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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻1号

2023年01月発行

雑誌目次

特集 社会保障制度の未来から読む病院経営 総論

2040年から考える病院経営

著者: 伊原和人

ページ範囲:P.16 - P.20

 本稿では,2040年に向けた「医療需要」「医療人材のシミュレーション」「医療費」の3つのマクロ的な見通しを踏まえ,今後,こうした中長期的な変化が,病院経営にどのような影響を及ぼす可能性があるかについて,述べたい.
 なお,本稿のうち意見にわたる部分は,筆者の個人的な見解であり,筆者が所属する組織の見解ではないことを申し添える.

財務省からみた社会保障制度と病院経営

著者: 大沢元一

ページ範囲:P.21 - P.23

 社会保障費は国の一般会計の支出の1/3,さらには政策的経費である「一般歳出」の半分強を占める最大の支出項目であり,まさにわが国の財政が持続可能かどうかは,わが国の社会保障制度が持続可能かという点にかかっている.
 しかし,社会保障制度を見る視座はこうした制度全体の持続可能性にとどまるべきものではない.特に,医療保険制度に関しては,実際に医療サービスの提供に多くの方々が携わっており,一方で,医療は国民誰しもが関わる健康や疾病に関する制度であり,毎月の保険料や利用した場合の窓口負担という形で,国民がサービスの対価を支払っているものである.従って,医療保険制度について検討する際には,効率的・効果的な医療サービスの提供,利用者である国民の理解という視点が欠かせないと考えている.

複眼で読む医療・社会保障の未来と病院経営—悲観論を超えて

著者: 二木立

ページ範囲:P.24 - P.27

■はじめに
 どんな分野でも将来展望を行う際には,何が変わり,何が変わらないかを複眼的に検討することが不可欠です.本稿では,高齢者数が頂点に達する2040年頃までを射程にして,今後の医療と病院経営を概括的に展望しますが,敢えて「変わらない」面に焦点を当てます.医療界では,コロナ危機を契機にして,悲観論が過度に強まっているからです.その際,各種の公式文書だけでなく,私自身が今までに行った判断・予測の適否についても触れます.

医療政策の読み解き方

医師の働き方改革と病院経営

著者: 島崎謙治

ページ範囲:P.28 - P.33

■はじめに
 わが国は今後,生産年齢人口の減少が加速する.こうしたなかで,多様で効率的な働き方を通じ労働生産性を高めることは,社会保障制度の持続可能性を確保する観点からも重要である.とりわけ病院経営において医師をはじめ医療スタッフの働き方改革は非常に重要な意味をもつ.
 2017年3月28日,働き方改革実現会議は,労働者の時間外労働の上限規制を導入することなどを内容とする「働き方改革実行計画」を決定した.この計画に基づき労働基準法が改正され,一般の労働者に対する時間外労働の上限は,原則,月45時間,年360時間とされ,臨時的な特別な事情がある場合であっても,年720時間,月100時間(休日労働を含む.ただし45時間を超える月は6か月まで),複数月平均80時間(休日労働を含む)という上限が設けられた.しかし,医師については,「働き方改革実行計画」では,「医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要である」ことから,「改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用することとし,医療界の参加の下で検討の場を設け,質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し,2年後を目途に規制の具体的な在り方,労働時間の短縮策等について検討し,結論を得る」こととされた.
 このため,2017年8月,厚生労働省に「医師の働き方改革に関する検討会」(座長:岩村正彦)が設置され,2019年3月28日に報告書が取りまとめられた注1.そして,さらに法律改正を要する事項について検討するため,2019年7月に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(座長:遠藤久夫)が設けられ,2020年12月22日に「中間とりまとめ」が公表された.これを受け,2021年2月に医療法等改正法案(略称)が国会に提出され,同年5月21日に可決成立し28日に公布されるとともに,2022年1月19日には関係法令も公布された.これらの改正のうち医師の時間外労働に関する規定の適用は,一般の労働者に対する労働基準法等の改正法の施行日(2019年4月1日)の5年後に当たる2024年4月1日とされている.従って,施行まで残された時間は1年数か月しかない.
 本稿では,医師の働き方改革の時間外労働規制の要点を押さえた上で,宿日直許可の取扱いや医師の働き方改革のインパクトおよび進め方について考察する.

地域医療構想と病院経営

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.34 - P.37

■地域医療構想の現状
 地域医療構想の策定が全ての都道府県において完了したのは,2017(平成29)年3月末であったので,すでに6年近い歳月が経っている.この間,地域医療構想調整会議における議論が低調で不活発であるとの批判に応えるため,2019(令和元)年9月には「再検証要請対象医療機関」の公表も行われた注1
 図1には,2021年度の病床機能報告の結果(全国ベースの積上げ値)を示した.これを見ると,地域医療構想が全く進んでいないというのは言い過ぎであり,全体として病床機能は2025年の必要病床数(図1の右端のデータ)に近づきつつあることが分かる.ただし,そのペースは緩やかであり,2025年に向け,一層の努力が求められるところである.

社会保障の神話に対する検討

社会保障と非営利組織としての病院経営をめぐる神話の検討

著者: 松原由美

ページ範囲:P.38 - P.43

■政府も社会保障も小さい方がよいという神話
 ロラン・バルトが『神話作用』で繰り返し表現を変えながら指摘しているように,神話はその中身が検討されることもなく人を信じさせる力を持つ1)
 過去に例をみない財政難の中,社会保障への批判が厳しいが,これはオイルショック以降,延々と続いている光景でもある.日本の財政が厳しいのは社会保障費が高いためである,社会保障が経済の足を引っ張る,社会保障が充実すると人が甘えてダメになる,医療・福祉分野は他産業と比べて生産性が低いなどなど.

病院の視点から

公立病院の立場から見た社会保障制度と病院経営の在り方

著者: 小熊豊

ページ範囲:P.44 - P.45

■自治体病院の責務
 地方公営企業法の適用を受ける公立病院は2020(令和2)年で853病院と,2008(平成20)年の943病院に比べ1割,90病院減少している.総務省の従来の公立病院改革ガイドライン(GL)に従い,地域の人口動態や政治・経済的動向などによって医療体制が見直され,再編・統合,廃止などが行われたためと考える.自治体病院の65%は人口10万人以下の地域に,30%は3万人未満の地域に存在しており,国の政策や地域の変化に強く影響される.自治体病院が果たすべき役割に,へき地医療,不採算医療,政策的医療,高度先進的医療などが挙げられているが,基本となる一般医療が円滑に行われなくては,病院としての維持・存続は叶わない.われわれは,地域住民が必要とする医療を安全に,公平に,効率的に提供することを理念とし,医療のプロ,公務員としての誇りを持ちながら,地域に密着し最後の砦としての役割を果たすことを責務としている.
 大都市圏では人口増加,高齢者増が続き,地方では人口減,地域の縮小・衰退が圏域ごとにさまざまな形で進行しており,憂慮すべき事態が続いている.このような状況下,自治体病院は圏域内での自院の役割を明確化し,地域への貢献を一層推進することが必要と考えている.公民全ての関係者が一体となって,地域医療構想に沿って最適な医療体制を構築し,機能分担,連携体制を築き,有用性の高い医療情報システム(医療DX)を導入,かかりつけ医機能,地域包括ケアシステムなどの稼働を目指すべきと考えている.そのためには人口の集中した(大)都会型の医療政策のみではなく,診療所すら撤退の進む地方にも光の当たる社会保障,国民皆保険制度,診療報酬制度であってほしいと願っている.

公的病院の在り方—公か民かの不毛な議論を超えて

著者: 副島秀久

ページ範囲:P.46 - P.47

■はじめに
 高齢化,若年人口減,増大する政府債務,伸びない所得,温暖化やウクライナ情勢による物価高騰など,わが国の内外環境は厳しさを増している.こうした不透明な状況下においては社会保障制度の持続可能性も危うくなる.限られた資源を今まで以上に有効に使うという意味で,地域医療構想や医療計画,診療報酬制度なども修正を迫られることになろう.さらに現在進行中の,外来機能再評価やかかりつけ医機能,働き方改革などの議論も視野に入れておく必要がある.現状のままでは社会保障のレベルを下げざるを得ないことも社会全体で再認識すべきだろう.

これからの医療提供体制の変革とプライマリ・ケアへの期待

著者: 橋本昌仁 ,   河北博文

ページ範囲:P.48 - P.49

■はじめに:社会保障財源の受益と負担バランス
 わが国の社会保障制度は,国民自らが高齢者や病気の治療,療養による医療・福祉が必要な場合に支え合うとの考えの下,受益(給付)と負担の対応関係が本来明確な社会保険方式を採っている.しかしながら,高齢者医療・介護給付費の約50%を公費で賄うなど,公費負担に相当程度依存しているのが現状である.また,医療費の基本的な自己負担割合は30%であるが,社会保障費財源における自己負担割合は15%程度で推移しており,近年,公費の比重の大きい高齢者医療・介護給付費の増加に伴い,高額療養費制度の利用,公費負担への依存度が著しく高まっている.
 わが国の社会保障給付費は2021年度で約120兆円であるが,2040年度は約190兆円という大きな数字になることが見込まれると,「今後の社会保障改革について—2040年を見据えて—(第28回社会保障審議会)」で取り上げられている.この給付費については,財政と税政のバランスが均衡する仕組みとすることが必要であり,そのためには,医療費総額ではなく対GDP比で考えることも重要である.社会保障費のうち医療費は,2018年度は対GDP比約7%であるが,2040年度には約8.5%と見込まれており,つまり,現状のバランスであれば,20年間で1ポイントくらい緩やかに膨らむという規模感がコントロールできれば,十分制御できるとも言え,この水準を実質的な高齢者増加に相当する伸びにいかに収めるかが重要である.これまで「社会保障と税の一体改革」では,消費税率を上げて負担面から取り組んできたが,当面は給付の仕組みとして,医療介護提供体制の改革が必要となっている.

高齢社会に病院はいかに対応するか—複合的なサービスの統合と在宅支援

著者: 神野正博

ページ範囲:P.50 - P.51

■社会背景を読む
 国は,いわゆる「骨太の方針2022」で,わが国の現状を以下のように表現している1)
“我が国を取り巻く環境変化(新型コロナウイルス感染症,ロシアのウクライナ侵略,気候変動問題等)や国内における構造的課題(輸入資源価格の高騰,人口減少・少子高齢化,潜在成長率の停滞,災害の頻発化・激甚化等)など,内外の難局が同時かつ複合的に押し寄せている.”

社会保障制度改革とこれからの病院に求められる経営方針

著者: 小松本悟

ページ範囲:P.52 - P.54

 わが国の社会保障制度は,給付(受益)と負担の対応関係が本来明確な社会保険方式を採りながら,新型コロナウイルス感染拡大(コロナ禍)の中,団塊の世代が後期高齢者となり,介護給付費と医療費の増加に伴い,公費負担への依存度が著しく増加してきた.本来,税財源により賄われるべき公費の財源について特別公債を通じて負担が先送りされてきた.その結果,給付と負担との対応関係が失われ,負担増を伴わないまま給付が先行する形で経過してきたのが実情である.このような財政悪化が,日本の社会保障制度の存続に大きく伸し掛かり,病院経営の原資となる医療保険制度改革が最大の焦点となった.
 医療保険の財政を健全化させるため,医療保険制度改革の議論の中で,社会保障関係費について実質的な増加分を高齢化による増加分に相当する伸張内に収める努力がなされ始めた(図1).社会保障費の増加に対する年金受給開始年齢の引き上げ・支払額の減少などが挙げられている.また,2022年10月からは後期高齢者である75歳以上の窓口負担割合を所得水準を基準に決めることになった.さらに,所得が少なくとも資産を多く持っている高齢者も少なくないことより資産を勘案した応能負担も適用していくことが議論されている.しかし,所得,資産の双方を考慮して,支払い能力のある後期高齢者に医療費の窓口負担を求めていけば社会保険を受ける平等性が崩れ,大半を占めるであろう追加負担の難しい患者の必要な医療を受ける機会が失われることにもなる.結果として,病院受診患者の減少を来たすこととなる.さらに,地域包括ケアシステムの中心に位置している在宅での患者へのシームレスな診療連携が失われ,地域医療構想の仕組みが崩れかねない.

社会保障制度と不可分な病院経営のサステナビリティ

著者: 今村英仁

ページ範囲:P.55 - P.57

■はじめに:病院経営者としてのバックグラウンド
 日本では社会保障制度と切り離して病院経営を行うのは不可能である.本稿では,筆者が病院経営をどのような考え方で行っているか,その中で,社会保障制度との関係をどのように捉えているかについて記載する.
 筆者が理事長を務める法人(公益財団法人慈愛会)は,2022年で1934(昭和9)年の創設以来88年目を迎えた.初代理事長は筆者の祖父であり,2代目理事長の父を経て,3代目として事業を引き継いだ.日本の多くの民間病院の成り立ちと同じく,個人診療所から始まり,病院としたのち,法人化を経て,いくつかの事業所数が増え現在の形となっている.
 法人化は,1950(昭和25)年に初代理事長が財団法人とした.同年に医療法で医療法人制度が制定されたが,初代理事長はその情報を持ち合わせていなかったので,民法上の公益法人制度を申請したとのことである.筆者が経営に携わったときには既に,鹿児島市内に3病院と奄美諸島の離島に2病院が設立されており,筆者が新たに設立した施設は,1996(平成8)年に鹿児島市内に開設した介護老人保健施設のみである.
 以上の背景から筆者の病院経営の目標は当初から法人のサステナビリティ(事業持続性)注1においている.

他国の状況

ドイツの社会保障制度と病院経営—医療の営利主義化によるリスク

著者: 吉田恵子

ページ範囲:P.59 - P.62

■はじめに
 独居の友人が州立大学病院で子宮筋腫核出術を受けた.術後,術創が炎症.3日ほどで退院することになっていたが5日間に延長.それでも熱が残り気分も悪かった.担当医にさらに延長を頼むが「(一回きりの)血液検査の結果も熱も正常域.そういう仕組みなので一度退院し,悪化したら来て」と自宅に戻された.案の定熱は上がり腹痛のため動けなくなり,退院3日後に炎症の治療のために再び5日間入院した.入院中は汗を多量にかいたがリネンの交換を看護職員に頼むと「数日で退院するでしょ.忙しいから自分で換えて」とリネンを渡された—.
 このような扱いは,現行のドイツ式包括報酬制度(G-DRG)の下では珍しくはない.導入当初からG-DRGは「出血入院」「病院の営利主義」の元凶とマスコミ・世論に叩かれ,修正されてきている.本稿では報酬制度との関わりで進んだドイツの病院および外来医療の営利主義化と,その弊害を概観する.

フランスの社会保障制度と病院経営

著者: 奥田七峰子

ページ範囲:P.63 - P.66

■はじめに:医療費の財政基盤
 フランスの医療制度は,義務加入である社会保障制度への雇用者・被雇用者両者による拠出金(2022年予算では社会保障歳入全体に占める率58%)1)を基盤とする皆国民健康保険をベースとした制度により成り立っている.
 財源には収支均衡のために国庫より税も投入され,年々,歳入に占める税の割合は増え続けていた(2022年予算では一般社会税注1:20%,租税18%,金庫間移動2%,その他1%).
 特にこの10年で,限りある医療資源を最大限に有効活用すべく「費用対効果」の議論も以前よりはタブー視されなくなってきたように見受けられる.1996年2月22日の憲法改正以来,毎年,社会保障の資金調達・分配に関する社会保障財政法(LFSS)を議会で投票し,「財政均衡の一般的な条件」を決定,「収益予測」に従い「ONDAM支出目標」を設定している.次の会計年度,および現会計年度の修正を行う(毎年10月15日までに政府により提案され,その後,議会において50日間審議が行われる).
 日本の医療制度と多くの共通点を持つ一方で,後期高齢者医療に関する考え方には大きな違いがあるように見られる.それは例えば,①高齢者医療の自己負担率に現役との差はなく同率,②介護が公的に保険制度化されていない点からも推して知るべしであろう(ただし,福祉手当枠でAllocation Personnalisée d'Autonomie:APA,個別自立手当はある).
 政府は,社会保障財政(老齢年金含む)について2010年以降,赤字を削減し続け,2018年には,赤字12億ユーロまでに抑えることに成功,2023年には均衡に戻るであろうとすら予測されていたが,今回の新型コロナウイルス感染症(コロナ)により,再び赤字へ転落.2020年は397億ユーロ,2021年は397億ユーロ,2022年は214億ユーロの赤字に達すると見られている.
 フランスには,上述の義務加入の公的健康保険の上に,補足的に任意加入する民間保険「ミューチュエル(Mutuelle)」注2が存在する.ただし,全ての雇用主には被用者に対して加入が任意ではなく義務付けられている2)
 原則,患者の自己負担率は,医療機関受診時の窓口で3割,薬剤については薬効別に異なり,病院では日額滞在費,さらにパラメディカルによる施術の一部などがあり,ミューチュエルによってこの自己負担部分の償還を受ける国民が多い.その加入率は,2019年時点で国民の95%というデータもあり,その存在は,事実上,既にほぼ義務加入に近いため,フランスの医療財源は二階建ての保険制度と見ることもできる3)

対談

社会保障制度の過去・現在・未来から読む病院経営

著者: 香取照幸 ,   松原由美

ページ範囲:P.1 - P.7

香取照幸氏に日本の厚生行政とアゼルバイジャン大使のご経験から,日本の社会保障制度と公定価格制度の在り方,それを踏まえた病院経営の在り方について聞く.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・96

神戸アイセンター

著者: 松田雄二

ページ範囲:P.8 - P.13

■はじめに:「神戸アイセンター」の概要
 三宮駅,あるいは神戸空港駅から神戸新交通ポートライナー線に乗って「医療センター」駅で下車し,2階レベルにある改札と同じレベルで接続された歩行者デッキを歩くとすぐに,ガラスのファサードが特徴的な,一見病院とは思えない建物が見えてくる.この「神戸アイセンター」と名付けられた建物が,眼科医療から基礎開発,そしてリハビリテーションまで,一貫して対応することができる「眼のワンストップセンター」である(図1,2).
 神戸アイセンター病院成立の背景には,1998年から始動した神戸医療産業都市プロジェクトがある.これにより,ポートアイランドに先端医療技術の研究開発拠点が整備され,研究機関や病院,大学,企業などが集積し,一大バイオメディカルクラスターを形成するに至った.この神戸医療産業都市では,再生医療を当初から主な研究分野に位置づけ,理化学研究所などの研究機関の誘致や,企業との連携などが進められた.この取り組みの大きな成果として,2014年に髙橋政代氏(現 株式会社ビジョンケア 代表取締役社長),栗本康夫氏(現 神戸アイセンター病院 病院長)のチームにより,iPS細胞を用いた世界初の網膜移植手術が行われたことは,読者の記憶にも新しいことであろう.
このような成果の蓄積をもとに,網膜再生医療などの早期実現化を図るため,国家戦略特区を活用して進められてきたプロジェクトが,神戸アイセンターである.
 神戸アイセンターには,眼科治療ならびに基礎研究・臨床応用を行う「神戸市立神戸アイセンター病院」,視覚障害者のリハビリや社会復帰を支援する「公益社団法人NEXT VISION」,そしてこれら治療や研究から生まれたシーズを事業化する「株式会社ビジョンケア」が入居し,治療と基礎研究・臨床応用,ロービジョンケア,事業化という3つの機能を,一つの建物の中で水平・垂直に結合させ,有機的なつながりを生み出している.以下,それぞれの機能の概要と,それらが具体的に一つの建物の中でどのように接続されているのか,簡単に解説したい.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・21

人材紹介会社とのトラブルを回避するために

著者: 加古洋輔

ページ範囲:P.67 - P.71

■1 職業安定法が定める人材紹介サービス
 職業安定法(以下,単に「法」といいます.また,職業安定法施行規則も,単に「規則」といいます)★1は,職業紹介の定義について,「求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と定め(法4条1項),同様に,有料の職業紹介,職業紹介事業者の定義も定めています(法4条3項,10項).
 人材紹介会社を利用した人材紹介サービスは,あっせんを経て雇用関係が成立した場合に,求人者から人材紹介会社に手数料を支払うという仕組みが一般的であり,法の定める有料の職業紹介事業に該当し,法の適用を受けます.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・37

医療法人社団医修会 大川原脳神経外科病院—医経分離による取り組みで経営改善し,地域の信頼も取り戻した病院

著者: 髙橋佑輔

ページ範囲:P.74 - P.80

 大川原脳神経外科病院(以下,同院)は,北海道室蘭市にある137床の病院である.脳神経外科を主たる標榜科目に掲げ,脳卒中ケアユニット(以下,SCU),一般急性期病棟,回復期リハビリテーション病棟,障害者施設等一般病棟を有し,高度急性期から慢性期までを担う.
 21圏域ある北海道の二次医療圏のうち,室蘭市の属する西胆振医療圏(以下,同医療圏)注1は3市3町から構成され,人口密度は130.3人/km2と21圏域中3番目に高いが,面積は1,356km2と2番目に小さく,人口は176,787人と北海道の総人口の3.4%である.かつては鉄鋼などの基幹産業で興隆したが,今日では人口が減少し,老齢人口の割合は年々上昇している.

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目次

ページ範囲:P.14 - P.15

Book Review トラブルを未然に防ぐカルテの書き方

著者: 松村由美

ページ範囲:P.73 - P.73

Book Review —外来・病棟・地域をつなぐ—ケア移行実践ガイド

著者: 淺香えみ子

ページ範囲:P.83 - P.83

Back Number

ページ範囲:P.85 - P.85

次号予告

ページ範囲:P.88 - P.88

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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