制限されていく可能性があり,医療を受ける平等性が脅かされる可能性がある.
 これらの間接的な根拠として,患者自己負担が大きくなれば受診控えが起こり,所得が少ないほど自己負担増の影響は大きくなり,現実に所得に関する健康格差が存在することを挙げることができる.本稿では,これらのテーマに関し,筆者らが行ってきた研究を紹介したい.

参考文献

1)厚生労働省:保険診療と保険外診療の併用について. https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html
2)総合規制改革会議:規制改革の推進に関する第2次答申-経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革.(2002年12月12日)
3)Babazono A, Miyazaki M, UNE H, et al:Health care policy-making in Japan:The Impact of the increase co-payments on use of services by patients with chronic illness, Japanese Journal of Health Promotion, 8:89-96, 2006
4)Babazono A, Miyazaki M, Imatoh T, et al:Effects of the increase in co-payments from 20 to 30 percent on the compliance rate of patients with hypertension or diabetes mellitus in the employed health insurance system. Int J Technol Assess Health Care, 21:228-233, 2005
5)Babazono A, et al:The effect of a cost sharing provision in Japan. Fam Pract 8:247-252, 1991
6)Babazono A, Tsuda T, Yamamoto E, et al:Effects of an increase in patient copayments on medical service demands of the insured in Japan. Int J Technol Assess Health Care 19:465-475, 2003
7)厚生労働省健康局:健康日本21(第2次)と健康格差. http://niph-doso.gr.jp/summary2012/S-1.pdf
8)Jiang P, Babazono A, Fujita T:Health Inequalities among Elderly Type 2 Diabetes Mellitus Patients in Japan. Popul Health Manag 23:264-270, 2020

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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