病院給食制度についての提言
著者:
池上直己
ページ範囲:P.673 - P.675
■はじめに
入院患者への食事の提供は,戦前は家族が行っていた.しかし,戦後になって占領軍は給食を病院の必須のサービスに改めた.それを受けて1950年の健康保険法改正で「完全給食」は「完全看護」とともに診療報酬に規定された.その後,1958年には給食加算30点,1972年には給食料40点,基準給食加算15点がそれぞれ収載され,さらに特別食の収載,適時・適温給食の加算等によって質の向上が図られた(1992年度の診療報酬改定で給食料142点,基準給食加算47点,特別食加算35点,医療食加算18点,特別管理給食加算10点).
しかし,1994年度の診療報酬改定において,給食は「入院時食事療養費」の対象になり,在宅における食費に相当する額が,標準所得以上の患者から徴収されるようになった(入院時食事療養費1,900円のうち1日600円の自己負担,1996年10月から1日760円,2001年1月から1日780円へと自己負担額が増額,いずれも標準所得未満であれば所得に応じて療養費として支給).保険からの給付より「療養費」に改めた理由は,入院と在宅における負担を公平化し,併せて患者にコスト意識を持たせて給食の質の向上を図ることにあった.
次いで2006年度の改定において,給食費は1日当たりから1食当たりに改められ,特別食加算についても1食当たりになり,また減額もされた.具体的には,普通食は1日につき1,920円が1食につき640円(うち患者の自己負担260円/食,2016年度から360円/食,2018年度から460円/食へと自己負担額が段階的に引き上げられた,いずれも標準所得の場合)に改められ,特別食加算は1日につき350円から1食につき76円に引き下げられた.こうした2006年度の改定は,1994年度の改定において給食を療養費に改めた政策の延長線上にある.すなわち,給食の費用を療養費として患者に相応の負担を求める以上,1日当たりから1食当たりに改めることは合理的な帰結であったといえよう.
しかし,その結果,病院の給食部門は赤字になった.その理由は,病院は単に食事を提供しているだけではなく,医学的な治療の一環として給食を提供しているので,固定費が1日当たりに発生することにある.こうした赤字への転落は,入退院の多い急性期病院において特に著しかった.というのは,例えば午前に入院した患者には2食分,あるいは午前に退院した患者には1食分の給食費だけが病院に支払われるようになったからである.
なお,1食当たりの費用を規定するにしても,病院は1日3回,適時・適温で一斉に配食するためには,早朝や夜間に職員を配置しなければいけない.したがって,学校給食のように昼食だけ配食する状況と基本的に異なり,病院で給食を提供すると1食当たりの費用も高くなる点にも十分考慮する必要がある.