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雑誌目次

雑誌文献

病院81巻9号

2022年09月発行

雑誌目次

特集 想定外を想定せよ—病院BCPのバージョンアップ 総論

医療機関におけるBCP策定の現状と目指すもの

著者: 牧野紘至

ページ範囲:P.750 - P.754

■医療機関におけるBCP策定の背景と課題
 わが国は,世界有数の地震大国であることに加え,台風や豪雨による風水害も毎年のように生じていることから,医療機関が災害時にいかにして業務を継続するかということは地域の医療体制の維持という視点において重要な意味を持つ.事実,2011(平成23)年に発生した「東日本大震災」を契機として医療機関におけるBCP策定の必要性が注目され,その後2016(平成28)年に発生した「熊本地震」の経験などを通して改善され,徐々に現場に浸透してきている.
 東日本大震災では,約300施設の医療機関が被災するなど,甚大な被害が生じたが,被災した医療機関の中でも,例えば,宮城県の気仙沼市立病院が,事前にBCPの策定を行っていたことにより,混乱の中でもスムーズに活動が行われたことについては,「災害医療等のあり方に関する検討会」(平成23年)において報告された.

全ての病院はBCPを備えなければならない—病院BCP策定は病院管理者の責務である

著者: 大友康裕

ページ範囲:P.755 - P.760

■はじめに
 わが国は地震国である.100〜150年周期でプレート海溝型地震に見舞われ,また活断層による直下型地震は全国至る所で発生する.日本に住んでいる以上,地震と無縁でいることはできない.さらに,近年の地球温暖化に伴って,風水害が激甚化しており,毎年のように甚大な被害が発生している.医療機関は,地震災害に加え,風水害にも備えなければならない.

医療健康危機管理の司令塔(仮称Japan CDC)は必要か?

著者: 門田守人

ページ範囲:P.761 - P.764

■はじめに
 医療の歴史は,古くは「ヒポクラテスの誓い」,アンブロワーズ・パレの「我包帯す,神,癒し賜う」,あるいはわが国の緒方洪庵の「扶氏医戒之略」などに代表されるような,まず患者さん一人ひとりの苦痛を取り除くことを中心としたPatient-oriented Medicineから始まった.次に,近代の科学技術の進歩と相まってDisease-oriented MedicineからGenome-oriented Medicineと医学・医療の対象が人から離れ,病気あるいは遺伝子などの研究へと向かい,医学・医療の専門化・細分化さらには科学至上主義的な方向へと進んでいる可能性も否定できない.一方で,人類の歴史は感染症パンデミックを繰り返していることも周知のことで,1918年のスペイン風邪,2009年の新型インフルエンザなどはまだ記憶に新しい.そして,今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに襲われ,あらためてPopulation-oriented Medicineの重要性が見直されているのが現在ではないだろうか.日本医学会は約15年前から,この流れを意識して活動を進めてきているので,それを紹介する.

病院BCPの策定

国際標準化機構(ISO)による医療BCPの考え方

著者: 秋冨慎司 ,   爰川知宏 ,   黄野吉博 ,   岡部紳一 ,   渡辺研司

ページ範囲:P.765 - P.772

■病院BCPを含む医療BCPの必要性
 医療における危機管理について,医療関係者の多くは医療安全という形で,患者に関係する視点で議論をしていた.しかし,2020年から発生した新型コロナウイルス感染症では,医療が院内だけでなく院外の社会と密接につながっていたことが分かり,医療の視点で経済も含めた安全保障の議論が必要になった.
 また,本邦は災害多発国であり,災害が発生するたびに日頃の準備の必要性を考え,その都度対応をしているが,時間が経過すると形骸化してしまう.備蓄や訓練も病院ごとの環境や規模も違うため,スタッフの理解と定期的な準備が進んでいないことが多い.さらに医療を取り巻く環境は行政や医薬品,医療機器,電気,水,ガス,医療ガス,食料,自家発電の燃料も含め複雑かつ個別的対応であり,さらに環境や体制も地域や規模で違うため,その全体像を把握した上で調整し最適化することは,医療関係者の喫緊の課題である.

病院におけるBCP策定のポイント

著者: 坂本憲幸

ページ範囲:P.773 - P.776

■はじめに
 事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)は,災害時に社会的に重要な機能・使命をもつ組織では,必ず策定が必要な計画である.その基本的な考え方は,組織の業種や規模にかかわらず共通であり普遍的である.
 本稿では,BCPの基本的な考え方について解説した上で,病院におけるBCP策定のポイントについて述べたい.

分野別病院BCP

病院建築におけるBCP—地震,水害

著者: 小林健一

ページ範囲:P.777 - P.780

■はじめに
 われわれの暮らす日本列島は,地球を覆っている地殻の北米プレート,ユーラシアプレート,太平洋プレート,フィリピン海プレートの4つが衝突するところであり,そこで発生するエネルギーにより世界有数の地震大国となっている.さらにプレートの沈み込みは,地震だけでなく活発な火山活動を誘発している.
 また日本列島はそのほとんどが山地であり,国土面積に占める可住地割合は3割弱で諸外国と比較して著しく小さく,急傾斜地においても宅地開発が進められている.この急峻な国土を流れる河川は,諸外国と比べて短く急勾配であり,激しい降雨の際には一気に流れて急激に水位上昇し,雨量が多い場合にはしばしば洪水となる.このためわが国では江戸時代以前より,利根川・荒川・木曽川・淀川などの大河川において瀬替え(人手による川の付け替え工事)が行われ,人びとの暮らしを守る営みが繰り返されてきた.
 このようにわが国は,地震災害や水害が繰り返し発生する世界でも稀な「災害大国」であるが,これは国土の地理的特性なので,将来的にも変わらないであろう.しかし,過去の災害で得られた教訓を整理し伝えることで,今後の対策・対応に生かすことはできるのではないか.
 本稿では,過去の地震災害・水害による病院被害調査の結果から,病院ではどのような被害が生じたのか,どのような対策が有効なのか,について建築設備の視点を中心に述べる.

病院建築におけるBCP—感染症

著者: 中山茂樹

ページ範囲:P.781 - P.786

■はじめに:BCPの経緯と感染症対応
 2011年に発生した東日本大震災を経て,BCPに関する論考は大量に発表されてきた.本誌でも2012年12月に「病院のBCP」が特集として組まれ,BCP策定はすっかり定着することとなった.また,厚生労働省(厚労省)は2017年3月に災害拠点病院におけるBCP策定を指定要件とした.これらBCPが対象とするのは自然災害,それも大地震に対応する事項が大半であり,病院自身の被災を最小とし,人的被害を病院がどう受け止めるか,すなわち突然に起こる医療供給能力の低下と大量な医療需要という課題へBCPにより対応することが重要な課題として捉えられていた.
 ところで,内閣府が示した「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応第3版(2013年8月改定)」では,BCPの対象として,大地震などの自然災害のほか,テロ,大事故,サプライチェーンの途絶などと並んで感染症の蔓延も挙げられている.この時点で,BCPには感染症対応の面が含まれていることが認識されていた.
 しかし,既に述べたように,これまでのBCPは,大地震や水害などの自然災害を念頭に置いたものであった点は否めない.
 2020年1月にわが国初の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が発生して以来,増減を繰り返しながら徐々に感染者数は増加し,第6波と呼ばれる2022年初頭には,わが国全体では1日に10万人を超える感染者を数えるパンデミックとなった.2年間の経験を踏まえ,順次明らかになるCOVID-19に関する情報に基づき,手探り的に対応してきたというのが実情ではないか.
 本稿では,その経験から導き出された教訓を紹介する.

透析医療におけるBCP

著者: 山川智之

ページ範囲:P.787 - P.790

■はじめに
 本誌76巻6号(2017年)で「透析医療における災害対策」として東日本大震災における対応を含めた透析医療の災害対策について概説したが1),本稿では2016年の熊本地震以降の災害対応を踏まえた現状の知見および課題を中心に概説する.

病院情報システムのBCP—バックアップの考え方,サイバーテロへの対応

著者: 黒田知宏 ,   土井俊祐

ページ範囲:P.791 - P.794

■はじめに
 1999年の電子カルテ解禁1)以来,医療機関のIT化は急速に進展し,電子カルテを含む病院情報システムなしでの診療業務運営は,想像しにくくなっている.一方,医療機関に対するサイバー攻撃は日増しに増加・巧妙化してきており,ある日突然病院情報システムを失う可能性も高まっている.サイバーテロを含む情報セキュリティへの「備え方」については拙稿2)を含む他稿へ譲るが,いかに備えようとも攻撃を受けて機能不全に陥る可能性は排除できない.また,本来BCPを考える対象となる災害においても,同様に情報システムを失う可能性は排除できない.情報システムを失ったとき,頼りになるのは「バックアップ」である.
 本稿では,サイバーテロも視野に入れたバックアップの整え方を中心に,病院情報システムを失ったときに備えるBCPの考え方を整理し,その事例として,国立大学病院遠隔バックアップシステム(The Gemini Project)3)とそれを取り巻く運用,および筆者の所属機関のバックアップ体制について紹介する.

ランサムウェアの脅威に対応した2カ月の軌跡

著者: 須藤泰史

ページ範囲:P.795 - P.798

■はじめに
 2021年10月末日,筆者らの病院(つるぎ町立半田病院)はランサムウェアによるサイバー攻撃を受けて病院機能がストップしてしまう事態を経験した.この事件の詳細をご報告すること,そして振り返ることで,皆様の病院がこのような被害に遭われないように十分な対策をとられることへのお役に立てればと切に願う.

病院BCP策定後の検証・教育

災害対応を中心としてきた病院のBCPはCOVID-19に対応できたか

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.799 - P.804

■はじめに
 わが国では,一般企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)の必要性は製造業を中心に先行的に取り組みが行われてきた.それに遅れて病院のBCPについては,災害が発生した際の医業継続計画として今後さらに重要になるであろうと認識されるようになった.
 このような社会的背景や,近い将来地震をはじめとした自然災害が強く予想されることからBCPを策定する病院が徐々に増えてきた.そして,病院のBCP策定に際しては,自然災害だけではなく感染によるパンデミックやバイオテロなどのさまざまなリスクを想定しなくてはならない.しかし,ほとんどの医療機関のBCPは自然災害に対するものが多く感染防御については補足的にとどまっていた.
 本稿では災害時活動に重点を置いてきた赤十字病院の立場から,感染症に対する病院BCPの策定について論じる.

被災時に業務を継続するための院内教育—集合しない・講義しない・評価しないのに技能が習得できる減災カレンダーの開発・活用

著者: 中島康 ,   吉田茜 ,   加藤剛

ページ範囲:P.805 - P.810

■はじめに
 素晴らしい計画書も,それらを実行する技能を持つ職員がいない組織には無用の長物である.そうしないために,職員は反復練習で技能を身に付ける.だからこそ,必要性が高い「日常業務」の技能習得のためには,研修体制や業務内での教育手法が長年培われてきた.他方,「被災時という不定期な出来事」に対する技能の習得では,内容も手法もまだまだ改善の余地が残されている.
 2014年からHDMG注1では,被災時の業務継続を構成する行動とそれぞれの関連性,それらに必要な技能を整理し,さらに技能習得のための新しい教育手法を開発してきた.
 本稿では,新規開発した教育手法「減災カレンダーHDMG」(以下,減災カレンダー)をご紹介し,読者の減災対策・準備の一助になることを目的とする.

対談

医療提供体制の危機管理から考える病院BCP

著者: 松本尚 ,   神野正博

ページ範囲:P.735 - P.740

近年は想定外の災害が次々と起き,新型コロナウイルスのパンデミックでは日本の医療提供体制が危機に晒された.
救急医療の第一人者として,国会議員として,日本の医療提供体制について発言を続ける松本尚氏に病院BCPから危機管理まで聞く.

特別記事

徳洲会グループのガバナンス—日本最大民間病院グループのサステナビリティへの挑戦

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.811 - P.815

■はじめに
 1950年医療法改正により医療法人制度が創設され,以後,多くの医療法人立の病院が設立された.それまで民間病院の中心であった個人病院(ピーク時3,518病院)もほとんどが医療法人化か,廃業またはM&Aなどを行い,現在(2022年2月末時点),個人病院数は135病院と日本の総病院数(8,193病院)のわずか1%を占めるにすぎない.一方,医療法人立の病院数は5,677病院と日本の総病院数の約7割(69.3%)を占め,ほとんどの民間病院が医療法人立病院となった.
 医療法人制度が創設されてから70年ほどが経過し,医療法人立病院での世代交代が始まっているが,本格的な世代交代はこれからピークを迎えると言われている.この世代交代の在り方に関してはさまざまな課題が出ており,また,世代交代がうまくできた場合でも事業継続にあたり課題が生ずることも多い.今回,民間病院の大多数を占める医療法人立病院の世代交代の在り方を考えるにあたり,日本で最大の民間医療法人で,かつ,最大の医療・介護・福祉グループである徳洲会グループを率いる医療法人徳洲会の安富祖久明理事長(一般社団法人徳洲会理事長を兼任,2022年4月8日インタビュー当時)に,創立50周年を迎える同グループがどのような世代交代を行い,これからどのようなグループを目指していくかについてインタビューを行った.インタビューを基にまとめた本内容は,医療法人立病院のみでなく,あらゆる経営母体の病院において,これからの病院の在り方を考えていく際の参考になると考える.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・92

新柏クリニック,めぐりの庭,糖尿病みらい

著者: 菅原努

ページ範囲:P.742 - P.747

■クリニックを取り巻く環境/建て替えの背景
 千葉県柏市の新柏クリニックは柏駅から南へ約3kmに位置する新柏駅前で1990年代から診療を続けている透析クリニックである.2013年当時,周辺地では東京慈恵会医科大学附属柏病院に勤務する医療者のための共同住宅がその役割を終えようとしていた.一方透析クリニックは施設の老朽化と共に,近隣の透析施設からの差別化を図り競争力を高める経営的な課題も抱えていた.
 そこで,既存クリニックから2ブロック離れた共同住宅を解体し,その街区へ透析クリニックを新築移転することで,土地の有効利用を図りながらより快適な治療環境をつくろうと考えた(図1).

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・17

トランスジェンダーの職員への合理的配慮

著者: 髙橋直子

ページ範囲:P.816 - P.820

■1 性の多様性
潜在的なLGBTの数
 LGBTとは,レズビアン(Lesbian;女性同性愛者),ゲイ(Gay;男性同性愛者),バイセクシャル(Bisexual;両性愛者),トランスジェンダー(Transgender;身体の性に違和感を覚える者)の頭文字をとった言葉で,性的マイノリティの総称として使用されています.
 2019年に行われた「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」(「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム)によれば,LGBTおよびアンセクシャル(異性も同性も恋愛対象としては見ない者)にあてはまる人の割合は3.3%★1,すなわち約30人に1人,これに「決めたくない・決めていない」という人を含めると8.2%になるとの結果が出ています.
 
本連載第17回への補足記事「トランスジェンダーの職員によるトイレの使用―経済産業省事件の最高裁判決を受けて」(82巻10号)はこちら
https://doi.org/10.11477/mf.1541212037

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・35

社会医療法人川島会 川島病院—専門分野の深化と周辺領域の充実等によって患者の需要と地域の課題に応える専門病院

著者: 髙橋佑輔

ページ範囲:P.821 - P.825

 社会医療法人川島会(以下,同会)が運営する川島病院(以下,同院)は,JR徳島線佐古駅から徒歩3分,徳島市の市街地に位置する.
 同院は,「蛋白尿から腎移植まで」をモットーとした診療を行い,腎不全医療を中心に発展してきた.徳島県(以下,同県)内にサテライト透析室として6つのクリニックを開設しているほか,関連法人を含めて川島ホスピタルグループを形成している.

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目次

ページ範囲:P.748 - P.749

Back Number

ページ範囲:P.827 - P.827

次号予告

ページ範囲:P.830 - P.830

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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