icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院82巻10号

2023年10月発行

雑誌目次

特集 —地域ニーズに合致した—病院機能の変革 総論:地区診断により自院の病院機能を点検する

地区診断の方法論

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.852 - P.861

 わが国は急激な人口構造および傷病構造の変化の過程にある.日本のような成熟した社会では,人口の変化はほぼ確実な未来であり,したがって,予想される変化に対して準備をすることは,将来の世代に対する現世代の責任でもある.2025年そして2040年にどのような傷病構造になり,それに対してどのような準備をしなければならないかを考えるための資料の一つが地域医療構想で準備された各種データである.
 筆者は地域医療構想の機能別病床数の推計を担当したが,これは,社会保障改革国民会議の委員をされていた永井良三氏の「この国は市場原理で改革をすることも,国の命令で改革をすることもできない.サービス提供者が情報に基づいて,自らの判断と意思で改革をするしかない」といった趣旨の意見に対応するためであった1).日本は,英国やフランスのように国が強制力を持って病院機能の再編を進めることができないし,また米国のように市場原理に任せて医療提供体制を変革させることもできない.日本は,各施設の意思に基づいて変革を行っていくということを,国の委員会で合意し,それが地域医療構想である.

地区診断のためのオープンデータ活用

著者: 石川ベンジャミン光一

ページ範囲:P.862 - P.873

■はじめに
 本特集が目指す「地域ニーズに合致した 病院機能の変革」に向けては,個々の病院における変革と地域の全体最適化の両面からの検討が必要となる.
 本稿では,松田晋哉先生による地区診断の方法論を推進するために利用可能な情報源として,Tableau public1)において公開している資料2)から,地区診断のためのオープンデータ活用の事例を紹介し,地域の人口と患者数,医療需給,医療従事者と病床機能・入退院経路といった視点から,地域・施設の類型や注目すべきポイント,地域・病院の将来的な戦略的マネジメントの方向性について論じる.
 掲載している図には各資料をインターネットで参照するためのURLを示すとともに,読者のニーズに合致する地域や傷病を表示するためのドロップダウンリストを点線で囲み,表示している.なお本稿では,2次医療圏・地域医療構想区域を共通して,医療圏と記載する.

地域ニーズに対応した病院の機能転換

著者: 古城資久

ページ範囲:P.874 - P.877

■はじめに
 地域医療計画では各二次医療圏別に病床数が決まっており,近年は地域医療構想調整会議により病床種別に関しても縛りが生まれつつある.二次医療圏によって事情は異なるが,急性期病床と療養病床を削減し,回復期・亜急性期病床の拡充を図るのが大まかな方針のようである.各種病床の地域別必要数は随時発表され改定されるが,自院と自院の属する二次医療圏の必要病床数をにらみ,自院がどの病床種別に進むのがより良いかを考えることは重要な戦略であろう.
 当然,現在自院が有する病床種別とその稼働率,日当点,平均在院日数などを視野に置き,このままで良いのか,転換すべきなのか.増床すべきか,減床すべきかを考えていくことになる.以下に二つの事例を示す.

事例:転換の背景と効果

入院患者像の変化に合わせて一般病床を一部転換—一般病床を分割し地域包括ケア病床に特化した病院を開設

著者: 相澤孝夫

ページ範囲:P.878 - P.885

 社会医療法人慈泉会相澤病院では,急性期を担う一般病院として病床数を増やしてきたが,入院患者像を分析し,地域の医療ニーズの変化に対応して,2014年に一般病床の一部を回復期リハビリテーション病床に転換した.2016年には一般病床を一部分割し,地域包括ケア病床特化の病院である相澤東病院を開設した.現在の相澤病院,相澤東病院の概要を表1,2に,相澤東病院のビジョンを表3に示す.本稿では当院の機能変革の背景と意図を解説する.

生き残りをかけた病院機能の変革—北海道北部地方公立病院の場合

著者: 長島仁

ページ範囲:P.886 - P.890

■崖っぷちの病院
 士別市は北海道の北部,札幌から200kmほどの寒冷な気候の農業地帯にある地方小都市である(図1).人口減少が進んでおり,かつては5万人以上を有したが,2019年度末には18,000人台となっている.士別市は札幌市と同じくらいの面積を有するが,そこに病院は当院一つしかない.士別市立病院はピーク時の2002年には常勤医師が29人おり,急性期診療を中心に年間で外来患者25万6,290(1,042/日)人,入院患者9万1,899(252/日)人を診ていた.また入院病床も307床を有し急性期を中心とした医療を提供してきたが過疎化による患者数の減少,常勤医師の激減により非常に経営状態が悪化し,存続の危機にさらされた.
 典型的な北海道の地方小規模都市である士別市は過疎化,少子・高齢化の影響をもろに受けてきた.また地域医療という点では,2004年度に始まった新医師臨床研修制度をきっかけに当院の常勤医師は激減した.2017年度は外来患者約11.6万人,入院患者約4万人と最盛期の半分以下となった.2003年からは,急性期の4病棟体制(199床)とし,医師や看護師確保を通じ,経営の立て直しに努めたが患者減に歯止めがかからず,2007年度末に13億円の不良債務を抱えるまでに経営が悪化した.また,2008年度から「一般会計繰入金」(補助金)は10億円を超え,2016年度は12億円となった.士別市の一般会計全体(2016年度)は約195億円,市税収入は23億円であった.その中から病院の繰入金(補助金)に12億円を使うとなれば,このままでは病院の経営どころか,市全体の財政が危うい,まさに“崖っぷち”の市立病院であった.

介護医療院への移行の背景と効果

著者: 鈴木龍太

ページ範囲:P.892 - P.898

 医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院(当院)は2019年4月に医療療養の経過措置(2018年度報酬改定前の医療療養2:看護単位25対1)60床を改修し,52床の介護医療院を開設した.ここではまず,日本介護医療院協会会長として,総論的に介護医療院の成り立ちと現状を解説する.その後に,当院が2000年に開設した240床の介護療養病床をどのように改変し,現在の「地域に貢献する慢性期多機能病院」に至ったか,そして,慢性期多機能病院での介護医療院の役割を述べる.

病院の収益力向上と経営持続性を高めるために

病床機能の見直しによる収益力アップと新病院整備計画

著者: 佐藤秀也

ページ範囲:P.900 - P.904

 国は,「今後の人口減少・高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据え,質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するためには,医療機関の機能分化・連携を進めていく必要」があるとしている.このことから「2025年の医療需要と病床の必要量について,医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに推計し,『地域医療構想』として策定」するため,2017(平成29)年3月に地域医療構想策定ガイドラインを発出した.
 筆者は,病院経営に関する指導・助言を行うコンサルタントとして,主なクライアントである中堅・中小規模の病院を中心に,多くの病院現場を目の当たりにしてきた.医師をはじめ,看護師や薬剤師などの医療人材の確保難,近年は看護補助者の確保が厳しさを増している.また,地域の高齢化は,高齢患者の増加とこれに伴う高齢者特有の疾病に対応せざるを得ない状況を招いている.

病院経営持続性を診る分析について

著者: 西田在賢

ページ範囲:P.906 - P.910

■病院の経営持続性という研究
 筆者は,厚生省(現・厚生労働省)保険局認可により開設された医療経済研究機構の初代研究主幹に就いた1995年当時,病院が毎年100余りも減少していく様子に医療提供体制の危機を感じ,「病院の経営持続性に関する研究」を興した.その後,わが国医療保障の要となる国民皆保険制度の持続可能性も併せた日本の医療システムの経営持続性について研究を続けている.そのような経緯から病院経営持続性の研究について,次のように整理している.
 一般に営利を目的とする事業経営の場合,経営持続は事業者の自己責任に帰するので,その経営持続性を調べるには,事業者が経営を「持続する」取り組みを確認するべく事業継続の前提/ゴーイング・コンサーン(going concern)を調べる.実のところ,営利企業に限らず,公益法人や医療法人,社会福祉法人などでも事業継続の前提の確認や評価は必要である.しかしながら,これらの事業にはいろいろなかたちで公的支援があり,それらが及ぼす経営持続への影響や評価が難しいことから研究がなかなか進まない.

対談

病院経営者に求められる発想の転換

著者: 西田在賢 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.837 - P.843

人口減少・超高齢社会の進展により病院は機能変革を迫られている.
国が制度経営をしてきた日本において,いま病院経営者に求められているのは何か.
医療経営人材養成に力を注ぐ西田在賢氏から,病院の経営持続性を高める術を学ぶ.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・105

川西市立総合医療センター

著者: 宇田淳

ページ範囲:P.844 - P.849

■病院を取り巻く環境
 兵庫県川西市は,大阪府に隣接する人口約15万人の南北に長い都市である.北部には能勢電鉄に沿ったニュータウンが経済成長期に開発された.市立川西病院は1983年にこの地域に移転開設され,増加するニュータウンの住民に対応する病院としての役割も果たしてきた.しかし,少子高齢化に伴う人口減少の影響もあり,患者数が減少した.一方,南部の地域住民は,隣接する大阪府池田市や大病院のある吹田市の医療機関を受診する人も少なくなく,市立川西病院の経営は徐々に悪化し,2002年以降赤字経営が続いていた.
 病院の建物も築35年を超える老朽化に加え,立地の不便さから医師の確保などが難しく「病院の今後のあり方検討会」などで,病院の移転や建て替えなどが検討されたが,経営状況の改善は進まず難航していた.そして,2014年度決算において川西市の病院事業は,資金不足比率が「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に規定された経営健全化基準を超えたため,経営健全化団体となった.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・30

医療機関で発生した転倒・転落事故により負う責任

著者: 堀田克明

ページ範囲:P.912 - P.916

■1 はじめに
 薬剤やドレーン・チューブと並び,転倒・転落事故は医療機関内のインシデントレポートの上位を占めています.転倒・転落があっても重大な結果にまで至らないケースが多いものの,中には重大な後遺症が残ったり,死亡事故に至るケースもあります.
 設例のケースは実際の裁判例の事案★2を簡略化したものです.実際の裁判では他にもさまざまな事情が主張されましたが,結論としては病院側に約2800万円の損害賠償責任を認めました★3(なお,病院は過失相殺も主張しましたが,認められませんでした★4).
 今回は医療機関内での転倒・転落事故に関し,医療機関が患者に対して負う法的責任の内容,そして,どのような点に留意するべきなのかを説明したいと思います.

本連載第17回「トランスジェンダーの職員への合理的配慮」への補足

トランスジェンダーの職員によるトイレの使用—経済産業省事件の最高裁判決を受けて

著者: 髙橋直子

ページ範囲:P.917 - P.918

■女性トイレの使用制限に関する人事院の判断は違法
 「医療機関で起きる法的トラブルへの対処法第17回 トランスジェンダーの職員への合理的配慮」(病院81:816-820,2022)でご紹介した経済産業省事件について,2023年7月11日,最高裁判決が出ました.
 事件の概要は,以下のとおりです.経済産業省(経産省)で勤務する国家公務員の原告は,生物学的には男性であるが,性同一性障害との医師の診断を受け,女性として生活するようになり(性別適合手術を受けておらず,戸籍上は男性),2009年7月に職場でも女性として勤務したいと希望を出しました.経産省は,原告の承諾を得て職場で説明会を開き,その内容を踏まえて,2010年7月,原告に対して,「執務している階とその上下の階の女性トイレの使用は認めず,それ以外の階の女性トイレの使用を認める」という処遇を開始しました.2013年12月,原告が人事院に処遇の改善(全ての階の女性トイレの使用の許可)を求めたところ,2015年5月,人事院はそれを認めない(本件処遇を継続する)という判定をしたので,原告が人事院の判定の取り消しを求めたのが本件です.
 
第17回「トランスジェンダーの職員への合理的配慮」の記事はこちら

https://doi.org/10.11477/mf.1541211767

ケースレポート 地域医療構想と病院・55

フランスの民間病院におけるCOVID-19対応事例

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.919 - P.924

■はじめに
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5類への移行に伴い,陽性者の把握は従来の全数把握から定点観測になり,また,診療を行う医療機関も拡大している.各都道府県で確保されていた病棟も徐々に縮小しているが,他方,沖縄県等で感染の拡大が続き,医療提供体制がひっ迫する状況が生じている(2023年7月1日時点).陽性患者の入院調整および退院調整は,従来,保健所が行っていたが,現在,その役割は各医療機関にゆだねられており,調整困難例が頻発している.ただし,各都道府県の関係者も3年間の経験をもとに,対策をとっており,また,高齢者やハイリスク者以外は軽症で済む者も多く,さらにモルヌピラビルなどの治療薬も利用可能になり,そして何よりも各医療機関での治療経験の蓄積もあり,臨床現場は全体としては比較的落ち着いて対応できているように見える.もちろん,沖縄県のような流行が他地域でも生じるのか,現時点では予想できず,その拡大の状況によっては,また,新たに医療機関における対応策について検討することになるのかもしれない.
 今回の流行はわが国の医療提供体制の問題点を明らかにしたと筆者は考えている.例えば,救急医療提供体制と高齢者救急の在り方,医療機関間の連携,介護施設における医療対応,施設間の医療情報共有の仕組み,リスクコミュニケーションの在り方などである.筆者は厚生労働科学研究の枠組みで,米国,英国,フランス,ドイツのCOVID-19対策の比較研究を行い,その成果を書籍にまとめた1).結論から言えば,諸外国にわが国が採用すべきベストの仕組みがあるわけではない.その意味で,「特定の国がわが国よりもシステムとして優れている」というような論の持ち方は適当ではない.しかし,わが国よりも数倍規模の大きなパンデミックを経験した諸外国の対応の経緯からわが国が学ぶべき点は多いとも考えている.上記の研究は,コロナ下で海外の実地調査ができない環境であったため,文献調査とオンラインで当該国の関係者へのインタビューを行ったものだった.この研究で調べたことが,現場でどのくらい実践されたのかについて,研究終了後も関心を持ち続けていたところ,2023年6月にフランスを実地調査する機会を持つことができた.そこで得た知見は,大変有用なものであった.そこで,本稿ではフランスの民間病院におけるCOVID-19対応事例を紹介してみたい.

地域と医療の未来を創る中小病院のあり方・7

豊田地域医療センターでのコミュニティホスピタル導入

著者: 井野晶夫

ページ範囲:P.926 - P.928

■コミュニティホスピタルを目指した背景
 豊田市(西三河北部医療圏)は自動車産業を背景に若年労働者が多く,人口41万人を超す愛知県第2の都市で,面積は過疎地域を含み最も広い.豊田地域医療センター(以下,医療センター)は1980年に豊田市と豊田加茂医師会および豊田加茂歯科医師会の三者が運営主体となり,「救急医療」「健診・検査」「看護師養成」に重点を置いて設立された公設民営の病院である.
 設立時より藤田保健衛生大学(現在の藤田医科大学)との連携協定により医師派遣を受け,24時間・365日の診療体制を維持してきた.設立後40年が経過し,2020年の豊田市の高齢化率は全国平均よりもまだ低いが,23.1%となった.また,この地域の医療・介護需要予測指数は医療,介護とも全国平均より高く,その増加率は2040年以降も上昇が続くと推定される.また,訪問診療を必要とする患者数は2025年に2016年実績数の2.8倍になると推計され(豊田市在宅医療・福祉連携推進計画より),人材などの資源不足が重大な問題になると想定されている.

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.850 - P.851

Information フリーアクセス

ページ範囲:P.905 - P.905

Back Number フリーアクセス

ページ範囲:P.929 - P.929

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.932 - P.932

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら